何故彼らは戦利品として降るのではなく、展望なき逃避行を選んだか。
ヒューマン・デブリの集団が戦力を維持する事は不可能だ。
寄る辺無き彼らに補充の当てなどある訳も無く、日々の戦闘や哨戒を最低限の消費でしのごうと物資は確実に減っていくのだ。敵を打ち倒したとて流用できる資材は高が知れている。宇宙空間を彷徨い続けるなど先の長い自殺と大差ない行動だった。
それでもなお、レイン・ファーレン達はひたすら黒く光が皆無の海原へ漕ぎ出した。
何故彼らが自分達の意志で不確定の道を進むのか。
人身売買で取引され屑鉄程度の価値を押し付けられた彼らにとって、生きる理由とは飢餓しない程度の食事と冷たい鉄板の寝床だけだった。
生きていても所有者の気分で嬲られ甚振られ面白半分に殺される。あるいは武器の使い方も分からず前線に立たされ、銃撃戦や白兵戦で殺したり殺されたりするか。このどちらかがヒューマン・デブリに許された自由だ。それ以外は考えられないよう連れて来られた日から徹底的に躾られる。悲鳴を上げようと泣き叫ぼうと誰も助けられず、所有者が満足するまで終わらない。
真っ当所有者ではない海賊達に人の目が届かない住処で孤児達は日々心を壊され体を汚される。その日々に休みがあるとすれば、海賊達に新しい
何故彼らがその上でなお捨て鉢に為らず、一丸となって生き足掻くのか。
虐げられる者同士の仲間意識。それもあるが暴行に晒され助けを乞おうとも目を背けられ、耳を塞がれる姿を嫌と言うほど見せられた者に一糸の
同じ飯を食い同じ場所で眠り、戦場で背中を預け合う共存思考。確かに過酷な環境下で生きる過程から芽生えている。しかし、仲が良い者を目の前で失いその人物に助けられた者へ「あの人に助けられるほどの価値はあったか」疑問を覚えず接することが出来るだろうか。彼らヒューマン・デブリには息抜きの場所も無く、ストレスが蓄積するだけの悪循環な生活しかない。もしあるとすれば殺傷行為で暗い喜びを見つける程度のものだ。
そうした状況の彼らには利害を共にするコミュニティが幾つかある。
レイン達が属していたコミュニティは加入時期による緩やかな上下関係こそあるものの、初期構成の人間以外立ち位置はほぼ平等で取っ付き易く、まとめ役が行動に差し障りを生む不和を嫌う、少年達が置かれた環境からすれば特異な人間だった為に他と比べ内部関係が安定していた。
そのまとめ役は不思議な人望があった。
常に最前線で動き立ち回り、危険な場面ではまず自身が飛び出し敵の攻撃を誘発させて戦う。
彼の姿勢は我が子を守り死んでいった保護者の背中を思い出させ、血に塗れる姿への恐怖より早く庇護対象を求める子供達に慕情を形成させた。其処へ同年代の隊長クラスが負けん気を揺さぶられ前へ前へと突き進み、死なせてなるものかと的確に支援していく。
彼らの歪ながらの一体感は否が応にも仲間意識を作り上げ、彼らが戦う場所へ、守る側から守られる側へ、いつか同列に並びたいと憧憬を抱かせていった。
生きる上で必要な行動を迷わず選び、頭を使い無駄な損害を――負傷者を出さす勝ち続ける事に腐心していたのもあって、自然治癒や簡単な医療器具で回復できる程度のダメージに抑えられた。
そうした事が両手で数えられなくなったころ、表情を消したヒューマン・デブリの子供達へ少しずつ多彩な感情を返し保たせた。自分より古参が居なかっただけでまとめ役となった
およそ感情を吐露しない人柄だったから、考えが分かりづらく敬遠されていた事もあった。
それもあの時の、所有者達を皆殺しに出来る千載一遇の機会に爆発したことで、長らく積もった強烈な怒気と怨み辛みの雄叫びを吐き出したことで、仲間が離れる所か「静かな激情家」と慕われるのだから、人間の感情というものは度し難い。
けれどあの出来事が、居合わせた仲間達の意識を固めた契機だとレインは思っている。
