「なんともはやという事の連続だな……」
一人になりたいという鈴をあの治療室に置いて部屋に戻った私は、頭が痛いという風に抱えた。
「平行世界とはいえ、鈴さんには堪えられない出来事だからね……」
「それにその鈴が助かるという目的のために動いてる一夏も一夏だ……正直、打つ手が無いに等しい」
もしかつての自分なら、そんなこと関係なしで一夏に迫ろうとしていたはずだ。恐らくそこが鈴と私の決定的な差なのかもしれない。
「マドカはどう思う。平行世界とはいえ、一夏は兄なんだろ?」
「うーん……、ここまで話を聞いたら流石に兄妹だからってはしゃいだりなんかできないし、何より」
未だに戻ってこない鈴を心配してかチラチラと時計を見てる辺り、ペアを組んでるだけはあるということか。
「安心しろ、鈴は強い……多分この世界で一番の鍵を握る奴だからな、簡単には壊れんさ」
そうだろ?と、今はここにいない友を思い出された緑茶を……
「ブファ!!」
「うわ!!ど、どうした!?」
「こ、これは緑茶じゃない……リンディ茶だ……」ガクッ
「箒!?箒ィィィ!!」
―――――――――――――――――――――――――――
「あ"」
「む?どうしたトゥーレ」
「あの二人に出したお茶、間違って一つリンディ茶にしちゃった……」
「……うちじゃクアットロしか飲まないあれを飲ませるなど、なにやってるんだお前は」
珍しいボケをするトゥーレに、やれやれと突っ込むトーレの姿があったとか、なかったとか。
―――――――――――――――――――――――――――
「……」
目の前に居る存在は、彼にとってどんな存在だったのだろう。
目の前に居る自分自身を見つめながら、私はそんなことを思っていた。
「私って、案外馬鹿なのかもね」
一夏と居れないから遮二無二頑張って代表候補生になり、一夏と学園生活を送れると考えて転入したり、自分自身の恋心とはいえ、どちらも極端に張り切った。
目の前で眠る自分自身も同じなのだろうか……、もしも目の前で眠る少女が自分を……そして少女が愛する今の彼を見たとき何と言うのだろうか。
そう思ってケースに指を触れようとしたその時、
「何をしてる!!」
突如として怒号のような叫びが後ろから聞こえ、振り返ってみると、そこには憤怒という言葉では表せないほどの形相になった彼……織斑一夏が立っていた。
その雰囲気は凄まじく、かなりの殺気を此方に向けている。
「別に、平行世界の自分ってのを見てただけよ」
「……ケースに触れるな、ドクター以外には俺ですら触ってないんだ」
「なに、目覚めたときに一番最初に触れたいっていうこと?」
私が軽口混じりで聞くとジロリと鋭く睨まれた。正直言うと迫力がすごい。
「そういえば、アンタに聞きたいことがあったの」
「……馴れ初め話ならするつもりはないぞ」
「そうじゃないわよ……アンタ、私達のこと避けてるでしょ」
その言葉にピクリと耳が若干動く。
「アンタの過去は聞いたわよ。だから私に声をかけづらい理由も、箒への辛辣な言葉も納得はできないけど理解はできる。けど」
「……」
「けどそれ以上に、アンタは自分から話をしようとしてない。確かにドクターとかの方が説明するのが得意とはいえ、自分自身の口で少しは話すものじゃない」
まぁ平行世界とはいえ、昏睡状態の恋人と同一人物が現れたとなったら、心中穏やかじゃなくなるのは分からなくはないが。
「……できることなら、平行世界のお前には来てほしくなかった」
「?どういうことよ、それ」
「『もしも』や『たられば』の世界なんて幾らでも思った。刺されたのが俺じゃなかったら、あの時俺自身が死んでいれば、そんな後悔の只中で生きてきた俺には、お前は強すぎる光なんだよ」
そう言って立ち去ろうとする彼の背中は何処か悲しく、寂しいものに感じられた。
「待ちなさい」
「……なんだ」
「アンタ、助けるためなら自分自身の事なんてどうでもいいって思ってるわけじゃないわよね」
その言葉に驚いて振り返った一夏に、私はやっぱりと確信した。
「見え見えって訳じゃないけど、まるで死地にでも向かうような顔でいたし、何より雰囲気がそんな風だったから」
「……俺は良いんだ、彼女を助けるためならなんでもする。それに、俺は生きてちゃいけない存在だから」
「ふざけるな!!」
そう宣う彼に、私は胸ぐらを掴み叫んだ。
「アンタ助けるんでしょ?自分の彼女を?なのに自分は死んでもいいなんて、簡単に言うんじゃないわよ!!
