無限の欲望と呼ばれる夏   作:ドロイデン

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今回の番外編は本編プロローグ1から半年ほど前……一夏と鈴にとって大事な日を書かせてもらいました。はい

というわけで、UA100000人突破&IS編終了の番外編……スタートです


番外編 white snow bell

 あれは鈴と出会った年の冬の日の休日だった。周りの同級生は珍しく積もった雪で大はしゃぎしてるところ、当時の俺は誰とも話さず図書館で本を読んでいた。

 

 時間が許す間はここで静かに過ごす、どうしてかここの人達は俺を追い出そうとせず、寧ろ俺が本を取れないときは代わりに取ってくれたりした。

 

「……」

 

 ふと外をチラリと見ると、見覚えのあるツインテールの少女……友人の凰鈴音が他の同級生達から雪玉を投げつけられていた。

 

 一瞬雪合戦でもしてるのかと思ったが、それにしては鈴ばかりが雪玉を受けてると思って不思議に思っていると、またぶつかった雪玉に俺は言葉を失った。

 

 その雪玉が壊れて中から出てきたのは()()、それも親指大の大きさのそれを入れた雪玉など受ければ最悪死んでもおかしくないそれを、同級生達は平然と彼女に投げつけていた。

 

 俺は慌てて本を閉じて外へと走る。周りの大人たちが珍しそうに驚いていたが関係ない。数少ない、自分をただ織斑一夏として見てくれる友人のもとへと走る。

 

「なにやってるんだよ!!お前ら!!」

 

 外に出て大声をあげて同級生達に近寄る。少年たちは一瞬驚きはしたが、次の瞬間、一人の男子が俺の顔へと石入りの雪玉を投げつけてきた。

 

「がっ……!!」

 

「一夏!!」

 

 俺の悲鳴に、傷だらけのはずの鈴が側へとよってくる。幸い頬に当たっただけで目はなんともなかったが、それでも石が入ってるそれをぶつけられた痛みが刺さるように襲う。

 

「よっしゃ!!ボーナスポイントだ!!」

 

「豚な外国人と、嫌われものの織斑だからな!!もっと当てちまえ!!」

 

「っ!!鈴」

 

「え?……きゃ!!」

 

 俺は鈴を押し倒し、彼女に向かってくる弾丸を背中で守る。子供とはいえ石の入った雪玉を何発も何発も受け、時々呼吸すら忘れるほどの痛みに襲われる。

 

「こら!!お前ら何やってる!!」

 

 と、図書館から見ていたのだろう大人の数人が、これまた慌てて此方へとやってくる。

 

「や、やべ!!」

 

「に、逃げろ!!」

 

「こら!!待ちなさい!!」

 

 流石に少年達も見ず知らずとはいえ大人が出てくるとは思ってもみなかったのだろう。大慌てで逃げ惑い、大人も一人を残して追いかけていく。

 

「君達、大丈夫かい?」

 

「わ、私は……そ、それより一夏が」

 

 漸く慣れたたどたどしい日本語で鈴が大人に俺の事を話す。

 

「……僕は大丈夫です」

 

「嘘を言っちゃダメだ!!雪玉だとはいえ石が入ってたんだ、身体中怪我してるだろう」

 

「……ホントに大丈夫です。何時もの事ですから」

 

 俺は無理矢理立ち上がると、ふらついた足取りでその場から立ち去る。歩くだけで激痛が走るが、こんなのもう慣れっこだったし――

 

「――アレ?」

 

 雪に足を取られ倒れた。何時もなら余裕で立ち上がれるのに体に力が入らない。そして意識がどんどんと離れていって……

 

 

 

 

 

 目が覚めて初めて見たのは、見慣れないベージュ色の天井だった。

 

 ここは、と思って体を起こそうとすると吊ったような痛みが襲う。

 

「気がついたかな?」

 

 ドアから入ってきたのはあの時助けてくれた大人の人だった。手にはタオルを持っていて、その表情はとても笑顔だった。

 

「……ここは?」

 

「私の家だよ。あのあと君が気絶してるのを彼女と見つけてね、偶々家が近かったから運んであげたのさ」

 

「……彼女?」

 

 彼の言葉に疑問に思ってその指が指すところを見てみると、そこには腕とベットを枕に眠ってる少女……鈴の姿があった。

 

「そっか……鈴が」

 

「倒れてからずっと看病してくれててね、感謝してあげた方が良いよ」

 

「……寧ろ、感謝しっぱなしな気がしますけどね」

 

 鈴は最初から、俺の事を織斑一夏として見てくれた、接してくれた、それだけで感謝しきれないくらいだ。

 

「くしゅ……」

 

「あ……」

 

 小さなくしゃみが聞こえ、寝ぼけ眼の彼女が顔を上げる。普段は活発な彼女の寝起きの顔に少しだけドキリとする。

 

「?……ッ!?///」

 

 鈴も漸く覚醒してきたのか、俺の顔を見ては顔を紅くしはじめ、口を呼吸する金魚のようにパクパクと開く。

 

「えっと……その……見た?」

 

「あ……うん、その……可愛い寝顔だったよ?」

 

 自分でもなぜ疑問系になったのか分からないが、途端に彼女の顔がさらに紅くなる。

 

「あ……ありがと」

 

「っ!!///」

 

 何に対してのありがとうなのかは分からなかったが、その照れた顔で言われた俺の胸は途端に鼓動を増した。

 

「おやおや……」

 

