無限の欲望と呼ばれる夏   作:ドロイデン

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sts-Ex12 翳り咲く夏鈴(かりん)

 あの一戦から一夜が明け、俺達はとりあえずいつもの日常に戻れた。

 

「結局、あのノイズとやらがなんなのかはさっぱりだったな」

 

 束さんが調べた結果、ノイズ及びカルマノイズが炭素でできていたこと以外何も分からず、生物なのか否かも不明だそうだ。

 

 さらに言えばクローン供との関係も不明。一時共闘していたのか、それとも同じやつが操っているのかすらも分からない。

 

「ふむ、だが事件が解決した……のだろうか?」

 

「じゃねぇか?少なくともあのカルマノイズとやらが倒されてから、ノイズも一瞬で消えちまったからな」

 

 一夏のあのブレイカー級の魔法を受けて消滅したのと時を同じくしてどこかへと消えていった奴等。間違いなく背後に何か居るのは間違いないのだろうが、それが分からないのでは意味がない。

 

「……ところで弾、一夏は今」

 

「言うだけ野暮ってことだよ」

 

 平行世界とはいえ、好き好んで馬に蹴られたい奴は居ないからな。

 

 

 

「いぢが~だずげで~」

 

「分かった、分かったからその地獄から這い出たゾンビみたいな声はやめろ」

 

 場所は変わってとある一室、ベッドにて全身をぷるぷるさせながら横たわる鈴と、それを苦笑しながら全身をマッサージする一夏と、普段ならあり得ない上下関係になっていた。

 

 というのもあの戦いから目覚めた鈴……どうやら向こうの人格と魂に戻った彼女を襲ったのは激しい全身の痛みと痺れだった。

 

 何事かと束さんが調べてみれば、単純に絶唱二連発なんて無茶をしたことによる反動……詰まる所、全身筋肉痛だった。

 

 さらに言えばISは修復不能一歩手前まで大破、今現在束さん、ドクター、クアットロという科学者チームによって修理こそしてるが、ブラックボックスのシンフォギアシステムに手がつけられずにいるためかなり難航してるとのことらしい。

 

「こっちの私め~幾らなんでも遠慮しなさすぎよ~‼人の体だと思って!!」

 

「自分自身なんだから自覚はあるんだろ、というか、バックファイアを全部引き受けるって言ったのはお前自身なんだから自業自得だ」

 

「ひど~い!!大事な彼女が大変な目にあってるのに」

 

「大事な彼女はお前じゃなくてこっちの世界のお前だ。だいたい俺がマッサージしてやるいわれもないんだが」

 

 売り言葉に買い言葉のような会話だが、どうしてかそこに火花は飛んでおらず、寧ろ話してて楽しいと思える雰囲気があった。

 

「……一夏は、あの戦いでの反動はないの?」

 

「……」

 

 太股を揉んでいた手が止まり、やはりと鈴は思った。

 

「……ない、って言ったら嘘になるな。神経との癒着がぶり返した。30前後だったのが40まで引き上がったんだからな」

 

「そう……」

 

「でも、悪いことばかりじゃないさ。あの戦いで俺は漸く前を向けたような、そんな気がした」

 

 痛みを与えないギリギリの力加減で優しく揉みほぐす一夏は、語りかけるようにそう呟いた。

 

「今までの傷も、今まで逃げてこなかった証……そしてアイツと会うために得た勲章なんだって思えるよ」

 

「……自分を許せるようになった?」

 

「さぁな。けど過去は変えられない、その分未来は自分で変えられるって思えるようにはなれたかもしれないな」

 

「なにそのクサイ台詞」

 

「酷いなお前も」

 

 クスクスと笑う鈴に、つられて笑みを浮かべる一夏は彼女の横に座る。

 

「なぁ、お前の世界の俺はどんなやつなんだ」

 

「ふぅん?興味あるんだ」

 

「当たり前だ。というかどうせなら聞かないとと思ってな、向こうの俺はどんな力を得て、どんな覚悟をしてるのか」

 

「そんなの決まってるじゃない」

 

