北上「最近、雷巡になった北上サマだよ」
飛龍「改装で改になった飛龍です!」
と、こんな風に報告は済ませて、本編をどうぞ!
航空機動部隊、待機室。
「それで私、MVPを取ったんだ~」
「すごい。そこまで低いとなるとかなりの練度が必要な筈なのに・・・」
「それが私の友永隊だよ!」
と、楽しく談笑する飛龍と瑞鶴。
一方で、加賀はそっぽを向いてお茶を飲んでいた。
他の所では、それぞれがそれなりに談笑していた。
事実、加賀だけが会話に参加していない。
「混ざらないの?」
「赤城さん・・・」
そこへ、抜けてきたのか赤城がやってくる。
「別に、五航戦の子と話したくないだけよ」
「全く、そこまで固いと、提督に嫌われちゃうわよ?」
「何を言ってるんですか?嫌われたくないのは赤城さんの方でしょう?」
「え・・・そ、それはどういう意味ですかね~」
と、加賀の軽い反撃で、何故か同様する赤城。
「全く、いつまでも奥手だから提督にこくh・・・・」
「わあぁぁああああ!そんな事ないから!そんなことないからぁぁぁああああ!!!」
「何がそんな事ないんですか?」
「きゃうん!?」
加賀の何食わぬ発言に大声を上げた赤城。
その内容に食いついてきたのは瑞鶴だった。
「へ!?いえ!?なんでもありませんよ!?なんでもないからね!?」
「なんで目が泳いでるんですか?」
「お、泳いでなんてないんだから!」
瑞鶴の純粋さに全力で逃げようとする赤城。
そこへ飛龍が割り込んでくる。
「ふっふっふ。実は赤城さん、提督の事がsへぶぅ!?」
何かを言おうとした飛龍だったが、いきなり赤城から伸びた左手が飛龍の口を押え、さらに飛びかかって覆いかぶさる。
「飛龍、言ったらどうなるか・・・・・分かっているわね?」
「む!?むぐぐ!むぐぐ!」コクコクッ!
赤城の恐ろしい笑みを向けられた飛龍は顔を青ざめさせ、何度も首を上下させる。
「?」
「貴方は知らなくていいのよ」
首を傾げる瑞鶴だが、加賀は気にするなと言う様にお茶を飲む。
「・・・そういえば、加賀さんって、南雲機動部隊じゃ、艦戦の運用を得意にしていると聞きました」
「技術は教えないわよ」
「誰もそんな事言ってないんですが・・・・」
「関係無いわ。どっちにしろ、貴方には教えない」
「まあ、構いませんが・・・・私の隊には、私の隊なりのやり方ってものがありますし」
「ズー・・・どんなやり方なのかしら?」
「教えません」
「でしょうね」
と、加賀は一切笑みを浮かべず、一方の瑞鶴はにひひと笑いながら、そう話し合う。
「これぐらいで良いでしょう。どっか行って」
「つれないなぁ。これでも仲間なんですから、少しは親睦深めましょうよ」
「貴方とだけは嫌」
「それって、同じ五航戦の翔鶴姉は良いんですね」
「からかってるの?」
「ただ話題を作ってるだけですよー」
どうにも瑞鶴の好友的な喋り方にイラつく加賀。
ここにいる瑞鶴なら、すぐに食らい付いて反論してくる所を、何故かこの瑞鶴は軽く受け流して、更にはこちらを刺激する様に、しかし話し合いたいという願望が漏れているように話しかけてくる。
正直言って、うざい。
どうにかならないものか。と、考えを巡らせていると、待機室のドアが開く。
「?」
「あ、提督さん」
入って来たのは、二人の軍服姿の男。
片方は、きっちりと着込んでおり、提督帽をしっかりとかぶり、黒い額縁眼鏡をかけている。
言うまでも無く、加賀たちの提督、壱条翔真だ。
