真・仮面ライダー 〜CASE・8〜   作:リアクト

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遅くなってしまいました。
仕事が終わらなくてねぇ・・・。


第10話「標的」

sideA

 

 その日の総武高校2年F組は騒然としていた。学校指定のジャージ姿の、とんでもなく可愛い転入生が来たと思ったら影が薄いでおなじみの八幡を名前で呼び、走り寄ったかと思ったらその両手を取ってブンブン振り回したのだ。

 

「と、戸塚、お前・・・」

 

 八幡は信じられないものを見ていた。八幡にとって最初の「本物」の友達である戸塚彩加は、既に故人であるはずだからだ。こうなると陽乃に見せられた資料にかなり重要な意味が出て来るのだが、この時の八幡の頭の中には資料のことなど全く浮かんでいなかった。

 

「あー戸塚、進めていいか」

「あ、先生すみません。懐かしくてつい」

「いや、構わんがな。先に紹介だけさせてくれ。・・・みんな、戸塚彩加は本来なら普通に入学してくるはずだった生徒だ。だが、入学式の前に大きな事故に遭ってしまってな。意識が戻るまでに1ヶ月、それからリハビリや勉強などを必死に頑張って、今回特例として進級が認められた。本人のたっての希望で出来るだけ早く復学したいということになってな。制服はまだ出来ていないからしばらくはジャージで生活することになる。みんな仲良くしてやってくれ。比企谷、君は同じ中学だったな」

 

 八幡は殆ど放心状態だった。

 

(意識が戻る?リハビリ?そんな訳がない。俺は確かに戸塚の葬儀に出た。ご両親とも挨拶したんだ。・・・なのになんだこれは。学校にだって死亡連絡は来ているはずだ。確かに入学前だから担任レベルに話が行っているかはわからないが、復学ってことは少なくとも学年主任クラスには話は通っているはずだ。・・・もしかして校長が今年替わったから伝達がいっていない?そんな訳あるか、人の生死に関わることだぞ)

 

 そして、八幡は思い至る。

 

(仮に、資料が財団からの流出だとして、そのリストが送られたことと、今日戸塚がよりによってうちのクラスに転入したことが関係あるとしたら)

 

 陽乃に確認せねばならない。幸か不幸か、今の時点で戸塚を直接知るものは八幡だけ。沙希も話には聞いてはいるが、直接面識があるわけではない。色々な情報がぐちゃぐちゃで、沙希は八幡たちに目を向けたまま完全にフリーズしている。戸部や由比ヶ浜、葉山たちも同様だが、こちらは戸塚自身に目を奪われていた。

 

「可愛い・・・」

「あ、言っとくが戸塚は男だぞ」

「「「「「なにぃぃぃぃぃぃい!?」」」」」

 

 

sideB(八幡視点)

 

 気がついたら放課後になっていた。俺の後ろの席になったらしい戸塚と、俺の前の席にいる川崎が心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。

 

「あ、気がついた」

「比企谷大丈夫かい?もう放課後だけど、今日は部活はあるの?」

「・・・すまん、色々考え始めたら動けなくなった。部活は休むわ」

「だろうね。そう言うと思って、平塚先生に伝えておいたよ。あの人も直接あんたを見てるからね、即答で了解してたよ」

「そうか、わるいな。・・・で、戸塚、聞きたいことがあるんだが」

「・・・だよね。僕も話さないといけないことがあるんだ。きっと八幡の話と同じことだと思う」

「なら、アミーゴに行くか。川崎がバイトしてる喫茶店だ。俺たちはバイク通学だが、お前は移動できるか?バスでも近くまで行けるが」

「うん、じゃあバスで行くよ」

 

 聞きたいことってのはもちろん戸塚のことだ。確かに死んだはずで、葬儀にも参列してるのに、目の前の戸塚はピンピンしてる。さらに出所不明の資料に載っていた“今の年齢の”戸塚。一日思索にふけったおかげで、俺の頭には結論が既に出ている。

 

 戸塚彩加は、改造兵士である。

 

 おそらくこれは間違いない。だが、なぜ今の時期に堂々と転入してきたのか。丸々1年不在でいきなり2年に転入出来たのはどうしてか。なにより、戸塚は敵なのか、味方なのか。聞きたいことは山ほどある。

 

