「ドクター、そろそろ俺らも向かいますが大丈夫ですか」
とある研究室の一室、少しばかり休憩していたのだろうドクターに俺はそう問いかける。
「あぁ構わないよ。だが良いのかい?ガジェットを連れていかなくて」
「今回はルーが居ますからそっちから持ってくることもできますし、何より今回ばかりは奴等も動いてこないとも限りません」
「確かにだね。ナンバーズはどうするんだい?」
「今回は彼女達は休みです。ルーの護衛にもあの人と弾が付きますから」
「そうかい。ならば君の思う通りに動けばいい、何せ君は私の後継者なのだからね」
ホテル・アグスタ、そこにて行われるオークションの護衛任務を任された機動六課の三人の隊長を除いた面々は、それぞれ外にて厳重に警戒を行っていた。
「……」
そのうちの一人、ティアナ・ランスターもデバイスのハンドガンを何時でも射てるように整えていた。
(ねぇティア、なのはさん達凄い綺麗だったね)
(そりゃ三人とも雑誌に載る位には美人だし、ドレスなんて着たら余計そう見えるわよ)
能天気な相方のペースにため息を付きながら、ふと思った疑問をぶつけてみた。
(そういやスバルって、なのはさん達……っていうより八神司令とは結構付き合いがあるんでしょ?)
(ん~お父さんが八神部隊長の元上司だからかな。たまにご飯を一緒になったこともあるよ)
(ってことは、八神部隊長の実力も知ってるの?)
侮るわけではないが、かのエース・オブ・エースのなのはさんや、エリート執務官のフェイトさんの二人と幼馴染みであり、その二人を部下にできるとなればかなりの器の持ち主のはずだ。
(うーん、私もあんまり知らないけど、八神部隊長とその守護騎士が揃って敗北は殆ど無いってことぐらい)
(守護騎士って、シグナム副隊長やヴィータ副隊長のこと?)
(あと医務官のシャマルさんと、ザフィーラさんの二人、あとはリイン曹長の計五人だよ。確かヴィータ副隊長達は八神部隊長の古代ベルカ系列のロストロギアデバイス『夜天の書』から産み出されたって。人呼んで歩くロストロギアとも)
ロストロギア……詰まる所八神部隊長は管理局でも数少ない、それもベルカ系列のロストロギアマイスターということに愕然とする。
(……詰まる所才能、か)
類い希なる魔力量、変換資質、そしてロストロギア……私にはどれもまったく存在しない等しく渇望する才能だ。
スバルも運動能力と産まれ持っての力、キャロとエリオはそれぞれ
「……こんばんわ、ティアナ・ランスター」
「!?」
(けど良いのかな~仕事とはいえこんなことしてて)
グラスを片手に持ちながら、私は念話で親友の二人にそんなことを呟いた。
(あー、なのははこういう場は殆ど来ないからね、苦手なのはわかるよ)
(苦手っていうか、本当なら私も外の警護に就いてた方がいい気がするんだけど)
(けど、こうでもせんと隊長が居ないときの訓練にならへんやろ。これも仕事として割りきるべきや)
チラリと視線をはやてちゃんの方に向けると、見覚えのある白いスーツにエメラルドの髪をした男性と仲良く話していた。
流石というべきか、やはりはやてちゃんは立場上こういう事がよくあるのだろう。
(けどはやてちゃん、アンティークのオークションなんて仕事良く受けたね。幾らロストロギアがあるかもしれないからって、ここ一応管轄違いなんじゃないの?)
(そこはちょいちょい手を回しとるから大丈夫や。それに管轄違い言うても知り合いの所や、色々手が足りないらしいんよ向こうも)
詰まる所、コネクションを利用したのだろう。やはり時々腹黒などと言われてるだけはある。
(う~、それにしてもドレスなんて久しぶり過ぎてなんか違和感しか無いんだけど)
昔は幼馴染みでお金持ちのアリサちゃんやすずかちゃんのパーティーで何度かドレスアップしたことはあるけど、それも小学生の頃までだし、ここ三年近くは魔法中心の生活のせいかパーティーにお呼ばれされたことも殆んどない。
(まったく、なのはちゃんは折角良いもん持っとるんやから、ユーノ君にちゃんとアピールすれば良いものを)
(ユーノ君は……何となく仕事仲間っていうか、親友っていうか?)
(なのは……一応今私の近くに本人いるけど?)
フェイトちゃんの言葉にゲッと頬を引き攣らせる。まぁ物がロストロギアとか古代物なだけあって居る可能性は考えていたけど、まさかホントに居るとは思わなかった。
(はぁ、ユーノには内緒にしておくけど、そろそろちゃんと付き合った方が良いよ?)
