「まさかこんな歓迎をされるなんてね」
眼下に広がるスバルのウィングロードの更に下、轟音と共に燃え盛るヘリを見ながらそう呟いた。
『こちらロングアーチ2、なのは隊長応答してください!!』
「こちらスターズ1、作戦開始直前に何者かによる妨害を受けヘリが大破、フォワードメンバーは脱出に成功、操縦のヴァイス陸曹もなんとかギリギリで回収しました」
現在指揮をしてる刀奈ちゃんからの通信に現状を伝える。通信念話越しにも分かる安堵のため息が聞こえた。
『現状を見て作戦続行は可能?』
「……正直微妙です、私だけなら兎も角、新人は飛行魔法を使えないですし、スバルのウィングロードに頼るとしても、戦闘の際、恐らくスバルは魔力が足りなくなります」
『スバルの戦闘スタイルはストライクアーツ主体の打撃戦、しかもナックルも装備してるからある程度魔力不足でも戦える……かしら?』
その通りだ。勿論かなりの博打に近いが。
『その当のスバルは?なんて言ってるのかしら?』
「ちょっと待ってて……スバル、ウィングロードを現場まで四人分張り続ける事ってできる」
「い、一応カートリッジの全てを使えば可能です!!けど私以外は徒歩なので……
「……」
そうだった。これがビル市街の戦闘なら兎も角、空中での強行軍なんてのは想定の範囲外、さらに新人はスバルを除いて徒歩移動するしか手段がないために、幾らなんでも時間が掛かり過ぎる。
しかも対象は今もなお走行してる最中、徒歩で移動してる間に最悪の事態、ということも考えなければいけない。
いや、一つだけまだ方法はある。けどそれは……
「……えっと」
ちらりと見た新人の少女……キャロの腕に居る子竜フリード。フェイトちゃんの話通りなら恐らく……
「キャロ、ぶっつけ本番で、しかもこんなピンチな状況だけど……フリードの本気、出せる?」
「な、なのはさん!?」
勿論これは賭けに近い、でもフェイトちゃんが連れてきて、今現在でできる可能性の最大値に――
「――黒天王、フレイムバースト」
その時、私の後で突然炎の弾丸が右から左へと通り過ぎた。
何事か、と炎がやって来た方を確認すると、そこには見覚えのある少女と1体の竜の姿があった。
その少女は黒長のローブに所々に機械の鎧のような物を装備していて、その手には黒い柄に彼女の魔力光であろう藍色の刃を持つ薙刀。そして何よりも、
「……更識簪さん、で良いのかな?」
水色の髪に垂れた紅い目の彼女に、私は奥歯を噛み締める。刀奈ちゃんの話通りなら恐らく
「……もう更識は滅んだ、私のことは簪だけで呼んで」
「そう、なら簪さんはここに何の用?悪いけど任務の邪魔をするなら――」
「レリックなら私の仲間が既に回収してある」
その言葉に私は殴られたような錯覚を覚える。
「……なら、それを此方に渡してもらっても良いかな?」
「それはダメ」
「……理由は?」
「貴女達に渡せば、火薬庫で花火大会するのと同じようなものだから」
つまり危険だからと言いたいらしい。けど、
「ロストロギアの回収は管理局のお仕事なんだよ、簡単に引き下がると思う?」
「別にそれ事態は否定しないし、ガジェットを破壊するのも止めない。何なら私の黒天王で送迎してあげてもいい」
「……さっきから言ってること、矛盾してないかな?」
私はレイジングハートを構えて相手を睨む。
「貴女もジェイル・スカリエッティと手を組んでるって話でしょ?なら、そのスカリエッティがけしかけたガジェットを破壊する手助けをするなんておかしくないかな?」
「別に、仮にスカリエッティと手を組んでたとして、完全にそれを受け入れるかは別の話。私には私のやりたい事がある、それを最優先にするだけ」
「……」
言ってることは滅茶苦茶だが、それでも今は……
「ティアナ、他のメンバーと一緒にあの竜へ」
「な、なのはさん!!」
「責任は私が取るし、今は何よりもガジェットを倒してレリックを回収するのが優先、……仮に貴女の言うことが本当でも、確認はしなきゃならないから」
私がレイジングハートを構えながらそう言うと、彼女はニヤリと笑う。
「流石はエース・オブ・エース、切り替えが早い」
「……今回だけだから、貴女達の力を借りるのは」
「私としてもそうしたい。あの愚姉のいる部隊と関わるのは互いに死合う時だけでいい」
拗れてるとは聞いてはいたが、ここまでとは思ってなかった。
「……けど、その前にそこのピンクの娘」
「!?」
「悩んでるようだから忠告してあげる。――力はただ力、それを善にするも悪にするも自分の使い方次第、押さえつけるも解放するも、ね」
今のはまさか……
「刀奈ちゃんが言ってたレアスキル……」
「そんなの使うまでもない、ただ昔の私と同じ顔をしていた……それだけで大抵の事は分かる」
そう言うと彼女の足下にベルカ式の魔方陣が展開される。
「それじゃあ私は、その竜、現場に着いたら消滅するから気を付けなさいよ」
それだけの言葉を残して、彼女は何処かへと消えてしまった。
簪視点
「良かったのかんちゃん、敵に塩を送っても」
「別に、スカリエッティからも一夏からも私の好きなようにやれって言われてたから。それに愚姉は嫌いだけど、その部下まで嫌いなんて事はない」
まぁそれでも、あとでお小言を貰うのはほぼ確定してるような物だが。
「ふーん?けど珍しく嗤ってるよね」
「……本音、私はただ友好的に接するために接触したわけじゃない」
そう、あの新人の中でティアナと呼ばれてた少女……彼女の闇を聞いた。
「――あの子の心を綺麗に綺麗に、真っ黒い闇に染め上げたら面白そうじゃない?」
「……かんちゃん、刀奈さんと同じ轍は踏まないでよ?」
「フフフ、あんな愚姉なんかに人身掌握なんてできるわけないでしょ」
サァ、早ク殺シ合オウヨ、オ姉チャン。