無限の欲望と呼ばれる夏   作:ドロイデン

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30 一合の誓い

 VTシステムの黒い刀の一撃を千冬姉が弾き、その一瞬の隙を背後から俺の煉華の蹴りで吹き飛ばす。

 

(手応えがない……くそ、ラウラとの戦いでエネルギーを使いすぎた!!)

 

 魔法を物理法則へと変換し、尚且つ雪片を使った高威力の技による一撃、既に一戦を行ってる機体は出力と威力を押さえなければならないほどに消耗していた。

 

「一夏」

 

「正直キツいぜ千冬姉、残りのエネルギー二割じゃどんだけやりくりしても決定打は打ち込めない」

 

 エネルギー総量を100とするなら、煉華や煉呀は一回毎に約1消費し、雷雪系の技は最低20近くも消費する。基本技だけでボスを倒すなんて無茶苦茶も良いところだ。

 

「……エネルギーが回復すればなんとかなるんだな」

 

「そりゃ当然……けど、それじゃ()()()()()()()

 

 VTシステムの驚異は操縦者を侵食し、VTシステムが記録した戦闘データを元にしたAIが自動操縦するところだ。

 

 それだけなら、機体の動きに付いていけなくなった操縦者が死に絶え、強制的に機体が運動停止するだけ、時間稼ぎすれば問題ない。

 

 だが、既に戦闘が始まって7分以上経っている、こうなるともう一つ厄介な事に成りかねない。それは……

 

()()か……」

 

 VTシステムの第二の驚異、それは時間経過によるVTシステム……この場合機体と操縦者が同化することだ。これが一番良くない。

 

 束さん曰く、ISコアは生物のように意思を持ち、コアが操縦者の事を認め、進化するのが二次移行と呼ばれる物だ。それに至るには搭乗時間は勿論、コアと操縦者との親和性がものをいう。

 

 しかし、VTシステムに組み込まれたそれは、システムが強制的に操縦者とコアに働きかける事でISを強制的に二次移行させる事があるのだ。

 

 勿論それは簡単に起こることではなく、操縦者が一般人を越えた肉体及び素養を持ち合わせ、さらに操縦者がVTシステムが産み出した世界を完全に受け入れてしまった場合にのみ起こる。操縦者の精神を食い殺して。

 

 しかも束さんの妹であり、何より力を渇望する箒がそうなった場合、何とは言わないが嫌な予感がする。

 

「それなら……本音!!」

 

「あいあいさ~かんちゃん!!」

 

 簪の言葉と共にピットから紫色のボディに何やらファンのようなものが付いたISを纏った本音が飛んできた。

 

「更識妹……」

 

「するのはエネルギーの供給だから大丈夫です。ある程度回復させたら撤退させますし」

 

「というか~この蠱毒(こどく)の武器を使ったら敵味方なんて関係なくなりますから~ダメです」

 

 ……なんか凄い物騒な名前なんだが気のせいか?いや、そんなわけがない。

 

「はいはい、いっち~は此方に来てね~有線バイパスでエネルギー送っちゃうから」

 

「お、おう」

 

「更識妹、お前は近接武装で一夏と布仏を護衛しろ、アイツは暫く私が何とかしよう」

 

 そう言って飛び出した千冬姉の雪片とVTシステムの刀が激しい速さで斬り結び始めた。千冬姉のデータを使っているからか、超高速の斬撃は互いに防ぎあい、決定打には成り得ない。

 

「くそ……」

 

「落ち着いて一夏、あの駄姉が真っ正面から勝てない織斑先生の実力を、弟の一夏が知らないわけないでしょ」

 

「だからこそ歯痒いんだよ……」

 

「どういうこといっち~?」

 

「千冬姉の剣速……明らかに庇ってるように見えるんだよ。恐らく、本気の半分も出せてないんだ」

 

 その言葉に簪は愕然とした。本音も一瞬悩んだが、すぐに答えが分かったらしく表情をひきつらせている。

 

 VTシステムによる模倣とはいえ、データの大本は千冬姉のモンドグロッソで使われた対戦データ、過去二大会分の戦闘データを元にしている。

 

 詰まるところ、性能スペックだけで言えば千冬姉とほぼ互角。互いに遠距離装備がないならば五分五分の実力に他ならない。

 

 そんな相手を、油断などしない千冬姉が全力を出さない……となると何らかによって全力を出せないと考えるのが最もベターだ。

 

「……多分、織斑先生の機体は第一世代の初期モデルだから、機体自体が危なくなってるのかも」

 

「……充分にあるな」

 

 何せ束さんが成人する前に自ら作った機体らしく、当時としてのスペックは高くても今現在となるとかなりの型落ち……幾ら二次移行してるといえどもフレームやら装甲やらが脆くなってると言う可能性は十二分だ。

 

「無理しないでくれよ……千冬姉」

 

 

 

 久しく動かす愛機と愛刀は、まるでそうとは思わせないほどにしっくりと来ていた。

 

(六割は大丈夫……なら次は八割だ)

 

 雪片の振りに手首のスナップを組み込む。本来剣や刀を使うには褒められたものではないが、変化が入る事で今までの二、三分の動きに慣れてきてるだろうVTの思考AIを混乱させる。

 

 上段からの切り落としを、スナップを入れた首元への斬撃は防がれながらも確かにその薄皮を掠めていて、反応が遅れてることはすぐに分かった。

 

(幾らVTシステムでも、思考を一方に固めてしまえばな!!)

