鉄の手は救いとなるか。   作:上代

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――――(くろがね)の手は救いとなるか。





第一話:逃亡者

 安堵すると人は脱力を覚える。

 黒一色の空間でタブレット端末片手に一人奮闘していた少年、レイン・ファーレンはそれを今まさに実感していた。画面の認証承認メッセージに指を這わせ、間違いない事を確かめ安堵した。

 仕事を果たした彼は弛緩し始めた指先に喝を入れ、タブレット端末とコードで繋がった管理コンピュータへ望まれた内容を発現させるコードを走らせる。

 不意に宙に浮かんでいた少年の身体が不可視の力に押され始め、そのまま流され床に着地した少年は会心の出来映えに空いた手で一人ガッツポーズを決めた。

 彼以外何者も存在しない管制室を通電した照明が迎え、沈黙していた各電子機器が目覚めの声を上げる。最初に願いを聞き入れた制御端末の画面に生活環境レベルのメッセージが表示されたのを見ると、近くのデスクに寄り掛かり数秒前とは違う眩いばかりの天井を仰いだ。

 ヘルメットを脱ぎ、ノーマルスーツの襟元を緩めたレインは循環された酸素を吸い込む。

 歳は十代半ばの少年は肩まで伸びた絹糸のように細い赤毛、草原を連想させる大きな碧眼は生命力に溢れ、十人中十人が好感を抱く中性的な顔立ちと小柄な身は男女関係なく見る者の保護欲を誘発させる。汗で額に張り付いた髪をうっとおしく払い、大きく開けた胸元へ冷えた空気を招き入れ火照った身体を醒まそうする。

 少し錆臭い酸素に整った顔をしかめ呻きつつ、贅沢できない身故にそのまま甘受した。

 劣悪な宇宙環境下では生物に必要な酸素がなければ水もない、等しく無の世界が在るだけだ。

 その宇宙で生存するにはスペース・コロニーを代表する居住地を作り管理する必要があり、この場所もそうした施設の一つと考えられる。異なる点を挙げれば現座標はラグランジェポイントではなく、居住空間を回転させ擬似重力を作る設備もない事か。しかし、無重力ではあるが呼吸できるだけ十分に恵まれていると言えた。

 レインが操作したのは空気生成及び浄化装置の起動とその循環ルートの開放だ。この無人施設の空気環境管理室を捜索し可能であればその回復を任され、三十分強の時間を掛け成功させたのだ。

 警備システムが破壊または停止しており、その道中を単独で通ったものだから不安と何者かが先に居るかもしれない不確定の恐怖に苛まれ続けていた。

 事此処に至って漸く自分の悲観的妄想だったと認め、情けないと溜め息をつく。

 

『レイン。こっちで空気の流れを確認した。お前は無事か?』

 

 心身の疲労から閉じかけた瞼を戻し、くぐもった声を流すヘルメットを素早く手繰り寄せた。

 そのしっかりとした語調は無視できぬ存在感があり、しかし硬くも少年の身を案じる心根が感じ取れた。気落ちしそうだった頃合に聞こえたせいかドキリとさせられる。

 硬い男の声とは正反対の、耳に柔らかい音で少年は返答する。

 

「こっちは大丈夫だよ、終わって少し気が抜けただけで問題なし!」

『そうか。合流は少し休んでからでいい、無理はするな』

「あ、うん。ありがとう。えっと、それじゃしばらく管制室で装置に問題ないか見てるよ」

『頼む。こっちも行動を開始する』

 

 通信が切れたあと、心が軽くなっている事に気づく。

 他人が聞けば乱れのない、抑揚のない声と受け取ってしまいがちなもの。それは初対面のレインも同じ印象を抱いたので否定はできない。けれど、人となりを知り行動を共にしてる今では彼以上に安心感を与えてくれる人間を他に想像出来ない。非力な身では相手取れない暴力に強靭な心体で抗い、好機を捉えるまで屈せず耐え忍んだ彼は少年にとってのヒーローそのものなのだ。