一方で、こちらは提督帽をかぶらず、まるで黒ダイアの様に真っ黒な髪と、海の様な
そして、その腰には、かなりの業物とみえる刀が一本。
加賀もご存知、黒河の提督、天野時打だろう。
「時打さん」
「おっす加賀。元気にしてたか?」
「ええ。お陰様で」
と、加賀は立ち上がって一礼。
「あ、そういえば、提督さんって、横須賀の艦娘と知り合いなんでしたっけ?」
「ああ。その様子だと、飛龍たちに聞いていたみたいだな」
そう言い終えた時打。
その時打に、飛びかかる影が一つ。
「やっほー!時打が担当なんて嬉しいよー!」
「どうわ!?」
首に飛びつかれ、更には、不意打ちもあっての事か、思いっきり地面に頭をぶつける時打。
「あたた・・・・」
それによって目を回す時打。
「おい飛龍・・・」
「ヒィ!?ごごごごめんなさい!」
すると翔真に睨まれ、即座に時打から離れる飛龍。
「やっぱり飛龍は提督には敵わないんだね~」
「うっさい蒼龍!」
「はいはい」
涙目で自分を小馬鹿にしてきた蒼龍を睨む飛龍。
が、そんな彼女たちに軽く拳骨がおりた。
「あた」
「いた」
「遊んでないでさっさとどこかに座れ」
「「はーい」」
と、翔真にどやされ、二人は空いている場所に適当に座る。
そこで、時打と翔真が彼女たちの前に並んで立つ。なお、時打は若干、翔真より後ろだ。
「コホン。俺がこの航空機動部隊を任された壱条翔真だ。こっちは今回、アシスタントの立場にいる黒河の提督、天野時打だ」
「よろしく」
「それで、明日の作戦の概要だが―――」
「―――以上が、今回の作戦の概要だ。何か質問のある者は?」
「はい」
そこで加賀が手を挙げた。
「なんだ加賀」
「何故、私が五航戦と?」
明らかな不満の意を示している加賀。
「そこの瑞鶴はお前と同等の実力を持っている。瑞鶴に本来あるべき『幸運』を持たずに、だ。艦載機の性能を考えれば、お前の方が上だが、それでも練度でいえば、お前と同じ筈だ」
「・・・・分かりました。愚問を申し上げて申し訳ございません」
「そんな、愚問なんて・・・」
加賀の言葉を否定しようとする瑞鶴。
「あ、あの・・・」
それを遮る様に―――本人はそんな事は微塵も思っていないが―――白雪が手をあげる。
「その作戦を聞く限り、空母を二手の分けさせるって事でよろしいのでしょうか?」
「その通りだ。龍鳳には加賀たちの方につけるが、それは、龍鳳の爆撃能力が高いから、飛行場姫の封殺に向いているからだ。それはお前も分かるな?」
「は、はい!」
半ばオドオドしながら返事をする龍鳳。
「大体の事は理解できただろう。今回の作戦は、失敗すれば北マリアナ諸島での激しい戦闘が予想される。そうなれば、四国、九州辺りの鎮守府の負担が増える。今後の活動に支障が出るうえ、西日本にいる艦娘たちが、何人も沈んでしまうだろう。それだけは絶対に阻止しなければならない」
翔真の言葉を黙って聞く艦娘たち。
「今回の戦いの要はお前たちだ。絶対に飛行場姫を封殺し、陸上攻撃部隊が安全に攻撃を開始できる状況を作り出せ。そうでなければ、我々には、強行突破以外の勝機は無い。誰かが沈む事は、この男が必ず許さないだろう」
そう言い、翔真は時打の方をちらりと見た。
「当たり前です!」
すると、飛龍が立ち上がって、そう言い放つ。
「時打の
「そうね」
それに続くように瑞鶴も立ち上がる。
「提督さんは私たちを救ってくれた。その恩を返す為に、私たちは精一杯頑張って、必ず勝ちます。一切の犠牲を出さずに!」
