銀河HP伝説   作:アレグレット

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今回は「飯ネタ」です。


銀フルエンザ

 

「ハックショワイホー!!!!」

 

奇声がゼーアドラーに響き渡った。従卒も他の客も「すわ、何事!?」と周りを見まわしたが、その元凶に気が付くと「なぁんだ。」という顔で座ってしまった。だいたいこのゼーアドラー、何かこう、些細な出来事がここ最近よく起こっているので、慣れっこになっているのである。

 

「ワックショワイフオッ!!!ヘヤァッ!!!」

 

だが、立て続けに奇声があがると、さすがにウェイターも無視できなくなり、

 

「失礼ですが、他のお客様に迷惑がかかりますので――。」

「何!?俺を誰だと・・・・ベックシャワイッ!!!思って・・・ノバヴァフヲッ!!いるのだ!?」

「よさぬか、ビッテンフェルト。」

 

ミッターマイヤーが僚友を窘め、

 

「・・・いや、卿の言う事はもっともだ。悪かった。早々に退散するとしよう。」

 

ミッターマイヤ―が盛んに「くしゃみ」をしているビッテンフェルトやそのほかの面々を促して立ち上がる。どうやら元凶はビッテンフェルトのくしゃみだったようだ。

 

「クシュン!それにしても・・・この季節はやはり、風が蔓延していますね。」

 

ミュラーがぼやく。彼もまた鼻を赤くさせている。ミュラーだけではなく諸提督の大半がせき込んだり、くしゃみをしたり、いやもう風邪の集団というありさまなのである。

 

それはさておき――。

 

 時は自由惑星同盟と帝国とがアイドルイベントの一大決戦「銀河最強アイドル決定戦!!あの人の心を奪うのは誰!?行ってみましょう!!イン・ザ・ヴァーミリオン!!」を終えたばかりであり、ファン投票を待つばかりとなっていた。

ヤン・ウェンリーの直属アイドルとラインハルトの直属アイドルが双方ともに「じゃんけん大会」「握手会」「サイン会」「腕相撲」「カラオケマスター」「笑っては駄目よ」「紅白歌合戦」等、激闘に激闘を重ね、最後にはほぼ全員が疲弊してステージ上で倒れるまで戦い、互いの健闘をたたえあった後、イベントは終了したのである。

 最後にはヤン直属アイドルがラインハルト直属アイドルを追い詰めるに至ったのだが、後一歩のところで、ラインハルト陣営の提督(プロデューサー)であるロイエンタールとミッターマイヤーが「イベント企画団体ハイネセンのドン」に直接交渉を行い、どうにか決定的な決着がつく前にイベント終了にこぎつけたのだった。

そのさなか、双方の総司令官(プロダクション社長)であるラインハルトとヤン・ウェンリーとが歴史的な会談を帝都オーディンでする準備が整っていた。今夜はその直前の事である。激闘に激闘を重ねてきた諸提督(プロヂューサー)たちも不眠不休で働いており、疲労が濃い。そんな中だからこそ、インフルエンザが蔓延したのかもしれない。

 

「これは早く帰って寝た方がいいな。」

 

一人ロイエンタールだけが何事もなかったかのようにいつもの調子でつぶやく。そしてニヤリとして僚友の一人に言う。

 

「卿の言うように酒が百薬の長であるならば、とうに治っているだろうよ。」

ミッターマイヤーは肩をすくめる。まるで自分一人だけが禁酒主義者のような言い草だからである。

 

「それにしても、今年のインフルエンザは猛威を振るっているな。」

「まったく、予防接種をしても役に立たないとはこのことだ。医師共め、案外予防接種ワクチンをピンハネしているんじゃないか?」

「おい、ビッテンフェルト、口を慎め。また卿は根拠のないでたらめを言うか。」

「何だと!?」

「まぁ、落ち着け。それにしてもローエングラム公までも御風邪をお召しになるとはな。」

「本当か?!」

 

諸提督たちが一斉にミッターマイヤーを見る。

 

「従卒(スタッフ)のエミールに聞いたのだ。何でもヤン・ウェンリーとの会談を控えて発熱されたらしい。それだけならまだよいが、どうも自由惑星同盟の奴らも静かすぎるというので、それとなくスパイを放ってみたところ、奴らの陣営にもインフルエンザは猛威を振るっているらしく、あのヤン・ウェンリーですら罹患したという。さすがの魔術師(プロモーター)もインフルエンザには勝てなかったという事だな。」

