食戟のソーマ×ジョジョの奇妙な冒険~Sugar Soul~ 作:hirosnow
ハァと、二条理莉香は、息を吐き出した。これは、溜め息という奴だ。最悪な感情が、腹から胸へ、胸から喉へ込み上げてきて、それが溜め息になって、体外へ吐き出されていった。それでも、鬱屈とした心の中は晴れない。
理莉香にとっての悩みは自身の外見だった。今日も二人の軽薄そうな男性にナンパをされたのだ。鬱陶しいこと、この上ないがそれ自体が彼女の悩みというわけではない。年相応に見られないことが、悩みだった。
理莉香は、十四歳。中学生なのだが、なぜか女子大生に見られてしまう。化粧だって、まだ、施していないのにだ。身長は平均より少し高い程度で、胸だって少し大きい程度。これが、女子高生に間違われたのなら、諦めはついたかもしれない。しかし、なぜ、女子大生なのか。そんなに自分は老けているのかと自問をこの小一時間、繰り返している。答えなんて、なぞなぞではないのだから、そう簡単に出るはずもない。
ちなみに、ウザったいナンパ男の末路についてだが、一人目は、たまたま近くにいたホモビのスカウトマンに「よろしく」とその身を明け渡してやった。
二人目は、「この人にナンパされているんです。でも、私、十四歳なんです。これって、条例違反ですよね?」と、近くを通りかかった
◆
突然「グゴゴゴゴゴ」と音がどこからともなく響いてきた。野生に住むハイエナのような獰猛な獣が鳴らす、咆吼を思わせた。その音を耳にした通行人たちは、わずかに歩みを止め、音源がどこにあるのか、突き止めようと考えた。
「いけない!そういえば今日、何も食べていなかった」
理莉香は、自身が空腹であることに気がついた。野獣の咆吼のような音は、理莉香のお腹が空腹を知らせる音だったのだ。
理莉香は、携帯電話を取り出し時間を確認した。腕時計は身につけていない。午前11時30分を回ったところ。彼女が向かうところには、午後の2時までに着けばいい。昼食を摂る時間はたっぷりとある。近くに飲食店はないか、理莉香は周囲を見渡したときだった。
「ネエネエ、お姉さん」
誰かに声をかけられた。
「ねえ、お姉さん、暇?あそこで、ご飯を食べていかない?」
第三のナンパ師か?理莉香は、一瞬、そんなことを考えたが、目の前の男はナンパ師にしては若かった。理莉香の見立てでは、中学生__自分と同年代か年上に見積もっても、高校生になったくらいがいいところだ。しかし、年齢のことよりも関心を惹いたのは、彼の奇抜な髪型のことだった。サイドを刈りあげているのに、前髪はパッツンと菊人形のように切り揃えられている。
「あそこ、俺の親父の店なんだ。蕎麦屋だよ。食っていきなよ。腹減ってンだろ」
ナンパじゃなくて客引きか。安心するとともに、空腹感が増してきたのを感じる。理莉香は、この変な髪型の少年の誘いに乗じることにした。
「じゃあ、行こうか、お姉さん」
「あのさ、そのお姉さんて呼び方、やめてくんない」
「お嬢様とか、マドモワゼルとかの方がよかった?」
「そうじゃなくって、多分、私、あんたと同い年ぐらいだと思うから。十四歳、中学生」
少年は鳩が豆鉄砲を食らったかのように、目と口と鼻と__顔面にある穴という穴が真ん丸になった。要するに、それくらい、驚いていたということである。
◆
少年は、理莉香に自分の名を名乗った。佐村耕助というのが、彼の名だった。理莉香の見立てた通り、彼の年齢も十四歳、自分と同年齢、同学年だった。がっかりしたことは、耕助がその奇抜な髪型とは打って変わって、平凡な名前だったことだ。