「もう十分な程に返してもらってるんだがな」
「まだ返し足りないの!」
瑞鶴の言葉に苦笑する時打。
「その意気だ」
翔真はそう言う。
その顔に笑みは無いが、眼には確かな確信の光が宿っていた。
「日本の未来、この一戦に在り。全員、心して挑む様に」
『了解!』
全員が立ち上がり、敬礼をする。
「今回の小会議はこれで終わりとする。後は時打と雑談でもしていろ」
そう言い残した翔真は部屋を出ていこうとする。
「ん?翔真さんどこへ?」
「鳳翔の所だ。ここには彼女専用の食事処がある事があるのを知っているだろう?」
「ああ、そうでしたね」
納得した時打を他所に翔真は部屋を出ていく。
すると、龍鳳が時打に近付く。
「あの・・・」
「ん?」
「この間は・・・私の提督がご迷惑をおかけしました」
龍鳳が申し訳なさそうに頭をさげる。
この艦娘は、既に知っているであろう、亜美の秘書艦だ。
「ああ、あの時の」
「すみません。あの人、悪い事は嫌いでして・・・・」
「良いよ。ああ言う人がいるだけでも、今のお前の鎮守府は安泰してるんだろ?」
「はい」
と、まだ浮かない顔で頷く龍鳳。
「まーまー!過去の事は水に流して、時打!そっちの鎮守府の事話してー!」
そこへ飛龍が割り込んでくる。
「ああ、いいよ」
と、楽しく話し合いを始める飛龍と時打。
他にも蒼龍や赤城も混じり、賑やかになっていく。
その中で、加賀だけが湯呑をちゃぶ台に乗せ、外に出ていく。
「ん?」
それに気付いた瑞鶴は、その後を追いかけていくのだった。
「はあ・・・・」
鎮守府の二階にあるベランダに出た加賀は、そこで溜息をついた。
「加賀さん」
「ん?貴方・・・」
後ろから声をかけられ、振り向いた加賀の視線の先には、瑞鶴がいた。
その姿を見た加賀は、落胆した表情になると、すぐに、ベランダの先に広がる海の方に目を移す。
「何しに来たの?」
棘のある声で、そういう加賀。
「加賀さんの事が気になって」
「うざい」
「ストレートに言いますね・・・」
加賀の罵詈に苦笑する瑞鶴。
すると瑞鶴は、加賀の隣に立った。
「・・・・・貴方、時打さんと随分と仲が良さそうね」
「ええ。あ、もしかして羨ましいんですか?」
「爆撃するわよ?」
「冗談です」
ケラケラと笑う瑞鶴。
やはり遊ばれている。
まるで、自分が何を言うのかが分かっているかのように。
「そういえば、加賀さんと提督さんって、いつ知り合ったんですか?」
「それを聞いてどうするの?」
「いじりのネタにする。提督さんの」
「・・・・」
やはりむかつく。
どうにかして追い払えないものか。
ふと、加賀は隣に立つ瑞鶴の方を盗み見た。
そこで、加賀の思考は止まった。
瑞鶴は、海の方を眺め、悲しそうな笑みを浮かべていた。
夕焼けが彼女を照らし、その瞳に、目尻に涙が浮かんでいるのが見えた。
「・・・・・何故」
「ん?何か言いましたか?」
ふと、口から漏れた声に気付いた瑞鶴が加賀の方を見て、それに慌てて顔を反らす加賀。
「いえ、なんでもないわ」
「ふ~ん」
瑞鶴はまだ分からないといった表情をしているが、一方の加賀は、先ほど瑞鶴が浮かべていた涙が気になった。
(何故・・・・泣きそうに・・・・)
そんな事を考えかけるが、すぐに思考から排除する。
考えても無駄だと思ったからだ。
仕方なく、加賀は、瑞鶴が聞きたがっていた時打との馴れ合いを話した。
「時打さんと出会ったのは、彼が電と出会った時ね」
「へえ、そうなんですか」
