「それじゃ、今日はここまで。お疲れさま」
「おつー」
「……お疲れさまでした」
あ、今日はもう終わりか。
鎧塚さんとの初顔合わせを済ませた翌日のパート練習は、心ここにあらずといった状態だった。
一日経っても自分の耳には、彼女の演奏の余韻が残っている。なんだか無性にまた聞きたくなってくる響き。ついつい彼女の方にばかり視線が向いてしまう。
気を切り替えて、オーボエの手入れに入った。楽器を分解して、管体とキーの水分を抜いて、リードの掃除。オーボエは繊細な楽器だけに、一連の作業に手抜かりは許されない。
ようやく終えて鎧塚さんの方を見ると、まだキーの水抜きをしている。手入れの手際に関して大した違いはないように思えるが、終わるまで今しばらくかかりそうだ。
「やっぱりフルオートだと手入れ大変みたいだね」
「平気。買ってもらう前から分かってた事だから。……それに、こっちの方が音に厚みや響きがでる」
時間のかかる手入れを苦でもなさそうに、優しげな目で手入れを続ける鎧塚さん。その様子を微笑ましく眺めていた岡先輩が口を開いた。
「みぞれは偉いんだよ。入部してから、毎日欠かさずに手入れしてるんだから。
シャルロットもご機嫌でしょーね」
「シャルロット?」
「みぞれちゃんのオーボエの愛称だよ。家で飼ってる猫の名前をつけたんだって」
へえ……。
「お前はいいなシャル子。鎧塚さんみたいな丁寧に扱ってくれる子が相棒で」
「……私のオーボエに変なあだ名つけないで」
「いいじゃないか。シャルロットなんて貴族っぽい名前より親近感湧いて。あ、それともこの子はオス設定? ならシャル太か」
「……ネーミングセンスない」
ため息をつく鎧塚さんに憮然としていると、喜多村先輩が話しかけてきた。
「そういえば蔵守くん。キミはオーボエに名前付けないの?」
「中学の時もそうでしたけど借り物ですから。それに男子は楽器に名前付けないと思いますよ」
自分の周りで、楽器に愛称を付けたという話は聞かない。
「なら私が名前つけてあげる」
やな予感。
「どんな名前付ける気なんですか?」
「うーん……。パルファンとか、エタニティとかはどう?」
えー。
「それ先輩が使ってる香水の名前じゃないですか。絶対嫌ですよ。そんな名前付けられる位なら鎧塚さんみたいにネコの名前の方がマシです。タマとかミケとか」
「……それもどうかと思う」
何故か鎧塚さんの同意が得られない。和風なネーミングのせいか?
「むー。せっかく考えたのにー」
「というか、何でアンタが来南の香水の事なんか知ってるのよ」
「パー練中に先輩達二人で延々と香水談義してたじゃないですか。嫌でも耳に入ります」
基礎練そっちのけで化粧に勤しんでたりもしてたし。女子だから仕方ないと言われればそれまでだが。
「それよりも、サンフェス終わったんだしもうコンクールの準備始めてるんじゃないんですか? 自由曲は決まってるんですか?」
「ああそうだ。はい、自由曲の楽譜。あとコンクールまでの練習スケジュール」
「ありがとうございます……ってコレ!?」
喜多村先輩から手渡された楽譜を見て目を丸くした。そこに記されていた曲名は【ボレロ】。
ボレロは、最初から最後まで同じリズムが繰り返される独特な曲だ。
中盤までのメロディーはフルート、クラリネット、ファゴット、オーボエ、サックス、ピッコロの各楽器によるソロで奏でられる。ソロ担当の技量が大きくモノを言う曲でもある。
「何でまたこんな難曲を……。冗談ですよね?」
「残念ながら冗談でも何でもなく、ガチでその曲なのよねえ」
「ソロをやりたい人と、あんまり練習したくなくて楽したいって人の利害が一致する曲ないかって事で、それに決まっちゃったの。シンバルなんて、ほとんど出番ないしね」
