市原さんに説明されたこの世界の常識は驚くべきものだった。
まずはじめに、貞操観念が逆転していた。要は基本的に男の子がお淑やかで、女の子が活発。男の子よりも女の子の方が性欲が強いのだ。そのため、女性による男性への暴行事件が後を絶たないらしい。握野さんはその手の事件の被害者の少年のために、働く男性の少ない中で警察官になったのだとか。
次に、この世界は男子の人数が少なく、男女比は例年3:7付近を推移しているらしい。これは最初からそうであったわけではなく、じわりじわりと男性の弱体化が進み、戦争によって一気に男性の人口が落ち込んでこうなったらしい。現代の男性の身体は弱く、男子は女子よりも少し生まれにくい程度であるが、病気にかかりやすい。そのため、おじいさんの人数は少なく、男性の平均寿命はとても低いのだとか。これは発展途上国になるほど顕著で、男女比が3:7を大きく超えている国は医療技術の高さを示しているとのこと。
そして最後に、男性人口の減少により、働き手は女性が担っており、貴重な男性は基本的に家からあまり出さず、蝶よ花よと箱入り息子として育てるのが一般的なんだとか。そして結婚して家庭に入り、子どもを作り育てる。そのため、握野さんの様に働く男性は珍しいらしい。その反面、大切に育て過ぎて甘やかしてしまい、傲慢になる男性が社会問題になっているとか。しかし、そんなワガママな男性が好きだという女性も多く、そんな女性のバイタリティによりなんとか結婚する人の人数は維持されているらしい。けれども、それだけでは少子化は抑えられないので政府は重婚と精子バンクを推奨しているらしい。
「犯罪に巻き込まれたり病気になったりなどの観点からあなたの様な男の子が一人暮らしすることは好ましくないの、できれば私たちに保護されてくれると安心なんだけど。私に握野くんが同行しているのも、調査官が男の子に変なことをしないか監視するためのものなの。この手の仕事につく人でも警察が監視する必要性があるくらいに女性というのは危険なものなの。それをわかってほしいわ」
握野さんも同意する様に頷く。市原さんが僕を心配してくれているのはわかる。しかし、この歳になって子どもをやりたくないし、何より……
「自分の親以外の人を父や母と呼びたくありません。保護されるってことは里子に出されるってことですよね?」
元の世界の両親を思い出して少し泣きそうになりながら僕は市原さんに尋ねた。
「そうね、基本的に家庭裁判所が調査して任せられると思った家庭に引き取られることになるわ」
「やっぱり、嫌です。一人暮らしの方がいいです」
賢くないし、わがままかもしれないが心が納得できない以上しかたがない。すると市原さんは優しそうな表情で「なら無理強いはしないわ。男性関連の一般常識は置いておいて、きちんと一人で生活していけるだけの力があるかチェックさせてもらうわ」
そういうと質問が始まった。質問の内容は多岐にわたり、自分で料理できるかとか、病気になったときの医者へのかかり方とか、ゴミの分別方法とか家庭的なことを中心に様々なことを聞かれた。
質問が終わりお茶を飲んで一息つく。質問は割と常識的なこと(この世界の一般常識を知らなかったのだから、常識云々はあまり言えたことじゃないが)が多かったので大丈夫だと思う。
「身を守るための知識はそういう人のための本があるから今度持ってくるとして、生活力はありそうだから大丈夫ね。これなら一人暮らしの許可も出せるわ」
市原さんにそう言われ、心の中で安堵のため息をつく。そして、調査官としての仕事が終わったので二人は帰ることになった。帰り際に握野さんと市原さんにメアドをもらい、わからないことや困ったことがあったらいつでも連絡する様に言われた。最初はとんでもない悪人面だと思ってたけど、握野さんは正義感の強いとても素晴らしい警官でした。あんまし会話に入って来なかったけど。
