インストール@プリキュア!   作:稚拙

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 用語解説

 キュアチップ

 ジャークウェブに敗れたプリキュアが、ワルイネルギーによって力と人格を封印されたメモリーチップに変えられた姿。
 プリキュアと同じ数―――――51枚存在するとされる。
 バグッチャーの『材料』にされてしまっており、バグッチャーを撃破することでチップを取り出すことができる。
 ネットコミューンのスロットにセットすることで、ファイトスタイルのインストールプリキュアが、そのプリキュアの技を一時的に使用できるようになるほか、リアライズスタイルの際は、そのプリキュアの姿を模したスタイルに2段変身する、『レジェンドインストール』を行える。
 普段の状態でも、ネットコミューンにセットすれば、そのプリキュアの人格を一時的に目覚めさせ、会話することができる。
 元のプリキュアに戻すには、サーバー王国で封印されているプログラムクイーンの力が必要不可欠とされ、そのクイーンの封印を解くにも、すべてのキュアチップが必要であるため、りんくとキュアメモリアたちは、51枚のキュアチップを全て回収するための戦いを繰り広げることとなる。

 なお、サーバー王国のトビラは、『鍵』を司る『プリンセスプリキュア』の4人の力で封印されており、4人のキュアチップが鍵の役割を果たしている。
 また、すべてのチップがジャークウェブの手中に落ちているわけではなく、何枚かのキュアチップは現在所在不明となっている。

 ――――――――――

 今回から、『電調編』のキモとも云えるストーリーに突入します。
 本家様ではまずありえない場所でやりとりされる情報の数々を皆様にも送信……。
 長くなりそうなので、最低3部作になります。
 長い地の文や長台詞が多いので若干読みにくいかもしれません……ご容赦を。
 また、稚拙のネットワーク工学やコンピューターに関する知識は皆無なので、本文中で間違った使い方をされてるプログラミング用語があるかもしれませんが重ねてご容赦を。
 そして肝心なことを書かねばなりませんが……

 ……お読みの小説は『インストール@プリキュア!』です……


第10話 内閣電脳調査室主任調査員@増子美津秋
居酒屋にて


 二人の奇跡!キュアミラクル!!

 こんにちは!朝日奈みらいです!

 

 りんくちゃんとほくとくん……

 ひとりで出来ないことだって、ふたりでなら―――――

 それに、ふたりは―――――"ふたりだけ"じゃないよ―――――

 

 《なにひとりでドツボにハマってやがんだ。お前だけで戦ってるって勘違いされちゃ心外だぜ。今のお前のその体、"誰"と"誰"で出来てっと思ってる?》

 《お呼びいただけると思っていましたわ、ほくとさん♪》

 『私は!"プリキュア愛"で!!出来ているッッ!!!』

 『確かに―――――人はね……みんな違うよ―――――"愛し方"や―――――"痛み"も違う―――――"好き"が、人によって違うことは当然―――――でもね、"人に迷惑をかける"『好き』だけは、"素敵"だって思えない!カイザランチュラにとって……私達のこの世界は、秘密が茂る宝島(ワンダーランド)かもしれない―――――眩しく見えるかもしれない―――――でも……でも!"何か"を……"誰か"を犠牲にしてまで、土足で入ってきていい場所じゃない!!』

 

 ふたりと"みんな"の想いが集まって、運命を切り開く力になる……!

 そう―――――まるで、『できない』を『できるようにする』、『魔法』のように―――――

 

 わたし、信じるよ―――――

 ふたりの想いとその力が、きっとみんなをつないでくれるコト。

 

 モフルン……はーちゃん……そして……リコ……

 また、離れ離れになっちゃったけれど……でも……あの時と同じで、きっと、必ず―――――

 

 『インストール@プリキュア!』―――――

 これからどうなるか……ワクワクもんだぁ!