元ヒューマン・デブリの、名も無き集団を彼に押し付け団長にした事に、少年は悪いと思ったことは刹那も無い。かつて人数の問題から分かれ、別コミュニティを作り牽引していたリシュー・ヘルモントが仲間達と合流した事件もあって、自分の判断に確信すらしている。
いつかの、他愛の無い会話をしていた仲間と火星を眺めていた日を覚えてる。
毎日が不安で痛くてどうしようもなかった時に、星の輝きに感動して彼へ笑い掛けた。
感傷から自分達の、比率の狂った喜怒哀楽を省みて。
――――明日の色? そうだな、きっと眩いばかりの彩りだろう。
口元を緩め力を抜いた、彼の笑顔を覚えている。
他所のコミュニティが陰で言う「戦うしか能の無い鉄面皮」は、果たしてこんな人間臭い笑い方をするのだろうか。積もる疲労に塗れながら、其処にある星の雄大さを感じる心は誰にでもある、当たり前のものだった。自分と何ら変わらない感性を持った青年だった。
色眼鏡を外せば、彼は他と同じヒューマン・デブリで、他の誰でもないただの人間だった。
他人が言う「鉄面皮」が普段そうしているように、彼自身が等しく守り守られるべき仲間の一人だった。だからこそ、レインは彼の考えと在り方に賛同する。他の誰が拒否し否定しようと、最後の最期まで彼の側に立つと決めた。
不安から救ってくれた硬い貌の彼に、今日を生きる為に引っ張ってくれた人に
自分が求めた明日の色がどんなものか。
彼が返した明日の彩りは眩く輝いてみえるのか。
それまで自分達は終わる訳にはいかない。使い潰される日常に投げ墜とされる訳にはいかない。
「運があるんだか無いんだか。困っちゃうね」
彼らが占領した施設は、動力部にエイハブ・リアクターを利用していた。この相転移炉の一種であるエイハブ・リアクターはエネルギーを生み出し続ける半永久機関である。帰るべき場所がない彼らの悩みの種の一つであったエネルギー問題の解消をクリアしたことで、仮初ではなく本拠点として扱うべきと認識を改め、船から降ろした集積物を施設奥へ貯蔵する事となった。
それを聞いた団員達の喜びようは凄まじく「自分達の家」と騒ぎ狂喜乱舞していた始末だ。当然反対する者はおらず諸手を挙げて歓迎されたが、レイン以下隊長クラスは状況の不味さに呻いた。
新たな悩みはこのリアクターが生成するエイハブ粒子、エイハブ・ウェーブがもたらす磁気嵐である。施設周辺までしか拡散しないとはいえ、レーダーなど電波影響範囲内では完全な空白地帯を曝すことになり自分達の居場所がバレかねない。
無論、厄祭戦時代に用いられ回収困難となり稼動状態で宇宙に放棄されたエイハブ・リアクターも存在している。これらのエイハブ粒子を発し続けた結果、擬似重力によってデブリ帯を形成するのが世界の常識となっており、船乗りである海賊もその事は熟知している。
が、この施設は海賊達の追撃を振り切った戦闘宙域の先にある。船乗りである以上、一度通過した宙域のデブリ帯の位置と密度を記憶ないし記録する事は当然であり、多少航路図を引ける人間が居るのなら発見される可能性が十分にあった。
『レイン、こっちも隔壁が降りた。六番ドック以外は封鎖完了だ。お前も管制室から戻れ、入れなくなるぞ!』
「そうだね。でもこの施設のシステムが思ったより古くて。手動隔壁以外の遠隔操作は此処でしか入力できないし、今からパス解読して遠隔システムを構築する余裕もないから。ほんと困るよね」
『おい、お前何を』
殿を務める陸戦隊の小隊長からの通信を切り、モニターを一瞥して困った笑顔を浮かべた。其処にはずんぐりとした巨人が映り、モノアイを瞬かせながら各ドックへ接近する姿が観れる。
曲線で構成された甲冑を着込んだようなフォルムは重厚で、一見鈍重そうに見えなくも無いが漂流物を僅かな動作で避け、当たったとしてもさして影響なく進行を続ける。