 

 さらに今度は連続で三段、しかも手首を使い抉るように突きを入れると、避けられはするもののVTの黒い装甲の一部が削れる。反応ができてない証拠だ。

 

「そらそらそら!!」

 

 さらに速めた高速での連続突きをVTは貯まらず後ろに逃げることで回避するが、その程度は予測済みだ。

 

 全体重を片足に乗せ、その一歩のインパクトで距離をほぼ0へとすると、一夏の拳術……煉呀だったか?見よう見まねだがそれを篠ノ之がいるであろう胸部へと叩き込む。

 

「!?」

 

 言葉を発することのない泥人形の体に、僅かだが亀裂が入った。

 

「これならば……っ!?」

 

 貫手の要領でその亀裂へと手を伸ばそうとした瞬間、まるで狙ったようにその泥が弾け飛び、奴を白い光が覆ってしまった。同化が完了してしまったのだ。

 

「千冬姉!!」

 

 エネルギーの補給が完了した一夏が側に寄り、やがてVTを覆っていた光が消えると、その姿を露にした。

 

 全体的に鎧武者という感じではなく、角ばった二対四枚の灰黒色の翼に、二振りの長刀と刺々しい手足の装甲、そして禍々しい灰色に光る各所と、篠ノ之の顔半分と体の一部を覆うVTの泥……正しく悪魔と呼ぶに相応しい姿へと変貌していた。

 

「漲ル……」

 

「「!?」」

 

「漲っテキたゾ!!こレが力……この力さエアレば!!一夏ヲこノ手にデキるんダ!!」

 

 さらに驚くべき事に奴は……篠ノ之箒は喋ったのだ。VTシステムを受け入れてしまった人間とは違う……エコーのようなものが掛かって、精神的には狂ってしまってるが、確かに奴は喋ったのだ。

 

「千冬姉……」

 

「構えろ一夏、奴は既に篠ノ之であって篠ノ之ではない……」

 

「あァ……一夏……一夏ぁァァ!!」

 

 まるで猪武者のような突撃を仕掛けてきた奴の長刀を、私はワンオフアビリティを発動させながらその刃をぶつけた。

 

 零落白夜……自身のSEを消費し、例えどんなものでも切り裂く必殺の刃を……奴の刀身は刃零れせずに真っ向からぶつかってきた。

 

「キャはハ!!私ノ邪魔をすルな!!」

 

「く!!」

 

「千冬姉!!この、雷閃煉華!!」

 

 背中から一夏の文字通り光速の蹴りを、奴は左手でまるで見えたかのように掴むと、そのまま私へとぶつけて吹き飛ばした。

 

 壁にぶつかる前に互いに着地するが、篠ノ之は顔を狂気に狂ったような笑い方をして見ていた。

 

「くそ、なんて馬鹿力だ」

 

「加えてVTめ、まさか零落白夜を無効にしてくるとはな……」

 

「マジかよ千冬姉!?」

 

「話なンてシテル余裕がアルのか!!」

 

 灰色に光る部分からVTの泥を成型したような刀を奴は産み出すと、それを躊躇いなく此方へと連続投射してきた。

 

「ちっ!!フォトンシューター、高速連射(ガトリングシフト)!!フルファイア!!」

 

 一夏の言葉で発生された電撃の弾丸が、奴の泥の剣を打ち落としてはいるが、それでも圧倒的物量に押し負け始めた。

 

「一夏!!迎撃は消耗するだけだ、移動で回避するぞ!!」

 

「おう!!ソニックムーブ!!」

 

 互いに縮地(一夏の奴は魔法というやつを込みで)で縦横無尽に回避するが、どうやら奴は一夏を重視してるのか、此方への刀の連写は少なかった。

 

「ク、束!!奴の解析はできんのか!!」

 

『急いでやってるよ!!けど、この束さんを以てしても時間が掛かるなんて、コアネットワークから外れてるのかな!!』

 

 あの天災であり天才を自称する奴が手間取る……それだけで奴の埒外さが充分に分かった。

 

「どうする千冬姉?正直言って厳しいんだけど!!」

 

「どうするも、寄って斬るしかあるまい、一夏はさっきの魔法だかなんだかで援護しろ、接近戦は私がする」

 