 

 ――――――――――

 

 世界的なネットワーク災害『アイ・クライシス』によるインターネットの死滅を経て、世界中に普及した新たなるコンピュータ・ネットワーク網―――――『キュアネット』。

 ネットワーク上を行き交う情報が可視化され、ネット上の安全対策も従来以上に講じられるようになった現在においても、サイバー犯罪は減少することなく、むしろ巧妙化・悪質化しつつあった。

 また時には、国家の安全を脅かすほどの大規模犯罪になりかねないケースもあった。だがそれらは全て、公にならぬ裡に、密かに解決・処理されてきた。

 それには、政府が新時代のサイバー犯罪に対応するために設立した、とある組織の功績があった―――――

 

 ―――――『内閣電脳調査室』―――――通称:『電調』。

 現実とキュアネット、その双方におけるプロフェッショナルを擁する彼らの手によって、キュアネットの安全は人知れず守られてきた―――――

 そして今また、この国―――――否、全世界すら巻き込まんとする新たなる脅威が、キュアネットから迫りつつあった……。

 

 ――――――――――

 

 NPC MITSUAKI MASUKO

 

 ――――――――――

 

 「かんッぱァ~~~い!!」

 

 居酒屋の個室に響き渡る声。

 

 「んぐ、んぐ、んぐッ…………ぶッはぁぁ~~~!!!んまァ~い!!仕事終わりのこの一杯!!やっぱニッポンのビールはサイッコーやなぁ~!!にいちゃん、生一丁~!!」

 

 コイツ……この一瞬でジョッキ一杯空けやがった。相変わらずの飲みっぷりだ。

 

 「ん?どないしたんサトーくん?遠慮せんと飲みぃ飲みぃ!今日はウチのオゴりやさかい、ツブれるまで飲みぃや~!」

 「は、はぁ……」

 「……明日から仕事だぞ。二日酔いで使いモンにならなくなったら困る。程々にしてやれよ」

 

 ……あの後、俺と佐藤はテテに半ば強引に、行きつけの居酒屋へと連れ込まれ、酒宴に突入してしまった。

 大学の頃からそうだったが、テテの飲みっぷりは半端ではない。コイツのせいで何度酔い潰されたか……

 

 「わぁ~っとるわぁ~っとる。"おしごと"には差し障りないようにすっからぁ。……あ、おっちゃん枝豆追加~!」

 

 コイツ、黙っていれば美人なんだが、一度口を開けば最後、その場でドン引かれる。

 

 「それにしても、日本語……というか、関西弁上手ッスねぇ」

 「あぁ、ソレなぁ?ウチ、こう見えても大阪生まれの大阪育ちやねん。おとんがアメリカん会社の大阪支社長で、おかんは秘書。ニッポンで不自由せんように、英語だけやのぉて日本語も教わってん。でな?おとんが教材代わりに見せてくれたんが新喜劇のビデオでな、これがホンッマオモロくて!100回か200回は見たわぁ、知らんけど!その内喋り方、こんな感じになってもーてなぁ、アッハハハハハ!!!」

 「……大阪の人間はノリがいいからな。誰も標準語に矯正しなかったらしい。『面白い』という理由でな」

 「しっつれいやなぁ、大阪んヒト全員がノリで生きとぉワケやないでぇ?それは偏見やで~?」

 「あ゛~!わかった!わかったからくっつくな!酒臭ェ!!」

 

 コイツと初めて会ったのは大学のゼミだった。俺が院生で、コイツは学生だった。

 元々報道に興味があったらしく、俺に近づいたのも俺が『増子』の人間だったから、らしい。

 しかし俺は―――――過去の個人的な経緯から報道への熱に冷めていた。本家とも縁は切った、ということも告げた。

 最初は落胆したようだが、それでもコイツは俺に付きまとってきた。

 

 ―――――何時まで付きまとってくるんだよ。俺はもう、『本家』とは何の関係もない一般人……ジャーナリストにもルポライターにもなる気は無ぇんだよ。

 

 一度、ハッキリと言ってやったことがある。しかしコイツはというと―――――

 

 ―――――ウチな、あんさんの密着取材がしたいんや。あえて『正道』から外れて、『別の道』進みたいっちゅう、あんさんの生きざまが見たいねん―――――

 