 そんな人物に頼りにされている状況は、不安や恐怖よりも誇らしい気持ちで一杯になる。

 

「よし、やるぞボク!」

 

 誰も居ない管制室で、少年は頬を叩き気合を入れる。

 空気管理は仲間達の生死に直結する最重要設備だ。設備がオート化してあろうとシステム監視は大事である。ふと気になって過去ログを抜き出そうにも実働ログが参照できず最短五年以上もの間通常稼動していない恐れが見え始め、このブランクは捨て置けるものではなかった。

 冷や汗を流しながらシステムが算出する数値を見回し、タブレット端末経由で情報を送信する。

 必要な酸素補給を終えれば、この施設を捨てる考えを巡らせながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ● ● ●

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 受信内容を目で追う男は、タブレット端末から顔を上げ周辺の仲間へサインを出す。

 暗く荒れた艦船ドックから侵入していた彼らはドック内が明るくなると電源が生き返ったコントロールパネルを手早く操作し、長らく開放状態だったゲートの外壁を降ろさせる。

 エアロックと酸素濃度を確認して数秒後に各々がヘルメットを脱ぎ首の後ろへ回す。存分に呼吸を繰り返し一息ついた心地を僅かながら堪能した彼らは、宙を漂う一人の男へ注目した。

 顔立ちから二十代に見えるが落ち着いた所作や気風から実年齢より上の印象を与える。跳ね気味の錆色の短髪に刃物が如き鋭さを秘めた鳶色の眼。硬い表情は生まれつきなのか感情の波は低く、長身にがっしりとした体格はノーマルスーツの上からでも測れた。

 其処に居るだけで無視できない、十人十色の指向性を引き寄せる性質がその青年にはあった。

 数十の視線に応える錆色の青年――マルシュ・ヴェストは仲間達へ号令を発する。

 

「レインはやり遂げた。次は俺達の番だ。

 負傷者が多いランチから先に固定しろ! 突撃班は集まり次第小隊長の指示に従い施設制圧! モビルワーカー隊は弾薬とガスの補充、急げよ!」

 

 其処彼処から響く「応っ!」に頷き、青年は肩から吊るした突撃小銃に触れる。複数あるドックの出入り口へ割り振りされた突撃班がポイントマンの合図で進攻するのを見送り、スペース・ランチの機体固定作業に声を掛け合う誘導者へ左右の合図が逆と指摘してやり、小型コンテナ船から搬出され集積される物資近くに着地するモビルワーカー隊の方へ飛ぶ。

 モビルワーカーは胴体側面に二基ないし上部に重火器一門を装備する戦闘車両の延長上にある、現行の主要兵器に位置する機動兵器だ。陸戦仕様の場合は胴体下部の三脚は走行ローラーとなっているが、宙戦仕様はスラスターノズルに換装され胴体後部には推進剤タンクが設けられている。

 一機牽引するモビルワーカーが空いたスペースに接地しコックピットハッチが上がるのを見て、マルシュは腰のエアガンを吹かしその装甲板へ着地した。

 

「リシュー、何人だ」

 

 マルシュの問いにコックピットハッチから姿を現した同年代の青年は顔を上げる。

 金髪碧眼に整った容姿のリシュー・ヘルモントの顔は険しく双眸は悔しさに染まっていた。握り込まれたままの左手は震え、痛覚を無視した骨の軋みが聞こえてくるようだ。

 リシューの感情を慮るのは優しさだろう。だが彼らのリーダーであるマルシュはどのような結果であれ把握しなければならない。仲間の命を預かり命令を下す役割を負うのは、責任に苛まれるのはこの自己嫌悪に蝕まれる青年だけで許されてよいものではないのだから。

 

「リシュー」

「…………モビルワーカー隊三六機、うち八機は大破。二機はデブリ帯に引き寄せられ生死不明。六機は損傷甚大の為放棄。パイロットは全員、死亡。残存戦力は二八機。以上」

「了解した。補給に入り次に備えてくれ。俺のモビルワーカーを運んでくれてありがとう」

 

