「なぁスコール、あたしらいつまでここにいるんだ」
オータムのその言葉に、私とリイスは耳を傾ける。
「そうね……一夏くんもだいぶ落ち着いてきたし、もう中三の夏前、そろそろ潜らないと大変よね~」
「私としては裏抜けして、身を固めてもと思うのだがな……なかなかどうして快適だからな、ここは」
私の言葉に、リイスはため息をつきながらだいぶ古い本を読んでいる。
「そりゃぁよ、一夏の護衛っつうか、保護者役はまぁそこそこ悪い気もしねぇし、費用は千冬から少なからず貰ってるわけだがよ、それでもあたしらは……」
「分かってるわよ。それでも、一応は依頼としてここにいる以上、一夏くんを守らないわけにはいかないの」
「……そうだな。だが、多分私はこの仕事が終わったら、裏に戻るつもりはない。というより、やりたいことが見つかった」
そう言うリイスの言葉に、オータムは少し驚く。
「おいおいリイス、おまえ裏抜けするって」
「本気だ。少し知り合いを思い出してな……生きているならば一夏と同い年だな」
「へぇ~、ようやく記憶が戻ったってか?」
オータムがからかうように言うが、その目はかなり真剣だった。
リイスと初めて出会ったのは、一夏誘拐の一年半前……ギリシャの田舎町だった。偶々任務終わりで私とオータム、スプリングの三人で飲みに歩いてたときに偶然前で倒れていたのだ。
病院へ連れて行ったは良いものの、彼女には名前すらの記憶が無かった。ただ『リイス』という単語だけをうわ言のように呟くだけ。
さて困り果てたところ、うちのボスから保護を……というかうちのメンバーにするように言われ、仕方なく引き込んだのだ。
「そう、それで知り合いって?」
「そうだな……明るく負けず嫌いで、それでいて他人思いの優しい少女だった……少し天然が入ってるときもあったがな」
「へぇ、私達一の天然受け体質のリイスがそこまで言うなんてね」
「おい、それはどういう意味だスプリング」
いつの間に聞いていたのか分からないが、軽く弄るスプリングにリイスはジトりとした目で睨む。
「ま、なんにせよ頃合いだしね~、スコール、ボスからの指令よ」
「!!……内容は?」
「一夏の護衛の終了と、アメリカの部下たちの練度の確認よ。ついでにリイスが抜けることも予想してたかのように補充人員の話まで」
「……いつも思うが、ボスはどこで私達の話を聞いてるのだろうな」
リイスが呆れてるけど、実際私達ですらその事を恐ろしく感じるから、ボスの直感が怖いのだ。
「あと追伸で、三十路過ぎて未だに浮いた話一つしないお前らにとやかく言われたくないからな……だそうよ」
「よし、さっさと準備しなさいオータム、あのクソボスの秘蔵の酒全部目の前でかち割ってやるわよ!!」
「同じくだ!!人の事に突っ込んだらどうなるか叩き込んでやる!!」
リイスはやれやれといった表情だが、私としては一応まだ29だし、何よりこのご時世IS使う人間に浮いたも沈んだもあるもんですかっての!!(何?レズビアンが男求めちゃダメなの!!)
「まぁそれはそれで二人の勝手だからな。さてと」
「あら?いきなり立ち上がってどうしたのリイス?」
「なに、最後の一夏の夕飯を作ろうと思ってな。多分明日には三人とも出るのだろう?」
リイスの何気ない一言に、私達は少しだけ固まる。
「そう……ね。なら一夏のために、珍しく私達全員で動くとしようかしら?」
「そうだな……、よしスプリング!!私とお前は買い物だ!!手持ちの金である程度買いまくるぞ!!」
「……ま、いいわよ。とりあえず千冬と飲む酒も買わないとね」
「ついでだ、一夏にメールして弾と数馬も呼んでおけ」
そう言って二人は昼過ぎというのに颯爽と出ていく。
「……さて、なら私達は先にあるもので色々と作りましょ?」
「そうだな……この時間ならケーキも作れるからな。型とかありましたか?」
「去年の一夏の誕生日用のがあるから任せなさい!!」
そう言って型を取り出すと、リイスは既にメレンゲと卵黄を混ぜ始めていた。
「……そういえば、リイスと二人きりというのも久しぶりね」
「ああ、そうだな。考えてみればあまり二人でということは任務含めて無かったからな」
「……リイスも、明日に出ていくの?」
その呟きに、リイスは一瞬だけ泡立て機を止め、すぐに再び動き出す。
「……なんのことだ?」
「惚けなくてもいいわよ。……その知り合いに会いに行くってことは、それなりに遠い場所なんでしょ?」
「……」
「けどね、これは私からの個人的な願いなんだけど……あなたには、一夏を繋ぎ止めて置いて欲しいのよ。光の存在の彼が、闇に染まらないように……」
亡国機業の実働部隊の私、オータム、スプリングはそれぞれが表でもそれなりに活躍していた事もあった。私はアメリカの元国家代表、オータムも同じくアメリカでのテストパイロット、そしてスプリングはカナダで篠ノ之束に匹敵する天才として、生物学では優秀だった。
けど、私は国家代表の座を欲した連中の仕組んだ事故で両腕を義手に、スコールは当時付き合っていた彼氏の技術者がテストに巻き込まれ事故死し、スプリングはその論文がISで応用できないからと突っぱねられと、それぞれがISという闇の犠牲を受けてきたのだ。
「けどリイス、あなたは闇と光の両方を純粋に生きれる、だから彼が闇に堕ちそうになったなら……」
「スコール、人にとって何が光か闇かなんてものはそれぞれだ。狂気を善と呼ぶ人間もいれば、無自覚を悪と断じるものも居る……」
諭すようにいうリイスの言葉に、私は言葉に詰まった。
「もし、もしも一夏と私の道が交わって、その時一夏が悩み苦しんでいるなら、私は喜んで助けてやろう。だが、そうでなく、誰が見ても悪というものへと成っていたなら、その時は正しく導いてやるさ」
「……そうね。そうしてあげて、彼は自分自身を軽く見る所があるから」
その後帰ってきた二人と共に作る夕飯は、何時もより多く、途中一夏より早く戻ってきた、最近軽い料理ならできるように仕込んだ千冬も加わった女性五人のキッチンは、狭っ苦しいはずなのにどこか楽しくも感じるのだった。
次回「08 そして時は……」
リイス「リリカルマジカル頑張るさ……なんだろうな、この懐かしさは……?」