「では、会談は延期になるのか?」

「いや、それではファンに申し訳がない。実はローエングラム公は『飯ネタ』をなさろうとしておられる。いや、自らの身体をもってファンの為に企画をなさるとは、何という精神であろうか!!我々も見習わなくてはならないな。」

『飯ネタ?』

 

諸提督が一斉に首をかしげる。『飯ネタ』などと言う言葉は初めて聞くからだ。第一病人ならば、ましてやインフルエンザならば、満足に食事もとれないではないか。

 

「ローエングラム公、ヤン・ウェンリー。双方が一番食べられる病人食を提供したアイドルが『年間特別アイドル賞病人食部門』を受賞するという事だ。」

(それをもらって喜ぶアイドルがこの銀河に存在するのか?)

というのが、ミッターマイヤーの返答に対する諸提督の心からの疑問であった。

 

 

* * * * *

『うう・・・・。』

高熱で浮かされる二人。会場に響くうめき声。ヤン・ウェンリーとラインハルト・フォン・ローエングラム。38度の熱があるにもかかわらず、二人してベッドのまま会場に運ばれ、そこで審査員として審査をすることになったのである。(この歴史的な出会いは、後の歴史書において『無言のベッド会談』と名付けられた。)

 

そこにトップバッターであるFPA48のセンター、フレデリカ・グリーンヒルが緊張気味にワゴンに載せた銀の蓋つきの皿を運んできた。中身が不明のまま料理が二人のベッド上にしつらえられたテーブルに置かれる。

青い顔つきの二人は、介添えに助けられてパジャマ姿のまま起き上がり、テーブルに向かった。

 

「FPA48のフレデリカ・グリーンヒルの料理です。それではお二方、蓋をおあけください。」

 

WGE48から鞍替えし、AIL48ローエングラム総合プロデューサー兼司会を任されたアドリアン・ルビンスキーの声が響いた直後、ジャ~~~~ン!!という銅鑼の鳴り響く音が木霊した。二人の病人の顔が一層青くなったのは気のせいだろう。たぶん。

 

 蓋を取った二人の顔が固まる。しばし黙り込む。一瞬互いの顔を見やった後、そしてやおら皿の上に載せられていたものを手に取る。

 

 おかゆが間に挟まったサンドウィッチを。

 

間に挟まった灰色の物体は容赦なく二人の手元に垂れ堕ちる。どう見ても食欲を増進させるものではない。

 

『これは病人に食べさせるものじゃないだろう!!(何故フレデリカは挟むものから離れられないんだ!?)』

 

と、病人の二人としては(とりわけヤン・ウェンリーとしては)叫びたかっただろうが、双方の名だたる銀河アイドルのプロダクション社長としての矜持がそれを許さなかった。一口、また一口、押し込むように食べるごとに、二人はヴァルハラへ一歩一歩足を踏み入れる感覚に襲われていた。

 

 どうにかそれを根性で食べきった二人は、崩れ落ちるようにベッドに倒れ込んだ。

 

 

* * * * *

翌日――。

『う、うう・・・・。』

高熱で浮かされる二人。会場に響くうめき声。ヤン・ウェンリーとラインハルト・フォン・ローエングラム。38・5度の熱があるにもかかわらず、二人してベッドのまま会場に運ばれ、そこで審査員として審査をすることになったのである。(この歴史的な出会いは、後の歴史書において『朦朧とした無言のベッド会談』と訂正されることとなった。)

 

そこに二番手であるAIL48の現センターであるマリーカ・フォン・フォイエルバッハが緊張気味にワゴンに載せた銀の蓋つきの皿を運んできた。中身が不明のまま料理が二人のベッド上にしつらえられたテーブルに置かれる。

白い顔つきの二人は、介添えに助けられてパジャマ姿のまま起き上がり、テーブルに向かった。

 

「AIL48のセンター、マリーカ・フォン・フォイエルバッハの料理です。それではお二方、蓋をおあけください。」

 

WGE48から鞍替えし、AIL48ローエングラム総合プロデューサー兼司会を任されたアドリアン・ルビンスキーの声が響いた直後、ジャ~~~~ン!!という銅鑼の鳴り響く音が木霊した。二人の病人の顔が一層白くなったのは気のせいだろう。たぶん。

 

 蓋を取った二人の顔が固まる。しばし黙り込む。一瞬互いの顔を見やった後、そしてやおら皿の上に載せられていたものにしばし視線を浴びせる。

 

 たっぷりとおかゆがかかったチョコレートアイスクリームを。

 

 その光景を眺めながら、観客の一人であるケスラーは明日自分たちがギロチン台に上がることを覚悟していた。何故マリーカはチョコレートアイスクリームから離れられないのだ!!

