食戟のソーマ×ジョジョの奇妙な冒険~Sugar Soul~   作:hirosnow

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遠月の試練 その3

 西園(にしぞの)和音(かずね)は、試験官として、遠月学園中等部の編入学試験の場にいた。

 調理実習室にて、二人の少年少女が、己の実力を証明するために、調理の最中だった。和音は、二人の一挙手一投足に注意を払う。相手への妨害工作は勿論のこと、食べ物に異物を混入させたり、第三者の幇助がないか、これらを厳しくチェックしなければならない。

 そして、もう一つ__。

 二人がどのような料理人かを、調理する姿を通して、知ることも目的としてあった。

 今年、面接試験を排除したことは、遠月学園の総帥の意向だった。総帥曰く、「この学園への入学を希望する者が目指すことは、一流の料理人になることに他ならない。それが唯一、そして、絶対のテーゼである」とのことだった。人柄や家庭環境、家柄など関係ないと。

 和音からすれば、概ねその意見に賛同するものの、実際には、在学する生徒の中には、料理人という括りを忌避する傾向の人間もいるので、そのテーゼとやらは、実態に即していないと思っていた。

 さて、和音の目は、若き料理人の作業工程を注視する。少年の方は、二階堂圭明(よしあき)と言ったか。手元の資料には、フランス料理店の子息と記載がある。それなりに経験も積んでいることは、包丁捌きから見て取れた。けれども、彼は既に初手から失敗を犯している。彼は、卵と組み合わせる食材として、鵞鳥の肝臓(フォアグラ)を選んだ。だが、彼が手にしたのは、劣悪品だった。フォアグラは、脂と血の状態によって良し悪しが分かれ、通常、硬いと脂分が少なく状態の良いものが多いが、硬過ぎるものは脂分を多く含み、ソテーした時に脂が出やすいと言われている。二階堂は、フォアグラ、イコール、高級品という図式に縛られて、素材の目利きを怠ったのだ。或いは、実家では、キチンとした素材が用意されているので、目利きの必要性すら認識が希薄なのかもしれない。

 二階堂は、フライパンにバターを引き、フォアグラとキノコ類をソテーにし、塩コショウで味付けをした。さらに、もう一つ、フライパンを用意すると、ここにもバターを引き、割って溶いた卵を流し入れた。

「ここからだ。It's showtime(イッツ・ショータイム)!」

 二階堂が、フォアグラの乗った、フライパンの上に、マデラ酒を振りかけた。

 フライパンから炎が立った。フランベという技法で、お酒の香りを食材に移す効果があるとされる。

 そんな派手なパフォーマンスを目の当たりにしても、和音の二階堂に対する評価は影響を与えなかった。

 それよりも、和音の関心は、二条(にじょう)理莉香(りりか)の方に寄せられていた。

 

 

 二条理莉香は、アマンドプードル(アーモンドパウダー)と粉糖をふるいにかけ、混ぜ合わせるとこれを冷蔵庫で冷やし、オーブンを予熱した。

 続いて、理莉香は、数多の数と種類の卵の中から、数個を選定した。材料選び、つまり、目利きもこの試験の要素の一つとなっている。質の劣るものや鮮度の古いものも用意された卵には混ざっている。質の良し悪しなどお構いなく、手にした卵でオムレツを作った二階堂に対して、理莉香は根気よくその真贋を判別しようといていた。卵を割った後も、黄身の盛り上がり具合や白身の弾力を見て、使用すべきかをチェックしていた。

「ふむ。この子は、材料選びの点では合格といったところね」

 和音は、そう評点を手元のノートへ書き込んだ。その時だった。

「ねえ、審査員さん」

 和音は、声を掛けられた。

「なんでしょう?」

「ハンドミキサーある?」

と、尋ねられた。

「ここにあることはあるんだけど、動かないみたいで」

 理莉香からハンドミキサーを受け取ると、和音も機動させてみたが、彼女の言うとおり動作しなかった。

「ええと、他のフロアにいるスタッフに連絡を取って、用意しましょうか?」

 和音は、備え付けのインターホンに手をかけようとしたが、「じゃあ、いいや」と理莉香はその申し出を断った。

 菜箸や泡立て器でも、卵を混ぜるだけなら目的は達せられるだろうが、相当腕の力を要するはずだ。それに、綺麗に攪拌(かくはん)しようとするなら、ハンドミキサーを使った方が確実だ。だから、和音には、理莉香の言動が整合性のないものに思えてしまった。

「出ておいで、『ブリング・ミー・トゥー・ライフ』!!」

 「なっ!」__和音は、心の中で感嘆符を打った。理莉香の傍に、一体の(ヴィジョン)が浮かび上がったからだ。

「さあ、こいつを攪拌するよ。メレンゲにするんだ」

 理莉香は、卵白に乾燥卵白とグラニュー糖を加えると、理莉香の傍らに立つ像から伸びた二本の腕が、泡立て器を持ち、まるでハンドミキサーのように高速で卵白を泡立て始めた。


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