二つ名持ちモンスター【片冠ドスマッカォ】   作:変わり身
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 (下)

一方、ハンターとディノバルドの戦いは熾烈を極めていた。

 

『――――――ッ!!』

 

「っく、はぁ」

 

巨大な刃尾と、ハンターの身の丈ほどもある大剣。互いの得物が交差する度に空気が震え、大地が割れる。

ディノバルドは時折爆炎を用いた遠隔攻撃も行うものの、ハンターを捉えるには至らず。ハンターも湧き出る黒い靄に視界が阻まれ、上手く間合いを掴めない。

 

全体の流れで見るならば、片目の使えないディノバルドが不利ではあったが――さりとて、勝負を決定づける程の差でも無く。

 

……7号に助けを借りるべきだったかな。

これで片眼が潰れていなかったらと思うと笑えない。ハンターの心中に少しの焦りが生まれ、ディノバルドと睨み合う中一筋の汗が顎先を伝った。

 

――と。

 

「……にゃぁっぁぁあぁぁぁぁああああああああああああ……!!」

 

「!」

 

背後。遠く離れた場所から、その7号の声がした。

それはものすごい勢いで近づいてくるようで、酷く乱れた声だった。

 

……いにしえの秘薬を渡した、どこか見覚えのあるドスマッカォと共に居るのか?

可愛い7号のお友達だったようなので、何となく助けてみただけなのだが――味方になってくれるのならば、仏心を出して正解だった。

 

ハンターはディノバルドへの警戒を解かないまま、チラリと目線を7号の方角へずらし――。

 

「――ギシャアアアアアアアアッ!!」「にゃぁぁああぁあぁああアアッ!?」

 

「っ!」

 

途端、背後から現れた大柄な影と絶叫が頭上を飛び越え、その風圧に思わず顔を手で覆う。子供らしい、悪い癖だ。

ハンターはすぐに我に返り、手を下ろし。慌てて大剣を構え直し、ディノバルドへと向き直る。

 

「ギャルァッ!」

 

見ると先程の影が猛スピードでディノバルドへと走りより、その鉤爪を振り下ろしていた。

ディノバルドは突然の闖入者に動きを止めたものの、それも一瞬。冷静にその動きを見極めると横っ飛び、奇襲から逃れ出る。

 

「――キシャアッ!」

 

『――――ッ!?』

 

されど飛んだ先には、しなりを上げる尻尾があった。

当然、空中のディノバルドにはそれを避けきれる筈もなし。思い切り横面を叩き飛ばされ、大地に頭から突っ込んだ。

 

同時に闖入者の方も相当の衝撃がかかったらしく、ディノバルドとは反対方向に吹き飛ぶが――器用にバランスを取り、二度三度と跳躍しながらハンターのすく近くへと着地。

そして何が嬉しいのか、短く喜びの咆哮を上げガッツポーズのようなものを取った。チンピラか。

 

「――……」

 

――それは、ドスマッカォではあったが、ドスマッカォでは無かった。

 

強靭なものと生え変わった全身の羽根鱗や、一回り肥大化した右腕の爪。

これだけでも通常のドスマッカォとは大分雰囲気が異なっているが――何より目を引くのは、片方だけの冠羽根だろう。

 

普通ならば頭の輪郭に沿って生えている黄金の羽根が、右半分しか生えていない。左半分の羽根は前の状態のまま一切変わらず、断ち切られたままだ。

その右の羽根も大概異常な状態で、何がどうしたのか砕けた顔面の赤鱗と混じり合いつつ生えていた。おまけにその長さも倍近くまで伸びており、右半身を中程まで覆っている。

 

まるで、本来左の羽根に行く筈だった栄養が、全て右の方に流れて行ったかのようだ。

 

「…………」

 

……本当に、さっきのドスマッカォなのかな。これ。

 

むくりと疑惑が湧いたハンターであったが、右の冠羽根に隠れるように目を回した7号がしがみついてる姿が見え、ああさっきのだとホッと一息。

おそらく、自分が渡したいにしえの秘薬の所為なのだろう。果たして生態系に影響はないものか、場違いにも不安がよぎり。

 

『――――――ッッ!!』

 

「!」

 

「にゃぐ!?」

 

起き上がったディノバルドの怒りに満ちた咆哮に揺さぶられ、7号共々我に返る。

そうだ、今は観察だの考察だのをしている暇はない。早く奴を討伐しなければ。

 

