あべこべマスターシンデレラガールズ   作:田所総司

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初登校です。


第4話

 入学式といえば桜のイメージがあるが、普通、入学する頃にはもうすでに葉桜になっている気がする。桜はどちらかといえば、受験の合格発表の季節ではないだろうか。それとも単に地域による寒暖の差で生じる桜の開花時期のずれの問題で、都会の桜は四月に咲くのだろうか。そんな取り留めもないことを僕は自分に集中する視線から逃避するために考えていた。

 今日は僕がこれから通う市立第一中学校の初登校日である。入学式が始まるまで時間があり、クラス分けが発表された後は同級生と仲を深めるための自由時間となっている。大抵の人は自分と同じ小学校だった人に話しかけて、それぞれのさらなる知り合いを入れて会話の輪を広げていた。しかし、僕は両親の死を機に引っ越してきた人間であるため、同じ小学校だった人はおらず(まあ、下手に自分のことを知っている子がいて昔の自分との差異などに気がつかれるのも厄介だが)、名前順に指定された自分の席に座ってぼんやりしていた。教室の右の前と後ろに扉があり、僕の席は右の前の扉のすぐ側にあるため、そこから入ってくる人はまず僕の顔を見ることになる。大抵の女子は僕を一目見た瞬間に息を呑み、顔を赤らめつつそそくさと僕の前を通り過ぎる。その後、先ほど述べたように自らの友人と話すのだ、主に僕のことを。別に自意識過剰なわけではない。みんながこちらをちらちら見ながらこの年頃の女の子特有の甲高い声でイケメンすぎ!とかやばくない!?とか言っているのが耳に入ってくるのだ。

 この雰囲気どうにかならないかなぁと考えていると、僕の後ろの席の子が机を強く叩き、周りの注目を集めた。

「ちょっと、あんたらさっきからこの人のことをじろじろ見過ぎ。男子がそういうのを嫌がるってことがわからないのか?」

 そう言われてみんなは気まずそうに顔を逸らしていく。僕は気まずい立場から解放されたお礼を言おうと振り向く。そこに立っていたのは黒のショートヘアーに150cmとちょっとしかなさそうな小柄な体躯で整った中性的な顔立ちをした女の子だった。気の強そうな言葉遣いと大きな声は元の世界にいたらボーイッシュな女の子ってところだろうか。名前を確認しようと上履きに目をやるとスラックスを履いているのが見えた。ん?スラックスってことは男なのか?果たしてどちらが正解なのか頭を悩ませていると向こうの方から自己紹介をされた。

「俺の名前は大鳥 ちひろ、よろしくね」

「僕は逢坂 悠貴、よろしく」

 ボーイッシュガールだと思ってたらガーリッシュボーイでした……

 

 入学式が終わり教室に戻って来た。各クラスの男子の人数を確認したが、その数の少なさに驚いたり、校長の話の長さに貧血を起こして倒れる男子が出たりと色々あったが、なんとか終わり、戻って来た。

 席に着くと早速大鳥くんが話しかけてくる。

「ねぇねぇ、逢坂くんは部活何に入るの?」

 彼がそう言うと教室は水を打ったよう静かになる。みんなが僕がどの部活に入るか気になるらしい。というか、会話している素振りを見せながらこっちに意識を集中してたのか……。そんな女子たちを冷ややかな目で大鳥さんは見る。

「僕はバスケ部に入るつもりだよ」

「えぇっ?運動部に入るの⁉︎しかもバスケ部⁉︎」

 大鳥くんがそう驚くのも無理はない。この世界では男子の体力と人口の低下により、柔道などの一部格闘技を除いて男女混合でスポーツが行われる。そんな中で人気が高いのが水泳と新体操とサッカーとバスケなのだ。水泳と新体操は分かりやすくぴっちりとしたユニフォームで身体のラインがはっきり出るところが人気である。サッカーとバスケはその競技の特性上選手同士の接触が多いので、合法的に男子に触れると女子の競技人口が多い。また、バスケはゆったりとしたノースリーブのユニフォームから男子の胸か下着が見えるかもしれないと見る方も人気がある。男性が所属しているプロチームの試合は人気で座席が手に入りにくく、裏ルートで高値で取引されるらしい。またテレビでの視聴率も高い。みんなが男性プレイヤーのシュートやレイアップに注目するのだ。もはや男性は何をやってもアイドル扱いになるのかもしれない。