その分、
それに、他の楽器にしても楽が出来るのは中盤までの話だ。
「この曲、フルだと十五分はかかったと思いますが。一曲だけで制限時間使いきっちゃいますよ」
「そこはコンクール用に先生が短縮するって」
どんな感じに仕上がるにしても、まともに演奏出来るとは思えない。早くもコンクールの見通しに赤信号が灯ってしまった。
まずい。すっかり遅れた。
焦りつつ、フルートパートが普段パー練に使っている三年五組の教室に急いで向かう。
今日、自分と鎧塚さんのオーボエ組は、フルートパートとの初めてのセクション練習日。タイミング悪い事に教室の掃除が長引いて、終わった頃には練習開始時間を過ぎてしまった。他パートとの練習なんて入部して初めてなのに、初っ端から遅刻で悪印象を持たれるのは勘弁したい。
♪~
幸か不幸か、教室にはまだそれほど人が集まっていなかった。扉の隙間から様子を窺ってみると、鎧塚さんともう一人、フルートの一年生が練習をしている。
黒髪をポニーテールにまとめた、勝ち気そうな顔立ちをした子だ。
フルートの人は、何事か鎧塚さんに話しかけている。いつも無愛想な彼女も心なしか表情が明るい。仲がいいんだろうか。
……と、見とれてる場合じゃない。
コンコン。
「すみません、掃除で遅れました。オーボエの蔵守です」
「お、噂をすれば何とやら。君がサンフェスの時にみぞれのヘルプでガードやってた男子だね。私は
笑顔で自分に手を振ってくる。第一印象通りの元気そうな子だ。
「ああ、こっちこそよろしく」
「で、蔵守君。早速の頼みなんだけど、くらむーって呼んでいい?」
「は? 何それ」
出会って間もないというのに、また珍妙なあだ名をつけられた。
「いいじゃんくらむー。なんかやわらかいっぽい感じで。ほら、みぞれも言ってみて」
「え? でも……」
「ほらほら、早く」
傘木さんが鎧塚さんを急かすと、彼女は困惑しながらも意を決して口を開いた。
「え、えと……。くらむ↑ぅ」
声が裏返ったな。
『……』
真っ赤になって俯く鎧塚さん。
「あはは。みぞれには男子のあだ名呼びはまだ早かったか」
「友達をからかうのは趣味悪いよ。傘木さん」
「あ、傘木って呼び捨てでいいよ。私だけあだ名呼びも悪いしさ」
何ともフランクな人だ。シャイな鎧塚さんとは対照的だ。
「それでさ……ものは試し、私と二人で合わせてみない?」
「え?」
「入部当日にソロ演奏したんだってね。なかなかだってみぞれが誉めてたけど……。吹奏楽はみんなでやるものだよ? 合奏で一人突っ走られても困るしね」
それまでの友好的な態度とはうって変わった、どこか挑発や
鎧塚さんが何を言ったか知らないが、友人の新しい相方に釘を刺しにでもきたのだろうか。
「曲は、この前演奏したっていう【風笛】でいいよ。私もあの曲好きで個人的に練習してるから。みぞれ、メトロノームの方お願いね」
「うん」
当事者である自分の意見など聞かずに、さっさと話が進められていく。
こんな事してていいのだろうか……。まだフルートパートの先輩達の姿は見えない。
しかし課題曲でも自由曲でもない曲の演奏なんかしてるところを聴かれたら、何か言われそうだ。
そんな自分の胸中など意に介さず、傘木は不敵な表情で言葉を続けた。
「普通に演奏してもつまらないし……この曲テンポ75だけど、テンポ90でやってみよーね」
「そんな無茶な!?」
慣れ親しんだ曲とはいえ、趣味で練習を重ねたにすぎない。他人と合わせた事など無い。そのうえ本来の二割増しのスピードで演奏しろというのか。
傘木が鎧塚さんに合図して、メトロノームの振り子が左右に揺れ始める。
