『何でしょうか?』
『どうかしら。今日もリハビリがてらに散歩でも』
『構いませんよ。わざわざごめんなさい』
春は過ぎ、梅雨が訪れようかと言う頃になった。朧夜に大怪我を負った妖夢も今では完治とまではいかなくても、日常生活を支障なく送れる位には回復している。
それでも、相変わらず妖夢の記憶は戻らない。鈴仙さんと以前の様に呼んでくれはするけれど、以前よりも何か他人行儀になっている様で。その屈託のない純粋な笑顔を見る度に、私の心臓はキリキリと痛んだ。
それでも何か思い出して欲しいと願い、リハビリと称して彼女を散歩に誘っては他愛も無い話を繰り返す。だけど、何も好転しないことに私も段々と何かを諦め、そして同時に精神も疲弊してきたのだろうか。あのてゐに本気で心配され、今では毎日必ず精神安定剤を飲んでいる有様。体重だって減ってきた。
つまり、それ位あの出来事はショックが大きかった。周りの色々な人、それこそ妖夢も含めた人から大丈夫かと聞かれ、何とか愛想笑いで返したとしても、どうしようもない虚無だけが残ってしまう。
「どうか、しましたか……?」
「ん、あぁ……いや、何でも無いわ。気にしないでね」
今も妖夢とのんびり永遠亭の庭を散歩している途中。妖夢の問いかけに微笑んで返すと、嬉しそうにいつもと同じ陽だまりの様な笑顔を浮かべてくれた。その笑顔を見るだけで嬉しい反面、どうしようもなく虚しい。
目の前に居る妖夢は確かに妖夢だけれど、嘗ての妖夢とは少しだけ違う。勿論以前の様に生真面目で、臆病で、そして他人思いで底抜けに優しいけれど。それでも、その時の人間関係は一人の例外を除いて全て失くした彼女はとても人見知りで、こうして一人の友人で接することが出来るようになるまでそれなりの時間を要した。
そんな調子だからこそ、思ってしまう。
もう昔の妖夢は居ないんだな、と。
割り切ったことなのに、どうしようもなくて、どうにもできなくて。
「……体調、悪いんですか? お休みになった方が……」
「大丈夫よ。心配しなくてもね」
「そうですか……?」
妖夢には私の心のことなんて分からない。出会ってまだ一月程、深く知る訳でもない相手なのだから。それでも心配してくれることに有難さを覚え、同時に切なくなって思わず顔を背ける。
あの日から、果して何度涙を浮かべただろうか。記憶を失った、嘗て自分が恋した相手の傍に居続けることが、こんなにも辛いことだなんて。それでも傍に居たくて、板挟みでもがく私が自分でも本当に情けない。恋が簡単に割り切れるものだったなら、せめてあの終わり方がもっと別の形なら。中途半端に目の前に希望と言う餌を垂らされて、それを何処までも追い続ける私の姿は果たして、てゐや師匠、姫様から見たらどれ程滑稽で痛々しいのだろうか。
「それにしても、本日はよく晴れていますね。私が元気だったなら、もう少し遠くまで散歩してみたいものです」
時には妖夢を恨んだこともあった。だけど結局、それはやり場のない自分への怒りを誤魔化そうと言う醜い思いだと知り、自分が嫌になったりもした。
そんな自分をひた隠し、妖夢の前では出来る限り明るく振る舞う。時に暗さが出て心配されはするけれど、それでも何とか隠し通してきた。
「そう、ね……してみたいわよね、遠出」
「はい。流石に永遠亭の中だけでは体が訛っているかもしれませんし」
もし一緒に遠出をした時、待っている辛さを創造したくない。
夢を抱く自分が憎い。
「……師匠に頼んでみる? と言うか、頼んでみようか?」
「へっ!?」
「ほら、そろそろ永遠亭を出てみても大丈夫かなって。ここまで歩けているしさ」
だけど、私は頼ってしまう。真っ暗な希望に。
「頼んでも、よろしいのですか?」
「任せなさいって。私が着いて行くって言えば大丈夫よ」
あぁ、仮にもっと楽な道があったなら、私はそれを選んでいるのだろうか。
私にはそれを知る術はない。それ位には疲れているし、夢を抱き続けるしかないのだから。
準備する物:短編だった小説
1.取り敢えず小説を書かないと……
2.ちくしょう。短編の続きだ。お前はいつもそうだ
3.掘り返しはお前の人生そのものだ。お前はいつも掘り返しばかりだ
4.お前はまた連載を増やして、何も完結できない
5.誰もお前を愛さない