「……流石に盾の守護獣を相手は骨が折れるな」
私は束博士から貰ったデバイスに設定されていた二本の日本刀で応戦しながら、目の前の相手を見定める。
一人は闇の書時代に私を倒した、成長した少女。完全に砲撃戦主流という形でマスターしていて、正直今の私で倒せるかと聞かれれば微妙な所だろう。相討ちすら儘ならない気もする。
次にかの金色の少女の使い魔、此方はあのときよりだいぶサイズが小さくなり、魔力もそこまで高くないが、機動性と体術は恐らく盾の守護獣に匹敵してるだろう。
そして、
「……何故お前が、主を悲しませた闇を守るようなことをする?」
「……無口なお前がそこまで言うとは珍しいな」
「答えろ、お前は主を悲しませないために自ら封印されたはずだ。そのお前がなぜこのようなことをする」
忠節を重んじる盾の守護獣に、私はフっと笑う。
「安心しろ、アレは確かにナハトヴァールのそれだが、もはや再生も何もできんし、何より夜天の書とは完全に繋がりが消えている。主はやてを蝕む事はありえない」
「……」
「ただ、私には主とは別に守りたいものが出来た。ナハトヴァールは彼を強くさせるための試金石だ。私はそれが終わるまで、邪魔をされないように守護してるに過ぎない」
そう言って私は刀を構える。烈火の将には及ばないが、これでも元はベルカの騎士だ。扱えない武器は……風の癒し手の指輪ぐらいだ。
「それでも戦うというのなら私は別に構わない、元融合機で現在は人間である身だが、武技の冴えは劣らぬものと知ることになるぞ」
まぁもっとも、ボウガン以外の武器を使うのは久方ぶりだがな。
「そうか……だが、戦うのは私ではない」
「ほう?……ということは貴女ですか……主はやて?」
転移魔法で恐らくあの艦から来たのであろう、成長した主の姿を見つつ私は彼女に質問する。
「……なんでや、なんで」
「それは、私が生きていたかということですか?」
「ッ!!……勿論それもある、けど、なんでリインフォースが……アインスがまた敵になるんや……もうあんな悲しいことは……沢山やろ」
……やはり貴女は優しすぎますね、主。
「……確かに、私はあのマテリアルの際までは封印されていました。それは事実、ですが、それより一年した後、私はこの世界でいう所のギリシャで、記憶も名前も失い転生しました
記憶のない私は生きるために様々な事をしました。そしてある時、ある少年を誘拐し、その少年は絶望の目で自らの胸にナイフを突き刺しました
私達は自分達が誘拐したということを忘れて彼を救おうとしました。ですが結局、私は何もできなかった。彼の親族から保護者という役目を貰い見たのは、彼を取り巻く負の感情」
あぁ、思い出すだけで拳を握りしめたくなる。
「分かりますか、ただ姉が優秀であるために出来損ないと呼ばれる彼の心の傷が、
ただ男だからというだけで、回りの女子から暴行される彼の痛みが、
ただ彼が優秀である姉の弟だからというだけで周りから暴行され、痛覚すら無くなる一歩手前の彼の傷が
何より、自分が存在するというだけで大切だった少女を、目の前で失うその辛さが!!」
主と一夏は似ているが全く真逆の存在だ。自身のハンデを将や友人が助けようとしてくれた主に対して、一夏はほぼ全ての人間が敵だった。
お互いに他者を思いやれる優しい人間だった……だが主はそれを受け入れられ、一夏はそうでなかった。
「……もしかして、その彼言うんは、織斑一夏君の事か?なら、その目的はなんや、なんでナハトヴァールを使う!!」
「……言った筈です、ナハトヴァールは彼を強くさせる為の試金石だと。それ自体に必然性は無いに等しい」
「……」
「彼の目的……それは彼の大事な少女を目覚めさせること。そのために、彼は修羅の道を進んでる……それだけです」
そう……彼にとって大事なのは少女だ。そのためなら例え自らの命をも捨てる覚悟がある。
「……分かっとるやろリインフォース、死んだ人間は生き返らん事は」
「言葉が足りませんでしたね、彼女は生きてます。彼を守るために刃物で刺されはしたものの、目が覚めないだけで心臓も何も動いてる……二年前からずっと」
「な!?」
そう、彼女は生きてる……だからこそ、一夏は目覚めるためならなんでもやる。
