Fate /Divinely Warriors   作:なんばノア

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 「あぁ……あぁぁあ……ああ、ヨハネ様ヨハネ様ヨハネ様ヨハネヨハネヨハネ様様さまさまサマヨハネ様……!」

 黒い女。そう比喩せざるを得ない程に、その女の出で立ちは漆黒のソレを極めていた。長く伸びた純黒の髪。全てを飲み込む深く黒い瞳。闇夜に溶け込む夜色の衣装。――黒く装われた外見とは裏腹に、その下より見えゆる素肌は雪のように純白。まるでモノクロだ。しかしそれら全てが上手く起因し、この女の美しさは異常なまでに醸し出されているとも言える。――そう、もはやそれは、狂気的なまでに。

 「――……」

 「――……」

 バーサーカー、ランサー共に、揃って言葉を失っている。つい先程まで火花を散らしていた二人が、今では同一の思考を成している。

 両者、この状況の唐突さに戸惑っているのではない。この女の美しさに混乱しているのではない。――それは、まさしく驚嘆。両者共に、女の手に持つソレ(、、)の正体を理解し、その気の触れように唖然としているのだ。

 女は自らが手に抱えるソレに向けて語りかけるように、独り坦々と話しだす。

 「ねぇヨハネ様ヨハネ様。聞いてください? 今しがた目の前に、ヨハネ様を二人も発見したんですよぉ……!」

 両手でそれはもう大事そうに抱えるソレとは生首。人間の、首だ。

 「――なんて、こと」

 ランサーは驚愕のあまり、そんな間の抜けた声を発していた。無自覚のまま、無意識のまま。ランサーは女の手に抱えるモノ、つまりは、生首の正体を看破してしまった。

 生首は生首だ。本来であれば、それは正体もなにもない、なにも変わりないただの生首として片づけられる話ではあるが、今回ばかりはその限りではないのだ。

 正体とはつまり、この首の主とは誰か――ソレを意味する。しかし、そんなものは視覚不能たるランサーには決して与り知れぬこと。それは必然、そして必定であった。――しかし、ランサーはあろうことか、その正体を違わず看破した。それを理解ないし知覚するに、もはや視覚なぞ不要。言ってしまえば、それは彼だったからこそ、視覚不能のランサーだったからこそ、優れた第六感の持ち主たる彼であるからこその、正体看破であるのだから。

 ――そう。気付かなければよかった。その生首の意味するコト。そして彼女の真名に、気付いてしまったことを心より後悔する。ハッキリ言って、この女はバーサーカーなんかよりよっぽど狂っている。イカれている。気が触れている。ぶっちぎりで、爆発的に、超常的なまでに、この女は狂っている。狂気的だなんて、そんな生易しい罵倒じゃ足りない。

 お気付きか。鋭い読者諸兄なら、彼女の抱えるソレの正体を、もうすでに理解出来ていよう。――しかし分からない。という者が居たとしても、それはなんら不思議でないコト。何故なら明確に、その正体を開示していないのだから当然だ。

 しかし、女は既に答えを言っている。何度も何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度もなんどもなんども。女は飽きることなくその名前を呼んでいる、連呼している。

 

 

 

 狂戦士がそれを理解するのがもう数秒遅ければ、ランサーに命は無かっただろう。

 

 

 

 ゴっ――という、鈍い音。雷鳴の如き輝きと共に繰り出される拳が、黒い女の顔面にクリーンヒットした。

 光る光る遠ざかる。ついで、付近の森へと消えていった女。閃光の煌めきを一閃に醸し出した垂直線。視界不能の槍兵にとってそれは、眩しすぎる熱。そして、懐かしい暴君の憤りであった。

 深く、深く鼻で息を吹き出す。遠くへ吹き飛び既に姿の見えぬ女に対して、聞こえる筈もないと理解していながら、バーサーカーは語りかける。

 「余の見間違いでなければ――余の、聞き違いでなければ――貴様、それはかの尊き洗礼者のモノ」

 唸る拳。未だ光を孕んだ雷鳴の穿ち。バチバチと、その腕は周囲に稲妻を奔らせている。まさに、ユピテルの雷撃のソレを彷彿とさせるものがある。

 「――踊り子よ。余は、すこぶる機嫌が悪い。大人しく立ち去るというのであれば、追いはせぬ」

 その、バーサーカーの発言の直後だ。

 

 ――ざ、と云う、なんとも得難く聞き覚えのない音。瞬間、女の飛んで行った森の木々が、いっせいに崩れ落ちる。

 比喩ではない。至極直接的な言い回し。真実、森の木々が崩れ落ちたのだ。――伐採。ここまで見事な森林伐採は、人類史上類を見まい。どれだけ背の高い木であれど、どれだけ太い幹であれど――それを綺麗に、均一に、ただ一つたりともの例外すら無く、ちょうど人間でいうと首辺りの高さを揃えて切り捨てられたのだ。

 その内より現れる女。その姿はさきほどまでと何ら変わりない――むしろそれは異常だと感じられるほどに変わりない姿。あれだけ派手に吹っ飛んで傷一つなし。それを見やり、二人のサーヴァントは揃って理解する。――この女も、サーヴァント。

 「御冗談をヨハネ様――! ヨハネ様が目の前に二人もいらっしゃるのに、どうして殺さずに捨て置けましょう! そんな罰当たりな行為、ヨハネ様に叱られてしまいますもの――!」

 変わっていたとすれば、それは纏う空気であろう。孕む深い闇の気配。沈み歪んだ信念と信仰。それら全てが、女の狂気。

 女の返答に、バーサーカーは深くため息をこぼす。

 「――槍兵よ。しばし休戦だ。余は、あの異端を始末を優先したい」

 「構いません。なんなら、私も加勢いたしますが」

 「それには及ばぬ。――あれは余の、いや、主の敵だ」

 それだけで、その事実だけで、ランサーが頷くに十分すぎた。

 「あぁあぁあぁあああぁぁぁああ行きます行きますわ行きますわよヨハネ様ヨハネ様! 我が愛しきヨハネ様……! 今すぐぶち殺して差し上げますね――!!」

雷鳴鳴々、阿鼻叫喚。草原を照らす――信仰の闇ぞ。

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