「なあ、あんた…いや、初対面だけど、あんたって呼び方は失礼か。なんて呼んだらいいかな?」
理莉香には、呼び名なんてどうでもいいことだった。これから、長い付き合いになるならともかく。
「理莉香でいいよ。同い年でしょ?」
「そうだな。よろしく、理莉香」
普通なら、「さん」とか「ちゃん」とか、名前のお尻に、くっつけるよね?思ったけど、口にするのはやめた。それこそ、些末なことだったからだ。
「ところで、理莉香ってさ」
「うん?」
「よく食べるよな」
「そう?」
可愛らしく、首をちょこんと傾げるが、理莉香のテーブルの前には、食べ終えた後の空の食器が、山になって積み込まれていた。
理莉香は、耕助の家族が営んでいる「そば処・めりい庵」の暖簾をくぐると、早速、盛り蕎麦を三人前、注文すると、瞬く間に平らげてしまったのだ。
「耕助。天ざる追加」
「まだ食うのかよ…」
耕助は絶句した。細い体のどこに、食ったものを収用する空間があるというのか。胃袋に暗黒空間でも出来ているのか、と。
しかし、このときの理莉香はお客である。折角の注文を無碍に断ることはできず、耕助は厨房に戻って、揚げ油を鍋に注ぎ、加熱を始めた。
12時前ということもあり、店内には理莉香を含めて、二組の客がいたが、もう一組の存在が気になっていた。二十歳そこそこの男の四人組で、学生か働いているのか判別はつかなかったが、なんとなく耕助は「ヤバい」という雰囲気を直感で感じ取った。男たちの関心が理莉香に注がれていることも。
「ねえ、彼女」
案の定というべきか、男たちの一人が理莉香に下卑た声をかけてきた。
「彼女、一人?」
「暇?食べ終わったら、俺らと遊ばない?」
耕助は逡巡した。厨房から今すぐにでも、出て行って助けに入りたかった。しかし、耕助はちょうど揚げ物の最中だった。途中で仕事を放り出したら、火災に繋がることもある。火力を弱めて、出て行こうとコンロに手をかけたときだった。
「耕助。そのまま、作業に集中していいよ。こっちは大丈夫だから。それに、早く、天麩羅を食べたい」
理莉香から制止の声が入った。耕助は、「大丈夫」の意味が分からなかったが。
そのとき、男たちに変動があった。
「なんか焦げ臭くねえ?」
「そういや、そうだな」
男たちは一斉に耕助のいる厨房に視線を注ぐが、そこでは変わったことは起きていない。耕助は細心の注意を払って、火を扱っていたからだ。
「おい!ジョンジー、お前の、その、ヘアスタイル!」
「ああ?」
焼けていた。煙が上がっていた。まるで、ネイティブアメリカンの狼煙のように。
「ギャアアアアアアアアアア!な、な、な、なんだよ、コレエ?」
「追いつけ!こういうときには、素数を数えるんだ」
ジョンジーと呼ばれた男の頭に、パシャンと水が掛かった。理莉香がお冷やの水を、ぶっ掛けたのだ。
「
いや、もうなっているのだが。前髪が一部、ネグレクトパーマに変質しているのだが。男たちは、抗議の言葉を心の中で唱えるものの、口には出さなかった。いや、理莉香には、男たちに、有無を言わせない、凄みがあった。
不幸中の幸いと呼ぶべきか、男たち、特にジョンジーとかいうチャラ男の命に別状はなく、火傷も負っていないようだ。しかし、耕助は、気付いていた。この
「お待ちどう。天ざるダヨ。揚げたてだよ」
海老、鱚、イカ、椎茸に獅子唐。薄い衣を纏った天麩羅と、茹でた後、冷水で引き締めた二八蕎麦を理莉香に差し出した。
「お。来た、来た。サンキュー」
理莉香は、目の前のご馳走に、ガッツキ始めた。蕎麦に夢中なっている理莉香は気付いていなかった。
耕助の体から糸のようなモノが伸びていたことに。耕助は、「能力」を発言させた。