お正月企画三題噺シリーズ   作:ルシエド

5 / 10
お題:『ファイアーエムブレム』『旅』『木刀』
原作:ファイアーエムブレム 覚醒
 時系列はエピローグムービーのその後

 「おかえり、友よ」
 彼が差し出したその手に、何かを感じた。記憶の全てを失っても、感じ入る何かがあった。




第五回:エピローグのその後で

「おにいちゃん…ねぇ、大丈夫かなぁ…?」

 

 心底心配した少女の声が聞こえる。

 

「駄目かもしれんな」

 

 全く心配していない男の、目覚めることを疑ってもいない声が聞こえる。

 

「そ、そんなぁ! ……あ!」

 

 俺は目を開ける。とても嬉しそうに、泣きそうな様子で満面の笑みを浮かべる少女と、とても穏やかな顔で微笑んでいる青年が見えた。

 

「気が付いたか」

 

 その青年と、その少女を、俺は見たことがあるような気がしていた。

 

「平気?」

 

 その少女の声を、聞いた覚えがあった。けれど、何も思い出せない。

 

「こんな所で寝てると風邪引くぞ。立てるか?」

 

 その青年の声を聞いた覚えがあった。立たせてくれたその手の感触に、覚えがあった。

 けれど、何も思い出せない。

 

「おかえり、友よ」

 

 その言葉が、嬉しかった。

 

 けれども俺は、何も思い出せなかった。

 

 おかえりと言われて、ただいまと返すことができなかった。

 

 

 

 

 

 旅が始まった。

 その青年と俺の二人旅だ。

 俺は記憶を失っていたらしい。よく分からないまま、俺は流されるままだった。

 周囲の人の言うままに、川に流される落ち葉のように流されていく。

 

 ……いや、正確には違った。

 信頼があった。誰の顔も知らないはずなのに、会う人会う人、その全てが信頼できた。

 頭が覚えていなくても、心が、魂が、「信じていい」とでも言っているのだろうか。

 親しげに接してくれる男性も、抱きしめて自分の生還を喜んでくれた女性も、確かな信頼と友情を俺に向けてくれていた。

 それが、何故か嬉しかった。

 

「皆、記憶が失われてもお前はお前だと信じている。

 ……いや、違うな。記憶がなくてもお前はいいやつなんだと、知っているんだ」

 

 笑って、けれども少し寂しそうに、青年はそう言った。

 そこに不思議と、申し訳ない気持ちを覚える。

 青年はクロムと、少女はリズと名乗った。

 二人の身の上はよく分からなかったが、俺にとてもよくしてくれた。

 俺が過去に何をしたのかは分からなかったが、二人がいい人であることだけは間違いない。

 

「旅に出ようか」

 

「どこにさ、クロム」

 

「どこでもいい。どこにあるかも分からんからな」

 

「何かを探しに行くのか?」

 

「お前の記憶だよ」

 

 そうして、俺の旅は始まった。クロムと二人だけで歩く旅だ。

 旅の初めにはクロムを『いいやつ』としか知らなかった俺だったが、旅を続ける内に少しばかり察することが出来てきた。どうやらこのクロムという男、偉い人らしい。

 偉い人がそんな身軽でいいんだろうか、と聞いてみたが、「お前はとりあえずこの国と同じくらい大切なやつなんでな」とこっ恥ずかしい返答が帰って来た。

 「そう思ってるのは両手の指で数え切れないくらいに居るぞ」という返答も返って来た。

 記憶を失う前の俺君、何したの?

 

「そうだな、ここも思い出深い」

 

 俺達二人は世界を巡る。砂の世界で、クロムは懐かしそうに思い出話をし始めた。

 

「姉さんが死んで折れた俺に、お前は手を差し伸べてこう言った。この手を取れ、と」

 

 クロムは友との思い出を語る。俺の知らない俺を語る。

 

「『俺も自分の無力が許せない。俺たちは、未熟な半人前だ。

  だから俺が、お前の半身になる。お前が何度倒れても、俺が手を引いて立ち上がらせる。

  だからお前はもう一つの手で、エメリナ様が掴めなかったものをしっかりと掴んでくれ。

  エメリナ様と同じやり方じゃなくていい。

  お前のやり方で、すべてのひとに希望を見せてくれ。

  それはお前にしかできないことだ、クロム』……お前は、そう言った」

 

 何を言ってんだ過去の俺、と思う前に。頭の隅に、痛みが走った。

 

「思い出せないか? なら、次の場所に行こう」

 

 俺達二人は世界を巡る。

 何日も、何日もかけて。

 道中、クロムは剣も教えてくれた。いい歳した二人の大人が木刀片手に切り結ぶ。

 不思議と体が動く。頭が覚えていない技が出る。何故かいい勝負が出来ていた。

 

