第50話
ガチャ!
鍵の掛かる音が部屋の中に響き渡る。部屋には手々座と正一の2人きりであり先程の食事の様な楽しげな空気ではなく、ピリピリした空気が2人の緊張感を物語って居る。
「...早速だが、お前がリゼに伝えた言葉の意味が聞きたい。」
扉の鍵を閉め、正一の正面の椅子に腰掛ながら天々座が問う。
「そのままの意味です。奴が動き始めました。」
「奴?」
正一の言葉に天々座が眉に皺を寄せて聞き返す。
「はい...奴の名前は、"桐間悟(きりま さとる)」
「きっ!!桐間悟!?」
「ご存知ですか?」
「あ、あぁ!!軍人だったらこの名を聞いた事の無い人間は居ない程の人物だ!!」
落ち着きの無い様子で喋る手々座は更に落ち着きを無くしながら喋る。
「しかし!奴は!」
「えぇ、そうです。彼は約150年前に死んでいます。」
「なら!それは有り得ないだろう!」
声を荒らげ興奮している天々座に対して正一は至って冷静に答える。
「...彼の後継者、ならば可能です。」
「後継者だと?」
「...はい。あくまでも可能性での話ですが。」
構わない。続けろーー。天々座の言葉を聞き正一はカップの中に入っている熱い紅茶を啜り、一息つき言葉を紡ぐ。
「...奴の考えは独創的で、その考え方に取り憑かれてしまうと中々他の考えが出来なくなります。」
「と、言うと?」
「兵士による、兵士の為の武装国家の建国...。」
「武装国家の建国...。しかし、武装国家とは行かないが、我々の居る国で有ればそのような国を建国する必要性は無いと思うが。」
「...武力によるビジネスですよ。」
「....ふむ」
正一のこの一言で再び天々座の顔付きが険しく声のトーンが低くなる。
「今も昔も互いに武力を突き付け合う事で均等を保って来ました。そうですよね?」
正一の問いかけに手々座が答える。
「あぁ、勿論だ。武力の静寂を破ったモノにはそれ相応の報復が待っている。」
「だから、誰も銃弾を一発たりとも外に向かって撃てない。」
「あぁ、そうだ。」
何が言いたいんだ?と言わんばかりに正一を見る天々座。回りくどく、核心に迫りそうで迫らない正一の話に若干イラついた口調で話す。
「お前は一体何をーー」
「彼らに特定の国家は無い。」
「何?」
「彼らの思想では全てが終わるまでは特定の場所に国家を設けることをしないのです。」
手々座の顔が更に険しさを増す。
だんだんと状況を鮮明にイメージしてきたか...。
手応えを感じた正一は更に言葉を紡いだ。
「国家を建国しないと言うことは、報復行為を行う事ができないのです。」
「ま、まさか!?」
流石は優秀な人材で有る。この少しの時間で俺の言いたい事を全部理解したか。
「そうです。国家が無いと言えど彼らは存在します。彼らが攻撃を仕掛けてきた場合、報復行為を行わなければ第二、第三の攻撃が予想されます。」
「それも火力が更に増して...か。」
疲れ切った様な声で溜息を着くように手々座が呟く。
「ココで問題が発生します。」
更に追い討ちを掛ける様に正一が口を開く。
「....」
「自国で有れば良いのですが、他国で起こった場合、報復行為はーー」
「宣戦布告と同じだ。出来るはずがない。」
その言葉を聞き、正一は一段落着いたと確信し、少し温くなった紅茶を1口啜る。
「しかし、お前は何故、桐間の後継者が動き出したと思ったんだ?」
純粋な...何故、天々座自身でも分からなかった事を正一知っているのだろうか...?その事で疑問に思った手々座が質問を投げ掛ける。
「...気付く切っ掛けは沢山ありましたが、そうですね...。」
少し考え込む正一。
まさか、自分が体験した経験を元にーー、等とは口が裂けても言う訳には行かない。バレない為に"桐間悟の後継者"等と嘘を付いたのだから。
「"トロフィー"ですかね。」
「トロフィー?」
正一の言っている意味がわからなかったのか、天々座は顔を顰め首を傾げながら聞き返す。
「奴らは殺した人間の1部を奪います。」
「....」
「勿論、奪うと言っても人体の1部ではなくドックタグのようなものです。」
「ドックタグ...」
「しかし、奴らはドックタグではな違うものを奪います。」
「違うもの...」
興味が有るのだろう。天々座の体制が前のめりになって居る。
「奴らは腕時計を奪うのです。」
「腕時計?...何故腕時計なんだ?」
腕時計を取るなど、余り居るタイプの人間では無いのだろう。天々座は珍しいタイプだなーーと、紅茶を啜る。
「曰く、他人と同じ物を持っていても面白くはない。との事です。」
一瞬目を見開き、見開いた目で怯える様に正一を見る天々座...。それに対し正一は何事も無いように茶を啜り、相変わらずリラックスをした状態で居るが、その気配には一切のスキが無い事に、天々座が気付く。
「...ご馳走様でした。」
そう言うと同時に、カチャッとカップを置き出口の扉に手を掛ける。
「あぁ、そうだ。忘れてました。」
後ろを見ず、ドアノブに手を掛けた状態で天々座に話しかける。
「貴方がディナー中に誘った話の事なのですが...お断りします。」
「!?...気づいて...」
それでは、またーー。そう言うと同時に正一はドアノブを捻り扉を開け、外に出た。
続く