 ……つまりは、『マスコミ一家』の出でありながら、その道を蹴った『異端児』の行く末が見たいっていう好奇心―――――

 ―――――俺の一番嫌いな類の人間だった。『好奇』に人心を蝕まれて、他の事が何も考えられなくなる、『本家』のような連中と同じだと。

 それでも俺がコイツを邪険にせず、あえて泳がせていたのは、コイツは『本家』の人間ではないことへの安心感のようなものを抱いていたからかもしれない。

 もしくは―――――

 テテには気の毒だが―――――コイツが『破滅』する様を見たかったという、サディストじみた思惑もあった。軽はずみに『真実』を求めたがる者の末路と、好奇心の果てに得るモノは『光』とは限らない……それをコイツが思い知るまで付き合ってやるつもりだった。ところが、コイツは俺の予想の遥か『上』を行った―――――

 大学卒業後、ジャーナリストとして本格的に働き始めたテテは、意外なほど評判の良い記事を書いた。

 既に電調に属していた俺は、とある出張先(でさき)の駅の売店(キヲスク)で偶然買って読んだ週刊誌に載っていたその記事に、思わず目を留めた。普段のコイツからは想像もつかないほどの筆致だった。

 それはまさしく、『嬉々として報道を堪能している』ヤツが書いたと云える、『本家』のヤツの書いた記事とは似て非なる、そんな記事だった。物事をきちんと客観的に捉え、当事者達の視線に立って読む者に訴えかけ、問題を提起し、思考を促す―――――ルポルタージュの見本のような内容だった。

 この点、『本家』のヤツが書く記事とは決定的に違うと云える。本家のヤツの書く記事は、客観性はあれど、読者への訴えかけから『先』が無い。あからさまに『自分はこんなすごいことを見つけたんだぞ、すごいだろ!』という、子供じみた自慢にしか感じられないのだ。読んだヤツは誰しもこう思うだろう―――――"だから何だ?""それがどうした?"……と。

 当たり前だ。『人間性』ってのが欠落した、『人の皮を被ったバケモノ』なんかに、文才があってたまるか。

 ……ともかく、テテの記事は多くの人間から評価され、昨年、史上最年少の28歳で、報道の最高峰であるピューリッツァー賞を受賞したのだった。

 

 「……最近の記事、読んだぜ。また危ない橋渡ったろ」

 「ん~……まぁ、戦闘機ィスクランブルしてきとったなぁ。追いかけっこはもぉ慣れっコやけどな♪ちょいちょいにぃちゃん、ハイボールとタコワサ~!」

 「戦闘機って、なんのコトッスか?」

 「コイツ、自前のグライダー持っててな。犯罪的に過激な改造してやがるのさ。それこそ戦闘機を振り切れるくらいのな」

 「マジッスか!?」

 

 テテは『自家用機』とも言うべき改造モーターグライダーを保有している。それを駆って世界狭しと飛び回る姿から、『空飛ぶジャーナリスト』という二つ名もつけられた。

 もっとも、緊張状態にある国の領空に不用意に近づいたり、フライトプランの提出を忘れたりして領空侵犯を繰り返し、戦闘機と鬼ゴッコを繰り広げたこと数知れず。

 『領空侵犯の常習犯』だとか、『空軍の常連客』と陰で呼ばれていることは―――――コイツに言うべきではないだろう。

 

 「それで?3年ぶりに帰ってきたのは久々に俺を酔い潰すためか?それともピューリッツァーの自慢か?」

 「あぁ、せやった……酒が旨ぁて忘れるトコやった……せやせやコレコレ……♪」

 

 テテは座敷の隅に置いていたバッグを取り出すと、その中からノートパソコンほどの大きさの箱を出した。箱にはテンキーが備えつけられ、厳重に施錠(ロック)されていることが窺える。

 

 「バァスにカケフ、オ~カダっ♪バックスクリィンさんれんぱ~つ♪♪」

 

 テテはご機嫌な様子で呪文のようにそう唱え、テンキーを6回ほど叩くと、小さな電子音が鳴り、蝶番式に箱が開いた。

 中身を覗くと、そこには―――――

 

 「!?」

 

