食戟のソーマ×ジョジョの奇妙な冒険~Sugar Soul~   作:hirosnow

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ブリング・ミー・トゥー・ライフ その2

 薙切えりなの登場は、その場にいた人間(といっても二階堂だけだが…。)へ衝撃を与えたようだった。

「お早いお付きでしたね。えりな様」

「ご無沙汰ね。西園さん。ここが編入試験の会場なの?」

 えりなと呼ばれた少女は、毅然とした態度を崩さず、自分よりも年上であるはずの和音に問いかけた。和音が敬語を用いて、会話をしていることから、えりなの方が目上の立場にあることが見てとれる。

「でも、この私が審査をするのだから、アリスのいる教室を所望したいところだわ」

「アリス様はえりな様の従姉妹です。試験要項と規則には、血縁者の入学、及び、編入学の試験には、試験官として、従事できないこと。第三者を当てるべき旨、書かれておりますので」

 えりなの少しだけ憮然とした表情を見て、和音はまるで娘を宥めるかのように、「規則ですから」と付け加えた。

 調理実習室を訪れたのは、薙切えりなだけではなかった。彼女の傍らに、半歩ほど下がって、従者のように仕える少女がいた。えりなと同じくらいの年齢の、髪をボブカットに揃えた少女だった。

 理莉香は、その少女に尋ねてみた。

「あのさァ、さっきから試験官のお姉ちゃんも、敬語使っているけど、誰なのさ?」

「なんだ、貴様は!!」

 あまりにも馴れ馴れしい(図々しい?)理莉香の物言いに少女は苛立ちを隠さず、食いかかるような反応を示した。そんなに自分と歳も違わないだろうが、滅多に使用することのない「貴様」という言葉のチョイスに理莉香は苦笑した。

 少女の名を新戸緋紗子といった。遠月学園の中等部に在学する女生徒で、薙切えりなの秘書に当たるという。古い言い方をするならば、「ご学友」という言葉の方が彼女の役割を如実に語ることが出来るだろう。

「なんだ、って聞かれても、あたしはなんて答えりゃいいのサ…?」

 緋紗子は理莉香をジッと注視する。まるで、品定めをするかのように。どこか垢抜けた容姿、大人びた雰囲気、ほどよく膨らんだ胸。スラリと伸びた肢体。

 理莉香と比較すると、自身の幼さを感じずにはいられない。

「まさか…!!」

 緋紗子は、思い切って浮かんだ疑問を問いかけることにした。

「もしかして、()()()()()()()()()()()()付き添いで来られたとか?」

「そんなわけないでしょ?あたしが、編入希望者。そもそも、学園内までは、父兄の付き添い禁止じゃないの?」

「あ…!!」

 理莉香は緋紗子に、彼女の推理が見事的外れであることを示唆してみせた。

「す、すまなかった…」

 顔を真っ赤にしてプルプル震える緋紗子に理莉香は、次のように言い放った。

「ドンマイ、()()()

「ひ、秘書子って言うなァ!!」

 理莉香のスウィートリベンジは成功した。

 

 

 理莉香と緋紗子が小漫才を催す傍らで、二階堂の完成した料理を、薙切えりなが試食するところだった。

「さァ、えりな様、召し上がってください。名付けて、フォアグラのオムレツ・二階堂スペシャルです」

「では、早速いただくわ」

 えりなは、ナイフをスッ_と、卵に滑り込ませ、一口分を口に運んだ。

 彼女の表情がわずかに曇ったことを理莉香は見逃さなかった。

 その刹那、薙切えりなの背後から、(ヴィジョン)が浮かび上がった。

「フィフス・ハーモニー!!」

 こいつも、スタンド使いか!?__理莉香は無意識に身構えた。

 いうなり、彼女のスタンドの手から、『何か』が飛び出した。そして、二階堂の手首と足首に巻き付いた。理莉香の目には、パワーリストとパワーアンクルのように映った。

「あれ?なんだか、体が急にだるくなったな。体が重たく感じる…インフルにかかったとか?」

 二階堂の発言から、また、彼が足をつけている床が、毀損、変形をしていないことから、その『重さ』が質量を影響するものではなく、体感的に作用する能力だと推測した。

 スタンド使いではない二階堂には、『重さ』が実体化したそれを視認できない。

「あなたの料理には、至らない点が多々あります。今から、私が教えて差し上げます」

 えりなは、二階堂に言い放った。

「まず、材料の選び方です。あなたが選んだフォアグラは、弾力性やハリのない粗悪品です」

「な!?」

 二階堂は、驚嘆の声を上げた。

「次に下処理。スジや血管の処理を怠りましたね。厭な匂いと食感が口に残ります」

「え?」

「それから、調理法。あなたは、ソテーするときにバターを使いましたが、フォアグラはそもそもが脂肪分を多く含みます。焼いたときに脂が自ずと出るので、油はひかない、または、量を控えるべきです」