それから1週間程経ったある日、インターホンが鳴ったので出てみると私服姿と思しき市原さんが子どもを連れて立っていた。
「どうしたんですか?だらしない生活してないか抜き打ち検査ですか?」
市原さんたちに言われた通り警戒心を表す様にチェーンをかけたままドアを開けてそんなことを聞く。
「ああは言ったけど、やっばり心配だし隣に引っ越して来ちゃった。これはお近づきの印よ。ほら、また今度渡しに来るって言ったでしょ?」
そう言ってこの世界の男性が持つべき知識について書かれた本を差し出された。
自分の仕事の一環で知り合った男の子のいる部屋の隣をピンポイントで借りる。それは職権濫用にならないのだろうか……そんな考えが僕の頭をよぎった。
今日は学校に必要なものを市原さんと一緒に買うためにショッピングモールに来ている。男の子は買い物に行く時は必ず身を守るために親などとともに来る(近年では自分は外に出ないで親に買いに行かせる子どもが増えているとか)が、僕は親がいないので代わりに週末に市原さんとともにまとめ買いをすることになっている。週末まで自分に付き合わせてしまうのは申し訳なく感じるが、市原さんも激務で平日は家に帰るのが遅く、休日に買い溜めするから気にするなと言われた。
「ここがショッピングモールですかー。でけぇですねー」
この不慣れな日本語で丁寧な感じを出そうとする外国人ヤクザみたいな口調は市原さんの子どもの仁奈ちゃん。初めて会った時はその独特の口調に驚いたものだ。
「仁奈ちゃんはこういうところに来るのは初めてなの?」
「いつもは近所のスーパーで済ますでごぜーます。いつものスーパーもでけぇけどそれよりさらにでけぇですねー」
「悠貴くん、はしゃぎ過ぎないように仁奈と手を繋いであげてくれないかしら、仁奈をこういうところに連れて来るの初めてで、この子、物怖じしない性格だから勝手にどっか行っちゃいそうで怖いのよ」
そう言われたので仁奈ちゃんの手をとると、照れたのか仁奈ちゃんの顔が赤く染まる。あぁ、とかうぅ、とか呻きながらも手をにぎにぎしてくる。手を繋いだ程度で照れるところは微笑ましいが、まだ幼い仁奈ちゃんがここまで異性を意識するということは自分と同じ歳ぐらいの女の子はどうなってしまうのか、恐ろしさを感じる。決して、市原さんが「少しずつ外堀を埋めて最終的に仁奈の婿に……」なんて言う呟きに恐ろしさを感じたのではない、決して。
それにしても、ショッピングモールの通路を歩いていると視線を感じる。すれ違う人がみんな僕の顔を見てくる気がする。
「さっきからいろんな人に見られますけど、そんなに珍しいんですかね、街中を歩く男の子って」
「そうね、子どもならそれなりにいるけど、あなたくらいの歳になると少ないわね。それに悠貴くんが他の人よりも優れた容姿をしているせいもあるわね。スタイルもいいし、モデルや俳優と言っても通じるレベルよ」
元の世界でもそこそこモテてたのでそれなりにイケている自覚はあったが、どうやら母体数の少ないこの世界ではかなり上のレベルにいるらしい。容姿が優れているとなるとなおさら女性が寄って来やすいだろうし、気をつけなくては。
そうこうしているうちに目的地であった学生服売り場に着いた。中に入って行くと店員に声をかけられる。自分が男であることがわかると店の奥の方に通された。店内は男性用と女性用のスペースがカーテンで区切られていて、女性の視線を気にせず男性が制服を探せるようにするためのものみたいだ。
「いらっしゃい。どこの学校の制服を探してるの?お兄さんイケメンだし美城学園かな?アイドルの子?」
奥から出てきた女性店員が馴れ馴れしい感じで話しかけてくる。すると市原さんが接触を防ぐように間に入ってくれる。
「第一中です」
僕は自分の通う予定の中学校の名前を答える。
「えぇ!?まだ中学生なの?それなのにこれだけ大きいって将来への期待は高まるねぇ〜」