 長さ2、3cmの、まさしく―――――"実弾"だった。

 金と赤で縁取られた、日本の公の場ではまずやり取りされない代物。

 

 「お前、コレ……!?」

 「…………………………」

 

 当然俺は驚いた。佐藤も引き攣った顔で絶句している。こんな物、居酒屋で出すような物である筈が無い。

 

 「聞ぃとらんかったんかいな?"コレ"が『Gやん』の"お土産"や」

 「土産って、お前……」

 「いやぁ~、これ持ち込むん苦労したんやでぇ?お偉いさんから口添えあらへんかったら、間違いなく空港でワッパかけられとおわ」

 「……お前なぁ……」

 

 呆れるしかなかった。コイツは一体何度、自分の命を担保にしてやがる……。かく言う俺も人の事は言えんが。

 

 「この弾……普通の弾じゃないですね」

 「わかるん?」

 「ええ」

 

 最初は引き攣った顔をしていた佐藤だったが、すぐさま表情を戻し、弾を手に取り隅々まで凝視していた。

 

 「二層構造……中には……う~ん……」

 「へぇ~……サトーくんってこの手のマニアなん?」

 「元々こいつはSATでスナイパーやってたんだよ。だからか目が無くてな」

 「フッ……『G・I・サトー』と呼んでもらってもOKッスよ」(キリッ)

 「なんやゴルゴやないんかい」

 「アハハ……ハァ……」

 

 ため息をついて落胆した佐藤。と、弾が入っていた箱の隅に、スピーカーのようなモノがあることに気付いた。これは……?

 

 《ようやく中身を確認してくれたようですね》

 

 そのスピーカーから、明らかに普通ではない声が響いてきた。ボイスチェンジャーで加工したこの声、何度も聞いた。

 

 「お、なんやGやん、見てたん?相ッ変わらずヤボなんやからぁ」

 《居酒屋なんかで渡すものじゃないですよ、ソレ》

 「し、主任……!この声の主って……まさか……!?」

 「あぁ、そういや佐藤は初めてだったな。俺達のオブザーバー……『Dr.G』だ」

 

 俺達『電調』のオブザーバーを務める謎多き人物―――――それがDr.G。

 俺もそうだが、室長ですら直に対面したことはないらしく、しかもこうして声だけ、それも加工された声で俺達と会話するため、男なのか女なのか、年寄なのか若いやつなのか、そのすべてが謎に包まれた存在だ。

 しかもどうやってかはわからないが、常に俺たち電調メンバーの動向を見ているらしく、隠し事のひとつも出来やしない。プライバシーもないわけだ。

 

 「お、お会い出来て光栄ッス!自分、さt―――――」

 《良く存じ上げてますよ、"イノセント・スナイパー"》

 「い、イノ……??」

 《お気になさらず。ワタシ、あまり深く関わっていない方のお名前をそのまま呼ぶのは失礼だと思ってまして。ワタシの流儀ですので悪しからず》

 「は、はぁ……」

 《アナタも息災で何よりですよ、"アウトロー・サン"》

 「別になりたくてアウトローな息子になったわけじゃねぇが……ご無沙汰だな、ドクター。……で?この弾、タダの弾じゃないんだろ?」

 《ええ―――――今回の『お仕事』を行うにあたって、まずは『お相手』に対抗できるだけの力は必要と思いまして、ご用意させていただいたものです。外殻を貫通するための硬質合金のフェアリングの内側に、ある種のコンピュータウィルスに対するバスティングプログラムを組み込んだ素子を鋳込んだ特殊合金を仕込んだモノです。あの場に居合わせた警察官の方の拳銃が通用しなかったという情報を鑑みて、制式採用の弾丸とは異なる設計をさせていただきましたが、規格自体は従来の制式拳銃に合わせてありますから、問題なく使用可能です。技研にもサンプルを回してありますから、直に量産体制も整うかと》

 「ちょっと待てよドクター……コンピューターウィルスだぁ?……おいおい、今回相手にするのは『不明生物』だぜ?それがどうして、対コンピューターウィルス用のプログラムを仕込んだ弾で相手しろってんだ?……それにそもそも、不明生物が相手ってんなら、電調(ウチ)じゃなく特生自衛隊(トクジ)にお鉢が回る筈―――――」