他監視モニターにも同じような巨人が確認できた。レインは施設のシステムを統制するタワー型PCにもたれ掛かり、精神的疲労から気を失いそうな自分を叱咤した。
モニターに映る巨人の名はモビルスーツ。厄祭戦時に登場した兵器の総称。
規格化された各種
その戦闘力はモビルワーカーの比ではない。携帯武装は一桁違う一〇〇ミリ口径のもので、装甲にナノラミネートアーマーと称される特殊装甲を用いられている。これはエイハブ・ウェーブに反応して衝撃の吸収、拡散に適した複層分子配列を形成する金属塗料が表面に蒸着されており、実弾や厄祭戦時に猛威を揮ったとされるビーム兵器に対して高い防御力を発揮し、質量兵器による打撃以外弱点が無い。
火力、装甲が大きく劣るモビルワーカーでは、例え束になり群を成そうと容易に蹂躙できる存在がモビルスーツであり、登場以降約三〇〇年以上経過した現代でも最強の機動兵器とされていた。
施設防衛機構へ高熱源反応を示しているのは、厄祭戦中期に大量生産され幅広く復旧した汎用型フレームの一つ、ロディ・フレームを基に組み立てられたモビルスーツだろう。その薄藍色の機影が三つ、担当場所が割り振られているのか分かれ一、三、四番ドック口へ攻撃を開始した。
映像からは音声が出力されないが、携帯火器の一〇〇ミリライフルから砲弾並の弾丸が連続で発射されゲートを叩く。当たればモビルワーカーの原型が残らないような一発が連続して多重層の扉を削る。
少年達を酷使していた海賊達は、モビルワーカーを主戦力とする大船団を有していた。戦争において数的有利を保つことは正解だが、モビルスーツが相手となるとまた別の話となる。小さな蟻が象を倒せないように、人間が戦艦に勝てる訳が無いのと同じ道理だ。
レイン達が逃避行を決意した敗戦。恐らくあの戦場で本隊と別働隊のどちらか、もしくは両隊にモビルスーツが存在していた筈だ。当時ヒューマン・デブリ隊複数が三つのルートで進攻する予定だった。別ルートを進んだ隊からの連絡が急に途絶えた経緯から、船団直衛の海賊達と同様に大方死んだか降伏したのだろう。撤退時にモビルスーツと鉢合わせなかった幸運に感謝するが、獲物は逃がさない連中に目をつけられた不幸を嘆いた。
「な、なにあれ――――うわっ」
弾痕から扉の構造をサーチでもしたのか。射撃を止めたモビルスーツはライフルを下げ、腰のハードポイントに固定された八、九メートルほどのハンマーを模した質量兵器と交換する。
全長一七メートルを超す巨躯は間合いを計るのかバックしながらその質量兵器をゆっくりと振りかぶり、スラスターから青い白い爆炎が伸びる。推進エネルギーを背に受けた巨人が轟々と迫り、電子施錠を解読しなければ開かないドックゲートを力任せに殴り、開けようと叩きつける。その動きと心理的圧迫が、一月前まで日常的に襲い掛かってきた連中の姿形をフラッシュバックさせた。
その紅顔と背格好から少女と見紛うレインは、ある行為の対象になる頻度も多かった。
彼とその仲間達が態々殴られるような事をして別の発散をさせなければ、レインの肉体と精神はボロ雑巾のようになっていただろう。食糧配給のとき見かけた、他コミュニティで真っ赤な蚯蚓腫れと青痣で化粧され、酷く臭う白い液体に汚れ放置されていた少女を思い出してしまう。
「うぐっ、こふっ、あぁ!」
食道を駆け上がる吐き気を堪え、喉を押さえる。呼吸が乱れ、息が荒い。ここ二、三日の間何も入れていない胃を痛めるだけで済んだのが幸いか。
人が怖い。簡単に暴力を振るい、欲望を押し付けて晴らす人間が怖い。
痛みが怖い。叩かれ切られ、刺さる箇所から伝わる熱さと脳髄に痺れ掛かる靄が怖い。
死ぬのが怖い。自分が何者でもなくなり捨てられることが、初めて人と交わした約束が果たされることなく終わり彼だけが残されることが怖い。
怖い。怖い。此処で独り死ぬのが怖い。
どんな目に遭うのか想像するのも怖い。海賊達がしてきたこと、略奪にあった人達がされてきたことを思い出し、自身の細い身体を抱き締めた。