「なんでそこまで……」
「あのときの将達と一緒です。主を助けるために、自ら闇の書の蒐集をしていた将達と同じように、彼は少女を助けるために、自らを捨て石にしてでも動く……原動力は一緒なんです」
もっとも、
「それを支えるために私や、彼の仲間がこうして共に動いている……それだけは勘違いしないで貰いたい」
一夏君の真っ直ぐ過ぎる所に、私達は引かれたのだ。
「……リインフォース」
「話は以上です。さて、これ以上彼女に結界を攻撃されても叶いませんし、何よりブレイカー級を射たれたら巻き添えを喰らいかねない、よって……排除させてもらいます」
そう言って私は刀をしまうと、シューター『ブラッディーダガー』をかの桜色の魔法を使う少女……確か高町なのはといったか、彼女へと発射する。
しかし、
「……ブラッディーダガーですか、主」
「同じ夜天の書の魔法や、私が使えない事はないやろ」
主が射出したそれに阻まれ破壊された。恐らく威力は同じぐらいか……。
「あくまで立ちはだかる……そういうことですか」
「そうや、ついでにリインフォースのお陰で全て繋がった。……彼はジェイル・スカリエッティに彼の彼女を目覚めさせる治療をさせてるんやろ」
「……流石にここまで喋れば分かりますか……そうです。地球の医療技術でダメなのならば、かのジェイル・スカリエッティが持つ技術を使えば恐らく……いえ、確実に意識を取り戻す。彼はそこに全てを賭けている」
仕方ないと刀を再び抜こうとしたとき、後ろにヒヤリとした感触を感じた。
「動くな、主の目の前でお前の首を落としたくはない」
「……なるほど、烈火の将か。いや……」
後ろの将だけではない。主の横に鉄槌の騎士と風の癒し手も揃っている。ヴォルケンリッター勢揃いというところだ。
「やれやれ、私一人にここまでするとはな」
「ワリィがはやてをやらせる訳にはいかねぇんだ。抵抗してくれるなよ」
「フ……だがな」
私は上空に魔方陣を展開させ、『ミストルティン』を将や騎士達全てに降らす。
「な!!」
「詠唱無しで大規模魔法を!!」
流石のこれには驚いたようで、それぞれが回避に専念する。その間に私は距離を取り、再び刀を両手に抜く。
「やはり集団戦でも無ければ、あの技は被害は少ないか。まぁ、当然と言えば当然だがな」
「チッ、シグナム!!」
「分かっている!!」
烈火の将と鉄槌の騎士の二人が一気に飛び出してくる。交戦能力が高く、連携も何度もしてるからの動きだろう。だが、
「はぁ!!」
烈火の将の『レヴァンティン』を受け流し、鉄槌の騎士のグラーフアイゼンは飛び上がって回避する。無手だった前までならともかく、今は刀を得物にしてるのだ、これぐらいは容易い。そして
「紫電……双閃!!」
二振りの刀から放たれる白い剣閃に、さしもの二人にも驚きを隠せないもので、防がれるものの距離を取ることは出来た。
「シグナム!!ヴィータ!!」
「大丈夫だはやて!!」
「だが……流石に鈍ら剣技と侮る事はできなくなったな」
やれやれ、どうやら二人の本気に火が入ってしまったか。
「私としてはここで素直に引いてもらえればありがたいんだがな……」
「幾らお前の願いでもそればかりは叶わん。主はやての故郷であり、主の友が住まわれてる土地だ、そう易々と見捨てはせん」
「……まぁいい、どちらにしろ私が引いたところで追ってくるのは目に見えてるしな」
仕方ないと刀を一旦しまう。何事かと怪しむ二人だったが、それはこの場では命取りだ。
「シギルウィンド、
次の瞬間、私の肉体を覆っていた騎士服が鋼鉄の鎧……銀色のIS姿へと変貌させた。
「な!?デバイスがISやと!?」
「驚くことはない、篠ノ之束曰く、ISはデバイスを独自進化させたものらしい。故にこれは、魔導騎士としてのデバイス形態とIS形態とを両立させた世界にまだ5つとない第五世代デバイス、その完成形だ」
そして同時に、
「ISとしてもたった世界に一つの第四世代機……元の名は『紅椿』というらしいが……この『シギルウィンド』の性能は並みの機体の追随を許さん代物だ」
少し見た目大きくなった二本の太刀を構え、目の前の守護騎士達に剣を向ける。
