それは正しく一瞬の出来事だった。
一夏の魔力の量が桁違いに膨れ上がったと思ったら、あの黒い魔導生物と一夏がぶつかり合って、その途端眩しい光と身体中が寒気に震えるほどの殺気が撒き散らされた。
そして現れた赤黒い魔力のような何かを纏った人の姿をした
「なんだ、アレは……」
「一夏……でいいんデスか?」
現に箒とマドカの二人もその圧倒的な圧に数歩後退りするほどだ。けど、
(これは……悲しみ?)
近くにいた私には少しだけ流れてくる、後悔にも似たような感覚が胸の奥にチクリと突き刺さる。
「一夏くん!!しっかりしろ!!」
と、リインフォースさんが一夏に近づき声をかける。その表情は焦りに包まれて――
「■■■■■■ァァァァ!!」
次の瞬間、
「カハッ!?」
殆どノーガードのうえに、まるで神速とでも言うべき速度で振り抜かれた拳は瞬く間に森に目で見える程の衝撃と土煙を巻き上げる。
「リインフォースさん!!」
私はすぐにISモードへ変更しリインフォースさんの救助へ向かう。
「く、マドカ!!今の一夏に加減していたら此方が不利になる!!」
「だったらイグナイトを使ってさっさと倒すのが懸命デスね」
二人は一夏から離れすぎない距離を保つと、その胸のモジュールを解放する。
「「イグナイトモジュール!!」」
抜剣、その合図と共に纏う暴走の力を取り込んだイグナイトモードへと変化した二人は、一気に駆け寄ろうとするが
「「■■■■ァァァァ!?」」
なんと二人まで、完全に制御したはずのイグナイトモードが暴走してしまったのだ。
なぜ、そう思ったその時、二人の体に見覚えのある黒いモヤ……あの黒い個体が出していた霧のようなものが見えた。
「まさか、さっきの黒いやつの仕業!?」
どうやらあの黒い個体はイグナイトモードを暴走させるなにかしらの力を備えているらしく、そのせいで二人も暴走してしまったのだ。
(けど……)
それでもおかしい、束さん……ここの世界じゃなくて私たちの世界の方……曰く、イグナイトシステムにはそのリスクからリミッターが掛かっていたはず、だというのに――
「ぐ……」
「リインフォースさん!?」
と、気がついたリインフォースさんに声をかけると、彼女は一夏を見て嫌な表情をつくった。
「まずい……一夏のレアスキルが暴走している」
「レアスキル?」
「魔力変換資質とは別の……いわゆる『収束』や『蒐集』のようなものだ。一夏君の場合は『魔力結合』、織斑という血筋が代々継承してきた特殊技能だ」
リインフォースさん曰く、その能力は肉体と魔力を結合させ、瞬間的に筋力や神経速度を上昇させるもので、一夏の場合はそれに持ち合わせている変換資質の『電撃』を加えることで、人の身ではあり得ない速度や反射神経を得られるという。
「だが、今はそれが暴走している……いや、あの黒い個体が持っていたスキルの方と結合してしまったことで、そのレアスキルが周囲へと効果を及ぼすものに変化したのだろう。それも黒い個体よりも強力になって」
「じゃあ今の一夏は!?」
「恐らく理性が完全にトんでいる。しかもあのカートリッジを使ったことも最悪だ」
カートリッジ?それって確か魔力を一時的に爆発的に上昇させるっていうアレよね?。
「一夏君は過去の暴力の影響で、魔力結合が神経に永続的に結合してしまっている」
「永続的に……でもいったいなんで……」
「痛覚の遮断。そして、一夏君が魔法に目覚めたのは、この世界の君が彼の目の前で刺された時だ」
「!?」
その一言で全てが繋がった。一夏がどれほどまでに追い詰められていたのか、そしてどのような思いでこの世界の私を救おうとしたのか。
アイツは、一夏は自分を責めてるんだ。自分にしか持ち得ない魔法という力があっても、目の前の大切な人を救うことができない自分自身を。
「……なんでもかんでも背負いすぎなのよ、あの馬鹿」