「ええ?」

「また、マディラ酒で、フランベをすることで仕上げていましたが、アルコールを十分に『トバす』ことができず、アルコールの匂いが残っています」

「えええ?」

「極めつけは、卵の扱い方が雑であることです。卵白と卵黄が分離してしまっています。焼いたときに焦げ目もできていますし。家庭の卵焼きなら、まだ許容の範囲内ですが、お店では出せませんね。オムレツは、見た目が美しく、食べたときに食感がフンワリとしているべきなのですから」

「そ、そんな…」

 えりなのダメ出しは続く。徐々に二階堂の瞳から生気が失せ、終いには、涙目になっていたという。

「ひどいオムレツね…そう、たとえるなら」

 えりなは二階堂を尻目に、料理の感想を総括して、次のように陳述した。

「お酒の飲み過ぎで、肝臓を悪くしたアル中と、暴飲暴食を貪る自堕落なメタボと、一緒に、ダンスを踊っているような、Mother Fucking Party Of The Year(今年一番のゴミパーティ)、そんな味がするのよッ!!」

 

 ()()()()()()()()__その場にいた全員、心の中で同じツッコミを入れたという。

 

「ネェ、オタクのお嬢様ッテ、いつも、あんな感じなワケェ?」

 ジト目で、緋紗子に尋ねる理莉香。

「いえ、あの、その…」

 言葉に窮する緋紗子。

「中二病ジャナイ?中二病、拗らせていない?」

「貴様、失礼だな!リアルタイムで中二だから、()()()()()とは、言わないぞ!」

「でも、あのボキャブラリーとか、独創的でしょ?普通、あんな発想にはならないし…」

「それは、えりな様が我々、凡人には及ばないほど、鋭敏な味覚と感受性をお持ちだからだ」

「えりな様…?」

「なんだ、貴様、西園さんからの紹介を聞いていなかったのか?あのお方は、薙切えりな様。この遠月学園の総帥であられる薙切千左衛門様を祖父に持つ、料理界におけるエリートだ。特筆すべきは、「神の舌(ゴッド・タン)」と呼ばれる、常人離れした、鋭敏な味覚をお持ちであることだ」

「薙切えりな…学園総帥の血族…神の舌……フゥン、なるほどね…」

「な、なんだ、貴様?一体、どうしたというのだ?」

 緋紗子は、理莉香に言葉の真意を尋ねた。理莉香の言動に、不穏な空気を緋紗子は感じ取ったからだ。

「いや、なんでもないよ。あたし、料理に集中すると、周囲が見えなくなるたちでサァ…」

「そ、そうなのか?」

「でも、よかったよ。()()()()()()()()()()()()()調()()()()()()()()()

「????」

 緋紗子はもう理莉香に言及することはなかった。明確な理由があったわけではないが、このとき、深く追求してはいけないと、直感が告げていたからだ。それに__。

 

 「不味いわよ!!」と、えりなが二階堂に死刑宣告にも等しい、事実上の不合格判定(正式な合否は、後日、書面で通知が送られる手続きを取るからだ)が、ちょうど下ったところだったからだ。

 

「じゃあ、次はあたしの審査をお願いする番かな?」

 ガラスの器の中に、理莉香は盛り付けをすると、えりなの前に進み出た。

「そうね。で、あなたは、私の舌を満足させてくれるのかしら?」

(もと)よりそのつもりだよ。料理人は、目の前の人たちに美味いッて思わせるために、料理を作る。それ以外に何かある?」

 えりなの挑発にも似た発言に、理莉香もまた、これを煽るように言葉で応酬した。

 二条理莉香。自身の編入学を賭けて、薙切えりなの試練に挑まんとしていた。

 


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