 戦友の最期を看取り帰還した青年の肩へ手を置き、休みを取れと言外に述べたマルシュは他のモビルワーカーと同じ暗褐色の機体へ移る。そのモビルワーカーは胴体と武装の大口径砲以外原型を留めておらず、下部三脚は根元から消失し溶けていた。

 胴体前面に01とペイントされたモビルワーカーに乗り込み、システムにメンテナンスソフトを走らせる。異常なしのメッセージを一瞥した彼は現在座標と戦闘宙域を測定し、距離的余裕が想定以下である事を認める。戦闘経過時間を逆算すれば更に減る事だろう。

 自分達を追跡する手があとどれ位でこの場所へ届くのか、鳶色の眼を細め思案した。

 

 マルシュ達は人身売買された孤児の集団だ。宇宙で集めた屑鉄同然の値段で取引されることからヒューマン・デブリと称される彼らは、自分達の所有者に常日頃から虐待を受け、最低限の食事と寝床だけを対価に戦って摩耗し、死ぬ事を強要されていた。

 人格を否定され人間の尊厳を悉く奪われ、壊されていく日常から心を閉ざす子供は少なくない。その中でもマルシュは所有者達から「鉄面皮」と渾名され他より倍以上の仕事を負って来た。身を寄せ合い固まれば殴られ、散れば一箇所に固まれと蹴られる。所有者達の視界に入らないよう、けれど声が掛かればすぐに飛び出し最低限の暴力で許される境界線を次第に理解した。感情を殺されるのではなく、感情を殺して生きる事を選択したマルシュの在り方は所有者達にはよく身を弁えた奴隷として映ったらしく躾以外は免除され、どのような形であれ相手を満足させれば虐げられないと学習した彼は必要以上に働く一方で、暴行されるままのヒューマン・デブリ達を引き込み助け、遂には統率して秘密裏にグループを形成していった。

 

 ――――明日はどんな色なんだろうね、マルシュ。

 

 今日を生き残る事だけで閉じていた彼に俯瞰する視点を生ませたのは、あの草原を想わせる瞳と(そよ)ぐ南風の微笑か。それとも後ろをおっかなびっくり歩く小柄な影の愛嬌か。

 何時しか拙い扶助組織を築き、今を生きる代償に殺戮と略奪を行う彼らの転機は唐突に訪れた。

 所有者達が敵対する同業者、宇宙海賊間の抗争で敗退し旗艦が戦闘及び航行不能となったのだ。毎度の如く消耗品同然に扱うヒューマン・デブリの部隊に敵陣突破を強制した海賊達は、背後から出現した別働隊と本隊に挟撃され、反撃の芽もなくあっと言う間に擦り潰されていった。

 少数の小型コンテナ船と決死隊紛いのモビルワーカー隊を率いていたマルシュは、旗艦の全能力が失われた事を通信で知ると恐るべき航行速度で艦橋へ迫り、避難準備をしていた所有者の海賊達は目を掛けていたヒューマン・デブリが救助しに来たと思い違いしたまま、弾薬が切れるまで乱射された重火器により宇宙の藻屑(スペース・デブリ)へ変わり果てる事となった。

 混乱に乗じてレイン、リシューは自分達をヒューマン・デブリと証明する所有登録書を焼却し、解き放たれた獣の如く暴れ続けるマルシュをコンテナ船に回収して退き、彼ら孤児達の船団は今だ自分達を戦利品として追跡する海賊団からの逃避行を続けていた。

 

 船団の最後尾(さいこうび)を追撃隊に度々食い付かれ、迎撃にマルシュらはよく戦った。

 帰る所も無く彷徨い続ける彼らは満足な整備もできず、損傷したままの機体で出撃を余儀なくされ既に二週間が過ぎた。船団旗機のマルシュ機は敵指揮官及び護衛機を撃破した末に三基のスラスターノズルを貫かれ自力航行不能に陥り、第三波の接近をキャッチしたレインは同時期に発見した廃棄施設への撤退ルート確保に、敵部隊進攻を防ぐ為リシューを暫定指揮官としたモビルワーカー中隊が戦闘宙域に留まり交戦を続けることとなった。