 家主は家主でなんだか笑顔で俺達の事を見ると、「ちょっと図書館に忘れ物取りに行ってくるから、二人で話でもしてなさい」と言って部屋から出ていってしまった。

 

 完全に俺達二人っきり……今思えばかなりお節介だろと家主に物申したくなるが、それでも懐かしい二人だけの時間だった。

 

「……ありがとね、私の事守ってくれて」

 

「……友達の、それも女の子を男子が守るのは当たり前だろ」

 

「うん、でもありがとう」

 

 お互いに面と向かって話すことができず、ただただ沈黙だけがその場を支配した。なんと言って良いか分からなかった。

 

「ねぇ、一夏」

 

「ん?」

 

「一夏はなんで何時も私の味方をしてくれるの?転入してきたときもそうだったよね?」

 

 鈴の言葉に俺は少しだけ考えた。

 

「……傷ついて欲しくなかったから、かな?僕って何時も虐められる立場だからさ、転校してきたすぐの鈴にそんな嫌な気持ちになって欲しくなかったし」

 

「……自分が傷ついても?」

 

「僕は何時もされてるからね、今日みたいなのも何回かあったし、女の子の鈴が傷付くよりは良いよ」

 

「良くない!!」

 

 まるで悲鳴のように大きな声で叫んだ彼女に俺は驚いた。そしてその目には溢れんばかりの涙が溢れそうになっていた。

 

「私は……私は一夏が傷つくのが嫌だよ!!なんで嫌って言わないの?なんでやめてって言わないの?なんで辛いのに弱音を言ってくれないの!!」

 

「鈴……でも」

 

「私は!!一夏が私の事を傷ついて欲しくないのとおんなじくらい、一夏が傷ついて欲しくないの!!」

 

 まるで訴えるように俺の肩を掴んで、まるで諭すように彼女はそう言った。

 

「……なんで?なんで鈴がそんなこと……」

 

 俺は分からなかった。虐めたい人は数多く居たのに、傷ついて欲しくないと言われたのは初めてだった。

 

「そんなの……簡単よ。好きだからに決まってるじゃない!!一夏の事が大好きだから、好きな人が傷つくのが嫌なのよ!!」

 

「鈴……」

 

「ねぇ、おねがい……私にだけでいい、私にだけでいいから……一夏の本当の気持ちを言ってよ。辛いとか、弱音を吐いてよ。私は、一夏のそんな気持ちを全部を受け止めるから」

 

 鈴のその言葉を聞いた途端、俺の目から一筋の涙が溢れた。いや、一筋ではない、まるで決壊したダムのように一杯の水滴がこぼれ堕ちる

 

「え……なん……」

 

 分からなかった。今まで涙したことなんて……こんな辛い気持ちになったことなんて無かったというのに。絶え間なく溢れるそれが訳が分からなかった。

 

「一夏……」

 

 彼女はそう言うと、俺の頭をその胸にしまった。そして自分も泣いてる筈なのに、俺の頭をゆっくりと撫ぜる。

 

「辛かったよね……苦しかったよね……だから、全部吐き出しちゃって良いんだよ」

 

「あ……ああ……」

 

 ポツリ、ポツリと嗚咽が漏れ、それはすぐにこの静かな部屋へと反響した。堰を切ったように溢れる咆哮を聞いていたのは、俺自身と彼女だけだった。

 

 

 

 家主の人が戻ってきて、揃って出た時には、既に空は薄暗くなり始め、ただでさえ寒いというのにそれはさらに増していた。

 

「……ありがとな、鈴」

 

「ううん、大丈夫」

 

 お互いに目元が紅くなっている事に何だか嬉しくなって、俺の心には得も言われぬ充実感があった。

 

「あ……雪」

 

 と、鈴の言葉に空を見上げると、再び空からは雪が降り始め、ゆっくりヒラヒラと舞い始めた。

 

「綺麗……」

 

「…………そうだな」

 

 俺は少しだけ悩んだものの、彼女の手を引っ張りとある場所へと走り出した。

 

 着いた場所は篠ノ之神社の本殿……そこから離れたとある一角だった。

 

「……ここは?」

 

「……夏だったら、ここって上がる花火を誰にも邪魔されず見れる場所。僕の取っておきなんだ」

 

 へぇ、と呟く彼女に俺は振り向き、その翡翠色の瞳をじっと見つめた。

 

「ねぇ、鈴。こんな僕を好きになってくれてありがと」

 

「へ?い、一夏?」

 

「だからさ……また辛くなったときは、その時は鈴にまた隣にいてほしい。ずっと側で、僕の事を支えていてほしい」

 

 こんな僕でいいなら、と俺は今思えば何言ってるんだというような告白を彼女の目の前でした。恥ずかしかった、けど不思議と嫌な恥ずかしさじゃなかった。

 

「……もう、一夏ったら」

 

「鈴」

 

「そんなの……良いに決まってるじゃないの、この唐変木」

 

 彼女のそんな眩しい笑顔に俺はまた涙が溢れた。さっきのような辛く苦しいものじゃない、嬉しく、やり遂げたというような達成感すらあった。

 

「もう、一夏ったら、こんな泣き虫になって」

 

「……そういう鈴も泣いてるじゃないか」

 

「そんなの、一夏の前でしか見せないわよ」

 

「僕だって」

 

 二人でそう言い、自然と笑いあう。誰もいない秘密の場所に笑い声が響き渡った。あぁ、こんな日々が続けばいい、そう思っていた。

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