食戟のソーマ×ジョジョの奇妙な冒険~Sugar Soul~   作:hirosnow

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佐村耕助とシザーシスターズ その2

「ごちそうさま」

 パン!と、右の手と左の手を合わせて、理莉香は静かに合掌した。

 彼女が本日、食べたメニューは、盛り蕎麦を三人前、天ざる、それから、一品料理として、出汁巻き卵に、かしわ飯の大盛り、というものだった。育ち盛りの、食べ盛りの、成長期ということを含めても、普通の人ならば、唖然とドン引きするくらいの食べっぷりだ。

 しかし、耕助はそんな理莉香を見て、性的興奮を感じたという。

「くそっ!可愛いな~、可愛いじゃねえか、俺の作った料理をパクパクって…嗚呼ァ、俺の料理が、俺のモノが彼女のナカに、流れ込んでゆくッ!俺と彼女は一心同体、運命共同体、これは、至福だッ!」

 大きすぎる耕助の独り言を、耳にした客たちは、「キメエ」と、一斉に同じ感想を持つに至ったという。

「アンタ、名前、なんだっけ?結構、いい腕、してんじゃない?年、いくつだっけ?見た目、私とおんなじくらいなのにさァ。どっかの店で、修業でもしてんの?」

 理莉香に褒められたことで、耕助は、幸せの絶頂に至る。

「実は、何を隠そう、俺は、()()に通ってんのよ。未来の一流料理人てヤツゥ?」

 その「遠月」という名を理莉香は知っていた。いや、理莉香ではなくとも、「遠月」の名は、世間に高い普及力を持って、浸透していた。

 正式な名称を、遠月茶寮料理學園(とおつきさりょうりょうりがくえん)という。東京都内にある日本屈指の名門料理学校で、その通称が「遠月学園」。中等部と高等部の各3年制から成る。とにかく、非常に厳しい少数精鋭教育を行っており、高等部の卒業までたどり着く者はわずか数人しかいないという。(理莉香は、それを聞いたとき、ドン引きしたという。)たとえ中退しても、学園に在籍していたというだけで料理人としての箔が付くらしいのだが。

 そして、理莉香にとっては、遠月の名は、また、特別の意味を持っていた。

「へえ、アンタ、遠月の生徒なんだ。すっごい偶然」

「え?なになに、偶然?」

 耕助は理莉香の言葉を鸚鵡返しに反復する。彼女の言った偶然の意味の理解ができなかったからだ。

「そ。偶然。あたし、今から、そこの編入学試験を受けるんだよ」

 理莉香は、蕎麦湯を啜りながら、あっけらかんと言ってのけた。

 

 

「ちょ、待てよ!」

「なにさ?」

「お前、()()がどんなところか分かっているわけ?」

「料理学校でしょ」

「カリキュラムとか、マジに鬼ハードだぞ」

「知ってる。それって、有名じゃん?」

「高等科に進んだとして、卒業できるかも怪しいぞ」

「それも知ってるッてば」

「人外魔境だぞ」

「厭という程、耳にしているよ。てか、アンタのいる学校でしょ。ネガティブな意見しかないわけ?」

 耕助の学校自慢ならぬ学校ディスとも取れる発言に、辟易して、理莉香は店を出ることに決めた。

「じゃ、あたし、そろそろ、行かなきゃ。お金はレジに置いておくから会計お願いね」

 理莉香はそう言って、暖簾をくぐって、店の外へ、公道へ出ようとした。

 ところが、その足がそれを許さなかった。

「ン?どういうこと?()()()()()!」

 傍目から見て、誰かに力ずくで、体を掴まれているわけでも、引き戻されているわけではない。障害物が存在しているわけではない。なのに、理莉香は店から出られないのだ。

「理莉香ちゃん。俺は、君を行かせるわけにはいかないよ」

 理莉香は()た。耕助から紐のようなものが伸びて、彼女の腕に絡まっているのを。そして、理解した。

「耕助。()()()()()()()()()()()

「そうだよ。俺の()()()()は、君に()()()()()()()()

 理莉香と耕助の会話は、事情を知らない第三者が聞いても理解不能だろう。電気スタンドのことだと勘違いするだろう。(それでも、文脈(センテンス)がおかしいわけだが。)

「デヤァ!」

 気合い一閃、理莉香はその紐を引き千切ろうと試みた。人間の腕のようなものが彼女の傍に現れて、これを実行する。

「無駄だよ。いかにスタンドとは言え、力で引き千切るのはできない」

「だったら、本体を叩くまで!」

 今度は腕だけではない。人間のようなフォルムをした、特撮のヒーローものかアニメのロボットのような外見のそれはが耕助に突っ込んでいった。

 そいつの拳が耕助の顔面に迫る。

「無駄な足掻きっていうんだよ。理莉香ちゃん。俺のスタンドは、君に暴力行為を禁じている」

 拳は当たらなかった。すんでのところで、理莉香のソレが殴ることを止めていた。

「改めて、紹介するね。俺のスタンドの名前は『シザーシスターズ』。不作為を相手に強要するのが、こいつの能力だ」

 耕助は語る。シザーシスターズは、理莉香に禁じている。この店から出ることと、耕助に加害を加えることを。

「で、あんたは、あたしにどうして欲しいわけ?」

「簡単なことだよ。俺と料理勝負をして欲しい。勝てば、試験会場に向かわせてあげる。けれども、君が負けたら、遠月への編入学は諦めてくれ」

 荒唐無稽な、耕助の提案だが、理莉香は受諾するしかなく、拒否権など自分はないことを悟った。

「やれやれだわ」

 そうやって、深く溜め息を吐くことが、今の彼女ができる精一杯の耕助へのささやかな抵抗だった。




スタンド名:シザーシスターズ
本体:佐村(さむら) 耕助(こうすけ)
【破壊力-D/スピード-B/ 射程距離-B/持続力-A/精密動作性-C/成長性-C】
 蟹や海老のような甲殻類に酷似したフォルムを持つ、相手に不作為を強要するスタンド。本体から伸びた「紐」の部分に、禁止事項を設定し、これに触れると触れた相手は、設定された行為が出来なくなる。
 合計8つの事項を同時に禁じることができる。1本の紐で、同時に複数人に不作為を課すことはできない。スタンドを用いても、力で紐を破壊することもできない。
 能力を解除するには、
①耕助がスタンドの鋏で切断する(任意解除)
②本体である耕助の意識を奪う
③射程範囲の外に出る(射程距離は20メートル)
④耕助の定めた解除条件を満たす
のいずれかを行う必要がある。
 不作為の命令は自分自身にも有効で、耕助は調理時には包丁で指を切るなどのミスをこの能力で事前に防止している。

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