 結果は帰還したリシューの報告通り、八機を失い残存機は二八機に。先行偵察及び斥候隊として先発させたレイン達の九機を含め計三六機だ。船団の戦力は日々削り取られ、この逃避行に同意した仲間の三割強は未帰還または戦死している。

 

 そもそも事前に計画された逃走ではなかった。その上で指示を待つ仲間に囲まれ、なし崩し的に船団のリーダーとなったマルシュは叶うものなら深い眠りに就きたい心身を自我で留め置き、デブリ帯の引力ギリギリを見極め船団の航行ルートを作成し、敵に発見されれば陣頭指揮を執って敵を撃破して此処まで来た。重力が僅かにでもあれば立つ事も難しい体力と失神せず意識を保つ精神は驚異的であったが、その限界は既に通り過ぎ決壊しようとしていた。

 彼だけではなく仲間達の多くがそうだ。気絶するラインを行ったり来たりしながらの極限状態で動いている。誰が倒れても不思議ではない渦中で、皆は今日を生き、明日へ至る為に走っている。

 何より感情を殺して生きようとする自分を慕い、明日を語る希望を保たせたヤツに諦観を抱かせたくはなかった。死んでいった、今を生きる仲間達の為に体を動かし頭を回し続けるのは当然だ。けれど、自分の心を現在(いま)から未来(あす)へ送り出す少年の在り様は掛け替えの無い篝火だ。

 あの火を絶やさない。絶やしたくは無い。

 その意地と思念で、マルシュは耐え抜いていた。

 

「明日に往くんだ。俺達は」

 

 彼は楽観できる性格ではない。かといって悲観に囚われる人間でもなかった。

 しかし、七〇あったモビルワーカーは現段階で三六に減り、二〇隻あった筈の小型コンテナ船は一三隻まで。自分達の寝床兼移動拠点だった貨物コンテナ船三隻のうち一隻は最初の攻撃でエンジン部にダメージを負い、目眩まし代わりに爆薬を積載し敵部隊接近と同時に爆破させ失っていた。

 非戦闘員含め三三〇余り居た仲間達も、今日は二〇〇を満たせるかどうか怪しい。

 マルシュ・ヴェストは一部以外公平な青年だった。

 身内と定めた人間は必ず名前と顔を覚え、言葉少なげに会話もすれば食事を共にした事も。

 そうして仲間を築きあげて此処まで来たのに――――もう二度と会えない連中が増えていく。

 

「先に逝ったあいつらも連れて。俺達は先へ往くんだ」

 

 こんな所で、一々躓いていられるか。

 戦いに暮れた青年は作戦行動が絶望的な愛機のシートで、心の曇りを払うべく吼える。

 今日だけで満足してたまるか。明日もその先もどんな色が迎えるのか、この目とこの心で刻む。

 だからこそ今を抗う。ヒューマン・デブリだった頃には許されなかった、現在の自分達が。

 一呼吸置いて気を鎮め、状況を整理しようと宙域のマッピングデータを調査し始めたところで、慌てた甲高い声がマルシュの背後からコックピットに響く。

 

『マルシュ大変だ、緊急事態だよ!』

「レイン? どうした、内容を報せてくれ」

 

 首後ろに固定していたヘルメットを被り直し、バイザーを開けて内蔵酸素を減らさないようにしつつ、コックピットハッチより飛び出す。他の団員も聴こえているのか作業を止め、何事か起きたのか不安を隠し切れずマルシュを見つめる。

 この船団は成人が少ない。最年長組はマルシュやリシューら隊長クラスの十数人程度と全体の一割にも満たず、九割以上を未成年――子供が占め、その二割には女子も入っていた。彼らにとってこの世で頼りになる、味方になってくれる存在は同年代あるいは歳が近いレインや体を張って助けてくれたリシュー達。そして船団の精神的支柱であるマルシュだ。

 そのレインが慌ててマルシュを呼び、飛び出した姿を見れば子供達の胸中が不安に苛まれるのは当然の成り行きであった。

 