いつもより慌ただしいリズムを奏でるメトロノームを、しばらく食い入る様に見つめた。
「このスピードでやるのは初めて?」
メトロノームの動きから視線を離せずにいる自分を、傘木がニヤニヤしながら眺めてくる。
「コンクールには時間制限があるからね。時間内に収める為に本来のテンポをあえて外して演奏する事なんて珍しくないでしょ? 即興でどこまでやれるか期待してるよ」
傘木も勝手な事を言う。
入部して間もないというのに、何かと自分の力量を測られるような場面ばかりに出くわしている。そんな技量が要求される強豪校でもないだろうに。
いっその事、
「それじゃいくよ。あ、くらむー。手抜いたりしたら、爪で黒板ひっかきの刑だからね!」
そう言って、左手をわきわきさせる傘木。
地味に嫌な刑だ。というか二人にも被害がいくがいいのかそれは。
渋々ながらも、オーボエを構えてリードに息を吹き込んだ。
♪~
……これは。
傘木の演奏が始まった途端、フルートの響きに驚倒させられた。
自分のオーボエより柔らかく、それでいて美しく澄んだ旋律が響き渡る。
元々の楽器の違いによる影響は勿論ある。しかし彼女の演奏と比べると自分の演奏は……どうしても固く、甲高くてやかましい印象が気になってくる。
結局演奏の方はついていくので精一杯。特に終盤は慣れないテンポの影響で、息継ぎがうまくいかなかった。
とてもじゃないが人様に聞かせるような出来ではない。
「どうだった? 私の演奏」
満面の笑みを浮かべながら、鎧塚さんに出来栄えを尋ねる傘木。彼女自身からしても会心の出来なのだろう。
「うん。希美らしい、綺麗な曲だったよ」
「えへへ。ありがと~」
気恥しさからか、顔を赤らめている。
「……」
一方自分は、軽い酸欠状態に陥って青息吐息。苦しい。
「お~い。大丈夫か~い」
「けほっ。……誰のせいだと思って」
恨めしげな視線を向ける自分の事など気にした風もなく、傘木は顔をほころばせた。
「途中でへばるかと思ったけど、よく最後までついてきたね。さすがに音は濁ってきてたけど」
やはり振り落とす気だったのか。
乱暴な力試しをしてくれたものだ。南中ではこういう事は日常茶飯事だったのだろうか。
「みぞれなら今のスピードでも綺麗に音を出せるけど……。まあ、そこまで要求するのは無理難題か」
「……傘木も凄かったよ。ウチの中学じゃこんなにフルート吹ける人なんていなかったな。
もしかしたらここの吹部でも一番吹けるんじゃないか?」
フルートの先輩達の演奏は、合奏練習の時に数えるほどしか聞いた事がない。それでも、傘木の方に軍配があがりそうな程の差を感じた。
「え~、もうやだな~くらむー。そんなに褒めないでよ~」
照れ隠しのつもりか、バンバンと背中を叩いてくる。痛い。
「まだ酸欠状態から復調しきってないからマジでやめてくれ」
「おおゴメンゴメン。……でもくらむーも相当苦労してきたみたいだね」
唐突に、傘木が奇妙な事を口にした。
「苦労って、何が?」
「……ううん、何でもない」
傘木の脈絡のない言葉に訝しんでいると、彼女は何か思いついたかのようにメトロノームを手繰り寄せた。
「じゃあ次は三人で合わせてみようか? くらむーも思ってたよりいい演奏できてたし」
言うだけ言って、間髪入れずにメトロノームの調整に入る傘木。
さっきも自分の承諾無しに合奏を始めるし、無頓着すぎるぞ。
ふと教室の壁にかけられた時計を見ると、セクション練習の開始予定時間をかなり過ぎている。なのに他のメンバーはいまだに影も形も見えない。
「いつまでも遊んでちゃ駄目だろ……それより傘木、他のフルートの人達は?