 

 灰色の物体は時間の経過とともに容赦なくチョコレートアイスクリームと共に崩れ落ちていく。どう見ても食欲を増進させるものではない。

 

『どこをどうしたらこんな組み合わせが出てくるのか?!これは拷問か!!!???』

 

と、病人の二人としては叫びたかっただろうが、双方の名だたる銀河アイドルのプロダクション社長としての矜持がそれを許さなかった。一口、また一口、押し込むように食べるごとに、二人はヴァルハラへ一歩一歩足を引きずられる感覚に襲われていた。

 

 どうにかそれを根性で食べきった二人は、崩れ落ちるようにベッドに倒れ込んだ。

 

 

* * * * *

翌々日――。

『う、うう・・ゲホエッ・・・・。』

高熱で浮かされる二人。会場に響くうめき声。ヤン・ウェンリーとラインハルト・フォン・ローエングラム。39度の熱があるにもかかわらず、二人してベッドのまま会場に運ばれ、そこで審査員として審査をすることになったのである。(この歴史的な出会いは、後の歴史書において『瀕死の無言のベッド会談』と訂正されることとなった。)

 

そこに三番手が登場する。AIL48のメンバーで、総選挙でファン投票2位を獲得したヒルデガルド・フォン・マリーンドルフが緊張気味にワゴンに載せた銀の蓋つきの皿を運んできた。中身が不明のまま料理が二人のベッド上にしつらえられたテーブルに置かれる。

蒼白な顔つきの二人は、介添えに助けられてパジャマ姿のまま起き上がり、テーブルに向かった。

 

「AIL48のヒルデガルド・フォン・マリーンドルフの料理です。それではお二方、蓋をおあけください。」

 

WGE48から鞍替えし、AIL48ローエングラム総合プロデューサー兼司会を任されたアドリアン・ルビンスキーの声が響いた直後、ジャ~~~~ン!!という銅鑼の鳴り響く音が木霊した。二人の病人の顔が一層死人に近くなったのは気のせいだろう。たぶん。

 

 蓋を取った二人の顔が固まる。しばし黙り込む。一瞬互いの顔を見やった後、そしてやおら皿の上に載せられていたものにしばし視線を浴びせる。

 

 たっぷりとおかゆがかかった雑草を。

 

 その光景を眺めながら、観客の一人であるマリーンドルフ伯爵は、明日離婚届がローエングラム公から出され、その後自分たちがギロチン台に上がることを覚悟していた。何故ヒルダは野山から離れられないのだ!!何故雑草!?雑草を喜んで食べるのは馬くらいだ!!!!

 

 灰色の物体は容赦なく雑草に流れ落ちていく。どう見ても食欲を増進させるものではない。というか、そもそもこれは食べられるものだろうかという疑問符が二人の脳裏に明確に点灯し続けていた。

 

『これは我々に死ねと言っているのか!?!?(フロイライン・マリーンドルフ!!!!)』

 

と、病人の二人としては(とりわけラインハルト・フォン・ローエングラムとしては特に)叫びたかっただろうが、双方の名だたる銀河アイドルのプロダクション社長としての矜持がそれを許さなかった。一口、また一口、押し込むように食べるごとに、二人はヴァルハラへ急速に召されていく感覚に襲われていた。

 

 どうにかそれを根性で食べきった二人は、崩れ落ちるようにベッドに倒れ込んだが、その後容体が激変して病院に緊急搬送される事態となったのである。

 

 

* * * * *

「自治領主(プロデューサー)閣下。」

大会が波乱の結末を迎えて一応は終わった後、ルビンスキーは部下から声をかけられた。あの後二人のプロダクション社長は病院で集中治療を受けている。投票どころではなかったのは言うまでもない。

「何かな?」

「・・・あれは果たして病人食と言えるのでしょうか?自治領主閣下が是非にもとおっしゃるので仕方なくそのままに供しましたが。」

「ローエングラム公もヤン・ウェンリーも二人とも『矜持』をお持ちになっている。それを最大限利用するのはプロデューサーとしての役割であり、それこそが銀河におけるアイドル市場を押し上げていくことにつながると思っているのだがね。」

口では殊勝なことを言いながら、その顔には黒い笑みが浮かび上がっていた。

 

 

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