ハンターは一度大剣を納刀すると、気を取り直してディノバルドの下へ駆け――。

 

「――――――」

 

――途中、ドスマッカォと少しの間目が合った。

 

ハンターと並走するその瞳は、確実に彼女を敵視しているものではあったが――そこに憎悪の類は無い。

彼らは互いに会話もなく、サインもなく。数瞬の間だけ見つめ合うと、左右に別れてディノバルドへと飛び込んだ。

 

「にゃ、にゃあああ!?」

 

唯一、あまり状況を理解してない叫びがドスマッカォの背中で響いたが、それも単なる瑣末事。

信頼もチームワークも何もなく。一人と一匹は猛攻をかける。

 

『――ァァァァァアアアアア!!』

 

ハンターの大剣をディノバルドが防げば、その隙を突きドスマッカォの爪が襲い。

逆にドスマッカォの尻尾を避ければ、今度はハンターの大剣が刃尾を切り飛ばさんと振り下ろされる。

 

一見すれば連携を取っているようにも見えるが、その実好き勝手に動いているだけだ。

それで同士討ちがなされないのは、ドスマッカォの背中に乗るメラルーの賜物だろう。

 

「わああああっ! 思いっきり剣を薙ぎ回す気にゃあ! ひぃぃ、次は縦ぇぇぇ!」

 

ハンターの心をその耳で聞いた7号が、彼女の次の攻撃をドスマッカォへと流し、当たらないよう警告しているのだ。

極めて歪な三位一体。たった一匹、凶気に囚われているディノバルドに、それに対処できる筈もなく。

 

『――――――ッッッ!!!』

 

すると、形勢が極めて不利だと本能で察したのだろう。

ディノバルドは一度距離を取り黒い靄を大量に放出すると、刃尾を思い切り噛み擦り――解放。激しい火花を散らし、広範囲への引火を引き起こす。

 

大小様々。数多の爆炎が炸裂し、ハンターとドスマッカォも為す術無くそれに呑まれ――。

 

「――ぅぁあッ!?」

 

「グルァアアッ!」

 

突然、その爆炎の中から焦げたハンターとドスマッカォが飛び出し、空中を駆けた。

爆炎に包み込まれる直前、ドスマッカォがハンターの襟首を咥え大剣ごと盾として、そのまま上空へ跳躍。ハンター共々被害を最小限に抑えたのだ。

 

「ペッ」

 

「――ッ!?」

 

「は、ハンターさああん!?」

 

そうしてドスマッカォは滞空したままハンターをポイと放り投げると、自由落下。尻尾から地面に着地し、落下の速度と衝撃をも利用して更に高く跳ね上がる。

ハンターは一瞬驚き身を固めたが、むしろ丁度いいとすぐに復帰。大剣を握り直し、そのまま落下の勢いも乗せ振り切った。

 

「せェやぁぁぁアアアッ!!」

 

その狙いは、刃尾。

 

たった今爆炎の熱に晒されたばかりのその部位は、極めて脆い状態となっており――容易く通った大剣の刃が、その先端を切り落とす。

 

――ギィン!

 

『――――――ッ!?』

 

甲高い音を立て肉と骨が断たれた刃尾が宙を舞い、大地に深く突き刺さり。

そして突然体積のバランスが崩れたディノバルドは、よろめきながらも立ち止まる。

 

……自身の尻尾が、断たれた。

その事実にディノバルドの片方だけの視界が真っ赤に染まり、殺意となった凶気がこれ以上無い程に迸り――。

 

――その瞬間、致命的な隙を晒したのだ。

 

「――ギィェェエアアアアアア!!」

 

「にゃぐぅぅぅぅ! もういやにゃぁぁぁぁ!」

 

遥か上空。古代林に生える木々よりも高い場所から、奇声が落ちた。

 

見上げればそこにあるのは、太陽を背に空を落ちるドスマッカォと、その首根っこに捕まる7号の姿。

彼らは的確にディノバルドが留まる場所へと狙いを定め、隕石のごとく落下。更に幾度か身を捻り、その尻尾に遠心力を乗せ、そして。

 

『――――――!!!』

 

 

――【ドスタンプ】

 

 

ドスマッカォと7号の体重、尻尾のバネ、そして落下速度と遠心力。

それら全てが尻尾の先に集中した一撃が、ディノバルドの頭を真芯に捉え――地面と挟み、轟音と共に押し潰した。

 

