「……」
数日後、一人久しぶりに地球へと戻った俺は束さんに頼んでおいたバイクCBR250RRを走らせ、某所の墓地へとやって来ていた。墓石には俺の名前の他に二人、俺を産み出した両親の名前が彫られていた。
「……俺は貴方達に作られた存在だったんだな」
千冬姉から聞いた両親の話、犯罪者の息子であり犯罪者によって作り出されたというが、彼らは俺を作ったときどんなことを思ったのだろう。今ではもう分からないが、それでも、
「俺は例え作り物の命だったとしても、アンタ達に文句は言わないさ。アンタのおかげで俺は命を懸けてでもやりたいことを見つけられたんだから」
俺はそう言って持参した線香を焚き、普段から誰も来ないのか荒れている棚に供える。
手を合わせ数秒沈黙した俺は墓石に背を向ける。
「今度は俺の大事な人を連れてくるよ。アンタ達の希望と違ったかもしれないけどな」
ティアナ・ランスターは釈然としない気持ちを抱えながら、隊長であるなのはさんの命令というか、別任務で一人バイクを走らせていた。
「私達の遠征任務と被るように違法転移してくるなんて、いい度胸してるじゃない」
借り物のYZF-R25で魔力探知しながら移動していると、海岸沿いでとてつもなく大きく、かつ高速で移動している魔力をデバイスが見つけた。
『どうやら相手も自動車またはバイクで移動してる模様です』
「てことは土地勘がある人間が転移してきたか……」
下手に飛行してないというだけで楽なものだが、魔力量を考えると楽観視はできない。
『対象が商店街方面に向かいました。距離18キロ』
「わざわざ人通りの多いところに?いったい……」
まぁすぐに分かるであろうから関係ない。さっさと捕まえてなのはさん達にしょっぴくだけよ。
『対象の魔力はここからです』
「ここって言われても……」
駐車場にバイクを停め、追跡を続けた結果着いたのは『五反田食堂』というしがない大衆食堂だった。
それもちょうど現在お昼頃、まさか堂々と食事をしているのだろうか?
「……入ってみるしかないわね」
とにかくバレないように魔法で服装を自然なものに変え、ミッドでは中々珍しい引き戸を開く。
「いらっしゃいませ!!お一人様ですか!!」
入ってみると赤毛の少女が元気よく挨拶し、ええ、とだけ呟いて魔力源を探す。
(……居た!!)
そいつは白いシャツにサングラス姿で、ライダースジャケットを椅子に掛けた、まるで噛み締めるように定食を食べていた。
「……相席良いかしら?」
「……あぁ」
目の前に座り、私は少女におすすめを一つ頼む。
「……貴方よね、ミッドからこっちに転移してきたのは」
「……話ならあとでしてやる。ここはマナーに凄く五月蝿いんだ」
「そう」
「お待たせしました!!業火野菜炒め定食です!!」
出てきたのはシンプルな定食で、お米と味噌汁に野菜炒めだけというものだった。
「いただきます」
一口食べた瞬間、まるで電撃が走るような旨さに驚愕した。シンプルな味付けだが逆にそれが良く、しかしピリリとした辛さがあとを引く。
「……旨いだろ」
「……ええ、そうね」
彼のニヤリとした言葉にそうとしか返せない。これでしかもワンコインというのだから驚きだ。
「……ごちそうさまでした」
あっという間に完食した私はお会計を済ませると、同時に席を立った彼に向き合う。
「……ここからは管理局として対応させてもらいます」
「結界がない状態で魔法は使えないだろ」
「それでもこっちに来た目的を教えてもらわないと困ります。管理外世界への無断転移は犯罪ですよ」
「無断じゃないぞ」
彼はそう言って簡易的な封時結界を展開すると、デバイスなのだろう指輪からディスプレイを展開する。
そこには確かに、数年前に管理局に提出された転移装置の設置許可のデータで、最近になるまで使われてなかったらしい。
「元々は知り合いが使ってたんだが、事故で亡くなってな、遺品整理ついでに貰ったんだよ」
「……なるほど、そういうことだったんですか」
管理世界でも、友人知人が転移装置で一緒に移動するなんて話はよくあることだ。今回のは偶々つい最近まで使われてなかったことでデータになかった為に起きたことなのだろう。
そう言うと彼は結界を解除し、停めてあるバイクのエンジンを吹かす。
「……ちなみにここに来た目的は?」
「里帰りと……まあ墓参りかな。こう見えても地球出身の日本人だし」
「なのはさんと同じですね」
「へぇ、白い魔王と知り合いなんだな」
白い魔王?
「エース・オブ・エースの忌み名みたいなものさ、白いバリアジャケットにピンクの魔力を見たら諦めろって、結構犯罪者連中から言われてるぜ」
「そもそも管理局に目を付けられた時点でダメですよね?」
「そんなお前に一つアドバイスだ」
私は首を傾げていると、彼はトンでもない爆弾を置いてきた
「管理局は裏しかない、信じれるのは自分自身の実力だけだ。機動六課のティアナ・ランスター」
「!?」
「お前はすぐに気付くぜ、どんな努力や訓練でも超えられない、才能っていう限界にな」
彼はそう言うとバイクを走らせ、駆け抜けるように去っていく。
『マスター、どうやら相手はただ者ではないようです』
「……クロスミラージュ?」
『管理局のデータベースから確認しました。相手の魔力パターン、当時から換算して現在の推定ランクSSSクラスの魔導師……織斑一夏』
織斑一夏、その名前に嫌な汗が流れる。
「クロスミラージュ、その名前って確か」
『はい、かつてこの地球で数少ない男性IS操縦者であり、Ms.フェイトの追っている犯罪者の一味の一人だと思われます』
「……」
正直言おう、勝てる気がしないどころではない。もしこれが戦場ならと考えると……
「強く……ならなくちゃ……」
死にたくない、そのための強さを手に入れなくては、誰にも負けない強さを、認められる強さを……。
「どうやら種は咲き始めたな」
バイクに乗りながら、俺は独り言のように呟く。
「さてさて、簪はどんな華に育て上げるやら……」
劣等感の塊のような二人が組み合わさる事で起きる化学反応は、まだ俺にさえ分からない。