「ちょ、なんで千冬姉が魔法のことを!?」

 

 まぁ当然の話だが、そんなことを言ってる暇は今はない。

 

「そんなことは後回しだ、くれぐれも誤射してくれるなよ!!」

 

「ちょ……ああもうわかったよ!!フォトンシューター、強襲射撃(アヴァランチシフト)!!」

 

 零落白夜を解除し、奴へと再び剣撃を仕掛ける。流石に投射をやめ、手持ちの刀でそれを防いだ奴は狂った笑みを怒りへと変えた。

 

「まタ邪魔ヲするノか!!」

 

「ハ、狂った貴様などに大事な弟をやるわけにはいかんからな!!」

 

 軽く挑発してみると、それすらを予想以上に怒って見せ、防いでない逆の刀で斬ろうとするも、小娘の剣など当たる訳もなく体捌きだけで避けて見せる。

 

「それに奴の隣は既に決まってるんだ、とっとと諦めるんだな!!」

 

「ウルさイ!!一夏は私ノモのだ!!私ガ隣に居ルベきなんダ!!」

 

「貴様程度が隣に立てるわけがなかろう、餓鬼が」

 

「織斑千冬ゥ!!」

 

 頂点に達したのか、奴は刀に泥を纏わせ巨大になったそれを降り下ろそうとする。が、

 

「だからテメエは掃除用具なんだよ、モップが」

 

 一夏の放った弾丸数発で手元から吹き飛び、金属音と共にそれは地に落ちた。

 

「一夏?……いチかぁァァぁァァ!!」

 

「テメェが俺に依存したかったのは分かる、お前はISが出来てから何時も一人だったからな……」

 

 そう言う一夏の手には光輝く雪片の名を関した光剣が握られていた。

 

「けどな、依存したところで、お前は俺の隣に立てねぇ。自分のことしか考えられねぇお前じゃな」

 

 そう言って一夏が此方に視線を向けると、私は剣を下ろしてその場から少し離れる。

 

「……最後は任せたぞ、一夏」

 

「あぁ、任せろよ、千冬姉」

 

 そうして一夏は腰を下げ、刀を両手持ちで右下段に構える。篠ノ之流剣術の基本の構えだった。

 

「来いよ、篠ノ之箒!!せめて俺の手で、お前を叩き潰してやる」

 

「いぃぃぃぃぃぃチィィィィィィかァァァ!!」

 

 もう型も何もない、破れかぶれの突撃を仕掛ける篠ノ之の左手に持った剣を……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「篠ノ之流剣術改式……雷紅椿(らいこうつばき)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雷を纏った右下からの逆袈裟切りは、黒く汚れた刀を、その鎧を一撃の元に砕き、篠ノ之箒を覆っていた泥を消し飛ばした。

 

「……見事な一撃だったな、一夏」

 

「千冬姉……」

 

 一夏は呟くとISを解除しようとするが、私はそれに待ったを掛ける。

 

「一夏……最初で最後の指南だ……構えろ」

 

「千冬姉……」

 

「互いに振れるのは恐らく一撃……その全てに自分の全てを注ぎ込め」

 

 私は雪片の零落白夜を解放し、そのSEをほぼ全て刀身を纏うエネルギーへと変換した。

 

 一夏も理解したのか、手に持っていた光剣を構え中央に構える。

 

 図として見れば剣道のそれ……しかし互いに極限にまで研ぎ澄まされた刀身を構える。

 

「「行くぞ……一夏(千冬姉)!!」」

 

 互いにその刀を降り下ろし、一瞬の交錯と共に互いが背中を向ける。

 

「……いいか一夏、お前がどう生き、何を行おうと私はそれを止めない、お前が決めた道だからな。だから」

 

 雪片の刀身が折れ、宙を舞って地に落ちる。そして私の体から絶え間なく血が流れ、滴り落ちる。

 

「決して後悔だけはするなよ……自分が成すべきだと……自分がこうあるべきだと思った道を進め」

 

「千冬姉……」

 

「もし何かを思い、悩み、道が分からなくなったときは、今の一合を思い出せ……そして誓え、この一合に、お前の決意を……」

 

「……分かってるさ、千冬姉……俺は……俺は!!」

 

 やがてISが解除され、いつの間にかやってきた束が私のことを抱き止める。

 

「束……済まない」

 

「何言ってんのちーちゃん、一応これでもちーちゃんの親友なんだからね」

 

「ふ、そうだな……」

 

 謎の安堵感に身を委ね、私の意識は闇へと落ちていく。

 

 残されたのは、嘗て最強と呼ばれ、今まさに折られた、嘗ての名刀だけだった。




次回「31 姉弟」

VT箒の姿は紅椿の色違いと思ってくれると嬉しいです。また、千冬さんは死んでませんのでご安心を
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