 答え合わせをせねばなるまい。

 俺たちはそれぞれ、アミーゴに移動することにした。

 

*  *  *  *  *

 

「へー、八幡の家って今このへんなんだねー」

「ああ、この店の上に住んでる。・・・でな、早速で悪いんだが戸塚」

 

 「準備中」とドアに掛けられたアミーゴの中には今、5人の人間がいる。

 俺、川崎、戸塚、材木座、雪ノ下さん。帰りしなに呼んでおいたのだ。

 

「うん、聞きたいことはわかってるよ八幡。僕は死んだはずなのに、でしょ?」

「ああ、それがまずひとつだ。それと関係してるかどうか、まあ関係してるんだろうが、他にも聞きたいことはある」

「いいよ。僕が知ってる限りは話すよ。・・・まずね、僕が生きてる理由だけど」

「ああ」

「僕はね、そもそも死んでなかったんだよ」

「え?」

「うん、お葬式はね、やったんだけど。・・・僕の両親はね、僕を売ったんだ」

「!」

「事故を装って、死んだことにして、お葬式もやって。・・・実際は運ばれた病院からまた別の所に運ばれたんだよ。そもそも両親っていっても血の繋がりはないんだ。本当の両親は僕が小さい頃に亡くなってて、そのまま施設に入るかどうかってところで里親に名乗り出たのが事故が起きるまでの両親。本当の父の友人って人達だって聞いたよ」

「そんな・・・」

「戸塚くん、それを知ったのはいつ頃?」

「本当の親じゃないっていうのは中学の頃です。ただ、特に困ることもなかったし、普通に優しかったし、ちゃんと叱ってくれたし、あの事故まではいい親でしたよ」

「戸塚殿・・・」

「まあでもしょうがないよね。僕が目をつけられたのが悪いんだから。財団に」

「えっ!?」

「ちょ、ちょっと待て戸塚、今財団っていったか?」

「うん。僕は事故の後財団に連れて行かれて、改造手術を受けたんだ。改造兵士レベル3、ナンバー031が僕に付いた番号。・・・だからね八幡」

 

「僕は、財団に救われたんだよ」

 

 屈託のない、あの頃と同じ笑顔でそう言い放った戸塚に、俺は戦慄した。本当の親じゃないというのは、中学の頃に聞いていた。でも傍目には普通の家族だったし、ご両親もすごくいい人たちだった。実際葬儀の時にも、彼らの涙が途切れることはなかったのだ。

 

 ふと、ここで疑問が湧く。本当に戸塚の両親は財団に戸塚を売ったのか?あの時戸塚は遺体がひどい状態だということで、最期の顔を見ることは出来なかった。・・・仮に財団が病院と組んで、両親には死亡したという事で、別の方の、例えば所在不明の遺体を使って、戸塚だと偽っていたとしたら?そして戸塚には両親が売ったという暗示だか洗脳だかをしていたとしたら?

 

「・・・なぁ戸塚、いくつか聞きたいんだが」

「うん、なに八幡?」

「まず、どうしていきなりレベル3だとバラしたか。それから、学校へはどうやって復帰したのか。今はどこに住んでいるのか。・・・あと、財団はお前を手放したのか」

 

 最後の質問は賭けだ。おれとしては脱走なり廃棄なりであって欲しいと思う。いくら可能性が低かろうが、財団の手先であるとは思いたくない。

 

「うーんとね、じゃあ最初の質問から。すぐバラしたのは、隠しててもしょうがないと思ったから。八幡もそうだし、雪ノ下さんや材木座くんのことも知ってるよ。だから、ごまかせないって思ったんだ。川崎さんのことは知らないけど、八幡が信頼してる人ならいいかなって。それから学校だけど、それは僕もよくわからないんだ。財団の人が手配したみたいなんだけど、僕はまた八幡と同じ学校に通えるって聞いただけだよ」

 

 その場にいる戸塚以外の人間が硬直する。財団の人、か。

 

「で、今住んでるのは、財d「戸塚、もういい」・・・」

 

 気づいたことがある。・・・こいつはあの戸塚じゃない。本来の戸塚はこんなに“無表情に見えるほどの笑顔”のままではいない。雪ノ下さんをちらっと見ると、彼女も意図を汲んだのか、小さく頷いた。

 