 《……いるかどうかもわからないゴジラやキングギドラ相手に、机上演習や、ハリボテ同然の有人操縦型機械怪獣(機龍やMOGERA)の整備で予算を無駄食いしている道楽連中の初陣にくれてやれる相手じゃないんですよ、"アレ"は。皆さんが『不明生物』と称している敵性大型生命体というのは―――――》

 

 俺だけではなく、佐藤をも耳を疑うことを、Dr.Gは告げた。

 

 《キュアネット空間から現実空間へと実体化した―――――コンピューターウィルスです》

 

 「!?…………お…………おいおい、冗談だろ……!?」

 《ワタシは冗談は好きではありません。実に真面目に話しています》

 「で、でも、そんなコトがありえるンスか……!?ネットの中のモノが、現実に出てくるなんて……」

 《簡単な話です。パソコンから書類をプリントアウトすること……もっとわかりやすい例なら3Dプリンターですね。その延長と考えていただければ》

 「それとアレとは次元が違い過ぎッス!」

 

 スピーカーの奥で、ため息が漏れるのが聞こえた。

 

 《…………詳しくない方にもお分かりいただけるように、実に簡素化してご説明させていただいたつもりですが……まぁこの際です。実に長くなる上、ワタシの推論も織り交ぜますので確定情報と言えませんが、現時点でワタシが分析した"連中"の仔細をご説明させていただきましょう。……テテ、タブを》

 「は~いな♪」

 

 テテは個室の隅のバッグから自分のタブレット端末を取り出し、電源を入れた。画面に映し出されたのは、キュアネット空間で暴れる、例の『不明生物』―――――おっと失礼、Dr.G曰くの『コンピューターウィルス』だった。

 

 《この映像は4月の上旬……大泉町内のキュアネット上で確認された、『例のコンピューターウィルス』……そして次がその9日後、その翌日……細かい部分は異なりますが、これらは全て、同一種のコンピューターウィルスです。プログラムログからも間違いはないでしょう。そして―――――》

 

 タブの画像が切り替わり、今度は現実の市街地で暴れるコンピューターウィルスが映った。

 

 《これが初めて、大泉町の中心市街地に出現した『実体化ウィルス』……それから、大泉町営野球場、大泉中学校で2度……もうサルでもわかりますよね。すべてが同一のウィルスをベースにした、マイナーチェンジ……文字通り……『見ればわかります』》

 「まぁ……確かに見た目は似てるが……『どちらか』が『もう一方』の外見を模倣した別物……という線はないのか?」

 《"素人目"ではそう見えましょうが……このキュアネット、見た目だけでなく『ナカミ』も参照できるので。ログを回していただいて、解析を行ったところ……興味深い点があったんですよ》

 

 タブレットの画面が切り替わった。素人には全く理解のできない―――――プログラム言語の羅列だった。

 

 「……なんだこりゃ」

 「……あ……アタマ痛くなってきたッス……」

 《サイバー犯罪対策のプロフェッショナルなのに、この位理解できないのですか……実に解せません》

 

 ごもっとも。生憎俺も佐藤も現場主義なんだよ。

 

 《……画面左側が『例のウィルス』のログ……右側は比較対象として用意した一般的なコンピューターウィルスのログです。この、アンダーラインで示した部分……この記述が、一般のウィルスとは根本的に違う点……まるで、後から組み込まれたような『作為的』な部分……実に巧妙にカモフラージュされていますが、これがこの『実体化ウィルス』のキモであると……ワタシは考えています》

 「その根拠は?」

 《皆さんはまず御存じでないと思いますが……ワタシの尊敬する方が、このプログラムを予見した論文を過去に発表していたのです。同じく、この『実体化ウィルス』のことも―――――そして―――――"P"のことも、ね》

 「なんですって……!?!?」

 

 つまりは―――――この非現実的なコンピューターウィルスや、"P"の出現を予見したヤツがいたということか。当然のように、俺は訊いていた。

 

