無限の欲望と呼ばれる夏   作:ドロイデン

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また番外編ですみません。どうしてもストーリー進行上出さなきゃいけないキャラだったので勘弁してください。はい


番外編 想いと力と

 ISの男性起動者発表から三年が経って、世界は否応がなく変わっていった。

 

 アレから男性でもISを操縦できる人間は増えていって、そのせいで期間は一年と短かったけど第三次世界大戦まで勃発した。

 

 ISは女性の為の神聖な物と言い女尊男卑を訴えていた女性権利団体と、逆に男女平等と宇宙開発を目指した国連による全世界を巻き込んだ戦争は、結果的に言えば国連が勝ったものの、世界は再び混迷の道を歩んでいた。

 

 かく言うアタシも去年までは代表候補生だったわけだが、戦争で唯一国連側についた事で現在は代表にまで登り詰めたが、世間の一部からはからは売国奴と罵られると散々な毎日を過ごしていた。

 

「はぁ、店長お酒おかわり」

 

「……毎回言ってるけど、君まだ17でしょ?いくら国家代表とはいえ、未成年飲酒したら逮捕されちゃうよ?」

 

「大丈夫、昨日で一応18になったから、文句言われずお酒飲めるから」

 

「そう言う問題じゃなくてね……はぁ、ちょっと待ってな」

 

 文句を言いたげだったが、しょうがないとばかりに店長はカウンターからビール瓶を取り出してテーブルに乗せる。

 

「これで今日は最後だよ。このあとも予定あるんだろ?」

 

「予定……ねぇ」

 

 ある、といわれれば確かにそうだ。だが正直言えばやりたくもない仕事を無理矢理やらされるようなものなので正直逃げ出したいくらいだ。

 

「はぁ、なんでアタシが国家代表なんかになったんだろ」

 

「そら君がうちの国で唯一国連側についたからだろう?まぁそうしなかったらうちの国はまずISを全部没収されていてもおかしくなかったからね。現にうちの国でIS持ってるのは君を除いて二人だし、どっちも最近なったばかりの候補生だしな」

 

 ぐうの音も出ない正論だった。実際あの戦争でアタシ以外の国のコアは全部没収されて、消去法的に代表になったのは紛れもない事実だからだ。

 

「はぁ……やる気でない、正直引退したいのに引退できない」

 

「まぁ、なんだ。うちの店で愚痴を言うくらいなら幾らでも聞いてやるから頑張れや」

 

「う~、なら角煮と煮卵のおつまみセット一つちょうだい」

 

 店長は飲んだくれのおっさんかと突っ込んでくるが、どうにも最近自分でもそんな感じになりつつあるため何も言い返せなかった。

 

(……ホントは強くてかっこよかったお姉ちゃんみたいになりたかったんだよな~)

 

 アタシが代表候補生になったきっかけ、それはISが発表される少し前に見た姉のその背中だった。

 

 当時苛められていたアタシを守るために、男子三人相手に真っ正面からぶつかって叩きのめしたお姉ちゃんのかっこよさ、そしてその後に見せてくれたはにかむような笑顔。10年近く経った今でも忘れられないその姿は私の標になった。

 

 あの背中に追い付きたい、並びたい、そんな風に思った私が選んだのがISで、それ自体は間違えるべくもない信念。

 

 けど、漸く代表候補生の、それも念願の専用機持ちになれたその数日後に姉は……

 

「――ですね」

 

「ん?」

 

 そんな物思いに耽っていた私に、一人の女性が流暢な日本語で話しかけてきた。見てみれば長いプラチナのストレートヘアーで、どういうわけか目を開けずにこちらに話しかけてきていた。

 

「アンタ何者? 一応外にうちの知り合いが居たはずだけど?」

 

「あの方々なら暫く眠っていただきました。貴女に手紙を渡したいのに厳重でしたので」

 

「手紙?だれから?」

 

「――貴女のお姉様の婚約者(フィアンセ)の方からです」

 