(アハハ……)
と、その時だった。
「失礼、高町なのは一等空尉……で、よろしいですか?」
「!?」
突然声を掛けられ見てみると、黒髪の長身で、グレーのスーツを身に纏った青年がワイングラス片手に近寄ってきていた。
「ええ、貴方は?」
「あぁ失礼、ここではちょっとなんだ、少し離れたところでお話ししてもよろしいですか?」
そう言って手を差し出してきて彼を不自然と思いながら、私は彼に連れられて人目の少ないロビーへと移動した。
「さて、それでは自己紹介とさせてもらおう。あぁ、できれば危ないデバイスは展開しないで貰うと助かる。別段アンタらと殺りあうつもりは無いからな」
彼はそう言うと着けていたネクタイを若干緩め、好青年というような目付きから途端、鋭い獣のようなそれへと変わる。
「俺の名は一夏・スカリエッティ・織斑。この間会った簪の……まぁ、上司っていうか仲間だな」
「スカリエッティ……!?」
その言葉を聞いた瞬間、私はすぐにでもデバイスを展開しようとしたが、彼は落ち着け、と促す。
「別段今はアンタらと敵対するつもりはねぇよ。俺としては寧ろ、今はそっちと組みたいって思って声を掛けたからな」
「……どういうこと?」
いぶかしみながら聞いてみると、彼はとても嫌な顔をし始めた。
「どういうこともそういうこともねぇよ。俺らは単純にレリックを手に入れたいだけだ。尤もそれも、用事が済めば全てきっちり一つ残らず六課に返却するつもりだ。そもそも使用するつもりも無いからな」
「……ならどうしてレリックを集めるの?」
「そりゃ管理局のお前らに言っても信じてくれない理由さ、確実にな」
はぐらかそうと言う意図しか見えない彼に、私は少しイラッとする。
「ならなんで私達に返却するの?確かに私達は遺失物管理の部署とはいえ、他にも渡せる人間は居るでしょ?」
「単純な話だ。六課は便宜上陸の組織だが、本質はどちらかと言えば海側……詰まる所本局側の組織だから」
「……」
「意味が分からないって顔をしてるな、ならもう一つ教えておいてやろう……地上の管理局部隊の八割は敵だと思え、でないと……ッ!!」
その時だった。急に彼は私の腕をつかんで伏せさせる。何を、と言おうとした瞬間、ロビーの奥の壁が突然爆発し、周りに白い煙が巻き起こり小さな瓦礫が飛び散る。
「クソ、お出でなすったか!!」
彼はそう吐き捨てると、私を連れて奥の通路へと走り、曲がり角に私と彼自身の身を隠す。
「な、何が起きたの!?」
「お前らが予想してた襲撃だよ。ただし――」
壁越しに見ろ、と彼は手で合図されゆっくりと確認すると、そこに居たのは
「……人?」
そこで見えたのはボロボロの服に、何やら変な首輪をつけた異様に白い肌の人間がぞろぞろとやって来る姿だった。
「……あれが人間ならどんなに良かったことか」
「それって」
「あれは人間の姿こそしてるが、ドクターの技術を悪用した最悪な代物だよ」
最悪な代物?
「あれに人の感情はない、言葉を発声する機関も食事も要らない、
「まさか!!」
「お前も知ってるプロジェクトFと、ドクターが医療の為に開発研究した、サイバネティック技術のデータを組み合わせて作られた、殺戮クローンマシーン、その中でも特に量産されてる、自爆特攻用だよ、あれは」
そう言って彼は首に下げていた指輪を取りだし、ディスプレイを開く。
「こちらサマー、現在ロビー近くの廊下にて目的対象の一人と行動中。また目の前にあのクローン供を発見。対処行動に移る」
『……こちらリイス、此方も目標を確認。ただし此方は上階からのお客と対峙中だ、済まないが応援は難しい』
『こちらラビット、こっちは会場で偶々居た司書長と一緒に結界で侵入を防止してるよ。けど、アイツら所構わず自爆してるせいで長くは保たないかも!!』
「了解……高町一等空尉、味方の識別コードをくれ、こっちもガジェットで可能な限り援護する」
「ちょっと待ってて(はやてちゃん、どうする?)」
(こっちもリインと一緒にやっとるけど、足止めが精一杯や!!部隊長権限で緊急特例でかまへんよ!!)
「(分かった)識別コードは--------」
「了解……ルー、ガジェット&ナンバーズスタンバイ!!識別コードは--------」
彼が別のモニターでそう言うと、次の瞬間爆発的に味方コードが増える。恐らく召喚魔法使いが居るのだろう。
「さて、意図せざるとはいえ相手が来てしまったわけですが、援護射撃お願いします、一等空尉殿?」
「……けど」
「……あれに対しては非殺傷は意味ないどころか、此方が危険になるだけだ、たった数人が自爆しただけでホテルの壁をぶち抜いた火力だ……あとは言わなくても分かるだろ」
分かってる、彼の言いたいことは分かってるし、彼の情報通りならそうなのだろう。けど、
「局員が殺傷設定にすることは……」
「そんなことを言ってたら死ぬぞ!!ここはもう既に戦場なんだ!!」
彼はそう言ってデバイスを展開すると、私を置いて目の前の敵に斬りかかっていく。
「……ッ」
目の前の状況をただただ見ることしかできない、そんな自分に嫌な気持ちになった。