スバルを連れて何とか仮想ビル内の一つに隠れたは良いものの、状況は全くといって良いほど好転する気配がなかった。
「……ダメね、フェイトさんにヴィータ副隊長、リイン曹長とも念話が通じない」
恐らく念話防止用の結界が張られてるのだろう。救援を呼びたくても呼べない状況に加えて、スバルの腕のこともある。
(幾ら戦闘機人のスバルとはいえ、関節を潰されたら得意のパンチは打てないし、何より痛みでウィングロードを張るのも厳しい)
スバルの……というかナカジマ家の遺伝魔法のウィングロードは道や足場として三次元的な効果を生み出すものだが、その作成にはかなりの繊細さが求められるのは、スバルの姉のギンガさんから聞いてはいる。
だからスバルは恐らく、今現状ではウィングロードを十全には使えない要救助者。正直言えばかなり厳しい条件だ。
「ゴメン……ティアナ」
「スバル」
「ワタシがもう少し考えて行動してたら……もしかしたら」
何時ものスバルらしくないネガティブ発言に、大分痛みで精神的にもダメージが入ってるのが良く分かる。
「……仕方ないんじゃない、あの男……織斑一夏は正直言って強すぎるんだから」
何せ推定の魔導師ランクが八神部隊長を超える、普通ならあり得ないSSS級。さらに加えて格闘、剣術、魔法戦どれにおいても強いなんて埒外にも程がある。
「うん、仕方ないよね……君たちが弱すぎるのもあるし」
「「!?」」
突然聞き慣れない声が聞こえたかと思うと、狙ったように薄いオレンジのシューターが飛んできた。
私は思わず避け、スバルは左手でなんとかシールドを張ることでそれを防ぐが、その表情は苦悶に満ちている。
「スバル!? こんの‼」
いきなりの攻撃に驚きはしたが、すぐにクロスミラージュから弾丸を作りだし、攻撃された方向へシューターを放つ。が、
「そんななまくら弾じゃボクには通じないよ」
一瞬、たった一瞬で私が放ったシューターは、全てを真っ二つに切断され爆発してしまった。
「シューターを斬った!?」
自慢じゃないけど、CGとしてシューターはずっと磨いてきた。最近は新技の練習でそこまで徹底してやってなかったけど、それでもAMFでも使えるヴァリアブルシュートをいとも簡単に切り捨てるなんて。
「うーん、この程度の粗末なシューターじゃ、ボクを撃ち抜くなんて不可能だよ」
そう言って現れたのは、ナンバーズと呼ばれた青い特徴的なスーツを身に纏った戦闘機人で、尚且つその両手には魔力の刃を展開した拳銃が二丁握られていた。
「シューターってのは……こういう風に使うんだよ‼」
相手が右手に持った銃を地面と水平に動かすと、それをなぞるように薄いオレンジのシューターが生み出される、が、
(シューターが小さい?)
普通、シューターは直径10㎝前後の弾丸状であることが多いのだが、相手が生み出したのはその半分以下、直径で3㎝あるかないかの弾丸を無数に産みだしたのだ。
「ラピットシューター……レイニングシフト」
彼女のその一言で、まるで雨霰とでもいうようにシューターが大量に飛来してきた。
「ッ!?スバル、ロード張って‼」
まさかの攻撃に私は相方の名前を叫び、スバルも状況を理解してウィングロードを私達の前を覆うように大量展開させる。
本来は移動用の道として使う魔法だけど、緊急時のシールドや移動阻害にも使えることを知ってるからこそできる芸当、故に降られてきた威力は低いけど大量の魔力弾は防げる。けど……
「前ばかり気にしてて良いのかな」
「な!?」
その隙をついてか一瞬で回り込み、頭上から魔力のナイフを降り下ろしてきた。
「させるかっての‼」
私もすぐに魔力刃を展開してその一撃を防ぐ。が、魔力の質が違うのかすぐに壊され、着地の脚を軸とした回し蹴りを食らってしまった。
「ガッ!?」
「ティアナ!?」
「おっと、そこのセカンドちゃんは黙って防御しとかないと、魔力弾に飲まれちゃうよ」
スバルが怪我を押して動こうとするのを相手は言葉一つで食い止める。実際、威力はさほど脅威じゃないとはいえ、まるで無限のように射ち続けられ、スバルが集中してなければ恐らく簡単に突破されてるだろう。
「こんのぉ!!」
すぐに立て直してシューターを打ち込もうとするが、それよりも早く迫ってきた相手は私のデバイスを掴んで、それを視点に飛び上がって顔の真横から蹴りを入れてきた。
「ガッ!?」
こめかみに直撃し、ふらふらとする体をなんとか立ち上がらせるが、それでも正直……
「ふーん?簪さんから講義を受けといてその体たらく……正直見込みないよ、キミ」
「!?」
今、コイツは何て言った?
