バスから降りて、旅館の女将さんに挨拶した俺達は千冬姉達と同じ部屋へとやって来ていた。
「一応IS学園は女子校のようなものだからな、それに教員の部屋ならば下手に騒ぐ馬鹿者も来んだろ」
とのことだ。そう言って千冬姉は鞄から袋を取り出して、此方へ向かって投げてくる。中には白い薄手のパーカーと、青を基調としたパンツ水着が入っている。ご丁寧にビーチサンダルまで。
「これは?」
「なに、お前が自分の水着を買わないで部屋に残ろうとするのは目に見えてたからな、リイスとオータムに頼んで買っておいてもらったんだ」
「……用意周到なことで」
「姉としても、折角の海に来て遊ばない弟はどうかと思うからな」
仰る通りだ。
「私は会議で席を外すが、くれぐれも部屋にずっといるなんてことはするなよ」
ということで、海辺へとやって来たわけなんだが……
(……鈴に知られたら折檻物だな)
流石というか、IS学園の女子のレベルはかなり高いわけで、とりわけ水着ということもあって目移りするというものがある。
ちなみに数馬と弾とは別行動中である。男三人固まるのはなんだかズルいと女子から苦言を申された為だ。
「あ、一夏来たんだ」
と、此方に気付いたトゥーレ……もといシャルロットとマドカ、そしてラウラという組み合わせに何となく何時も通りという感じを覚える。
トゥーレはオレンジのビキニにパレオのような物を巻いたスタイルで、イメージカラーと普段の元気さも相まってとても良く着こなしていた。
マドカは紫のタンキニなのだが、千冬姉と似た顔立ちで幼い体という物をこれまた上手に組み合わせていた。
そしてラウラなんだが、こっちは純粋にフリル付きのビキニだった。マドカと同じく幼い体つきでありながら、かなりのギャップに少し驚いていた。
「まぁな、三人は三人で何やってんだ」
「サンオイル塗って海で軽く泳ごうかなって思ってたところなんだけど……二人がちょっとね」
「あぁ……」
恐らく軍人のラウラが遠泳でもしようとか言い出して、それをマドカが受けてたってしまったのだろう。人当たりが良すぎて、回りの空気を読めるトゥーレ故の出来事だと、俺は瞬時に納得した。
「ラウラ、海に来たんだから適当に遊んどけ、遠泳とかは別の機会にもできるだろうしさ」
「む……一夏がそう言うならば仕方ない。ならば一夏、あそこでやってるびーちふらっぐ?を一緒にやろうか!!」
ビーチフラッグ?何とも珍しいものをとラウラの指さした方向を見て思わず顔を背けた。
そこには赤と青のビキニを着こんだ二人のヨーロッパ代表候補生……ヒルダとセシリアが気品も何もかもかなぐり捨てて相対する生徒を蹴散らしていたのだ。
しかも負けた女生徒達は揃いも揃って上の水着をひんむかれて居るのだ。一応男子も居ることを忘れないで貰いたいのだが。
「フフフ……ヒルダさん、いい加減負けてくださってもいいんですのよ?」
「ハ、痛姫様こそ、こんな遊戯に出てるくらいならあっちで優雅に日光浴でもしてるんだな」
バチバチバチ、とまるで龍と虎が相対するように火花を散らすその様は圧巻と言うべきなのだが、そのひんむいた水着を持って言う台詞では無いと思う。うん。
「……いいかラウラにマドカ、ああ言うのは絶対に真似しちゃダメな物だからな」
「む……そうなのか?」
「そうだよラウラ、さ、私達は浮き輪でも借りて遊びにいくぞ」
マドカに引っ張られる形で連れていかれるラウラに、内心マドカへグッジョブと賛辞を送る。
「……二人とも」
「「うわ!?」」
背中からいきなり聞こえた声に揃って驚くと、そこには珍しく眼鏡を外し、ワンピースタイプの水着を纏った簪と、着ぐるみ水着を着た本音の姿があった。
「アハハ~いっち~もしゃるるんも驚きすぎだよ~」
「そりゃ驚くわ、いきなり真後ろから言葉を掛けられたら」
俺の突っ込みにもへこたれることのない本音にため息をついていると目の前に突然水が横切った。
何事かと思うと、いつのまにか大型の水鉄砲を装備した簪が俺と本音の開いた空間に水を飛ばしてきたのだった。
「ちょ、危な!!」
「油断大敵、ほら一夏とトゥーレも早く取らないと撃たれるよ?」
まさかの宣言に慌てて水鉄砲置き場を見て、瞬時に俺は中型(連射不可)を一つ、トゥーレは小型の水鉄砲を二つ装備して海へと向かう。