掃除とかで遅れるにしても、もう集まってもいい時間だと思うけど」
その言葉を聞いた途端、傘木の表情に影がさした。
「あの人達なら来ないよ。ほら……宇治駅の近くに新しいカラオケ店できたでしょ?
そっちで遊んでるみたい」
「三年生がサボリ気味とは聞いてたけど……。フルートは一・二年生もそうなのか?」
「睨まれたくないから歩調あわせてるみたい。ダブルリードはいいよね。三年生いないし」
憎々しげな表情の傘木にかける言葉が見つからず、口を噤んだ。
「あの人達はサンフェスの時もそうだったの。
『演奏できてりゃ後はどうとでもなるから行進の練習なんてしなくていいでしょ』
な~んて素でのたまってたし。ありえないよ。演奏の練習だって日に焼けるからって普段通り音楽室や教室でやるし、そりゃあ本番うまくいかなくて当たり前だよ!」
サンフェス近くの放課後になっても、グラウンドに吹部の姿が見えなかったのはそういう理由だったのか……。
演奏自体は聞こえていたから、てっきり学校の屋上で練習してるのかと思っていたのだが。
まあ、女の子だしな。日焼けが気になるのは分からなくもない。
「屋外での演奏は室内と勝手が違うからなあ。せめて体育館で練習できなかったの?」
「私達もそれは考えたんだよ。で、あすか先輩が音頭取ってくれたの。でも三年生はなんのかんの言い訳してロクに参加しなかったから……。今年は失敗上等、来年のサンフェスへの予行演習みたいな形でおさまっちゃったけどね」
あすか先輩というと……ああ、あのユーフォの2年生か。
「梨花子先生も『みんなで仲良く』とかもっともらしい事いって指導はおざなりだし。南中の先生みたくもっとスパルタでしごいてくれればいいのに」
傘木の愚痴が顧問にまで及んだ事に、内心顔をしかめた。
このあたりでは名の知れた強豪・大吉山南中と弱小の北宇治高校では環境が違いすぎる。単純に指導を厳しくしたところで上手くいくとは思えない。
「……立華や洛秋みたいに意識高い人が多いって訳じゃなさそうだしね。コンクールで上を目指すつもりなら指導中に暴言が飛んできたり、練習時間も増やして休日返上で部活に取り組まなくちゃいけないだろうし。先生も部員にそこまでさせる気にはなれないから、部活動を先輩達の裁量に任せてるんじゃないのかな」
そう言い返して、ついこないだ部活をサボりがちな三年を軽くたしなめていた梨花子先生の事を思い浮かべた。
叱る、と表現するには優しすぎたあの雰囲気。厳しい指導を課して脱落者が出るよりは、と考えているのかもしれない。
それはそれで、ひとつの見識だとは思う。
「それに、三年生となると受験の事もあるし。なおさら部活動に入れ込めなくなってるかもしれないよ」
「そんな殊勝な人達なら、部活とっくにやめてるでしょ。吹奏楽コンクールは一番最初の府大会でも夏休み真っ最中にやるのに」
ムスッと、頬をふくらませる傘木。
「内申の問題もあるから、帰宅部っていうのは外聞が悪いんじゃないかなあ……」
オリンピックではないが、サンフェスもコンクールも参加する事に意義がある、といったところか。あまり感心出来るような事ではないが。
「……さっきから話聞いてると、くらむーは三年の肩もってばっかりだね」
頬杖をついて考え込んでいると、傘木が剣呑な視線を向けてきた。
「いや、別にそういう訳じゃないけど……。高校の部って関西大会行きの枠二つは立華と洛秋で固定されてるようなものだし、中学の時より上に行くハードルは高いだろ? 見込みがなさそうだからムキになって練習する事はない、って考えるのも無理ないし」
自分が知る限り、京都府大会から関西大会への出場枠はここ十年間ずっと三枠だ。
そしてその内の二枠を府内において頭ふたつもみっつも抜きん出たこの私立二強が確保している。
残り一つの枠をめぐって他の高校が熾烈な争いを繰り広げている訳だが、今の北宇治ではその競争の土俵にもあがれない気がしてならない。
ドン!
