無限の欲望と呼ばれる夏   作:ドロイデン

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31 姉弟

 あの怒濤の一日から二日が経ち、俺は身体中の凝りを解しながらベッドから立ち上がった。

 

 あの後、あの暴走モップ鎮圧に関わった俺達専用機持ちは、機体の修理ということでそれぞれの機体(俺達三人はデバイス)を束さんに渡し、山田先生から三日ほどの特別休日を貰った。

 

 何せ全員が全員機体は最低中破、大怪我こそしてないが疲労はかなりのもので、山田先生が学園長に話を通して俺達全員……エネルギー供給しかしてないのほほんさんにさえ、身体を休めるようにと、何とか掛け合ってくれたらしい。

 

 正直言えば全員、夕食も食べれないほどの疲れと、今現在疲労による筋肉痛でベッドに倒れて即熟睡となってたくらいだ。

 

「一夏……だいぶお疲れだったみたいだね」

 

「ドイツのチンク擬きと格闘戦した後にVT千冬姉とVT同化の三連戦だからな……正直言うと惰眠を貪りたいくらいだ」

 

「けど、そのお陰で刃物恐怖症は克服できたんでしょ?」

 

「不幸中の幸いにしては細やか過ぎるけどな」

 

 一応包丁もちゃんと持てるように馴れたし、ISのブレードも多分直接見れるだろう。それよりも問題は……

 

「千冬姉と……あとあの掃除用具だよな」

 

 千冬姉に関しては軽く切れただけらしく、束さん謹製の薬を塗って二日ほど安静にということらしい。それに伴って専用機の『暮桜』も束さんが完全修復……いや改修されるらしく、そっちは一ヶ月近く掛かるとのこと。

 

 このあと俺も千冬姉の部屋に行くつもりだが……マシになったとはいえ片付け嫌いな千冬姉の部屋が汚部屋になってないか心配だ。

 

 そして箒だが……こっちはかなり複雑で、肉体とISコアが融合してしまったらしい。なんでもVTの同化は机上の空論……もしかしたらレベルの代物で、その後遺症などは全く研究されていなかったそうだ。というより、そうなる前に操縦者が死んでただけなんだが。

 

 そういうわけで、束さんが自ら回収して研究するとのこと。最も研究が終わって、コアを回収できるなら回収して、その後は少年院に送るとのことだ。

 

 正直、起こしたことが事だけに、幾らシスコンである束さんにもどうしようもないとのこと。VTの被害者とはいえ、機体の無断使用という、死刑にされても文句の言えないことをしたのだ、甘んじて受けるべきだろう。

 

「今日はどうするの一夏、千冬さんの奢りのパーティは昨日に済ませちゃったしね」

 

「アレをパーティと呼べるならな」

 

 何せ全員のグラスにいつの間にかお酒が酌まれてて、それはもうここでは書けないような乱痴気騒ぎに、止めに来た山田先生とかたなし、あとのほほんさんのお姉さん(確か虚さんだったかな)にまで無理矢理飲ませてそれはもう大変、挙げ句のはてに束さんが現れての王さまゲームという大暴走……正直言えばはっちゃけ過ぎた。

 

「もう絶対、千冬姉とお酒は飲まない……」

 

「そこまでなんだ……あ、だったら一夏さ」

 

 

 

 

「と、いうわけで昼飯作りに来たよ千冬姉」

 

「なにが、というわけだ馬鹿者」

 

 寮の近くにあるスーパーで買い物し、途中でばったりと会ったマドカとラウラと共に、我らと同じく休暇中(というか療養)の千冬姉の元に訪れていた。

 

「だって千冬姉、下手したら携帯食料だけで飯を終わらせるじゃん」

 

「そこまで人として終わってないわ馬鹿者。というより後の二人は何故いる?」

 

「出掛けようとしたら兄さんを見つけたので、話を聞いて来たくなりました」

 

「右に同じくです教官」

 

「……ハァ」

 

 まぁ千冬姉の溜め息も分かるんだけどね。というかこの二人同室で似たような存在だからか、意外と仲は良いらしい。

 

「俺としては下手になってる腕で食べさせたくはないんだけどな」

 

「ほう?それは暗に私には食べさせてもいいと言ってるのか?毒味という意味で」

 

「違うよ!!」

 

 たく、と買ってきた袋から鳥肉の入ったパックを取りだし、ビニールを開けてぶつ切りに四等分。意外なことに確りと綺麗に並べられてる調味料から醤油とみりん、蜂蜜とにんにくチューブを取り出して、それを適量に混ぜてパックへ戻した鶏肉へそれを漬ける。

 

「ほう、照り焼きか?」

 