横須賀の様な公式の鎮守府は、人間の整備士や開発者、科学者がおり、日々新たな兵器や武器の開発に努めている。
その上で、工廠の建造部には、警備員や憲兵がおり、そこの機密を護っている。
だが、時打はまぐれにもその警備網を不本意に突破。建造施設に迷い込んでしまったのだ。
そこで取り押さえたのが加賀だ。
『動かないで』
『イタタたた!?』
『わ!?な、なんなのです!?』
その時の事はよく覚えている。
刀を持っている人間など、何かの危険人物としか思えず、容赦無く、腕を捻った(骨は折れてません)時の感覚はまだ残っている。
その時の電の慌てっぷりは微笑ましいものだった。
『とにかく拘束します』
『い、イエス・マム・・・・』
あっけなく捕まった時打はそのまま執務室へ。加賀は彼が逃げ出さない様に同伴した。
『・・・は?』
当時の提督であった豪真の言葉に耳を疑う。
『彼に・・・・電を任せるのですか?』
『ああそうだが?』
その呆気ない決定に、絶句したのは言うまでもない。
「あはは・・・・提督さんに聞いていた通りの人ですね・・・」
瑞鶴が乾いた笑い声をあげる。
「これで満足したかしら?」
一方で、加賀は相変わらず冷たい態度を取る。
「え~。まだ足りないですよ~」
「うざい。消えなさい」
「相も変わらずドストレート」
また加賀の言葉に、苦笑いを浮かべる瑞鶴。
「貴方、本当になんなの?もし、そっちに私がいたとして、私は彼女とは違うのよ」
加賀が、うんざりといった感じでそう言う。
「はい、そうですね」
すると、瑞鶴から、先ほどから聞こえていた陽気な声が、一瞬で悲しみを含めた声に変わる。
その声に、思わず瑞鶴の方を見る加賀。
そこには、先ほど浮かべていた、悲しそうな笑み。そして、微かに感じられる、悔しさ。
「・・・・・」
「確かに、あの人と貴方は違う。根本は同じでも、そこから分かれた貴方とあの人は違う。それは、ちゃんと理解している」
「なら何故・・・・」
加賀は、何かを言いかけるも、それよりも早く、瑞鶴が口を開いた。
「でも、だからこそ、私は貴方と仲良くなりたいの。次は、守れるように」
気付くと、瑞鶴は、交差させた両手を、二の腕で掴み、握りしめていた。
その様子に、加賀は何も言えなかった。
ヒトキュウマルマル――――午後七時。
夕食の時間。
「時打さん、また剣舞を見せてっぽい」←夕立
「よし、夕立。どさくさに紛れて俺のチャーシュー持っていこうとすんな」
「時打~、酒飲もうぜ~」←隼鷹
「俺は日本酒しか飲まんし、飲むのは夜九時過ぎだと決めている」
「時打、まだ十八よね?」←千歳
「日本男児は十五歳から元服といって・・・」
「それは知ってますから」←浜風
「っていうかお前ら飯の邪魔するなぁぁあああ!!」
時打は、この横須賀の艦娘たちに囲まれていた。
その様子を遠くで眺めている長門たち黒河艦隊。
「これは・・・すごいな・・・」
「はい。まさに人気者なのです」
「入る余地が無いわね」
「あ~夜戦したい」
「無理ですよ姉さん」
長門、電、暁、川内、神通がそう言う。
一方の時打は、まわりの艦娘に囲まれながらなんとかチャーシュー麺を食おうとしている。
だが、それも周りにいる艦娘たちによって邪魔されている。
「イクにももっと構ってよ~」
「黙れ歩く十八禁」
「そうだな」
「ああ!?何するんですか日向さぁぁん!?」
「ほらほら、時打の邪魔をしない」
そこへ日向が現れ、野次馬の様になっている艦娘たちを追い払う。
「すまないな、日向」