 「何者なんだよ……その"予言者"は―――――」

 《皆さん……いや、全世界で、キュアネットに携わる人間の殆どがその名を知っている……日本のネットワーク工学の権威……『キュアネットの母』と呼ばれる偉人―――――東堂博士です。この論文が発表されたのは、アイ・クライシスの起こる4年ほど前……つまりは今から20年ほど前になりますが》

 「そんな前から……じゃぁどうして東堂博士は今回の件に関して何も動こうとしてないんスか!?」

 「……知らねぇのかよ?東堂博士は4ヶ月ほど前から―――――"引きこもってる"」

 「引きこもってるって……それってどういう……??」

 「言葉の通りや。博士、自分が所長を務めとる日本電脳工学研究所(日電研)のメインサーバールームに閉じこもって鍵掛けたっきり、出て来ぃへんくなってもうたんやて。中で何しとんのかも全くわからんらしいて」

 「行ったのか?」

 「技研に弾のサンプル回すついでになぁ。博士の助手ってヒトにも話聞けたんやけど……あのヒト、何て名前やったけかなぁ~……?確か、さか……―――――」

 《ともかく……東堂博士が対策を講じることの出来ない今、ワタシ達の方で何とかするしかないということで……実に大幅に話が脱線しましたが、元に戻しますよ》

 

 今この場にいない人間のことを話しても仕方がないのは同意する。問題は、このウィルスの詳細情報だ。

 

 《……『実体化ウィルス』が持つ特異なプログラム……ワタシは『Cプログラム』と呼んでいます。このプログラム部分……これには『人間の意志』に似た、非常に高度なプロトコルが用いられています。これ以上の詳細は『現物のウィルス』のサンプルが無いのでわかりかねますが、これこそが『実体化』を実現せしめる『鍵』であると考えてます》

 「人間の意志……か……」

 「じゃぁ、あのウィルスは……人間並みの知能がある……?」

 《意志があるかどうかはわかりませんが……『それほどの高度なプログラム』が無ければ、実体化が出来ないと見るべきでしょう。動作プログラムとは別の可能性も考えられますし。―――――もっともこちらは、『弾』さえあれば駆逐は可能でしょう。さしたる問題ではありません》

 「ぶっちゃけたな……そこまで説明した不可能存在を問題外って言い切るってことは……ドクター、あんたの本命はウィルスじゃないな」

 

 俺がそう言うと、少し間を置いた後、Dr.Gは浮ついた調子でこう返してきた。

 

 《わかります?わかりますよねぇ……♪その通りですよ、アウトロー・サン。"諸外国の皆さん"の目当ては『実体化ウィルス』でしょうが、ワタシの一番の本命は―――――"P"ですよ♪♪》

 

 やはりか。ボイスチェンジャー越しにも伝わる興奮。今までの淡々とした説明が嘘のようだ。

 

 「"P"って……やっぱり、ウィルスと同じで、"ネットのプリキュア"が実体化してるんスか……?」

 「そこ、ウチもギモンだったトコや。見た目もよぉ似とぉし、例のウィルスと、出処は一緒ちゃうんか?」

 《違います……実に違います!!月とスッポンほど違います!!!……ゴホン、少し興奮しました……ではどのように違うのかを懇切丁寧にご説明しましょう》

 

 またタブレット端末の画像が切り替わった。今度はウィルスではなく、ネットの中で戦う少女にフォーカスされる。

 

 《……ウィルスと"この存在"は、根本的に異なります。まず、ウィルスと異なり、ログに『Cプログラム』が含まれていません。ですので、"この存在"が単独で実体化することは、まずありえないんですよ。……もっともこの存在からして、"例のウィルス"同様に常識を覆す存在であるのですけれども》

 「どういうことだ?」

 《"この存在"は―――――生きてるんですよ》

 

 またも、俺と佐藤は呆気にとられた。

 

 「「……………………は?( ゚Д゚)( ゚Д゚)」」

 《キュアネット空間内に生息している電脳生命体……コンピューターウィルスならぬ、コンピューターオーガニズム……略して"C-ORG(シーオーグ)"といったところですね》