『ここから半径三〇〇キロ以内に高熱源体複数、恐らくモビルワーカー! あと艦船クラスも!』

 

(追撃部隊の後詰、もしくは本隊か。艦船が輸送船ならまだ手はある)

 

 正確な数を確認しなければ作戦は立て難いが、大まかな情報でもやりようはある。以前は敵進行ルートすら与えられず出撃していたのだ。現地で情報収集から始め戦力把握をしていた頃に比べれば目安があるだけ幾分マシと言える。

 思考を其処で打ち切ると集積コンテナを蹴り浮かび、搬出作業を手伝う子供の頭に手を置く。

 

「また戦闘……あっ」

「心配するな、俺が出る。お前達はそのまま作業を続けてくれ」

 

 くすぐったそうに目を閉じる少年に力強く言い、彼は疲弊した戦意に燃料を投じる。

 瞬いた子供の瞳から不安が薄まり青年の硬い貌を映した。安心したのか少年は「はい!」と元気な声を送り、それに応じたマルシュは不器用な笑みを返すと小さな背を押してやり離れる。

 

『マルシュ、無茶を言うな。お前のモビルワーカーはスクラップ同然なんだぞ!?』

 

 何処かで聞いていたリシューが個別通信で怒鳴ってくる。

 ハプニングで余裕が無かったレインと違い、気遣いが出来る彼らしい。だからこそ皆の前で発言してみせ、こうして内緒話ができるようマルシュは誘導した訳だが。

 

「問題ない。艦があるなら敵の母艦だ。艦橋を潰すのにモビルワーカーは必要ない」

『艦のブリッジを破壊する!? そりゃ近距離からロケットでも打ち込めばやれるかもしれねぇが。なら其処まで行く足はどうする積もりだ? 小型艇はこれ以上失えねぇぞ。家代わりの船もだ! お前まさか、ランチで突っ込む訳じゃねぇだろうな!?』

「あるいは、敵の航行ルートを割り出し、先に待ち伏せ艦橋側面から至近距離で撃ち込む」

『無理無茶無謀だ! 少しは頭冷やせ、お前のことだやりようはまだあるんだろう?』

 

 確かに頭を冷やす必要があるだろう。

 だがその時間が無い。休む間も無く動き、動く合間に考えるしかない。

 この逃避行を始めてからは、その連続だったのだ。

 降伏以外の逃げ方を無意識に模索してしまうのは生物的に間違いではない。

 けれど、心臓の上から胸を叩いたマルシュは楽な道からまた逸れる。

 

「これが一番犠牲が少ない。……半ば本気だが、実行に移すと拘束されそうだな」

『当たり前だ馬鹿野郎!』

「ふむ。では堅実に行こうか。熱源から場所を特定されるのは不味い。慣性移動で敵航行ルートに接近、敵モビルワーカーが生体反応を探っている場合も考え陸戦隊の随行は無しだ」

『最初にスラスター吹かした後はデブリの影に隠れ接近する訳か。航行ルートが割り出せれば死角を狙えるな。装備はどうする?』

「恐らく一撃離脱は不可能だろう。乱戦を想定してマシンガン、本命を狙う機体だけ大口径砲だ」

『ミサイルは駄目か?』

「高速で飛来しようにも、熱源感知で対空砲と競り負ける。囮役が陽動で撃ち込むのは有りだが、その場合担当した部隊は確実に死ぬ」

『確率を上げる為には仕方ねぇだろう。……担当は俺がやる』

 

 こいつも同じか、とマルシュは額を揉んだ。

 だが、お前は残念道連れだ、と心の中で続けた。

 指導者役なんて面倒なものを押し付けたレインとリシューを、マルシュが許す訳が無い。

 

「リシュー……拘束か?」

『巫山戯んな! いやお前の場合割とマジだな……はぁ、ガキを落ち延びさせるには仕方ねぇ』

「分かった。お前の覚悟も聞いた。

 だが全ては戦況分析後に詰めよう、状況次第でどう転ぶか分からない。施設制圧に出た突撃班の進捗も気になる。レインの索敵報告も聞き終えていないからな」

『ああ、そうするか……マジで単独先行だけはすんなよ。お前を失う訳にゃいかねぇんだからな』

 

