食戟のソーマ×ジョジョの奇妙な冒険~Sugar Soul~   作:hirosnow

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遠月の試練 その2

 遠月学園の編入学試験は、主に、三つの項目から成る。一つは、筆記試験。簡単な学力診断のほか、料理に関する問題が出題される。一説では、ホテルビジネス実務検定試験(通称、H検)と同程度、或いは、それよりもアッパーレベルだと、噂されている。H検の問題も遠月の講師陣、または、卒業生が作成に絡んでいるのではないかと言われている。

 二つ目が、面接試験。親権者同伴は認められず、シビアな環境で、自分の足で学んでいけるか、直に顔を見て、選定がなされる。編入学試験を運営する人間には、モンスターペアレントとの軋轢に耐えられる精神を持った人間が適正だとのことである。

 そして、三つ目が実技試験__すなわち、料理の腕を試されるのだ。筆記と面接では、大きな点差は開かないので、実質上、実技が合否を分ける要だというのが、実際の受験生の見解だった。

 しかし、今年の中等部三年次への編入学試験は、例年と趣向が変わっていた。面接と実技を同時に行うというもので、事実上、面接試験の撤廃である。

「面接?かったるいだけだから、あたしは、なくっていいかな」

 理莉香はこれを肯定的に捉えていた。

「10分かそこらで、そいつの何が分かるってのさ?その為人(ひととなり)なら、厨房で調理をする姿を見せれば、分かってくるってもんでしょ?」

「言うねえ。まあ、この、純然たるエリートの僕なら、どんな試験だって一発合格だけどね」

 二階堂(にかいどう)圭明(よしあき)は、相も変わらず、尊大な態度は崩さずに、頬につけられた真っ赤なルージュの跡を、自らのトラウマと共に拭い去ろうと奮闘していた。しかし、彼の努力とは裏腹に、ハンカチで(こす)った分だけ、口紅は拡散するばかりだった。

 面接試験がないことが、幸いしたンじゃねーの?と、理莉香は思った。

 

 

 筆記試験は、何事もなく終了した。試験官は、答案を回収し終えると、次の試験を待つ受験生に向かって、次の課題の内容を説明した。

「あなたたちは、それぞれが二名ずつ、十一組に分かれて、指定する調理実習室に向かっていただきます。そこで、課題を出しますので、その課題に合った料理を作ってもらいます」

 補足すると、これは料理勝負ではなく、単純に一定のレベルに達しているかだけが基準になるという。

「質問ですわ。試験官どの」

 混血の美少女が挙手をした。

「では、二人とも粗末しか作れないなら、不合格ということもありますわよね?」

「無論です。最悪、合格者ゼロということもあります。もっとも、そうならないように、課題に取り組んでいただきたいのですが」

 凄みを見せる試験官に臆する様子もなく、彼女は、「ハァイ」と可愛らしい仕草で返事をした。

「いいこと、リョウ君。こんなところで不合格になって、私に恥をかかさないでね!」

「ていうか、お嬢こそ、ちゃんと合格して下さいね」

「まぁ!何、その口の聞き方!」

 リョウという少年と美少女が、口論を始めた。試験官が止めに入らなければ、きっとこの舌戦はエンドレスで続いただろう。

 これに対して、理莉香は、二人を「気に入らない」と思った。もう、受かった気でいるのか。

「二人組は任意で組んで下さい。決まらない場合だけ、こちらで指定します」

 とことん、趣旨の見えない采配だと思った。

「じゃあ、リョウ君。あたしとペアね」

「まあ、いいっすけど」

「どっちが美味しい料理を作れるか、勝負よ」

 その一言が嚆矢(こうし)になった。リョウという少年は、バンダナを頭に巻くと途端に空気が変わった。

「じゃあ、本気で噛み殺しに来ていいんだな?」

 瞳に獰猛な光が宿り、口調も荒々しさが(みなぎ)る。

「あら?口の聞き方に気をつけてよね。気を抜いたら、私が貴方に牙を突き立てるわよ」

 理莉香には、二人の関係がどのようなものか知る術はない。けれども、ふと、自分に近い人間なのかと思った。

 

 

 結局のところ、理莉香は二階堂とペアを組むことにした。一緒に料理を作るわけではないので、彼が足を引っ張ることもないだろうし、自分に危害を加えることはないだろうと判断してのことだった。

 理莉香と二階堂は、調理実習室の一部屋に招き入れられた。

 最初は家庭科に使われるような部屋を想像していたが、実物はそれを遥かに上回った。小さなレストランなど及ばないくらいの立派な調理施設だった。冷蔵庫、フライパンやソースパン、中華鍋などの鍋類、大小様々の包丁類など、調理器具が完備されていた。

「スゲエ」

「ま、まあまあ、だな。うちのレストランの厨房に比べたら」

 理莉香は二階堂の見栄と嘘を見破った。

「では、課題を発表します。テーマは卵を使った料理。材料はこの実習室にあるものはどれでも使用して構いません。制限時間は二時間」

 試験官は、淡々とした口調でこれを告げた。

「卵料理ね…」

「卵料理といえば、基礎中の基礎。フフフ、この僕には死角はない」

 死角しかないんだよな。理莉香は思った。

「それから、調理後に、お二方が調理した料理は、審査員が試食をします」

 こうして、静かに実技試験は、開始された。


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