「気をつけろよ!壊すんじゃねぇぞ!」
鉄華団は今まさに島から出るための準備に取り掛かっていた。揚陸艇に次々と荷物が運び込まれていき、出立の時を今か今かと蒔苗は待っていた。
「もう!あれだけ海水につけるなって言ったのに!」
「仕方ないでしょ?あの状況じゃ」
ラフタ達は格納庫で話し合っていた。
「しかし、大した子供たちだね。あれだけの戦闘をしておきながらまだ体をうごかす余裕があるんだから」
「だね。でもさ、あたしたちと戦った時はどこか戦い方が雑っていうか、どこか戦術指揮が行き届いてない感がしてたじゃない?やっぱアガレスが入ったからなのかな?」
「そうかもしれないね。ビスケット君がモビルスーツの指揮をしてくれるおかげで大分戦いが楽になった感じはするね。まあ、サブレ君に言わせれば今のアガレスはシステム上の負荷が多くて本来の性能を出し切れてないって言っていたけどね」
「それってさ、もう少し何とかならないの?まあ、今のままでも十分強いとは思うけどさ」
「なんとかならなくはないよ?ただ雪之丞さんとも話したんだけど、やっぱり下手にいじくると動かなくなる可能性があるのよね。テイワズの整備長さんに直接見せたほうがいいとは思うの。まあ、データだけは渡したけど」
「整備長さん、騒いでなかった?」
「大興奮だったらしいよ。なんでも「バルバトスに続いてアガレスまであるなんて!!しかも、整備できるかもしれないなんて!!!」って騒いでたって」
「騒いでそうだね。バルバトスの時もすごかったんでしょ?まあ、ガンダムフレームって今じゃ珍しい、それこそギャラルホルンぐらいしか持ってないんじゃない?」
「それを三つも所持してる鉄華団って………」
三人がガンダムフレームを見上げると、そこには変わらない姿で立ち尽くすガンダムの姿が有った。
「オルガ。雪之丞さんがモビルワーカーの積み込みがそろそろ終わりそうだって」
「分かった。ビスケット、それが確認でき次第モビルスーツ隊に船へ移動の準備をさせてくれ。護衛してもらいながら船へ急ぐ」
「了解」
ビスケットが通路の奥に歩き出そうとするのをオルガが不意に止めた。
「ビスケット。今度からはなんか不満があるなら俺に隠さず文句を言ってくれ。お前からの言葉だ、俺も真剣に受け止める。どうだ?」
「分かった。今度からはそうするよ。オルガも今度から俺からの意見を反映してくれるんでしょ?」
「ああ、当たり前だ」
ビスケットはそれを確認すると、再び歩き出す。
オルガはそのままビスケットとは別の方向に歩いていくと、奥からタカキがやってきた。
「団長。おやっさんが積み込みが終わったって」
「分かった。悪いがビスケットにそれを報告してやってくれ」
「了解です!」
「熱い……熱い………熱い」
サブレは食堂の机に体を預け、だらけきっていた。クーデリアとアトラが両サイドからうちわで扇ぐ。
「大丈夫ですか?」
「熱いのダメだったの?島に上陸したときは大丈夫そうだったけど……」
「別にそこまで苦手じゃないけどさ……、さすがにそろそろ限界が……」
「サブレ、そろそろ出発の準備だってさ」
シノが呼びに来ると、サブレはゆっくりと顔をあげる。
「おお、だらけきってんな。ほれ、そろそろ行くぞ」
「熱いのなんてこの世界から消えてしまえばいいのに……」
そんな呪いのような言葉を吐きながらサブレはシノと共に格納庫に向かった。
「船で会いましょう」
そういうとクーデリア達も揚陸艇のところに向かった。
「お前らなあ!二人そろって連絡に出ないとか!」
「すまなかったなユージン」
オルガ達鉄華団は無事船に乗り込むことに成功した。その直後船にユージンからの連絡が届いた。
「ごめんユージン。色々あって……」
「まあ、いいんだけどよ。で?何があったんだ?」
「その………オルガと喧嘩しちゃって」
「はぁ?喧嘩?」
「ああ、まあもう大丈夫だ。それよりそっちはどうだ?」
「こっちは特には問題ねぇよ。降りられそうだったら俺たちも降りるからよ」
「ああ、任せたぜユージン」
オルガとビスケットは通信を終えると、廊下に出て歩き出し始める。二人は蒔苗の部屋へまっすぐ向かう。部屋に入ると蒔苗とクーデリア、フミタンが待っており、二人も近くの席に座った。
「ではそろそろ話をしようかの。アーブラウ議会へ向かう方法じゃが、お前さんたちは何かいい案があるかの?」
「といってもな。俺たちは地球は初めてだし、アンタこそなんかいい案は無いのかよ」
「今の状況を考える限り正面突破以外がいいですね。戦力を見ても正面から攻めても勝てませんし。なにか隠れてエドモントンの近くまで行ければいいんですけど……」
そうするとクーデリアが立ち上がった。
「私に提案があります」
「アラスカ?」
オルガとビスケットはメンバーの一部を会議室に集めた。
「ああ、俺たちはアラスカを目指す。そこからエドモントンへまっすぐ向かう」
