「……酷い目にあった」
昼休み、俺、弾、数馬、簪プラスのほほんさんというメンバーで食堂の一角に陣取ってお昼を食べていた。
「まさか三時間目終わりまで体調を崩すとは思わなかった」
「いやいやいや、刃物恐怖症なのにしまってあるとはいえ、ナイフ持ってる相手に数分堪えられただけ進歩してるって」
卵粥をちびちびレンゲで掬いながら食べてる俺を見ながら、フライを食べながら弾はフォローしてくれるが、正直それのどこが進歩なのか分からなかった。
「まぁそのお陰で実技の授業はパスできてたんだし良いんじゃないかな。あのマドカって娘のティアーズはブレードみたいにも使えるらしいし」
「それに射撃しながら動けるから、実力だけならあの金髪ドリル以上だしな。しかも千冬さんそっくりに近接戦もこなせるとか並みの実力じゃないぜ」
つまり、後継機に乗ってるうえに上位互換ってことか。あのドリルの立場が無くなるな、ホント。
「……そう単純な話ではないんだがな」
と、どうやら話を聞いていたらしい本人と、さらに同じくヨーロッパ圏のヒルダ、そしてダリル先輩がやって来た。
「よ、一夏、相席構わないよな?」
「ダメって言っても聞かないでしょうが、先輩」
「そらそうだ」
ケラケラと笑いながら言って俺らは空いていたテーブルを寄せて繋げる。
「……本音」
「私はかんちゃんの味方だから離れないし、お姉ちゃんズには言わないよ」
「……分かった」
と、どうやらいつのまにかのほほんさんまでこっちの陣営に加わっているらしい。まぁ別に構わないが。
「……それで、さっきの単純な話じゃないってのは?」
俺はマドカに話を振ると、フォークをグラタンに突きながら苦笑いを浮かべていた。
「私はセシリア嬢に比べてBT適正は高くないんだ。それをビットの数と半オート化させて補ってるだけだ。精密狙撃とBTのマニュアル操作だけならあっちに軍配が上がるだろうな」
「なるほどな……つまり同じ系列でもスタイルは違うわけか」
「そうだ、それに同じ条件で……互いにイギリスの第二世代『メイルシュトロム』にでも乗ったなら、勝率は多分五分五分だろうな」
それでも勝ち越すがと息巻いてるマドカに、俺は何となく苦笑いを浮かべる。
「しっかし、何度見てもマドカの見た目が……」
「織斑千冬に似ている、か?」
弾が言いかけた言葉をギラリと睨みながら返すマドカに何となく冷や汗を感じる。
「まぁ言いたいことは分かるがな。何せ私は織斑千冬の
「ッ……クローン」
つまり、俺とマドカは同じ存在……ただ俺と違って元の人間が分かってるということか。
「……でも、クローンの作成は難しいはず……」
「恐らくドイツが絡んでるんだろうな。あそこは遺伝子操作してでも軍事力を増強させたいんだろ。ナチの頃から変わんねぇよ、そこんところは」
まるで見てきたとでも言うようなヒルダの口ぶりからして、なにかしらがあったのは間違いないんだろうな。
「多分あの銀髪のやつ、アイツも遺伝子操作された人工人間だろうな、でなきゃアレで少佐とかありえねぇし」
「軍属!?それに人工人間だと!?」
「そうだよ、普通の代表候補生でもナイフを常時装備してるなんざありえねぇし、何より階級がそれなりにあるのに高校に通う年齢なんざ、数年前に禁止された
忌々しいがな、とステーキをかぶり付きイライラしてるヒルダを本音がまぁまぁと宥めてる。
「……なんか、俺の身近に人工人間が多すぎだろ」
「む?その言い方だと他にも居るような言い方だな」
「あー……」
マドカの食いつきに一瞬悩むも、仕方ないと割りきることにした。
「これオフレコで頼むんだが……俺と三組のシャルロットもそれなんだよ。シャルロットはついでに半分サイボーグなんだが」
「!?そうなのか兄さん!?」
「誰が兄さんだ」
変なことをいうマドカの頭にチョップを食らわせるが、内心兄と呼ばれることに不思議と違和感はなかった。
「いや、一応私は織斑千冬のクローンで、さらに兄さんと同い年……けど結局生まれたのは兄さんより後だから兄さんだろ?」
「そりゃ間違ってないけどさ……千冬姉の顔で兄さんと呼ばれると背中が痒くなる……って話を戻すぞ。まぁ俺はクローン元が誰かは知らないし、シャルロットもどちらかと言えばその
「なるほど……ということは兄さんとは遺伝子が繋がってないかもしれないから夜這いをしても……」