 断言する鈴は一夏の目を見て言った

 

「やりたいことのために真っ直ぐ、最短に、一直線にがむしゃらやる、あんたみたいなバカよ」

 

 

 

 

「あ、でもたまに女体化してアイドルみたいなことしてるわね」

 

「……(束さんの提案、考え直したほうがいいかもしれないな)」

 

 

 

 そんなこんなでまた一日経って、箒達の帰還の日がやって来たわけで

 

「とりあえずいっくん、向こうの私によろしくお願いね」

 

「……了解です」

 

 箒、マドカ、そして今だ立つことすらままならない鈴をおぶった一夏がギャラルホルンのポイントへとやって来ていた。

 

「……おい一夏、鈴は私が」

 

「お前みたいな雑な奴が背負ったらどうなるかぐらい分かれ単細胞掃除用具」

 

「……そうか、私はそんなに信用されてないのだな……フフフ」

 

「ほ、箒しっかりして、ね?」

 

 メンタル豆腐な掃除用具にジト目と供に地面にののじを書いてる奴の姿を見て愉悦感に浸ってると

 

「ねぇ箒じゃないけど、やっぱり一夏が来る必要無いんじゃ」

 

「念のためにノイズとやらの情報が聞けるかもしれないからな。それに今回の戦闘のあらましを伝えるのも必要だ」

 

 なにより、と一夏は自身のデバイスである腕時計を見る。

 

「俺自身も暫く休養しろと束さんから言われてな……どうせ一日二日平行世界に居たところで何とかなる」

 

「ふーん」

 

(まぁ本音を言えば、女に変身した自分と戦ってみたいところだがな……ブラスターは使えないが、どこまでやれるか見物だな)

 

 なおその後平行世界の自分(女)を見てがく然とすることになるのは……また別の話かもしれない。

 

「とりあえず鈴ちゃんは最低二週間は安静にすること!!一応治療用のナノマシンは打ってるけど、それでも歩けるようになるまでは車椅子移動だからね」

 

「はーい」

 

「それじゃ三人とも、いっくんをよろしくね~」

 

 すぐに戻るからと突っ込もうと思ったが、とりあえずやめて平行世界に向かう一夏だった。

 

 

 

???

 

「罪の獣がやられたか」

 

 とある一室、暗闇にて空を見上げながら知ったように呟く。

 

「ねぇねぇ、なにかあったの?」

 

「いやなに、面白そうなことになりそうだと思っただけさ」

 

「ふーん、――がそう言うなら間違いないね!!」

 

 隣でにいたそれは、まるではしゃぐように動き回り、それを見て笑みを浮かべ嗤っていた。

 

「やれやれ、歌女は存在しないはずだというのに、この世界には」

 

「?とうかしたの――?」

 

「何でもないさ……今はまだ、ね」

 

 男は一人再び嗤う。それが何を示すのかは今はまだ誰も知らない。

 

 

 

 

 

 

オマケ

 

束「あ、いっくんおかえり……ってどうしたのその世紀末的に落ち込んだ顔は」

 

一夏「束さん……もしも、もしも自分の性別が女になって、しかも束さん並みの巨乳だった自分を見たらどんな反応したら良いんですかね」

 

束「……(え、ちょ、どういうこと!?)えっと……そういうときはね、菩薩になれば良いんだよ」

 

一夏「あぁ……ちょっと滝に打たれにイグアスまで行ってきます」

 

束「い、いってらっしゃい……ってイグアス!?いっくんストップ!!」

 

 その後滝行というなの自殺未遂を敢行する一夏と止める束という珍しい光景がアジトに浮かぶのだが、それはまた別の話。




ということで、今回にて「マテリアルズ・ストラトス」とのコラボは一旦閉幕、次回からお待ちかねの本編……リリカル史上に残る名(迷?)シーンのアレが幕を開けます。

なお次回から暫くはメインキャラが一夏から簪&本音、及び機動六課組に変わるんですが……その前に本編に繋がる番外編を一話挟みますので悪しからず。

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