無限の欲望と呼ばれる夏   作:ドロイデン

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第三章 タッグマッチトーナメント
24 黒兎と黙蝶


 ゴールデンウィークが明けた木曜日、久しぶりの登校に面倒だと感じながら教室に入った俺は周囲が何やらざわめきたっているのが聞こえた。

 

「……なんの騒ぎだこりゃ」

 

「あ、織斑君!!なんでも転校生が来るって噂でね」

 

 クラスメイトの鷹月さんの話によれば、なんでもドイツとイギリスの代表候補生がやってくるということで、どんななのか予想しているということらしい。

 

「ドイツとイギリスね……俺としてはあの金髪ドリルみたいな女尊男卑じゃなければ構わないな。あと暴力的なやつ」

 

「あー、確かに」

 

「いっちーはセシリンとモッピーのこと嫌いだもんね~」

 

 のほほんさんのその言葉に俺だけでなく回りにいた連中も深く頷いてる。そんなに二人ともアンチされてるのかよ。

 

「それにタッグマッチトーナメントも近いし、悪いけどそういった人と組むのって嫌だし」

 

「そりゃ同感……ってタッグマッチトーナメント?」

 

 なんだそりゃと俺が呟くと、のほほんさんがいつも通りのマイペースさで説明してくれる。

 

「そうだよ~生徒二人がタッグを組んでバトルするイベントなんだ~」

 

「つまり、連携や互いの長所短所を工夫できるようにする練習を、イベントとして行うってことか?」

 

「その通りだよいっち~特に専用機乗り同士のタッグでの試合は~機体の相性とかも考えなきゃいけないから難しいんだよ~」

 

 確かにその通りだ。けど、

 

「俺は体質的に出れないだろうけどな」

 

「む~いっちーってそんなに酷いの?刃物恐怖症?」

 

「酷いときだと食事用ナイフですら気分が悪くなるからな。場合によっては呼吸困難で死にかけるし」

 

 俺の場合、刃物恐怖症は自殺と鈴の刺傷事件のダブルパンチだから克服しようにも、前者は兎も角後者はどうにもできないという状態なのだ。

 

「そっか~だからいっちーはいつも実技の授業パスしてるんだね」

 

「その通り、特に訓練機の打鉄はブレード常備してるから、下手すると大変なことになるしな」

 

 ゲ○インならぬ『自主規制』になりかねんし。

 

「けどいっちーはかずーとだんだんよりも強いんでしょ?」

 

「そりゃ互いに武器なしのステゴロならな。だから――」

 

 次の瞬間、俺の死角から手を伸ばそうとしていた掃除用具の手首をひねり、そのまま窓の外へ放り投げた。

 

「これぐらい容易くできるぞ」

 

「おお~いっちーアクション俳優みたいだね~」

 

 そうかと笑ってると、凄まじい地響きが鳴り響いて

 

「いぃぃぃぃぃちぃぃぃぃぃかぁぁぁぁぁ!!きさまぁぁぁぁ!!」

 

「五月蝿いな掃除用具。つか、よく生きてるな、ここ三階だぞ」

 

「二階の窓になんとかしがみついたんだ!!そんなことより今日こそ剣道を」

 

「――うるせぇぞ、愚図が」

 

 俺は一瞬だけ魔法を使い掃除用具の後ろへと回ると、魔力(電撃)を込めた手刀で首に思いっきり叩きつける。

 

「――!?」

 

 何が起きたか分からないというような表情をして崩れ落ちる掃除用具を、今度こそ窓の外のゴミ箱へと投げ捨てる。

 

「お、ホールインワン」

 

「おお~いっちー凄い!!頭からゴミ箱に入ってるよモッピー」

 

「どうでもいいけどアイツ意外と重たかったな……」

 

 いったい体にナニを仕込んでやがるんだよ全く。

 

「いっちー、仮にも女の子に重いは禁句だよ~」

 

「ん……そういやそうだな。すまない」

 

「いや~織斑君は悪くないよ。……悪いのはあんな大きなものをぶら下げてる篠ノ之さんだよ、うん」

 

 俺が謝った途端に鷹月さんがそういい、さらに同感するようにクラスの女子の一部が静かに燃えていた。

 

「別に大きいも小さいも関係ないと思うけどな、俺は」

 

「織斑君は男だから分からないんだよ……持つ者への持たざる者の気持ちなんて」

 

「お、おう……そうか(言えない、俺の彼女は胸が小さいなんて口が裂けても言えない)」

 

 とその時、まるで見計らったように副担任である山田先生が入ってきた。次の瞬間クラス全体に刺さるような視線が先生にぶつけられる。

 