「――そいつはもっともだな、ホント」
と、いつの間にやって来た弾が私の言葉を肯定しながら、その右手の銃を一夏……いや、暴走している箒とマドカに向ける。
「鈴、お前はリイスさん連れてさっさとアジトに戻れ!!一旦態勢を立て直す!!」
「ちょ、私はまだ!!」
「怪我してるリイスさんを守りながらアイツを止めるのは無理だ!!こっちで箒とマドカは連れてくるから、さっさと行け!!」
それに、と弾は続ける。
「平行世界のとはいえ、アイツが鈴を傷つける筈がないし、俺らも傷つけさせるつもりもない」
「アンタ……」
「俺らだってこっちのお前に助けられた一人なんだよ……たまには格好つけさせてくれ」
その見慣れた筈の軽い笑い顔に、私は何も言うことができなかった。
「……あとでアイアンクロー食らわせてやるんだから」
「ハハハ、こっちの鈴の掌底突きに比べたら大したことねぇよ」
「は!!ISの腕でに決まってるでしょ、この馬鹿!!」
「ちょ、流石にそれは冗談キツいぜ!?」
そんな軽口しか叩けず、私はリインフォースさんの肩を担いでその場から離れる。
(死ぬんじゃ無いわよ、馬鹿弾)
―――――――――――――――――――――――――――
「さて、見事に貧乏くじ引くことになったわけだが……大丈夫か、数馬」
飛び去る鈴をチラリと確認しながら、雑魚狩りを終えた、珍しく槍ではなくて双剣を構える数馬に俺は声をかける。
「いつものことでしょ、僕と弾が貧乏くじを引くのは」
「おいおい、引きたくて引いてるわけじゃないからな」
「分かってるよ」
軽口を叩くのは何時ものこと。けど、頭のなかは冷静に状況を見極める。
「ヴェルク、雑魚はもう周りには居ないな?」
『イエスですマスター、非殺傷設定に切り替えます』
「気の効くやつで助かるよ、お前はホント」
『デバイスですからな、マスターを支援するのは当然のことです』
相変わらず皮肉が効いてるのかいないのか微妙な奴だが、こういうときほどコイツは役に立つ。
「とりあえず、暴走した二人を元に戻すぞ!!」
「了解、掃除用具の方は任せたよ!!」
その言葉を皮切りに、俺達は互いに目の前の相手へと走り抜ける。
「とりあえずは……挨拶無用のマシンガンだ!!」
俺は持ってる銃を連続発射モードでぶちかます。暴走しているせいなのか、思考が単純ですぐに此方へ飛びかかってくる。
「ちっ!!接近戦は苦手なんだがな!?」
それでもとある洋画を見て覚えたあの動きをベースに、一夏から教わった武術を組み合わせた動きで、獣のように殴ってくる奴の攻撃を受け流す。
「さっさと、ネンネしていな!!」
俺はデバイスを長距離狙撃用の形態へ変化させ、後ろに回り込み、首筋にそれをホームランよろしく打ち付けた。
「カハッ!!」
流石にこれには暴走してようが関係なかったのか、一撃で気絶、ノしてしまった。
「これでこっちは完了、あっちは……」
チラリと確認してみると、次の瞬間視界の一部に巨大な氷のオブジェが広がっていた。
「……ヤり過ぎてなきゃ良いけど」
まぁ数馬だし何とかなるだろ、という安心感で俺は気絶してる掃除用具を米俵のように担……
「重!?ちょ、これ人の重さじゃねぇぞ!?」
明らかに過剰重量なコイツに辟易としつつ、さっさと気がつけと内心愚痴っていた俺だった。
オマケ vivid時空の一夏宅にて
マテスト鈴「……」(胸ガン見)
無限欲鈴「えっと、なんでそんな鋭い視線向けてんの?」(バストC)
マテスト鈴「(わ、私にもまだチャンスがあるってことよね?これ)」
マテスト鈴、トランジスタグラマーな平行世界の自分に希望を持つ。
が、同じくらいの歳になっても成長しなくて絶望したという未来があったとか……無かったとか……
「どうしてそんなに大きいのよ」
「えっと……愛かな///」
「なぜそこで愛!?」