「言っとくけど彼女持ちだし、そんなことしたら電撃ビリビリの刑だからな」
「ガッデム!!」
まるで神に裏切られたとでもいうような悔しがり方をしてるが、俺としてはマドカを抱いたりしたら近親姦になるし、何より鈴に会わせる顔がなくなるからな。
「諦めろよマドカ。コイツァアタシがどんなに誘惑しても一線は守る男だからな」
「ダリル先輩の場合は慎みを持ってくださいよ、いろんな意味でオープンしすぎですから」
「バァロー!!寧ろ今の世の中女性からそっちの声かけてくれるだけでもありがたい位なんだぜ」
「彼女持ちに言われても困ります」
ちぇー、と言ってるが内心、いつかホントにこの人なら一年生の寮にまで夜這いをしに来そうなんだよな。
「……なんだか、一夏って
「簪、あとで対かたなしさん用に組手でもしようか?もちろん此方は本気でやるけど」
「ごめんなさい、許してください」
なんとも綺麗な身の翻しだが、簪は少し前に魔力全開の組手(束さんの結界内)をして30秒で犬神家に相成った位だからな。
ちなみに弾と数馬とトゥーレもその後組手をしたが、トゥーレは60秒、男二人は共に90秒で同じく畳に犬神家と沈没した。
「まぁ簪さんの目標は1分間は最低戦えるようにならないとね、武器使いだし」
「ガッデム……」
「かんちゃ~んファイトだよ~」
「……なら次は本音も一緒に「私はまだ死にたくないから嫌だよ!?」チッ」
簪の舌打ちに全員が苦笑いをしていると背中に視線を感じた。また掃除用具かと思って目だけで確認すると、視線の先にいたのは先に話題に上がったラウラだった。
「……なんだよ。つかナイフはしまったんだな」
「つい先ほど教官に苦言を申されたからな、それに体調を崩されたら私の用件が果たせなくなる」
良く見ると頭に何度も出席簿で叩かれたのか、たんこぶが何個も重なっていたうえに、目もどこが虚ろになってた。
「お、おうそうか……それで、何の用だ?」
「放課後、私と1対1で戦え」
なんとも端的でストレートな内容だった。
「それはIS戦か?それとも素手による組手か?」
「無論ISでだ。まさか教官の弟である貴様が断るとは思わないが?」
「……言っとくが俺は刃物恐怖症だ。レーザーブレードとかなら兎も角、金属刃を使うなら断らせてもらうぜ」
それに俺のISモードの『イモータル・チャイム』は装備が一切無い完全物理格闘型、狭いフィールドで射撃戦なんてされたら勝ち目は薄くなる。
「安心しろ、貴様の機体は物理格闘オンリーということは調べ済みだ、こちらもレーザー手刀以外の武装は使わんと誓おう」
「……なんとも正々堂々としてるな、つかだったら普通の組手でも充分だろ」
「貴様とは同じ条件で戦わねば意味がない。いくら此方が軍属とはいえ、男女では筋肉量で差が歴然だからな」
なんという正論……まぁそれでも中には男性が相手だろうと勝つ女性も居るけどな……千冬姉とか束さんとか
「「お前が考えてるのは細胞単位でチートな奴だからノーカウントだろ!?」」
まさかの親友二人に心を読まれたうえに叩き潰されました。ちきせう。
「兎も角だ、こちらから申請はしておく、放課後第3スタジアムに来い。そこで貴様が真に強いか見極めてやる」
それだけ言い残すとラウラは用はないとでも言うように食堂から去っていった。
「さて、面倒なことになってきたな」
オマケ
「よしお前ら、あのラウラって奴が何秒(±5秒まで)で犬神家になるか賭けようぜ!!ちなみにアタシは50秒にステーキ300gな」←ダリル
「なら俺は2分に愉悦麻婆豆腐定食!!」←弾
「じゃあ僕は1分半にお寿司特上で」←数馬
「アタシは1分にアップルパイのホールな」←ヒルダ
「む……なら私は1分45秒に七種のフルーツのトライフルを」←マドカ
「……1分にギガサイズ佐世保バーガー」←簪
「う~ん、なら30秒にお茶漬けセット~」←本音
「人を勝手に賭け事扱いするな!!」
「何を言ってる兄さん、イギリスではこういうのは格好のギャンブルの元だぞ」
「ここは日本だバカ野郎!!つか俺が負けたらどうするんだよ!!」
「その時は全員のメニューを一夏が全て奢りだぜ」
「ふ、ふざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
どうやら、負けられない理由が増えたようです。
次回 「26 織斑千冬」