 

「なんでバスケ部なんかに?運動部ならソフトテニスとかバドミントンとかあるじゃん」

 そう言って大鳥さんは女子との接触の少ない安全な競技を勧めてくる。

「バスケなら背が高いのを活かせそうだし、かっこいいじゃん?それにうちの学校強いらしいし」

 女子の平均身長は元の世界とそうは変わらないこの世界では僕は男女混合のスポーツ界においてもそこそこ背が高いのだ。(流石にバレーボールのプロなどには遠く及ばないが)

「でも、女子との接触とか多そうだし危ないよ。絶対にこっそりセクハラされるよ?さっきだってみんなにじろじろ見られてたでしょ?」

「大丈夫だよ。バスケでの接触なんて日常茶飯事だし、流石に犯罪まがいのことはしないでしょ」

「そう簡単にいくかなぁ」

 楽観的な僕に対して心配性な大鳥くん、きっと生まれ育った世界の違いから来るものだろう。

 

 そんな話をしていると扉を開けて先生が入って来る。

「みなさん、おはようございます。今日から皆さんの担任になる江口 明日花です。よろしくお願いします」

 担任からは黒髪で痩身でありながら巨乳のクールな感じのする美人という印象を受けた。仕事ができそう。

 

「来て早々ですが、みなさんには自己紹介をしてもらいたいと思います。では、一番前の逢坂くんからお願いします」

「えぇっ!?」

 あまりにも唐突すぎる自己紹介の開始に焦りながらも席を立つ。みんなの方を向くとみんながこちらに注目しているのがわかる。

「えーっと、逢坂 悠貴といいます。こっちに引っ越して来たばかりでこの辺りのことを詳しくは知りません。趣味は読書で、部活はバスケ部に入ろうと考えてます。みなさん仲良くしてください」

 そう言って最後に可能な限り自然な笑顔を浮かべて締める。

「「「キャーーーッッ‼︎」」」

 芸能人を生で見たJKのような興奮した悲鳴がおこる。耳に突き刺さらんばかりの甲高さについ手で耳を塞いでしまう。

「素敵!結婚してください!」

「あなたが私の白馬の王子様だったのですね!」

「身長がセクシー、エロいっ!」

 などと暴走した女子達が騒ぎ始める。

「静かに‼︎」

 僕を含めクラスの男子達がドン引きしていると江口先生が女子達を上回る大きな声で場を収める。

「かっこいい人と同じクラスになれて嬉しいのはわかりますが、そう騒いでいると嫌われますよ?」

 そう注意されて女子達はみんな黙った。

「じゃあ、次の人。大鳥くん」

「大鳥 ちひろです。趣味は料理で部活動も家庭部に入ろうと思ってます。あと騒がしい女子はあんまし過ぎじゃないのでよろしくお願いします」

 先ほどの女子の暴走に釘をさすようなことを言いながら席に着く。女子達はこちらに聞こえない程度に抑えた声でおしゃべりをしている。

 

 そうこうしているうちに自己紹介は終わり下校時刻になった。

「逢坂くん、一緒に帰ろう」

 大鳥くんに誘われたので一緒に下校することになった。

「思ったほど男子にいなかったね。日本は男女比3:7の筈なのに」

「そうかな、1クラス40人の中に6人もいれば多い方だと思うよ。私立の男子校に行く人が多いらしいし。小学校の時の男友達もほとんど男子校に行ったし。おかげで同じ学校に通う男子の知り合いいないんだよね」

