無限の欲望と呼ばれる夏   作:ドロイデン

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 誰もが眠る丑三つ時……そんな夜更けに私は自らのデバイス『ルインダーナン』の槍先を静かに一人磨いでいた。

 

「……」

 

 ゆっくり、丁寧に磨きあげていき、私自身が納得したところでそれを元の指輪の状態に戻す。

 

「珍しいな、簪がそこまでやるなんて」

 

 と、まるで見計らったように現れた戦友……織斑一夏の存在に、私は眼鏡を外しながら答える。

 

「……もしかしたら、明日が私にとっての関ヶ原になるかもしれないから」

 

「そうか……」

 

 深く追求しない彼に私は再び眼鏡をかけて、彼の方に向き直る。

 

「そういう一夏は、何時もなら寝てる頃合いなのに」

 

「少し眠れなくてな……気晴らしに軽く鍛練でもしようかと思ってな」

 

「トゥーレとノーヴェに怒られても知らないからね」

 

 そんな軽口を叩き合える仲になれるなんて、私にとってはさらにもう三年が経つと思うとどうにも感慨深くなるが、

 

「……刀奈さんに勝てると思うか?」

 

 同時に彼のその優しさは私にとってはある意味猛毒だ。

 

「……難しいかな。幾ら私が三年間力を得るために努力してきたとはいえ、あのお姉ちゃんを殺せるかって言われると」

 

「だろうな、あの人の自分自身を掴ませない雰囲気ってのもあるだろうが、潰したとはいえ暗部の当主としての実力は確かだろう」

 

 だが、と彼は続けて

 

「率直に聞くぞ、簪、お前は本当に殺せるのか」

 

「どういう意味?」

 

「そのままだ、復讐心もあるんだろうが、本当はただ……」

 

 その言葉を聞かずに私は再び薙刀を展開して彼の方へ振り抜く。

 

「その先は言わなくてもいい」

 

「……そうか」

 

 それだけ言うと彼は後ろへと振り返り、歩き出した。

 

「なら俺はなにも言わない……ただ……()()()()

 

 その言葉に返す言葉は、私にはなかった。

 

 

 

 機動六課のとある一室、シスター刀奈こと更織刀奈は物思いに耽っていた。

 

「お嬢様、そろそろお休みになられた方が」

 

「虚ちゃん、多分明日よ」

 

 常日頃から側にいる相方にそう告げると、彼女は何時もの扇子ではなくあるものを取り出した。

 

 それは大太刀、更織の当主のみが代々受け継いできた印にして、古代ベルカ時代の遺産……所謂ロストロギアと呼ばれるものだった。

 

「……それを抜かれるのですね」

 

「ええ、今の簪ちゃんに手加減して勝てる余裕なんて微塵もないわ」

 

 鞘から少し抜き、現れた漆黒の刃で親指を軽く切ると、滴り落ちる血をその刃に飲ませていく。

 

 次の瞬間、鞘から濃密な黒い霧が溢れ出すと共に、それは私の体を覆う衣となった。

 

 肩出しのジャケットコートに黒い手袋、そして首もとを覆うマフラーと黒いマント、そして古代ベルカの魔法陣の刻まれた中指留めのフィンガーレスグローブと、所謂人斬りとでも呼ぶべきようなその姿。

 

「……荒正、起動確認完了です」

 

「そう」

 

 虚ちゃんの言葉を聞いた私の感情は何も動かない。それがこのロストロギア級デバイス『荒正』の力。何物にも動じず、ただひたすらに敵を切り裂くのみという……それが暗部としての私。

 

「……お嬢様、今はまだ解除してください」

 

「……そうね」

 

 無機的に呟いたその言葉と同時に荒正の展開を解除、が、それと同時に酷い頭痛に苛まれふらついてしまった。

 

「お嬢様!?」

 

 慌てて虚ちゃんが支えてくれて何とかなったけど、頭痛と共に耳鳴りも酷く、ロストロギアと呼ばれる所以を噛み締めた。

 

「……やっぱり、私の血だけじゃ足りないのね」

 

「当たり前ですがお嬢様、アレは元々が魔剣や妖刀の類い、先代様ですら制御するのは至難の技だと聞いています」

 

 荒正は他のロストロギアと違い惑星一つ壊すような破滅的被害をそれ事態が起こすものじゃない。けどそれとは別の意味で被害をもたらすもの。

 

 使い手に血肉を食らわせ、求めさせる。使うものは刀に精神を侵食され、やがてただの殺戮機械へと成り下がる、それが荒正の力。

 

 当然ながら、聖王教会やかの司書長に頼んでリミッターを掛けては貰ってるが、それでもアレの殺人衝動を完全に押さえ込むのは、旧闇の書のバグ全てを消去し、尚且つ守護騎士全員を無事でいさせる並みに不可能とまで言われた。

 

「ですが、お嬢様はそれを使わずともISを使えば」

 

「それは簪ちゃんも同じ条件よ。しかもあっちには恐らくあの篠ノ乃束が後ろについてる……性能差は考えるまでもないわよ」

 

 それに、

 

「簪ちゃんはISを使ってくるつもりはないわ」

 

「……断言するんですか?」

 

「仮に簪ちゃんの機体のコンセプトが、IS学園の時と同じままなら戦闘距離は中~長距離。対してこっちのはどちらかと言えば近~中距離……相性は互いに不得手なのよ」

 

 あっちはミサイルといった質量武器がメインで、こっちは魔法とナノマシンで操作してる水(及び水蒸気)、ぶつかり合えば決定打にはどちらもならない。

 

「ならどうするかと言われれば簡単、魔法を利用した接近戦しかない」

 

「なるほど」

 

 虚ちゃんも納得したのかそれ以上は何も言わず、机に載っていた書類をテーブルの方へずらし始めた。

 

「……私は恐らく本音と戦うことになるでしょうが、気を付けてくださいませ」

 

「……それはこっちの台詞よ、あの娘の毒は私でも解析できない調合してある、この三年でさらに進化してるに決まってるから」

 

「承知の上です……身内の恥は身内が払わねばならないですから」

 

 それだけ言うと虚ちゃんは眼鏡を外し私の後ろに立つと、どこから取り出した櫛で鋤き始め、私はそれを黙って受け止めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かくして両雄は準備を終えた。復讐に牙を研いだ闇姫、正義のために力を得た光姫、その戦いの火蓋はまもなく……

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