震える指でタブレット端末をタップする。施設内を監視するモニターの一つで、皆が避難した六番ドックから小隊長が閉じた内ゲートに走り通路へ出ようと手動操作していたから、ドックの内部電源以外をアウトする。これで隔離されたあのドックは管制室から繋げない限り開放されず、パスを知るレインが消えれば物理開放しか手段が取れなくなる。
ゲートを拳で何度も何度も叩き、カメラに向かって開けろと指示する小隊長へ、レインは青白い顔を向ける。思えば長い付き合いだった。殿に名乗り出てくれたのもそういう人の情からだろう。団員の中で一番背が高く強面の外見通り厳しかったが、落ち着いた雰囲気で話し易い人だった。
「ごめんな、さい」
口元の胃液を拭い、破壊されていくゲートを見つめた。
漸く見つけた自分達の家が何処かで観たように痛めつけられる。御し難い徒労感に苛まれたレインは腰のホルスターから
モニターの中で青白い光に押されたモビルスーツが勢いよくハンマーを叩きつける。その響きが衝撃となって管制室まで届いたのか、三機に打ち続けられる度に微弱な震動が小さな身体を苛む。
既に施設の通信精度は複数のエイハブ・ウェーブの影響で落ちている。それでも付近にモビルスーツ以外の高熱源体は感知していない。後続部隊は派遣されていないのか考え、少年は握った拳を心臓の上に当てた。
彼が率いる部隊と戦闘しているのかもしれない。恐らくモビルスーツの存在に絶望しながらも、仲間達を生かす為に必死に抗っているのだろう。
「明日へ」
きっと、まだ戦い続けている。彼らは何処かで敵を食い止めてる。
そうだ。諦めない。諦めてたまるものか。
自分の行動が明日に繋がる。だからこそ、まだ足掻こう。
モビルスーツでゲートを突破したら陸戦隊が内部へ侵入し、セオリー通りならこの管制室を目指す筈だ。施設占領にはシステムの掌握とマップ情報を入手する必要がある。此処に籠城して銃弾の一発でも撃てば反撃され、自分はあっと言う間に死ぬだろう。
けれど、管制室の電子機器に着弾することを恐れれば対応が慎重になる。そうなれば時間を稼げるし、様子を窺う何人かに当てられるかもしれない。もし制圧を強行するなら、自分の隣にあるメインサーバーを撃ち壊せばいい。
どちらにしても侵攻する連中を少しでも減らし、明日へ往く皆の助けにならなくては。
「往くんだ、ボク達は」
新たな高熱源体を警告するアラートがレインを四方から襲う。
カチリ、と初弾装填した拳銃を手に深呼吸を一つ。少年の戦闘技能はお世辞にも優れているとは言えず、昔から虎の威を借る狐と揶揄されていた。彼の腰巾着呼ばわりされた事が悔しくて、何度か無理に前へ出て危機に瀕した事を思い出した。
己の得手不得手を見極めずに何をしているのかと、彼から散々に怒られ拳骨を喰らったのを覚えている。殴られた所を擦りあれは痛かったと述懐する。それからは専ら後方支援で貢献してきた。こと電子戦においては一任され、この施設の回復と掌握を託された経緯から信頼厚い証だろう。
だと言うのに、自分はまた苦手分野に挑もうとしている。
また彼に怒られてしまう。困ったな、とレインは微笑んだ。
一人一人が懸命にやって、明日へ繋げる為に今出来ることをする。
「そうだよね――――マルシュ」
一番ドックのモニターが、モビルスーツの攻撃に耐え切れずひしゃげ曲がる様子を映す。
後続の熱源反応が破壊されたゲートへ接近する。それが艦船であれば陸戦隊に乗り込まれるのも時間の問題だろう。がたがたと震え始めた両手で拳銃を握り締め、最後の悪足掻きを講じる自分を奮い立たせる。
腰だめに構え、ドックへ侵入する敵を睨みつけ――モビルスーツの挙動の不可解さに注視した。
何故侵入し易いようにゲートを更に叩き、広げようとしないのか。
何故ゲートを殴らず離れ、アポジモーターを吹かし旋回したのか。