それに生きてちゃいけない存在だからってなによ!!彼女からしたら、そんなこと思ったことないはずよ!!大切な人ぐらい、自分の手で助けるくらいの気概を見せなさいよ!!」
「……ふざけるな!!」
彼は憤怒の表情を浮かべ、此方を睨み返してくるが、手は一切出さなかった。
「お前に何が分かる!!普通に生活してきたお前に、虐げられてきた人間の心を、クローンとして生み出された人間である俺のことを!!」
「……え?」
今彼は何と言った?クローン?自分自身が造られた命だと、そう言ったのか?
「俺は鈴を助けるためなら命だってくれてやる!!本当の人間じゃない、生きてるだけで貶され虐められてきた俺を、唯一対等に扱ってくれた……支えてくれた彼女を救うためならな!!」
「そんなの絶対に望んでない!!」
「分かってるさそんなこと!!けど、それでも、そうすることでしか、俺は彼女へ償うことができないんだよ!!」
平行線……いや、そもそも進んでる方向があまりにも違いすぎる故に交わされる言葉のドッジボールは、危険球どころではない勢いを生んでいたその時だった。
『大変だよいっくん!!』
「束さん?」
いきなり通信が入ったかと思うと、映像ディスプレイにあの束さんが姿を現す。
『近くに大量のクローンが現れたんだよ!!それに見たことのない魔導生物も』
「魔導生物?」
「もしかして!!」
私の台詞に興味深げに見る一夏達に、私は簡潔にだがその存在と特徴を教えると一段と嫌な表情を浮かべる。
「正体不明の魔導生物兵器か……」
『それも通常兵器が全く効かないって、結構無茶苦茶してるよ』
「だがそれ以上に、なんでそれがあのクローン供と群れを成してくる?あれは自爆するとはいえベースは人間……触れれば炭化は免れないのに」
一夏曰く、私達が戦ったあれは所謂クローン人間をベースにした兵器らしく、内蔵の一部が爆弾だったり、リンカーコアで活動してるなどの差異はあるが、細胞組織などは全て人間と同じらしい。
「……一夏、アンタ達はそのクローンとやらを倒せるのよね?」
「そっちはあの魔導生物とやらと交戦したことがある……気持ちはともかく利害は一致したな」
どうやら同じことを考えてたらしく、一夏は嫌な顔のまま此方に手を出す。
「……一時的な協力だ、事が収まるまでその力、当てにさせてもらうぞ」
「そっちこそ、足手まといはごめんよ」
―――――――――――――――――――――――――――
デバイスを取りに行った鈴より先に目的のフィールドにやって来た俺が見たのは、もう見飽きたとも言うべきクローン供の巣窟だった。
「全く、行動が早いのは良いが、少しは周りと共に動かねば困るぞ、一夏」
「リイスさん」
共に上空でやって来た長年頭の上がらない存在の一人である彼女にそう言われつつ、とにかく敵を確認する。
そこには確かに見慣れない生物兵器……カラフルなカラーリングをしたそれがクローン供と一緒に跳梁跋扈してる姿があった。
「とりあえずリイスさん、先制攻撃お願いします」
「任せたまえ……アーテム・デス・アイセス」
超広域空間魔法による凍結攻撃、高威力殲滅技を受けた奴等は一瞬にして凍りつく。が、
「な!?透過してるだと!?」
あの魔導生物の一部は凍った部分から這い出るように透過して抜け出し始めていて、驚きに固まってしまう。