「じゃあ最後の質問だ。・・・戸塚、お前は俺の敵か?」

「やだなぁ八幡、僕が八幡の敵になるわけないじゃない。・・・だけど」

 

 戸塚はさっきから全く変わらない笑顔を貼り付けたまま言った。

 

「財団の敵は倒さないといけないよね。だから八幡」

 

 さっきから冷や汗が止まらない。俺たちは今、単純で純粋な狂気を目にしている。

 

「財団においでよ。じゃないと僕、八幡を殺さないといけなくなっちゃう」

 

 俺の“眼”が疼く。必死で感情を抑えるが、もう限界に近い。

 

「明日の朝6時。学校の校庭で」

「・・・なに?」

「そこで結論を聞くよ。今は色々考えたいでしょ?僕も他の人を巻き込んだりする気はないし、八幡さえ来てくれればいいから」

「比企谷・・・」

「比企谷くん・・・」

「・・・わかった。6時だな。・・・戸塚」

「ん?僕はもういくよ?」

「今のお前に、俺の眼はどう見える?」

「複眼のこと?・・・相変わらず、優しい目だって思うよ。だからこそ、僕と一緒に来てほしいんだ。・・・じゃあ、明日ね」

 

 戸塚はそう言い残し、店を出ていった。終始表情はあの笑顔のままだった。

 

 

 

 

sideC

 

 戸塚が去った後、しばらく続いた静寂を破ったのは、雪ノ下陽乃だった。

 

「・・・どうするの、比企谷くん。予想が悪い方に当たっちゃったけど」

「・・・どうしましょうかね」

「比企谷・・・」

「・・・八幡。お主がどうしたいのかを聞きたい。戸塚殿の提案を受け入れるか否か。否とするならば、恐らく戦闘になるだろう。・・・やれるのか」

「俺は、財団につくつもりはない」

「・・・うむ」

「・・・だが、戸塚を殺すつもりもない」

「それは無理だよ比企谷くん」

 

 あえて感情を抑え冷酷とも取れる言い方をする陽乃であったが、その顔は大切な友人を失いたくないと饒舌に物語っていた。

 

「あのレベルの洗脳は、そう簡単には解けない。笑顔の仮面といい、比企谷くんを認めた上で、さらにその上に財団の存在を置いてることといい。普通のやり方じゃ、その奥に眠っている本心に辿り着くことも難しいと思う」

「ですね。だから俺がやるのは、普通のやり方じゃない。もしかしたら結果、戸塚は本当に死ぬことになるかもしれない。最悪、共倒れになる可能性も0じゃない」

「比企谷・・・」

 

 いつの間にかすぐ横に移動していた沙希が、八幡の肩に触れる。小刻みに震えていた八幡の震えが止まり、八幡は沙希に優しく笑った。

 

「悪いな川崎、また助けてもらった。でも大丈夫だ」

 

 八幡は材木座と陽乃に向かって言った。

 

「川崎、材木座、雪ノ下さん。頼みがあります」

「うむ、我とお主の仲だ、遠慮なく言うがよい」

「うん、私たちのやれることならなんでも言って!」

「覚悟決めたんだね。あたしも乗るよ」

「すまん。まず材木座はナノドライバーにちょっと細工をしてもらいたい。具体的には・・・」

「・・・ふむ、なるほど。可能性は高そうだな。すぐに取り掛かろう」

「頼む。雪ノ下さんは材木座のフォローもですが、調べて欲しいことがあるんです」

「なにかな?」

「例の資料の解析を。表層のデータだけでなく、データそのものの分析をお願いします。知りたいのは戸塚について。俺の予想が合っていれば、あのデータにはまだ情報があるはずです」

「いいよ。良くは分からないけどやってみる。後で詳しく教えてね?」

「わかりました。・・・で、川崎」

「ん」

「すまないが、明日俺と一緒に行ってほしい。うっかり体内変身が始まるとまずいんだ。出来れば戦闘も、体内変身なし、ナノドライバーのみでやりたい」

「それはわかったけど、あたしがいるとなんとかなるの?」

「・・・お前がいないとな、ええと、なんていうか、自我を保つ自信がねえんだ」

「あら比企谷くんたら、いきなり愛の告白?」

「あっ、あい・・・って・・・」

「ち、違いますよ!そうじゃなくて、その」

「あいや八幡皆まで言うな。お主の心、我はよぉく分かっておる」

「うるせえな!お前は早く技研に戻って言われたことやりやがれっ!」

「こわいこわい、じゃあ私も行くね―・・・沙希ちゃん沙希ちゃん」

 