「け、たかがパワードスーツ程度で!!」
やはり攻めてくるのは鉄槌の騎士か……予想通りだ。
「!!あかんヴィータ!!」
「遅い」
振り下ろした剣から放たれる五本のレーザーが鉄槌の騎士へと発射され、慌てて回避するもレーザーは屈折し追尾をやめない。
「旅の鏡!!」
当たる寸前で風の癒し手の転移魔法で邪魔されたが、食らえばいくら鉄槌の騎士でも、最悪落とされてもおかしくない。
「ワリィシャマル」
「反省は後、それよりも……」
「あぁ、単純に火力が高すぎる」
ヴィータが恐ろしげに言ってるが、主はやては予想通りとでも言いたいような顔をしていた。
「……リインフォース、そのISモードでも非殺傷設定は変わらんのか?」
「……一応これもデバイスですからね、非殺傷設定はありますし、殺すつもりは無いので当然かけてますよ。質量兵器を使う装備も、表面に魔力コーティングされてますから」
「……なんや、まるでフォートレスの完成版やないかそれじゃ」
呆れてるが、それでも目は真剣そのもの、まるで攻め時を図ってるかのようだ。そして、
「「ブラッディーダガー!!」」
互いのシューターがぶつかりあう。砲撃支援特化だと思ってはいたが、それでも彼女……高町なのは同様にシューターを操る才もしかりだったようだ。が、
「クッ……」
「どうしました?魔力量ならば主の方が上ですよ?」
超高速で射ち続ける弾丸が、徐々にだが此方が押し始めた。
当たり前だ。幾ら主と同じ魔法、同じ威力だとしても、古代ベルカ時代から使い続けてきた私と、使って凡そ7~8年の主では、魔力消費効率は断然こちらの方が上手だ。
「く、リインフォースこそ、私より魔力量少ないんやったら、こんなバカスカ射っててええんか?」
「それは素の事。今の此方はISのエネルギーを流用できるので、少なくともユニゾン状態の主でないと持ちませんよ」
「言ってくれるな!!けど……」
主が言い淀んだ次の瞬間、後ろから嫌な殺気を感じて上空へ退避する。そこには巨大な光の剣を携えた金髪の少女……確かテスタロッサと言ったか?彼女の一閃が先程まで居た場所を切り裂いていた。さらに
「ディバイン……バスタァァァ!!」
「く……!!」
あの高町なのはまで此方へと攻撃してくる。なんとか砲撃はISに装備されたビットの特殊エネルギー障壁で防げたが、それでもかなりの威力だった。
「リインフォースさん、観念してください」
「そちらは一人、此方はまだ管理局武装隊が数十名近く居ます、戦力的にも厳しいです」
「……なるほど、確かにその通りだな」
流石にこの人数を相手に一人で大太刀周りできるかと言われれば不可能だろう……そう、
「――『
いきなり現れたISに主一同が全て驚き、周辺を白い霧を産み出した。
「これは……神経ガスか!!」
「せいかーい、私が独自に調合した神経麻痺のナノマシンガスだよ~。ISの特殊エネルギー障壁以外じゃ防げないし~、何より最低でも30分は体の自由が利かなくなる代物だよ」
なんてものを味方の居る場面で使ってるんだと思うが、まぁ結果的にかなり魔力を使うデアボリック・エミッションを使わなくて済んだと思えば安いものだろう。
「そちらは終わったのか?」
「もちろーん、
「……毒ガスか?」
「うん、トゥーレに出られないように結界張って貰って~、その中で毒ガスを撒いておしまいだよ~」
……大人しい見た目をしてえげつない内容だと思ったが、それをさせるだけの恨み辛みがあったのだろう。
「それに~目当てのデバイスも見つけられたしね」
そう言って出したのは、古代ベルカの紋様が描かれた藍色の書物……ストレージデバイスだった。
「そうか……どうやら一夏達も終えたようだ、撤退するぞ」
「はいはーい」
「待ちや……リインフォース」
今にも倒れそうな主の姿に、私は自分達が行ったとはいえ胸に罪悪感を感じた。
「すみません主……ですが、私は彼を見守る……そう約束したのです」
「リインフォース……」
「さよなら主……願わくば、再び相まみえる時が敵ではない事を祈って……」
私は最後にそう言い残し、隣に居る少女を連れ合流ポイントへ転移した。胸にある罪悪感を噛み殺して。
次回「39 闇を超えて」