「まあ、それはいいんだけどよ。なんでアラスカなんだ?正面から行きゃいいじゃねぇか」
「とんでもない。ギャラルホルンは俺たちがエドモントンに行くことぐらいは読んでる。だとするならエドモントンへの海路はギャラルホルンに抑えられてる。俺たちの戦力じゃ正面突破なんてすれば落とされるだけだ」
「そこでアラスカに行くという案がお嬢さんからでた」
「で?なんでアラスカなんだ?」
「アラスカからエドモントンまで直通の列車があるんだって。定期的に貨物を運ぶ便があるらしくて、それにまぎれて移動して、隠れてエドモントンの近くまで行く。ついでにアラスカでモビルワーカーの補充もしてね。列車の手配は蒔苗さんとクーデリアさんがしてくれるって。議会を押さえていられるのも限界があるからなるべく早く近づかないといけないんだ」
「モビルワーカーの補充は必要なのか?今のままでもいいんじゃ……」
「それがそうも言ってられないんだ。俺たちが安全に火星に帰る最低の条件は蒔苗さんの当選なんだ。たとえ蒔苗さんを連れて行っても蒔苗さんが当選しなかったら意味はないんだ。その場合は俺たちは永遠にギャラルホルンに追われることになる」
「そうなりゃあ、火星に帰ることは不可能になる。となれば俺たちが契約を反故にするわけにはいかねぇってわけだ。都市でのエイハブリアクターの使用は禁止されている。となれば、モビルワーカーで戦うしかない。だが俺たちが現段階で保有してるモビルワーカーは少ない」
「そこで蒔苗さんがモビルワーカーをいくつか俺たちにくれるそうなんだ。それをアラスカで受け取る」
「なるほどな。まあ、そういうことなら別に文句はねぇさ」
全員が納得したところで話し合いは無事に終わった。
オルガとビスケットが部屋から出ると、三日月とサブレが近づいてきた。
「オルガ、さっき船に俺たち宛ての荷物が届いているから確認してくれって」
「荷物?聞いてねぇぞ。ビスケット何か聞いてるか?」
ビスケットも知らないと首を横に振る。荷物を確認するために歩きながら荷物が置いてある場所に向かうと、そこにはコンテナが十個ほど積まれていた。
「これか?中身は何だ?」
「え~っと……モビルスーツの武器、弾薬だね。あと装甲や推進剤」
「なんすかこれ」
ライドやシノたちも次々とコンテナの前に集まってくる。
「で?これを届けた人物の名前は載ってるのか?」
「うん。マハラジャ・ダースリンって書いてるよ」
みんなの頭に?が浮かぶ中それを聞いていたラフタ達が反応した。
「マハラジャってあのマハラジャ?ギャラルホルンを変えようとして殺された?」
「知ってるんですか?」
「知ってるっていうか。有名な人物だよ。それこそ地球圏じゃ知らない人間はいないんじゃないかな?」
「だね。ギャラルホルンでありながらたてついた愚かな人間として語られてるよ。なんでもアリアンロッドに殺されたって話だ」
そんな話をしていると、その話にサブレと三日月が遅れながら入ってきた。
「結局誰だったの送り主」
「マハラジャ・ダースリンだってよ」
「ふ~ん。じゃあこれマーズ・マセが送ってきたんだ。爆弾でもついてるんじゃない?」
「「「!!!」」」
「サブレ!今なんて!?」
「?だからマーズ・マセが送ってきたんじゃないの?」
「どういうことだ?なんであの男の名前が出てくるんだ」
「だってフォートレスの工作員が使う偽名にその名前があるから。特にマーズ・マセがよく使う名前だよ。といっても相手によって変えるらしいけど。あまりギャラルホルン相手には使わないけどね」
「じゃあ、知ってるんだマーズ・マセは……」
サブレはラフタ達からマハラジャ・ダースリンの話を聞く。
「俺が知ってる話とは違うな………。マーズ・マセはマハラジャ・ダースリンを愚かな友を信じてしまった男って言ってたからさ。騙された男って言ってたかな」
すると、後ろから蒔苗がやってくる。
「おお、届いておったか」
「これあんたが?」
「そうじゃよ。フォートレスという宇宙海賊がこれを売却したいと言ってきてな。まあ、例によってバカにならん金額を請求されたがな。なんでもアガレス代も含めて請求するとかなんとか……」
「だったら爆弾が仕掛けられてたりはしてないかな……。念の為に確認しておいた方がいいかもしれないね」
そういうと鉄華団が総意でコンテナのチェックが始まった。
コンテナのチェックが終えたころ整備班は早速届いたモビルスーツの部品で整備が始まっていた。
「ヤマギ!グシオンの方は任せるぞ。こっちはアガレスとバルバトスのチェックだ」
アガレスとバルバトスが少しずつだが変わろうとしていた。両機は長期戦を想定した装備に変更しようとしており、三日月とサブレとビスケットもそっちの手伝いをしていた。
「ビスケットさん。聞きたいことがあるんですけど」
「ああ、そこは……」