 陽乃と材木座に弄られ顔を真赤にした沙希に、陽乃がそっと耳打ちする。

 

「比企谷くんのこと、お願いね。・・・彼の心を守ってあげて」

「・・・はい!」

 

* * * * *

 

 材木座と陽乃が去った後、八幡はそのままコーヒーを飲んでいた。沙希は厨房で食器を洗っている。お互いまだ顔が少し赤いが、この空間から逃れようとはしなかった。

 

「お邪魔するよ・・・おお八幡、出来たぞ」

「おやっさん・・・。あれ、俺何か頼んでましたっけ?」

「お前に頼まれたわけじゃないんだがな。・・・出来たんだよ、お前の専用バイクが」

「専用?GSRじゃなくて?」

「ああ。お前の親父が生前乗っていたバイクにちょいと細工したんだ」

「え?」

「比企谷のお父さんのバイクですか?」

 

 洗い終えた沙希も会話に入ってきた。立花は二人を見ながら、ニヤッとして言った。

 

「お前の親父のバイクな、俺が引き取って倉庫に眠らせてあったんだ。そいつを引っ張りだしてきてな、お前の変身後にも耐えられるようにカスタマイズしておいた」

「マジですか!・・・ていうか、親父ってどんなの乗ってたんですか?」

「ベースはGSX1100Sだ。KATANAって言う方がわかりやすいか。まぁ大昔の空冷4発だが、お前の親父はそれにGSX-R1100の油冷エンジンを載せて走ってた。でまぁ、それを今回さらに軽量化してチューンナップして・・・」

「完全に趣味入ってるじゃないですか・・・スペックとかどうなっちゃうんだよそれ・・・」

「フレームはスカンジウム合金、乾燥重量は170kg。通常は180馬力ほどだが、パワーモードに切り替えると最大で370馬力、さらにニトロをダブルでぶちこんである。理論上の最高速度は400km/h以上ってとこだな」

「化け物じゃないですか。通常180psとか、俺乗りこなせる気がしないんですが」

「パワーなんてのはな、乗ってりゃ慣れちまうもんだ。ああ、一応名前も決めてある。GSX1100∞、通称“ブレードサイクロン”だ。お前の親父が昔“サイクロン”て愛称つけてたからな、それにあやかったんだよ」

「中二丸出しじゃねえか・・・」

「でも好きだろ?」

「大好きです」

 

 立花と八幡は、顔を見合わせて笑った。それを半ば呆れつつ眺める沙希も、緊張の解けた顔をしている。

 

「登録は済ませてあるからな、もう今日から乗れるぞ。明日は荒れそうなんだろ?アレに乗ったお前の親父は負けたことがなかった、験担ぎに乗ってけばいい」

「ありがとうございます」

「でよ、八幡。お前のGSR、行き場がなければ沙希ちゃんに乗ってもらおうと思うんだが、どうだ?」

「へ、あ、あたし?」

「あ、そうですね。丁度お前、GSR探してるって言ってたよな。俺のお古になっちまうが、もしよかったら乗ってくれよ」

「え、い、いいの?ほんとに?・・・あ、でもまだお金貯まってないし・・・」

「金はいい。そんかわり、今後コーヒー代はただにしてくれ。・・・まぁ今までも似たようなもんだったが」

「え、でも悪いよそんな」

「いいんだ。俺もお前が乗ってくれるなら安心出来る。メンテなんかも見てやれるしな。むしろ頼むよ」

「・・・うん、わかった。・・・ありがと、ね」

「・・・おう」

「よし、じゃあお前ら、早速試乗でもしてこい。走り回って脳みそ切り替えたら明日は頑張ってこいよ!」

「はい!」

「ありがとうございます!」

 

 二人が去った後、立花は自分でコーヒーを淹れ、浅い溜息をついた。

 

「・・・おめぇの息子にアレ乗らせるぜ。構わねえよな?・・・にしても、八幡がなぁ・・・。出来るだけ平和に過ごさせてやりたかったが・・・」

 

「仮面ライダー、か・・・」

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