何故折角壊したゲートに背を向け、ハンマーを構え直したのか。
「どう、なってるの」
レイン・ファーレンは混乱した。
少年の瞳には、予想だにしなかった光景が広がっていた。
逃亡生活を続け最後は死の覚悟を決めたから、都合の良い幻覚でも見るようになったのか。
有り得ない展開が赤毛の少年を戸惑わせ、それなのに心臓は力強く脈打ち興奮している。
だって。これは。きっと。
『――――遅く、なった』
そのいつもと同じ硬い声が、固まったままの少年を叩く。
レインはしばらく呆然としたまま大きな碧眼を瞬かせ、次第に青白かった顔に血色が戻り向日葵に似た温かい笑顔を見せた。全身から力を奪い去るのは虚脱ではなく、安堵からくるもの。
理屈で説明するのが難しい感覚――彼が来た、という安心感が少年の心を包み込んでいた。
「ほんと。困っちゃう。ね」
レインは目に溜めた滴が頬を伝うのを好きにさせた。
恐怖と不安を何処かへ放り投げ、もう大丈夫だと思わせてしまう狡いヤツを笑顔で見守る。
管制室のデータベースは飛来した高熱源体と
――――ASW-G-10 ガンダム・ブエル。
ソイツは少年を絶望の淵へ追いやった
迎撃を試みたハンマーを紙一重で躱し、接敵機動に全質量を乗せたミサイルキックを胸部に打ち込みゲートのひしゃげた所へ喰い込ませ動きを封じ、抜け出そうとスラスターを燃焼させている間に、敵機の両腕を足場にしてモビルスーツの外殻を成すナノラミネートアーマーの隙間、頭部と胸部を繋ぐフレームが露出している所へ限界まで引き絞った貫手突きを放ったのだ。
ぐしゃり、と金属を突き破る映像を直視していたレインの脳内で悲惨な音がローディングされ、反射的に口を覆う。機械仕掛けの巨人同士の戦いはもっと火花が散るものだと予想していただけに、生々しい生存競争が如き結末は不意打ちでしかなかった。
「うぐ、げぇっ! ま、マルシュぅ」
十数秒前は喜色に溢れていた筈が、今や情けない声で恨むレインを省みる事など無く。藍錆色で統一されたモビルスーツは不吉な紅いツインアイを光らせる。敵機を震わせて引き抜かれるマニピュレーターの先に見える、チラついた赤色が少年の想像力を働かせ更に追い詰めた。
現実に敵モビルスーツは攻撃を受けた姿勢のまま停止しており、ゲートにめり込んだままピクリとも動かない。ブエルは倒したモビルスーツをそのままに、別ゲートを攻撃する方角へ飛び立つ。間際にヒョイと敵の武器だったハンマーを肩に担いで。
心強い味方が強力な戦力を持ち帰ってくれたのは嬉しい。其処は素直に歓迎できるのだが、ショッキングな出来事が多過ぎて少年はパンクしそうだった。
「行っちゃった……と、とりあえずみんなに、この事を話さなくちゃ」
六番ドックのロックを外したあと、管制室に走り込んで来た小隊長から怒られ拳骨一つもらう事で許してもらえた。目の奥で星が散ったような激痛に少年は涙目になるがこれは仕方ない。
濡れた声でマルシュがモビルスーツに乗って外で暴れていると説明すると、動かない敵機回収に手伝える人間をすぐさま召集しドックへ急行する。
レインは小隊長の驚くより早く物資確保に動くあたり流石と感心した。喜びと吐き気に揺さぶられていただけに。まだ思い出すだけでしくしくと食道が痛いのだ。
薄い胸を撫でながら「あれ?」と少年は首を傾げた。
「マルシュ、何処でモビルスーツ手に入れたの?」
一撃離脱さながらの動きでモニターから消えた、ブエルの行き先を見つめる。
帰還の声以外何も話せず、彼は次の攻撃目標へ向かった。
常のマルシュならどのような環境であれ簡単な状況説明をする筈だ。情報共有が戦場での生死を分かつと身を以って知っているから。仲間にもそれだけは必ず守るよう教えていたから。
その彼が短い言葉を残し離れて行く事に、レインは言い知れぬ不安を感じた。
お気に入り登録、誤字報告に感謝を。
もうちょい頑張ってみる。