タカキやライドらに囲まれてビスケットは整備の手伝いをしているのをオルガは少し離れたところから覗いて少しだけ笑っていた。オルガがいることに気が付いた三日月がオルガのもとに移動する。
「どうしたの?ビスケットを見つめて」
「いや……なんだろうな。よかったって思ってよ?」
「?」
「夢みたいなことにならなくてよかったって思ってよ。あいつが船に乗って仕事をしている姿を見るとそう思わされるんだ」
「オルガが努力したからじゃない?それにビスケットが言ったんでしょ?一緒に帰ろうって」
「そうだな、一緒に帰らねぇとな」
二人は拳をぶつけ合う。
アラスカに到着した鉄華団は列車への積み込み作業を行っていた。その中オルガとビスケットはモビルワーカーの確認作業を行っていた。
「これでモビルワーカーはすべてになります」
目の前には二十ものモビルワーカーが並べられており、雪之丞たちが一つ一つを列車に積んでいく。
「オルガ、俺は積んでいくモビルワーカーのチェックに入るよ」
「ああ、頼んだぜ」
ビスケットは列車の中に入っていくと、メリビットが後ろから声をかけてきた。
「団長さん。船から列車への積み込みが終わったそうです。あとはそのモビルワーカーだけですね」
「すんません。止めないんすか?俺たちの事」
「止めません。ビスケット君が止めないのなら私が何を言っても無駄でしょう?それにビスケット君がいればよっぽどのことがない限り大丈夫でしょうし」
「全部お見通しかよ」
オルガはどこか照れくさそうにしながら表情を隠す。メリビットはそれをクスクス笑う。
「何かあったんでしょうね。地球に降りる前と後で二人の信頼関係が変わったように思って。多分、みんななんとなくそう思ってるんでしょうけど、ビスケット君が変わったというのもあるんですけど、多分一番変わったのは団長さんなんでしょうね」
「はぁ?俺っすか?」
「ええ、団長さんは気づいていないことかもしれませんが………私はいいことだと思いますよ」
そういいながらメリビットは列車の中に入っていく。
列車が走り出すとオルガと三日月は二人で話していた。
「なあ、ミカ。俺変わったか?」
「じゃない?」
「自分じゃよく分かんなくてよ」
「ビスケットが前に言ってたんだ「オルガにはもっと俺たちを頼ってほしいんだけどね」って。俺もそう思う」
「焦ってたんだろうな。多分だけどよ、お前らを俺が守らねぇとって。そう思ったらあせっちまったんだ。自分でも情けねぇよ」
そのタイミングでビスケットが姿を現したのを三日月が確認すると、三日月はそのまま部屋を出ていこうとする。
「俺サブレと見張りを交代してくるよ」
「何の話をしてたの?」
「なんでもねぇよ。遠いな………」
「もうすぐだよ。きっと……もうすぐ」
ビスケットはマフラーで口元を隠しながら寒そうにしている。
「寒いんなら部屋にいていいんだぜ。少なくとも廊下よりましだろ?」
「オルガは平気?」
「ああ、問題ねぇよ」
「俺も大丈夫だよ。あと少しだし……」
三日月は見張りをしていたサブレのもとにたどり着いた。
「見張り交代する」
「了解。うー寒い」
サブレと交代で見張り台に乗る三日月。
「そういえばさ、どうして兄を殺したの?」
「唐突だな。なんで急に?」
「気になったから。兄弟だったんでしょ?どうしてかなって」
「……嫌いだったのは本当だよ。俺はサヴァラン兄さんが嫌いだった。あの日も俺とサヴァラン兄さんは喧嘩して……俺が出ていくって怒鳴ってしまって。で、結局そのまま……。まあ、殺したのは少し申し訳ないとは思うけどさ……。でも………なんでなんだろ?」
三日月は見張りの目をけっしてやめることなくサブレの話を聞いていた。
「難しいね。なんか……」
「そうだね」
列車の外の景色は雪景色から一変していた。列車はエドモントンに近づいていると、クーデリアとフミタンの目の前の窓からはエドモントンが遠くに確認できた。
「あれが……」
「はい。お嬢様の目的地……」
「エドモントン」
そしてオルガと三日月、ビスケットとサブレも四人でエドモントンの街を見つめていた。
「あそこがエドモントンだってよ」
「着いたんだね俺たち」
「あと少しだ……。もうひと踏ん張りするか!」
オルガが拳を前に突き出すと、三日月がそれに合わせて拳を突き出す。ビスケットは何のことか最初わからなかったが、すぐに理解し、サブレと一緒に拳を前に突き出す。
「行くぞ!一緒に帰るぞ!」
「「「おお!」」」
拳を四人でぶつけ合う中、四人の絆は強さを増していた。
どうだったでしょうか?楽しんでいただけたら幸いです。今回名前として出てきた『マハラジャ・ダースリン』は今後重要な人物として何度も出てきます。この人物こそが別の結末に大きく関係してくる人物です。
次回は『未来の報酬』です。エドモントン戦の前半戦が始まります!