「――意識がずれているならば!!」
と、聞き覚えのある掃除用具の声が聞こえてきたかと思うと、明らかに威力が高い白銀の砲撃が凍った敵を含めて直撃する。途端、一緒に受けたクローン供も爆発し始める。
慌てて光線の来た方向を見ると、そこには左腕にリフレクターのようなものと、砲身に変化した左手の籠手を突き出す掃除用具の姿があった。
「……あの掃除用具が、砲撃?」
あの近接戦闘至上主義の武士娘が砲撃という、俺からしたら一番あり得ない手で攻撃したことに隙ができてしまった。
「余所見厳禁!!」
「デスよ!!」
と、残り二人の声が聞こえてきたかと思うと今度は俺ら二人の脇に斬撃と丸鋸の弾幕が通りすぎ、振り返ってみれば飛行型のあの魔導生物が数体切り刻まれていた。
攻撃の主……鈴とマドカがさらに弾幕を放ち、迎撃するのを見ながら、ISの攻撃が効いてることに若干驚く。
「……ISってあんな機能ついてたっけ?」
『束さんも一応宇宙環境に耐えられるようにコアは作ってるけど、あれは多分デバイスと一体化してるからできる芸当だろうね』
「……ならこっちの攻撃も効くってわけか、なら!!」
俺は手当たり次第に近くの魔導生物を殴り倒す。奴等は魔力放電により砕かれていき、数こそ居るが能力的には雑魚にも及ばない連中だった。
「グ!?」
と、突然黒い巨体を持つ鳥のような魔導生物がこちらに突撃してきた。
「あきらかにさっきまでの雑魚とは違う……いったい」
そいつは体に黒い霧のようなものを纏っていた。動きも攻撃の威力も段違いで、あきらかに普通じゃない。
今の状態でこいつに勝てるか、俺はすぐに思案するが無理だと決定付ける。ここにいる五人全員でならば何とかなるかもしれないが、雑魚敵も複数いる状態じゃそれも難しい。
仕方ない、と俺は舌打ちをしながら刀を抜き、とある薬莢を取り出す。
「ちょ、それを使うつもりなのか一夏くん!!」
「まぁ虎の子のこれを使うのもどうかとは思うけど、使わないとなんだか嫌な予感がしてな」
そう言って俺は刀の柄頭にある空洞にそれを突っ込み、魔力を一気に炸裂させる。
途端、肉体に極度の魔力が流入してくる。あまりの多さとそのエネルギー量に俺は一瞬目眩を催す。が、その一瞬の隙を突かれた。
黒い奴はこちらに向かって一直線に突撃してきた。防ぐのは無理だ、とそう直感した次の瞬間不思議な出来事が起こった。奴の体から光が発せられたかと思うと
『コロセ!!コロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセ!!』
まるで憎しみという存在の渦に飲み込まれたようなそんな慟哭が、胸を張り裂きそうな動悸が、そして――
――あの無力だった自分の記憶が蘇った。
「■■■■■■■■■ァァァァァ!!」
その日、白き闇は獣へと堕ちた。
オマケ
無限の欲望の楽屋にて
「そういや作者、今コラボしてるところってコレとクロスオーバーしてるんだっけ」(AXZ視聴中)
「うん、そうだな」
「そして作者もシンフォギア好きと?」
「その通りだが」
「もし作者ならあっちの作品みたいにコレのキャラみたいなのに俺を誰にするよ」
「……(絶句)」
せめてサンジェルマンにしてくれと一夏は内心呟いていた。