 「シーオーグねぇ……人工知能じゃないのか?」

 《人工知能とはプロトコルの構造が根本から異なるので、違いますね―――――この存在も、東堂博士の論文に記されていました。……もっとも、20年前、この学説は失笑を以って迎えられたそうですがね》

 

 心なしか、Dr.Gの声の調子が落ち込んだようにも聞こえた。

 

 《すみません、話を戻します。……このC-ORGもまた、現実空間に実体化するには『Cプログラム』が必要であると考えられますが、こういう考え方もできます―――――『Cプログラム』に似た因子……即ち、人間の……『人間そのものの意志』と『同期』させることが出来れば、実体化とは異なる形で、C-ORGと同等か、それ以上の能力を持った存在を現実空間に顕現させることが可能となる……。》

 「C-ORGと同等かそれ以上の能力を持った……」

 「現実空間に顕現した存在―――――まさかそれが……!?」

 

 テテの口元が上がるのが見えた。

 

 「せや」

 《……"P"ですよ。『C-ORGの能力をその身に宿した人間』こそが……あの人が……東堂博士が存在を予見した、人類を超越した"高度情報化生命体"……!》

 

 ますますもって非現実的だ。その身に宿すって―――――

 

 「どうやって、だ?生命体とはいえそれ以前にプログラムの類だぞ。スマホとかパソコンにならともかく、『人間』にそういったモノをダウンロードしたりとか、インストールすることなんて可能なのか?」

 《その点が実に解せないんですよ。人間はもとより生物に『電子情報』を『インストール』するなんて、常識的にあり得ません……!しかし東堂博士は"P"の存在を確信していた……C-ORGを人間に『インストール』することが可能な何らかのインターフェースを、"彼女"たちが所持していることは確実でしょうね》

 

 人体にプログラムをインストールする―――――今回の件に関わっている連中は、もはや一般常識の通用しない連中らしい。

 それを特殊弾だけで捌けって、ちと無理がないか?オブザーバー様よ……。

 

 《ご存知の通り、彼女達の身体能力は人間の限界を遥かに突破しています。読んで字のごとく、『新人類』と呼ぶに相応しいでしょう……今のワタシにとっての最大の"謎"……謎に包まれた彼女達の仔細、何としても解明したいものですよ……!》

 

 どうやらDr.Gにとって、ウィルスよりも"P"の方がそそる存在らしい。まぁ、奇妙な風体のバケモノよりも、見た目可愛い女の子の方が、印象もいいだろうが……

 

 《いいですか皆さん……彼女達"P"……そして『実体化ウィルス』の情報を、出来るだけ多く収集してくださいね。……テテ、頼みましたよ》

 「はいはい♪」

 《これらの"謎"はワタシへの"挑戦"……!東堂博士が待ち望んだ存在を必ず白日の下に曝し、博士の正当性を証明するのです!!》

 

 スピーカーからプツッという音がして、それきりスピーカーは黙った。言いたいことだけ言って去りやがった。

 

 「まったくこれだからマッドサイエンティストの気は知れねぇ」

 「まぁまぁみっつー、大目に見たってや。Gやんのコーフンぶりは今まで以上やし、やる気やってことやから」

 「……自分達、そんなジョーシキ外れの連中を相手にするンスよねぇ……」

 

 どこか遠くを見つめる佐藤の目。酒が回ってきてるのか、顔を真っ赤にしている。

 

 「主任……なんか、めっちゃ不安なンスけど……」

 「心配すんな……誰に何と言われようが、俺達の仕事は変わらんさ」

 

 そう―――――ブレちゃいけねぇ。

 国民の平和を守り、脅威を取り除く事こそが、俺達の『仕事』だ―――――

 そして、その『仕事』を『自分たちの仕事』と勘違いしてる、あの『2人の民間人の少女』を、危険から遠ざけなきゃいけない。

 "危ないことは、やめさせる"―――――

 お節介かも知れんが、それが『大人の仕事』でもある―――――

 

 Dr.Gが欲しいのは『真実』らしいが―――――俺はそんなモノ、これっぽっちもいらねえんだよ。

 『真実を求める』ことに囚われちまったら―――――

 