ちなみに本音はというと、俺と同じく中型モデル(連射可能)の水鉄砲を装備しているうえに、回りの女生徒達も数人、様々な水鉄砲を装備していた。
「……it's show time」
ここに一種の戦争が始まったのだった。
「おーい、生きてるか簪」
暫くして、変換資質『電気』を使った電気水によって敢えなく撃沈となった簪達を浜辺へと引っ張りあげる頃には既にお昼近くになっていた。
「……それを使うのは反則だと思う」
「人の心読んで的確に攻撃を当てに来る奴の台詞じゃないよな」
いやガチで動こうとしたところを射抜かれそうになるし、慣れない海での移動のコンビネーション、ソニックムーブを使わなきゃまず避けれないし当てれなかったわ、ホント。
「というか二人の動きが既に人の域を越えてると思うよ」
「?そうか?」
「こんなのお遊びレベル」
『いやいやいや!!』
回りに居た生徒達が手首をおもっくそブンブン振って否定している。
魔法を知らない面々からすれば、動きにくい海で高速で動いたり、それに対して当たるように射撃したりするなんて芸当、普通に万国ビックリショーものな出来事である。
「さて、と……ちょっと俺は席を外すわ」
「ん、本音一応付いていって」
「はーい、かんちゃん」
ということで、俺と本音は海から離れ、旅館近くの崖へとやって来た。
「こんなところで何するの?」
「……なぁ本音、お前はこれからどうするんだ?」
俺は振り返りながらそう聞いた。
「簪は俺達と一緒に行く……けど本音、お前は魔力を持たないし、まだ俺達に利用されてたってだけで済ますことができる」
「……いっちー、それ本気で言ってる?」
「当たり前だ、もし覚悟も無しに付いてきて、それでこの先どうするんだ?魔力が無いってことは、それだけで弱点になるんだ」
勿論、AMFが関係ないというメリットも無くはないが、それでも寧ろ戦力として数えるのは厳しいのが現実だ。
「……いっちー、それは私の専用機の能力を聞いても言える?」
「……?」
「私のIS『蠱毒』はね、文字通り毒を操れる機体なんだよ。神経毒や催眠毒、勿論致死性の猛毒だって使える。いくら魔力があっても、気化性の毒ガスを使われればどんな魔導師も意味を成さないんだよ」
それに、と本音は続ける。
「私の御主人様はかんちゃんなんだ、そのかんちゃんを守るために、支えになるために私が居るんだよ、同じ
その言葉に、そういえばと簪の実家の事を思い出した。
「私はね、かんちゃん達と同じ魔導師の一族なのに、生まれついてリンカーコアが無くて、何時も除け者にされてきたんだ。かんちゃんと同じ、必要とされてなかった。けどだから、私とかんちゃんは一緒に頑張って努力してきた」
「魔力の無い私は毒の調合を、かんちゃんを守るために必死に、自分の命を注ぎ込んで学んだんだよ、時には自分で自分が調合した毒を飲むときもあった。どれ程の致死性か調べる為に」
……それはかなり危険な行為だった。幾ら自分が調合したとはいえ、毒は毒。下手すれば命に関わることさえあり得る。
「そんな私を、かんちゃんは見捨てないで居てくれた。ひとりぼっちだった私に、何時も
目からそれの本気さは充分に見てとれる。本音は簪の忠臣であり、たった一人の主だと決めているのだろう。
「……お前の負けだよ一夏」
と、どこから聞いていたのか、突如として現れた姉に驚きを隠せない。
「千冬姉……」
「まったく……一夏、鈴を救うために行くんだろ?」
「……あぁ」
「……やれやれ、明日には
おどけたように呟く千冬姉に、俺は何も言えずに俯く。
「馬鹿者、お前が俯いてどうする、しゃんとしろしゃんと」
「けど……俺は」
「……あの一合の誓いを忘れるなよ一夏、私にとって、奴は既に義理の妹なのだ。お前はそいつを救うことだけを考えろ」
それだけ言って、千冬姉はさっさと海の方へと歩いていってしまった。
「……本音、本当に良いんだな?」
「当然だよいっちー」
「……なら――」
決戦に向けての前哨戦、果たしてそれが意味するものは――
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