机を叩いた時特有の重々しい音が、見通しの暗いコンクールに考えを巡らせていた自分を現実に引き戻した。
傘木が拳を握りしめ、いきり立っている。
「私はそんなの嫌! 一生懸命、みんなでできる限りの練習してコンクールに出たいの! 全力を出し切った結果なら、銀でも銅でも私は受け入れる! 君は違うの!?」
悲壮な叫び声を上げる傘木に呆気にとられていると、彼女はばつの悪そうな顔をして
「ご、ごめん。つい怒鳴っちゃって。別にくらむーが悪い訳じゃないのにね」
「……いや、凄いと思うよ。そういう考え方。去年がああだったから、こんな弱小校に入ったのもそれで心が折れたせいだとばかり思ってた。傘木も鎧塚さんも凄い上手なのに」
彼女達の出身中である大吉山南中は、数年に一度は関西大会にコマを進めるなかなかの強豪校。
府大会では当然のように金賞をかっさらう姿を見慣れていただけに、去年の銀賞には驚かされたものだった。
「まあね。確かに去年のアレには滅茶苦茶落ち込んだよ。高校で吹奏楽続けようって気力もすっかり萎えちゃったし。プロ目指してる訳でもないのに、吹奏楽続けてもしょうがないって思いに囚われちゃってね。おかげで受験勉強に専念できて、受かるか怪しかった北宇治に潜り込めたけどね」
「うん……」
「でもそれって、結局自分をごまかしてただけなんだよね。入学式の時、吹部の下手糞な演奏聞いてたら、なんかこう、沸々と胸の中に暑いものがこみあげてきてさ。気が付いたら、入部届を出してた。それで、ああ、やっぱり私って吹奏楽が好きなんだなぁって思ったの」
狐と
傘木の昔語りに、鎧塚さんも自分も真剣な面持ちで聞き入っていた。
「だからさ、中学では無理だったけど、高校では全国行ってみたいんだよね」
「は?」
何言ってんのこの人? 弱小もいいところの北宇治高校で全国?
ついさっきまでの真剣な雰囲気が一気に弛緩してしまった。
呆れて傘木を見つめると、彼女は慌てて言い直した。
「ああ、全国行きたいってのはあくまで夢だよ、夢。さすがにこの部じゃ無理って事はわかってる。でもさ、府大会で金賞取れる位には変えてみたいんだ」
「なるほどね」
中学最後のコンクールの不本意な結果は、今となっては傘木の闘争心の源になっているらしい。
「でもよかったよ。みぞれの相方がこんな掘り出し物だとは思わなかった。トランペットには優子もいるし、北宇治の未来も明るいね」
「優子?」
「ああ、くらむーは中学違うし知らないよね。私達と同じ南中出身の吹部の子。ほら、頭におっきなうさ耳リボン付けてる。ミーティングで見かけるでしょ」
そういえば……サンフェスの時にそう呼ばれてた子がいたな。
「優子もまあまあトランペット上手いんだよ。今度、機会見つけて紹介するね」
二人の知り合い……。
鎧塚さん⇒言葉足らず。
傘木⇒無頓着。
おっきなうさ耳リボンの人⇒?
「……そりゃどうも」
またアクの強い人じゃないだろうな。
そこはかとない不安を感じていると、鎧塚さんが顔を覗きこんできた。
「……どうしたの。そんなげっそりした顔して」
「なんでもない。まあ……そういう事なら、傘木の力になれるかどうか分からないけど、真面目に練習する位なら約束するよ」
「ホント!?」
傘木が目を輝かせた。
「うん。いい合奏が出来るのなら、それに越した事は無いし」
「そう言ってくれると助かるよ! 頼りにしてるからねっ」
そう言って、思いっきり背中を叩く傘木。
「!? だから叩くのやめろっ」
せっかく落ち着いてきたのに。
またぶり返してきた息苦しさと、悪びれない傘木の様子に、顔をしかめざるを得なかった。