「なに、これも恩返しの一つだ。礼には及ばん。それはそうと・・・」
日向が、長門たちの方を見る。
「ん・・・ああ。来いよお前ら!」
時打が手招きしながら長門たちを呼ぶ。
「行こう」
「そうですね」
それを見た長門たちは、自分たちの食事を持って、時打の所に行く。
「随分と人気者なんだな」
「むしろ人気過ぎて困るぐらいだ」
そう言って、麺をすする時打。
「なんだか羨ましいな~。あんなにちやほやされて」
「最初はあれでも嫌がられていたのですよ」
「え?そうなの?」
電の言葉に、驚く暁。
「ああ、あの時は・・・」
「ガチで殺り合ったなぁ・・・・」
と、イイ笑顔で天井を仰ぎ見る時打と日向。
その意味に、顔を青くする黒河の面々。
「ず、随分と殺伐として学生時代ですね・・・」
「いやぁ、それほどでも」
「褒めてる訳じゃ無いのですお兄ちゃん」
神通の言葉に照れる時打だが、それに突っ込みを入れる電。
「随分と楽しそうね、黒河の提督」
「ん?」
ふと、そんな声が聞こえ、その方向を見る。そこには、あの柏木亜美が立っていた。
その後ろには龍鳳があわあわとした様子で戸惑っていた。
「て、提督、下手に絡むのは・・・」
「ブラックの癖に、良くもここの艦娘を騙せているものね。何?そこまで信頼を得たいの?」
龍鳳が亜美を遠回しに注意しようとするが、それを無視して亜美は時打に悪口を言う。
それに、不快感を露わにする一同。
「別に騙している訳じゃないさ。純粋に、俺はこいつらと交流を持ちたいだけだ」
「交流?利用する為に?それはさぞ滑稽な事で」
嘲笑うかのように亜美が嗤う。
「お前・・・」
そこで頭に来た川内が立ち上がりかける。
だが、その腕を日向に掴まれ、阻止される。
「!?」
「やめろ。ここでお前たちが関わる事を、時打は望んでいない」
「ッ・・・」
その言葉に、一瞬、悔しさに顔を歪めるも、大人しく浮きかかった腰を下ろす川内。
「滑稽・・・か。確かに、俺にはお似合いな言葉だな」
時打はそう返す。
そして、一気に器の中にあるスープを飲み干す。
「だが、それはお前にも言える事だぞ」
「なんですって?」
眉を寄せる亜美。
「お前、他人を信じようとしてないんだろ?」
「!?」
その言葉に、表情を強張らせる亜美。
「第一人称、その上、噂だけで他人の人柄を、自分の中で勝手に決める。これほど滑稽な事がどこにあるのか」
「だ、黙りなさい!大体、刀なんて持つ必要なんてどこにもないでしょう!?」
「ああ、そうか」
と、時打は傍に立てかけてあった刀を手にとり、それを飛龍閃の要領で抜刀する。
「!?」
それに思わず身構える亜美だったが、時打は、落ちてくる刀を掴む。
そして、それを亜美に横を向けて、刃の腹が見えるようにする。
「そ、それは・・・!?」
その刀の構造を見て、更に驚く亜美。
だが時打はそれを無視して、言葉を続けた。
「確かに、刀を持つ必要なんてない」
時打は立ち上がり、刀を鞘に納める。
「でも、俺は『剣客』だから、刀を持っていないとどうも落ち着かないんだ。それこそ」
そして、亜美のすぐそばに立ち、顔を近づけ、囁く様に、言う。
「――――自分の『殺意』に圧し潰されてしまう様に、な」
「―――ッッ!?」
その一瞬の殺気に思わず距離を取る亜美。
「・・・・・」
そして時打を睨みつける。
「・・・驚いた。大抵の奴は、これで立ち竦んでしまう筈なんだが、どうやら貴方は違うらしい。武術をやっているな」
一方の時打は、その亜美の行動に純粋に驚いている。