 『ヒト』であることを辞めちまうことになるんだからな―――――

 

 ――――――――――

 

 NPC "Dr.G"

 

 ――――――――――

 

 伝えるべきことは伝え終えました。皆さんには期待していますよ―――――

 それにしても―――――

 ワタシは手元のノートパソコンを開いて、アプリを起動しました。

 その中には、とある3つのプログラムが保存されているのですが―――――

 

 「なかなか『心』を開いてくれないのですね……強情なのか、それとも……何かが足りないのか……」

 

 かつて、"P"についてなんらかの手がかりが得られるかもしれないと思って、日電研のサーバーにハッキングを掛けた時、手に入れた3つのプログラム―――――

 間違いありません。これらは―――――

 

 『Cプログラム』―――――

 

 おそらく、そのオリジナル。『実体化ウィルス』が保有しているモノと同タイプのモノ。

 もっとも、3つのプログラムのうち、解析が可能なのは2つだけ……それも、極々『表層』に過ぎません……

 この膨大かつ複雑無比な情報―――――『人間的』というよりも、むしろ『人間そのもの』ですね……

 

 「果たして……アナタたちはいったいどこから来たのでしょうかね……?実に興味深いですよ……ワタシの知的好奇心を、ここまでくすぐる存在、その手掛かり"だけ"だというのに……」

 

 話しかけても何も答えないのはわかってますけどね。ちょっとした独り言です。

 しかしながら―――――アナタたちには少しでも協力してもらわなければなりません。

 でないと、あのひとの……東堂博士が予見した"彼女達"の真相に、近づくことはできませんからね……

 ワタシは思わず、少しだけワタシに『断片的な情報』を提供してくれた、2つのプログラムに呼び掛けました。

 

 「さぁ……いっしょに真実を明らかにしましょう―――――"ローズ"、"フェリーチェ"」

 

 これらのプログラムはそれぞれ、名前を名乗っていました。

 

 〈No.11 "ROSE"〉〈No.44 "FELICE"〉

 

 『薔薇』と『幸福』―――――しかもイタリア語で『幸福』とは、粋な名前を名乗るものです。

 この2つのプログラム……出所をはっきりさせるには、やはりもう1つか2つ、同様のプログラムが必要なのでしょうか……

 

 そして―――――

 最後に残された3つ目のプログラムに至っては、名前以外の解析を許してくれない『頑固者』です。

 名前を知って納得しましたよ。まさしくあなたは名前の通りの『完璧主義者』―――――

 でも、いずれは―――――

 

 「あなたの事ももっと知りたいです……ワタシに、少しでもお顔を見せてください……。」

 

 

 ―――――"No.50"―――――

 

 

 「―――――……"PARFAIT(パルフェ)"―――――」

 

 

 

 ……SAVE POINT




 用語解説

 バグッチャー

 ジャークウェブが使役する、意志を持つコンピューターウィルス、またはそれにより生まれたキメラモンスター。
 プリキュアのキュアチップと、何らかのキュアネット上のプログラムやアプリを合体させて怪物化、ワルイネルギーをまき散らしながら、キュアネットで破壊活動を行う。
 キュアネット上の破壊活動によって、リアルワールドにも悪影響が生じる。
 発生からある程度の時間が経過すると実体化現象によってリアルワールドに出現、リアルワールドを直接攻撃し始める。
 ネット上においては通常のセキュリティプログラム等で太刀打ちできる存在でなく、実体化後も通常兵器では傷ひとつつけられず、いずれの『世界』でも、プリキュアが放つイーネルギーでしかデリートさせることができない。
 なお、キュアチップを抜き取られた後も実はある程度行動可能で、最後の悪あがきを見せることも。

 ――――――――――

 りんく達のあずかり知らぬところで、こんな大ごとになっていたんです……
 そして……衝撃のラストとなりました……
 本編にすら出てこない『彼女』の名前、出しちゃったんですけど大丈夫でしょうかねぇ……??

 そしてDr.Gの最終目的とは?そしてそもそもその正体とは……??
 次回は『電調・増子班』、大泉町にやってきます。
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