「ッ!?」

 

 女性の言葉に一瞬で酔いが醒め、瞬時にISを部分展開し現れた大剣の刃を首筋に当てる。

 

「……どういうつもり? まさか死人から手紙が届くとでも言いたいわけ?」

 

「彼は死んではいません。それと、正確に言えば婚約者の彼を思った私の主人が書いたものです」

 

「……それ、本気で言ってる?」

 

「私は嘘が苦手ですので」

 

 なんとも綺麗な言葉だが、同時に少し観察しただけですぐにピンときた。雰囲気が違うために気のせいかと思ったが間違いない。

 

「アンタ、ドイツの『黒兎』と同じね?」

 

「……貴女が仰ってるのがラウラ・ボーデビッヒならば、その答えはイエスです」

 

「そんなのを連れてるアンタの主人ね……さしずめ、かの天災『篠ノ之束』ってあたりかしら? だとすればなるほど、少なからず納得できるわね」

 

 その言葉を聞いた彼女は意外というように表情を変えた。

 

「……驚きました、まさかそんな少ない情報からそこまで推理できるとは予想外です」

 

「こんなの国家代表クラスなら誰でもできるわよ。それより、その手紙とやらを見せてもらっても?」

 

「ええ、構いません。ですがその前に」

 

「?」

 

「ISをしまってください。ここの店主さんが苦笑いしてますよ」

 

 

 

「……なるほどね」

 

 とりあえず対面に座らせ、渡された手紙を読んでみれば頭のいたい内容ばかりだった。

 

「……ここに書いてあるのは間違いなく事実でいいのよね?」

 

「当然です。幾ら束様が変人奇人と有名だとしても、技術者としては間違いなく本物ですから」

 

「そう……よね……」

 

 言動や行動が明後日の方向に行ってるのは有名だが、提唱した技術や理論は間違いなく本物で、仮に今までのそうした技術特許を現金化させようと思ったら、それこそG8各国家予算の総計額に匹敵してもおかしくない。

 

 そんな技術者という一点から見れば誠実な彼女が、この手紙で書いた技術や技能……それを判断するとなると私一人ではまず不可能。

 

「……この事を知ってる人ってどれくらい居るの?」

 

「……仮に会いに行って直接聞くとなるとお二方だけです」

 

「……なら早速案内して貰うことも?」

 

「可能です」

 

「なら決まりね」

 

 アタシはそう言うと座っていた席を立ち上がり、最近ずっと下ろしていた髪を、懐に入れていたリボンでサイドテールに纏めなおす。

 

「けどまぁ、ただ行くんじゃ味気ないわよね」

 

「? と、言いますと?」

 

「アタシをこんなに拘束させた駄賃代わりに……ISそのものを奪ってやろうじゃないの」

 

 流石に私の空き要領はそこまで多くないけど、機体一つぐらい予備パーツ扱いで容れるくらいの要領は確保できる。

 

「簡単に言ってますが、犯罪ですよ? それ」

 

「大丈夫、アンタの力もあれば簡単に済む話だから」

 

「……乗り掛かった船ですので協力はします。けど無茶無謀までは手伝いませんからね」

 

 その言葉にアタシはニヤリと笑い手を差し出すと、一瞬戸惑ったが彼女も差し出し握りあう。

 

「よろしくお願いいたします。()()()

 

「そっちこそよろしくね、()()()()()()()()()




簡易キャラ設定

『凰乱音』
「アーキタイプ・ブレイカー」より参戦。三年の間に起きた第三次世界大戦の影響で国家代表にまで登り詰めたが、周囲の大半から裏切り者として冷遇されており、若干荒んだ生活を送っている。わりと頭が良い

『クロエ・クロニクル』
「IS」本編より参戦。相変わらずの束の従者で、現在はミッドにいる束と地球の千冬及び支援者の橋渡し役として活躍中。なお料理のセンスは原作同様壊滅的

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