大地にヒビを入れる衝撃は傷だらけの厚皮を貫通し、その下の頭蓋にまで至り。血と脳漿が辺りに飛び散り、黒い靄もまた散った。

 

ディノバルドの凶気は、その生命と同様に跡形もなく砕かれたのである――。

 

 

 

 

「ひ、ひぃぃ……し、ししししぬかと思ったにゃぁ……」

 

全てが終わり、一息ついた後。

ドスマッカォの背から転がり落ちるように降りた7号が、震える声でそう漏らす。

 

その視線の先には横たわったディノバルドの死骸があった。

周囲には未だ先の一撃により砂煙が立ち込めていたものの、その巨躯はハッキリと見て取れる。ついさっきまでこれとやり合っていたなど、臆病なメラルーには信じられない事だった。

 

「――……」

 

恐怖がぶり返している7号をさておいて、ドスマッカォは静かにディノバルドを見つめる。

 

一体、こいつは何だったのだろう。

あの黒い靄は何だったのか、何故理性を失って暴れていたのか。落ち着いて考えられる今になって、そんな疑問が顔を出す。

 

「……このモンスターさん、何か、変な心、してたのにゃ」

 

「グ……?」

 

「何か間違ってる、みたいな……ただ、イヤな叫び声だけが、ずっと続いてたのにゃ……」

 

這いずりながら近寄ってきた7号がぽつりと告げるが、やはり意味が分からない。

遥か格上を打倒したと言うのに、どうも妙な引っ掛かりがある。ドスマッカォは不機嫌そうに鼻を鳴らし――。

 

「…………」

 

……いや、それも当然か。何せドスマッカォは、一匹でディノバルドを討伐した訳ではないのだ。

子分を自称する7号はまだ良い。群れの一匹として、つまりは己の力として数えられる。

 

ならば、大きな問題は、そう。

 

「…………」

 

――すぐそこで切れた尻尾の剥ぎ取りをしている、ハンターの少女だ。

 

例え格上を屠れたのだとしても、これと共同で成した以上誇れる事は何も無い。

ドスマッカォは片冠を揺らしながら、横柄な足取りでハンターの下へと歩いて行く。

 

「…………」

 

ハンターもすぐにその姿に気づいたようだった。

 

剥ぎ取りを終えた素材とナイフをポーチにしまい、大剣に手をかけ立ち上がる。

その刃はドスマッカォに向けられては居なかったが、何時でも振り抜ける姿勢を崩さない。

 

そうして互いに刃と尻尾の間合いに入り――ドスマッカォは唐突に、片方だけの冠羽根を見せつけた。

 

――ハンターの施しにより怪我が癒え、ハンターのおかげで一回り強靱な存在となった彼の、ハンターへの抵抗の証である。

 

「グゥルァウ……!」

 

どうだ、全てお前の思い通りにはならなかったぞ。己の「格」は、まだお前の場所まで這い上がれる形であるぞ。

そうとでも言うかのように胸を張り、ハンターを強く睨みつける。

 

「…………?」

 

……しかし、当然ながら人間であるハンターにその意志が伝わる訳もなし。

どう反応すれば良いのかわからない。彼女は無言のまま首を傾げ、困った表情で7号を見た。のだが。

 

「~~~~ッ!」

 

(あわ、あわわわわ)

 

自分を無視されたと感じたのだろう。視線を外されたドスマッカォの額に血管が浮かび、冠羽根が更に大きく膨らみ、開き。

その様子を見ていた7号は震え、頭を抱える。

 

二者の意思疎通をサポートする事は簡単だ。耳の力を用いれば、言葉そのままに通訳出来るのだから。

……しかし、こんなドスマッカォとあんなハンターである。果たして言葉をそのまま伝えたとして、穏便に済むかどうか。

 

ドスマッカォは元より、己の耳を好いてくれているハンターにも好意はあるのだ。

どうしたら角が立たずに事を済ませられるのか。7号は長い耳を引っ張りつつ、必死に頭を働かせ――。

 

「! ぱ、ぱちぱち! ぱちぱちぱち、にゃ!」

 

「グ……?」

 

ハッと何かを思い付き、唐突に拍手を始めた。

いきなりどうした。怪訝に顔を歪めるドスマッカォを他所に、7号は必死にハンターへとサインを送る。

 

「…………?」

 

……正直、何を伝えたいのかサッパリだったものの。

何となくそれを真似して、ハンターもまたパチパチとやる気のない拍手をし始めた。

 