「何か思い出さないか? お前に剣を教えてくれた、多くの人のことを」

 

 馬に乗った誰かが居た。鎧を着た誰かが居た。上品な剣術も、盗賊じみた剣術もあった。

 色んな人の影が頭の中をよぎっては、痛みと共に消えていく。

 俺達二人は、世界を巡る。旅路をなぞって。

 

「ここは……そうだな。

 俺達がギャンレルに勝った所か。

 忘れもしない。その後も、お前の後押しがなければ結婚していたかも分からん」

 

「ギャンレル……エメリナ様……」

 

「! 思い出したか!?」

 

「え? 何を?」

 

「今お前、姉さんの名を……いや、なんでもない。ゆっくり行こう」

 

 旅の途中で、海を越えたこともあった。

 この国でも海の向こうでも、沢山の人に、色んな人に会った。

 出会った時から、この人は信頼できると断言できる人も居て。

 そういった人は必ず、俺の記憶のことを聞くと、少し寂しそうな顔をした。

 

 その人達は、記憶を失う前の俺の知り合いだったのだろう。

 彼らが寂しそうな顔をするのを見ると、胸が傷んだ。

 

「ここも、覚えていないか? 俺達二人で覇王ヴァルハルトを倒した場所だ」

 

「いや……」

 

「王とは何か。姉さんやヴァルハルトの王としての資質とは何か。

 俺は、ここでお前と共に勝ち取った勝利から、それを学んだんだ」

 

 世界を巡る。

 俺の頭痛も酷くなる。

 けれどそれ以上に、記憶を取り戻さなければならないという気持ちの方が強くなっていった。

 

「っ!」

 

 そうして俺とクロムは、廃墟のような場所に辿り着いた。

 記憶の蓋が外れかかっている。吹き出す記憶が記憶の蓋を押し上げている。

 そのせいで頭痛がする。そうだ、ここは。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 

「……思い出してきたようだな。

 そうだ、ここは……『運命か、絆か』。その二つで、お前が絆を選んでくれた場所だ」

 

 いや、俺とクロムだけじゃない。

 とても儚く強い少女と、心底頼れるハゲも、ここに居たはずだ。

 記憶が蘇り始める。

 整合性も持たないまま、記憶の底から吹き出してくる。

 

「そして、ここが、最後の戦いの地。お前が俺達のために、自分の身を投げ打った場所だ」

 

 気付けば、俺は朦朧とした意識のまま、どこかに立っていて。

 

 そこで、自分が口にした言葉を思い出していた。

 

―――ありがとう、クロム……

―――ありがとう、みんな……

―――また……会いたいな……

 

 そうだ、『俺』は。

 あの時、世界と皆のためなら死ねるって思えたはずなのに。

 最後の最後で、また皆に会いたいだなんて、思ってしまったから。

 だから、ギムレーを倒しておきながら……また、皆の居る場所に、記憶と引き換えに、戻ってこれたんだ。

 

―――どこかで聞いてくれているか?

―――皆、お前を望んでいる。

―――お前とまたいろんな話をしたいんだ。

 

 クロムがあの時、俺が消えた後にくれた言葉が蘇る。

 いや、きっとそれだけじゃない。ナーガは言っていた。人の想いがあれば、奇跡が起こる可能性はあると。けれども、その可能性は僅かだと。

 初めて会ったあの時と同じだ。

 俺の意識を覚醒させてくれたのは、俺を引っ張り上げてくれたのは、リズとクロムだった。

 

―――ルフレ……

―――いつか……また会おう……

 

 この大した聖王は、あり得ない奇跡を起こしてまで、また俺を引っ張り上げてくれたんだ。

 

「ただいま、友よ」

 

 俺が言うと。

 

「おかえり、友よ」

 

 クロムが返す。

 

 久しぶりに、クロムの嬉しそうな笑みを見た気がする。

 遠目に草原を駆けてくるリズとルキナの姿が見える。

 クロムに木刀を投げ返し、俺はクロムから愛用の魔導書を受け取って、その悪戯心に二人揃って笑ってしまう。

 

 俺はようやく「ただいま」を言えた。クロムはようやく「おかえり」を言えた。

 

 めでたしめでたし。こういうのがいいんだと、俺は掛け値なしに思うんだ。

 

 

 




『ファイアーエムブレム』→まあ前から書いて欲しいとか言われてたし覚醒で
『旅』→捏造、記憶を探す旅
『木刀』→「ルフレ君! 君の愛用武器はムービーで使っていたあの魔法だ!」

 ルフレとヒロインの絡みも好きですが、リズとルキナは特に特別感がある気がします。でもどのヒロインよりクロムとの絡みに特別感がある気がします
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