 そうなのか。まあ、性への関心が高まる年頃は男子校の方が安全かもしれない。

「あれ?」

「ん?」

「もしかして家の方向真逆?」

 自分の通学路を歩こうとすると、大鳥くんと真逆の方向へ向かってしまった。

「そうかも。僕の家は駅の方だし」

「あー、俺は住宅街の方だから完全に別だわ」

 大鳥くんはそういうとじゃあねと手を振り帰って行く。初めての友人との下校は未遂に終わった。

 

「ただいまー」

「おかえりなせーませでごぜーます」

 家に帰ると仁奈ちゃんが玄関で出迎えてくれた。最近は市原さんは仕事で家にいないので、市原さんよりも帰ってくるのが早い僕の家にいることの方が多い。流石に僕も常に1人でいるのは気が滅入るので、仁奈ちゃんの存在はありがたい。

 

「悠貴にーさん、中学校はどんなかんじだったでごぜーますか?」

 手洗いうがいを終えて居間に入ると、仁奈ちゃんに質問された。

「特にこれといったことないよ。小学校と違うのは制服に変わったことくらいかな。あと、男子の人数が減ったことくらい。仁奈ちゃんの方はどうだった?」

「仁奈も特に変わりねーでごぜーます」

 まあ、小学校だと大きな変化といえば教室の位置が変わる程度かな。

「仁奈ちゃんはお昼何食べたい?」

 エプロンの支度をしながら仁奈ちゃんに聞く。

「仁奈は悠貴にーさんの手作り料理なら何でもいいでごぜーます」

「なんでもいいが一番困るんだけどなぁ……。じゃあ、スパゲッティでいいかな」

「もちろんでごぜーます」

 パスタは手軽にできるから楽だ。麺を茹でている間にソース作りが終わるものがほとんどだ。

 ちゃちゃっと作り終えてテーブルに持って行く。

「じゃあ、食べようか」

「「いただきます」」

 お昼ご飯を食べながら仁奈ちゃんに話を切り出す。

「あのね、仁奈ちゃん、僕も部活に入るから帰るのがこれから少し遅くなるかもしれないんだ」

 部活を始めるとなると帰宅時間が遅くなる。そうなると当然仁奈ちゃんが独りになる時間が増える。仁奈ちゃんが寂しがるんじゃないか、僕はそのことを気にしていた。

「にーさんが仁奈のことを気にしているのなら大丈夫でごぜーますよ。仁奈も放課後にアイドルの仕事がごぜーますし、にーさんだって仁奈のことを気にしないで友達つくらなきゃだめでごぜーますよ。引っ越してきたから友達いねーんじゃねーですか?それに、遊びに行った男の帰りを待てるのがいい女だってテレビでやってやがりましたし、仁奈も待てるでごぜーますよ。でも、できれば晩御飯の時間までには帰ってきてほしいです。御飯はみんなで食べた方が美味しいでごぜーますからね」

「ありがとね、仁奈ちゃん。流石に中学校で晩御飯より遅い時間までかかることは無いよ。あと、その番組を見るのはやめようか、なんかいろいろとおかしいし」

 仁奈ちゃんのお利口さに感動しながらご飯を食べる。こんな出来たいい子なんて今時そうはいないだろう。

 

 その後は一緒にお勉強をしたり、お喋りをしたりして市原さんが迎えにくるのを待った。

 

 仁奈ちゃんを市原さんが迎えにきて帰ったので、明日の準備を済ませて寝室に向かうと、枕元に仁奈ちゃんがよく着ているうさぎの着ぐるみにそっくりな人形が置いてあった。それを胸元に抱き寄せながら布団に潜り込むと、枕から仁奈ちゃんの匂いがした。

「あの子、この布団でお昼寝したな……」

 洗面所にも仁奈ちゃんの物と思われる歯ブラシやタオルが置いてあったし、少しずつ僕のスペースは仁奈ちゃんに取り込まれているのかもしれない、いつの間にか同棲して事実婚させられてたりして……。これは市原さんの差し金だろうか。僕はそんなことを考えながら眠りについた。




精神的BLというタグを見るたびに村上春樹の海辺のカフカを思い出します。
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