「はーい、皆さんおはようございま……なんか視線が怖い!?私なにかしました!?」

 

「あー、山田先生、今女子達はいろんな意味で山田先生の事敵視してますよ」

 

「な、なんでですか!?」

 

「男の口からは言えません」

 

 だって言ったらセクハラになるし。

 

「え、えっと……そんなことより、今日は転入生がこのクラスに二人居ますので、まず紹介しますね~。二人とも入ってきて下さ~い」

 

 その言葉と共に入ってきたのは、どちらも低い身長の女子だった。が、俺はその姿を見た瞬間内心叫ばずには要られなかった。なぜなら

 

(ち、チンクさんと千冬姉のそっくりさん!?)

 

 一人は銀髪の長い髪に左目の眼帯をした少女なのだが、なんと眼帯の位置と目の色を除けば完全にチンクさんと瓜二つ、完全に同じ見た目だった。どうにも此方の方を見て敵視するように視線を向けているが。

 

 そしてもう一人は身長は銀髪の方より若干高いくらいだが、その鋭い目付き、黒い髪、そして目の色や顔の輪郭まで、どこからどう見ても自分の姉である織斑千冬その人そっくりだった。

 

「それじゃレインさんから自己紹介お願いします」

 

「ん、マドカ・レインだ。イギリスの代表候補生で、そこのドリル馬鹿がマトモに性能を活かせないからと、この時期に無理矢理二号機持って来て性能を図ってこいと言われた。クラスの全員をライバルと思っているからよろしく頼む」

 

 その言葉を聞いた瞬間、女子の大多数が拍手とかをあげた。が、俺は内心なるほどなと思った。

 

(レインってことはオータムさんの指金か……まぁ本人からそれは直接聞くとしよう)

 

「それじゃボーデヴィッヒさんお願いします」

 

「……ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

「…………え、それだけですか?」

 

「そうだ」

 

「……えっと、好きなものとかは」

 

「他人にプライベートなことを教えるつもりはない」

 

 なんと声まで一緒……ってそうじゃなくてそんなことしたら入学式の日みたいに山田先生がブチギレ……

 

「……ラウラさん、ちゃんとした自己紹介をしなさい」

 

 やっぱりブチギレたぁぁぁ!?いや、まだ一歩手前の段階だから今度こそちゃんとした自己紹介を……

 

「ふん、聞かれてもないことを自分勝手に話すつもりはない。そんなものは自我紹介なだけだ、違うか」

 

「ぐぬ……そ、その通りです」

 

 と思ったら正論で返り討ちにしたぁ!?

 

「す、すげぇ……あの山田先生を正面から言葉で切り捨てたぜ」

 

「しかもマジギレ一歩手前のオーラに怯まずに……中々に度胸が据わってるよ」

 

 隣にいる数真や弾もビックリしてる。というか聞こえてた周りの女子達も頷いてるし。

 

「え、えっと……二人の席は後ろ側ですので……そちらに座ってください……はい」

 

 いつもの山田先生に戻ってしまいオドオドとしながら二人を席へと向かわせる。そしてボーデヴィッヒが俺の席の真横を通ろうとしたとき、

 

「……貴様が織斑一夏か」

 

「……そうだが」

 

 次の瞬間、まるで見事な右ストレートが俺の顔面に向かって飛んできたが、俺はすれすれで掴んで止めた。小柄だと思いきや中々に速かった。

 

「……何のつもりだ」

 

「……なるほどな、教官が強いと言っていたがそれは確かなようだな」

 

「ふーん、てことはお前、千冬姉がドイツで教えてた時の弟子か」

 

 そういや昔、千冬姉が少しだけ話してた気もするな。

 

「だが私は認めない……貴様が居なければ教官は引退などせず済んだ!!」

 

「言いたきゃ勝手に言ってろ……俺にはどうでもいい事だからな」

 

 元々引退することを決めてたのに、俺が誘拐されたことで曲解されたことを身を持って知ってる俺からしたらな。

 

「……それとだ、一つ言っておくぞラウラ・ボーデヴィッヒ」

 

「……なんだ」

 

「制服のズボンにナイフしまうのはやめとけ。学園内とはいえ銃刀法違反だ。せめてISの中にでも格納しておけよ」

 

「……何故貴様にそんなことを言われなければならん」

 

「……なんでかって、それはな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺、刃物恐怖症でさっきから吐き気が止まらないんだわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 みるみると顔が青くなってることに気づいたときには既に遅し、俺は暫くトイレの奥に踞っていたのは言うまでもない




次回 「25 クリエイティブ・チルドレン」
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