「当たり、千冬姉が昔好きだって言ってたから」

 

「フ、覚えていたのか」

 

 そら当然、なんたってたった二人の姉弟だ、好き嫌いは知り尽くしてる。

 

「……包丁、握れるようになれたんだな」

 

「……まぁね、千冬姉のおかげだよ」

 

「なんて事はない、お前が自分で恐怖を越えられた……それだけだ」

 

 そんなことはない、千冬姉があの時発破を掛けてくれなかったら、今こうして居ないのだから。

 

「あ、千冬姉味噌って何処にある?」

 

「信州味噌で良いなら、野菜室の上の段だ」

 

「好きだね千冬姉……」

 

「蕎麦味噌好きのお前の方が珍しいだろ」

 

「……なんか、姉弟って言うより夫婦みたい」

 

 マドカよ、その言い分はどうかと思うんだが……。

 

「そう言えば教官、一夏はタッグマッチトーナメントに参加できるのですか?」

 

「その事か……というよりも、タッグマッチトーナメント事態が中止になった」

 

「あー、もしかしてVTシステムの確認?」

 

「そうだ、オータムが言ってたのが事実だとしても、学園の訓練機がこうなったわけだからな、機体の確認作業で時間が掛かるそうだ」

 

 まったく、と嘆く千冬姉の表情はどこか浮かないものだった。

 

「というよりもラウラ、貴様一夏とアレだけ十二分に戦っただろうが」

 

「いえ、刃物恐怖症でなくなったということなので、寧ろ今度は一緒にタッグを……と思ってたのですが」

 

「勘弁してくれ……っと、出来たぞ」

 

 出来た料理を、これまたしっかりと片付けられたテーブルに乗せ、それぞれに箸ないしナイフとフォークを渡す。

 

「兄さん……一応箸は使えるんだが」

 

「あー……そういや意外とオータムさんも箸はちゃんと使えてたな……意外と教養はあるのか?」

 

 そういうことならと、俺は持ってきた割り箸を一つ取り、マドカのナイフとフォークを回収する。

 

「む……なら私も」

 

「ラウラはドイツから来て日が浅いんだから、そっちで食べた方が失敗しなくて良いよ」

 

「……そうか」

 

 マドカに説得され、不承不承という形だがラウラも折れた事なので。

 

「それじゃ、千冬姉」

 

「ん……いただきます」

 

「「「いただきます」」」

 

 そう言ってそれぞれが思い思いにテーブルの料理に箸をつける。

 

「ほう!!鶏肉が甘くて……そして同時にしょっぱいような……癖になる味だな」

 

「兄さん……ホントに刃物恐怖症だったの?なんか熟練感あるけど」

 

「失礼な……刃物恐怖症になる前はほぼ毎日俺が作ってたからな、経験だよ経験」

 

 さて、千冬姉の感想は……と思ってチラ見すると、その目には涙が浮かんでいた。

 

 しかもそれは箸を進めるごとに大きくなり、やがて耐えきれずにすすり泣きをしてしまう始末。え、どういう事?

 

「あ、あぁすまない……とても懐かしく感じてな、三年以上ぶりの一夏の手料理だからか」

 

「千冬姉……」

 

「情けない話だ……一夏を守りたくて努力してきたことが、寧ろ一夏を苦しめることになって……挙げ句恋人まで……」

 

 そう言うと千冬姉は俺のほうへ向き直る。その目は涙で赤くなって、ただでさえ吊ってる目をさらに吊らせたような、そんな目だった。

 

「一夏……お前が何をするか、何を目的としているかは問わない……だが忘れるな……お前は一人じゃない……何時だって、お前が呼べば私は今度こそ、例え何に阻まれようと、お前を守るために行動してやるとな」

 

「千冬姉……ありがとう」

 

 けど……こればかりは千冬姉に頼ることは出来ない……俺が、俺自身の為に、鈴を……。

 

「ふ、さて、飯が不味くなってしまうな……ほら、お前達もさっさと食べるぞ」

 

「あぁ、千冬姉」

 

 たった数分の事……それだけで全て伝わるとは言わないけど……それでも何となく分かるのは……姉弟だからだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オマケ

 

「む~……」

 

「……どうしたんだ、トゥーレ」

 

「なんだか、あのマドカって娘に場所を奪われたような……」

 

「ふーん……で、その手に持ってる黒と灰色の着ぐるみパジャマで何をするつもりだ?」

 

「え?マドカとラウラに着せてトリプルにゃ~んを……」

 

「……お前、段々とクアットロに似てきてるぞ?主に腐ってる方面で」

 

「え"!?」 




次回「32 甲斐性というなの地獄(水着選び)
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