「見込みがない……ですって」
「うん、いくら銃を使うガンナー系の魔導師とはいえ、判断が遅すぎるもん」
そう言いながら拳銃から魔力刃を展開し、変形してブレードのようにして迫ってきたのを、ギリギリで後ろに避ける。
「おまけに自衛のための近接戦もできない……いや、まだ制限されてるのかな」
「……どういう意味」
「そのデバイス、見た目のポテンシャルと今現在のポテンシャルが全然違いすぎるんだよ。ま、新人に機能全開にして渡すほど、技術者もバカじゃないって事かな」
その言葉に私はすぐになのはさん達が言っていた事を思い出す。
そして思い出せた。まだ自分は管理局の魔導師としては未熟で、新人で、それでも
「……クロスミラージュ」
『なんですか?』
「私、これから少し無理するけど、ついてきてね」
なのはさんに目をつけてもらえた、それだけで、今自分ができる全てを出すのには充分な理由だ。
私はカートリッジを4つ、全てをロードし足元に巨大な魔方陣を展開させる。
「!?」
アイツはかなり驚いた表情を浮かべていた。そりゃそうだ、だって
「フェイク・シルエット……ファントムシフト!!」
私の周囲に4体の分身幻影がその場で構えていたのだから。
「そんなこけおどしの幻術で!!」
が、すぐに立ち直った相手はその両手のブレードで幻影を斬りかかる。普通ならばその一撃で消えてしまう、そう、普通ならば
「な!?」
が、分身は全く消えず、寧ろその攻撃を真っ向から、幻影が持っているクロスミラージュの魔力刃で受け止めたのだ。
「まさか、分身全てに魔力で肉体を与えてる!?どんな忍者マンガだよ!!」
そう、このファントムシフトの本質は実体を持った幻影、使ってる間はシューターを展開できなくなる代わりに、クロスミラージュが操作した幻影が格闘戦を行うというもの。
ただし、はっきり言えばまだ練習段階の奥の手、カートリッジを倉弾可能な四発全て使って漸く発動できる大技で、しかも動かす度に魔力が大量に持っていかれる。
現に、1体でも魔力がギリギリなのを、現在のクロスミラージュが操作できる限界の4体も生み出した、普通ならばぶっ倒れていて不思議じゃない、普通ならば。
「く、これだけ派手に動いて、なんで平然と戦闘に混ざってこれるの!!」
「自分で考えてみなさい!!」
相手は嫌がりながら少し離れると、すぐに拳銃状態に戻してシューター戦に切り替える。が、それは今の私には悪手だ。
「ッ!!シューターを吸収した!?」
幻影に当たった魔力の弾丸は爆発することなく、寧ろその魔力を吸い込んでいく。
「まさか収束魔法と幻術魔法の混成魔法!?こんな新人が!?」
流石に今のでバレたようで、シューターを……スバルに放っていたものまで全てをキャンセルし、その拳銃を実刃のナイフに変えてきた。
相手の想像通り、ファントムシフトはなのはさんの収束魔法の対策に考え、さらに得意の幻術を生かすための魔法。魔力を収束される前に、此方が先に収束してしまえという理論で、収束した魔力を幻術の肉体維持と制御に全てを回す、ただそれだけの魔法。
直接戦闘に役立つだけでなく、手数が多くなればそれだけやれることが増える、が、相手の取った行動のように魔力を使わない攻撃に切り替えられると途端に自分の手札が無くなる諸刃の剣の大技だ。
「せやぁぁぁ!!」
「ちぃ!!」
ナイフと魔力刃がぶつかり合い、その横から幻影が相手を攻撃するが、まるで察知したように後ろに下がり、幻影二体を殴り飛ばし蹴り飛ばす。
さらに後ろからの時間差の攻撃も、その幻影の襟首を掴んで此方に投げ飛ばしてきて、私に直撃する。
「ぐっ!!」
『ファントムシフトの魔力消費が激しいです。これ以上の展開はマスターの行動を狭めます』
「幻影二体を解除してこっちの1体ともう1体に全部回しなさい」
『ラジャ』
途端、横に飛ばされた2体がノイズとともに消滅し、私と、私の側の幻影が立ち上がる。
「……思ってたより、手数が豊富みたいだね」
「そりゃどうも、感心してくれるなら捕まってくれると助かるんだけど」
「それはお断りかな。ま、幻影1人使って負傷者を逃がすのは素直に感心したよ」
そう言うと、目の前の相手がまるで飲み込まれるように地面に沈んでいく。
「ま、僕の仕事は終わったから、ここらで撤退させてもらうよ」
「っ!!待て」
「待てと言われて待つ犯人はいないよ」
そう言い残し、相手は一瞬にして消えてしまった。
『ティア、聞こえる!!』
「……聞こえるわよ」
念話から聞こえた相棒の声に、どっと疲れが舞い降りた私はその場でフラりと倒れる。同時に魔力が途切れて幻影が消える。
「クロスミラージュ、スバルがシャマル先生のところにつくまで、幻影消すんじゃないわよ」
『分かりました』
それだけいうと、酷い頭痛と目眩に襲われ、意識を一時的にシャットダウンした。
(なのはさんたちは……どうなったんだろ)
オマケ 新技練習の一幕
「ティア、新技の練習?」
「えぇ、分身にシューターを射たせようとしたんだけど、中々上手くいかなくて」
「へぇ、やっぱり幻術だからかな」
「それもあるけど、クロスミラージュのスペックと私の魔力量が足りてないのよね……どうしたものかしら」
「あ、スバルとティアナ、こんなところにいた」
「あ、なのはさん、どうしたんですか」
「マリーさんが、二人のデバイスのチェックしたいって言ってたから、それを伝えにね」
「分かりました、すぐに行きます」
「あ、ティアナ、さっきの新技の練習だよね」
「え、あ、はい。そうですけど」
「見た感じ操作には問題ないみたいだけど、やっぱり魔力量が」
「はい……こればかりは」
「……ねぇティアナ、収束魔法って知ってる」
ティアナの魔改造にはなのはさんも関わっていた……かもしれない?