「・・・貴方、本当に何者?」
「なら調べれば良い。壱条長官なら知っている筈だ。最も、話してくれるかどうかは分からないけどな」
「ッ・・・」
悔しそうに顔を歪める亜美。
そしてすぐに踵を返し、食堂を出て行った。
その後ろを、龍鳳が謝る様にお辞儀をしてその後を追いかける。
だが、ふと、立ち止まり、時打に向かって一言。
「・・・・龍鳳を沈めたら、許さない」
ドスの効いた声で、そう言った。
「全く」
時打は、呆れたようにそう漏らし、食器を持つ。
「間宮、よろしく」
「はい」
そして、厨房へ向かい、食器を返した。
長門たちの所に戻ると、川内が不満そうな表情で頬杖をついていた。
「どうした?」
「・・・・殴りそこねた」
「物騒だなお前」
何気ない川内の言葉に、苦笑いを浮かべる時打であった。
「はあ・・・」
暗く、誰もいない廊下を歩きながら、ふと溜息を吐く加賀。
瑞鶴と話しをしていらい、この調子だ。
本当に、あの瑞鶴はなんなのか。
「本当に・・・・」
なんだんだ。そう言おうとしたが、窓の外で誰かが激しい動きをしているのが見えた。
「?」
それが気になり、窓を見て見ると、そこには、瑞鶴が二本の木の棒、小太刀サイズの木刀を持って、乱舞していた。
「セイ!ヤア!」
短い掛け声とともに、剣を振るう瑞鶴。
そこで、ふと、剣を振るうのをやめて、ぐったりと脱力する。
その体からは汗が滝の様に流れていた。
「何をして・・・・」
ふと、そんな声を漏らす。
すると、瑞鶴は、加賀の方を見た。
「あれ?加賀さん?」
「!?」
なんでわかった。窓は締め切っていた、聞こえない筈なのに。
そう考えている内に、瑞鶴はもう、加賀の眼の前に来ていた。
「どうかしたんですか?」
「た、ただトイレに行きたかっただけよ」
「そうなんですか」
それを聞いた瑞鶴は、すぐに興味を失くした様に、戻っていく。
「・・・・」
「ふ!ほ!」
そして、また剣を振るう。
右の剣を振るい、左の剣を薙ぐ。
どこぞの剣士の真似だろうか?
「・・・なんで剣なんて振るうの?意味なんてないでしょう」
「そうですね」
瑞鶴が剣を振るいながら、答える。
「よく、あの提督さんが来る前からこうして剣を振っていたんですよ。その所為で、すっかりと習慣づいたみたいでして」
そこで、瑞鶴は足を一回止め、今度は流れる様な足捌きを始める。
「!?」
そこで加賀は息を飲んだ。
残像だ。
まるで分身の術でも使っているかのように、瑞鶴がそう見えるのだ。
その状態で、瑞鶴は剣を振るう。
「ハァァ!」
瑞鶴が、回転する。
そこから、右手が閃く。
その剣閃は空を切り、空気がわずかながら震えた。
「ッ・・・・」
そのすごさに、息を飲む加賀。
「ふう・・・・」
瑞鶴は、腕で顔から流れ出る汗を拭う。
「まあ、貴方の言う通り、あまり意味は無いんですけどね」
と、二ヒヒと笑う瑞鶴。
「私、お風呂に入ってきます。汗を流さないといけないので」
「あ・・・」
瑞鶴はそう言って、さっさと行ってしまう。
「・・・・」
加賀は、そこで、茫然とするしかなかった。
「ハア・・・ハア・・・」
瑞鶴が、息を切らしながら、走る。
「ハア・・・」
もともと、先ほどの剣舞で体力を使っていたから仕方が無いかもしれないが、それでも、やはり、雑念が入るとキツイものだ。
「・・・・加賀さん」
その胸を、手で押さえながら、そう呼ぶのだった。
次回『出撃直前!』
それぞれの想いを胸に、いざ、出撃です!