女性の胸を褒めるすけべ親父みたいな言い方をしてくるが、それも仕方のないことである。この世界の男性は背が高いほどモテるのだ。理由は簡単で、背が高い=ちんこが大きいという図式が女性の頭の中にあるからである。脳みそと下半身が直結しているのだ。それ故にでかいモノを求める。実際はそこまで比例関係にないが、そもそも生でたくさんのちんこを見ることの殆どない女性にはわからないことなのだろう。まあ、72cmよりも巨乳の方が元の世界でも人気だったし理解できなくもない。
余談だが、この世界の男子の平均身長は155cmであり、中学前でそこを超えている僕はいわば、元の世界の小学生なのにCカップもある女の子である。まだまだ成長の余地のある有能株だ。ついでに言うと、握野さんは171cmという超高身長なのでFカップレベルの爆乳である。そのせいか、他の男子よりもはるかに苛烈なアプローチを食らってるらしい。グラビアのスカウトも何度もあったとか。
「じゃあ、サイズ計りましょうか。きちんと身体にあった制服の方がいいから」
そう言って巻き尺を取り出す店員さんだが、またも市原さんに阻まれる。
「サイズはすでに測ってきたので、これの通りにお願いします」
そう言って僕が今朝、自分で測ってきた各種サイズの記されたメモを渡す。店員さんは露骨に悔しそうな表情を浮かべる。きっと股下を図るついでにラッキースケベでちんタッチでもしようと考えていたのだろう。あの男慣れした話し方はきっといろいろな男のちんこを触ってきた自信の表れだろう。
「あの、身長最後に測ったの半年ぐらい前なので身長だけ測り直したいんですが」
そういうと店員さんは顔を輝かせながら奥から身長を測る機械を持ってきた。ありがたく使わせてもらい身長を測ると、なんと160cmになっていた。小学校の身体測定から時間も空いたし多少は伸びるか、そんなこと考えながら身長を伝えると、店員さんと市原さんは大き過ぎでしょ、これならきっとあっちの方も……と顔を赤らめながらぶつぶつ呟いていて、仁奈ちゃんからは仁奈よりずっとでけぇですねーとマイペースな答えが返ってきた。
店員さんが正気を取り戻したところで自分のサイズにあった制服を持ってきてもらう。それを受け取り、試着室の中に入る。念のため隠しカメラがないか確認してから着替える。すると、ズボンのサイズが合わない。きちっと履こうとするともう一人の僕が中央からずれてどちらかの裾に行ってしまい、ズボンがもっこりする。これでは街中は変態じみていて歩けないなと苦笑いしつつ試着室のカーテンを開けて店員さんに一回り大きいものを持ってきてもらうように頼む。
「すみません、これだとサイズが合わないのでもう一つ上のサイズ持ってきてもらえ……」
そう言いながら店員さんの顔をみると鼻から血を流していた。よくみると市原さんも鼻血を垂らしてた。仁奈ちゃんはマネキンの関節を動かして遊んでいた。
「ゆ、悠貴くん、あなたち、ちんちんの形が……」
「そうなんですよ、ちょっとこれだと小さ過ぎて合わないんです」
「そうじゃないわ!女性の前でそんな風にしちゃだめよ!襲われたいの!?あなたまだ無用心過ぎよ!」
「す、すみませんっ!」
この世界のことを思い出し、慌ててカーテンを閉める。
カーテンの向こうから「すごく大きい……」とか「生まれてきてよかった…」などの声が聞こえたが無視する。それにしてもこの世界の女性は性欲が強いから危険だと思っていたが、彼女たちの反応は完全に童貞のそれだし、実はあんまし危険じゃないんじゃないだろうか。(男慣れした感じの雰囲気を醸していたのに、いざというところでボロが出てるところとか特にそんな気がする)むしろ、童貞との付き合いが長い僕ならうまい具合に処女(童貞)ツボを押さえて軽くあしらえる気もしてきた。
その後、店員さんにワンサイズ上のズボンを持ってきてもらって試着して、サイズが合っていたので購入して店を出た。
どのアイドルを出そうか、キャラが多くて迷いますね。