そうして結果的に、ドスマッカォがそれを浴びる形になり――「…………」彼の目が、じっとりと半眼となる。

 

――今、この場は。構図だけ見れば、ドスマッカォを讃える形となっていた。

 

「……フスン」

 

下らない御為ごかしだ。

形だけ己を讃えた所で、それは先日のマッカォ達と何が違う。否、7号は違うかもしれないが、このハンターは―――。

 

「――……」

 

……ああ、いや。確かにハンターも違う。

マッカォ達とは違い、この人間は正真正銘の強者だ。

 

一人でディノバルドと互角以上に渡り合う本物。ドスマッカォの嫌う、強者に謙り裏切る類の者ではない。絶対に。

 

……そんな奴が、形だけとは言え己に拍手を向けている?

 

「……――、ッグルァ!」

 

「にゃぐぅ!」

 

一瞬だけ良い気分になってしまった己に腹が立ち、ドスマッカォは短く吠えた。

 

嗚呼、もう、負けだ。今この場においては、己の負けでいい。それで良いのだろうが。

ドスマッカォは不機嫌を隠さず7号を睨むと、それを最後にハンターに背を向け跳躍。岩の上へと飛び乗った。

 

「お、オヤブンさん! ご、ごめんなさいにゃ! その、ボク……!」

 

「…………」

 

すると7号の慌てた声がその背に飛び、足を止める。

そうしてゆっくりと振り返り――短く一つ、嘶いた。7号の耳にだけ届く程度の、小さな声で。

 

「え――」

 

「グルァァァァルルッ!!」

 

そしてぽかんとした表情で声を漏らした7号を遮るように、ハンターに向けて大きな怒声を発すると、ドスマッカォは岩山を飛び降り姿を消した。

遠くに大地を踏みしめる力強い音が聞こえ――それもやがて、森林に溶け、消えていく。

 

「…………?」

 

「……え、ああ。えっと、ハンターさんには『牙を研ぎ備えてろ』って言ってたにゃ」

 

終始展開を理解できなかったハンターが問いかければ、7号はすぐに我に返りそう伝えた。

どうやら、あのドスマッカォは未だ闘志を失っておらず、再戦を望んでいるらしい。

 

「…………」

 

……成程。良いだろう、こちらも望む所だ。

捕らぬ狸の皮算用。ハンターは大剣の柄を撫でながら、あのドスマッカォの素材からはどんな特殊な武器防具が作れるのかと思いを馳せて――ふと気づく。

 

――耳を抑えた7号が、ニヤニヤと嬉しそうな笑みを浮かべていた。

 

「…………」

 

「に、にゃ? いやぁ、特に何でもないですにゃ。っと、それより早く素材の剥ぎ取りしなきゃですにゃ!」

 

「!」

 

そうだ。尻尾は採ったが、まだディノバルド本体の素材は剥ぎ取っていなかった。

7号の言葉にはたと気づき、ハンターは剥ぎ取りナイフを取り出し死骸の下へと向かった。早く済まさなければ、ギルドからの遣いに回収されてしまう。

 

そうして7号もその後に続いて走り出し――少しの間立ち止まり、もう一度だけドスマッカォが去った方角を振り返る。

ターバンを巻きつけた耳の奥に、最後にかけられた言葉が再生された。

 

――呼べ。

 

そんな、たった一言。

 

「……にゃふふ」

 

それはつまり、まだ子分として見てくれていると言う事で。

7号は胸の奥から湧き上がる温かいものにニンマリとした笑みを浮かべると、ぱちぱちぱちと姿の見えぬ親分を讃える拍手を捧げた。

 

そして今度こそ振り返る事無く、ハンターの下へと走り出し――。

 

 

――まるで返事を返すかのように。遠くの空に、甲高い咆哮が木霊した。

 




『変なことになったドスマッカォ』
二つ名得るためには特徴がないといけないからね。しょうがないね。

『7号』
これから少しずつ自分の耳が好きになっていくでしょう。多分。

『ハンターさん』
マッカォ装備が大好き。U装備か何か作れるのかと結構楽しみ。

『ドスタンプ』
ストーリーズ仕様の絆技。
ドスランポス:ドスラッシュ  ドスゲネポス:マヒラッシュ
ドスイーオス:ポイズンラッシュ  ドスジャギィ:ドストライク
ドスバギィ:ドスララバイト  ドスマッカォ:ドスタンプ ←New!


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