 きっちり釘を刺し通信終了されたマルシュは「ふむ、善処しよう」と呟く。

 彼は各突撃班の隊長とコンタクトを取り、施設の廃れ具合と設備状況を記憶していく。幾つか気になる報告があったのか眉を顰めた。

 

「一つ厳重にロックされたドックがある? 何処だ」

『六番ドック。強固過ぎて物理的に開けるのは難しい。今レインに遠隔操作で試してもらってるんだが、プロテクトが厳重で時間が掛かるそうだ。他は崩落した通路が多く、比較的使えそうな居住スペースが少し』

 

 レインの仕事が次々に積み重なる。

 忙しい事は良いことだ、頑張れとマルシュは無言のエールを送る。

 甲高い声で悲鳴を上げ続けているだろう少年へ向けて。

 

「了解した。レインの仕事が完了するまで其処で待機を」

『八班より団長へ。物資貯蔵庫らしい所に出た。工兵が言うには警備システムはスリープ状態を維持してるそうだ、入ったら起動するか分からない』

「物資貯蔵庫? 使えそうなものがあるか分かるか?」

『いや、入手したデータだと厄祭戦時頃のものらしい……三二〇年以上前の代物だ、期待していいのか悪いのか判断がつかない。此処以外は三班の報告と同じだ』

「厄祭戦時のもの? いや、もし其処が兵器保管スペースなら望みはあるか。其処は不用意に刺激したくない。八班は一度戻れ、工兵は管制室へ。レインのサポートを頼む」

『了解した。八班は本営の警備に就く』

 

 報告に次の指示を飛ばし、休まる暇がないマルシュは混濁しかけながらも考える。

 厳重に守られたドックに何があるのか。打開する代物がなくとも、もし此処と同じようなケースであれば、最悪は其処へ隠れ海賊達の攻撃をやり過ごす事も検討する。レインを説得してコードを聞き出し、管制室に自分が残りゲートロックを掛ければいい。

 次に厄祭戦時の物資貯蔵庫を視野に入れ、考えてもどうにもならないと瞼を閉じた。

 

(厄祭戦時の……此処は三〇〇年以上、正確には三二一年前の施設か。酸素の供給が途絶えていた宇宙空間だから物資の腐食はどれくらい進んでいるか想像がつかないな。

 俺達でも使える火器と弾薬が、せめて爆発物があればまだ戦える)

 

 厄祭戦。P.D.(Post Disaster)が紀年法となった約三〇〇年前に勃発した惑星間規模大戦の名であり、人類の総人口四分の一が死に、多くのものが失われ、廃れたとされる時代の産物がある。

 武器になるものであれば何でもいい。其れが明日へ繋がるものであれば。

 その為に越えるべき今日を、積まれる難題にマルシュ・ヴェストは立ち向かう。

 仲間の命を代価に獲られないよう、己の身を晒し続けながら。

 

 ヒトから塵屑へ堕とされ、彼らは未来を掴み取るため生き足掻く。

 寄る辺無き者達にヒトの世は休息を許さず、苦痛の隷属か無辜の死を求める。

 彼らを救うものは、天使の慈悲か、悪魔の(こえ)か――――。

 

 

 

 

 

 




とりあえず投稿。間違ったら直す勇気。誤字報告に毎度助けられております。
ブルワーズのクダル・カダルにやられた(正確には声優さんの熱演に)。
言い回しが上手い人は得難い。痛感した。
「お前楽しんでるだろ! 人殺しをよォ!」、「もう、死んで! 死んで欲しいよぉ!」の台詞が印象的過ぎ。キャラクターは好みではないけれど、声優さんは好きな感じ。

本作品は情報が足りないので、情報発信をしてくれる諸兄と作者の妄想で出来ております。
今後ともよろしくお願い致します。目標は「読者の時間泥棒」。


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