アーブラウとSAU間の紛争から既に一か月が過ぎ去ろうとしていた。ギャラルホルンのセブンスターズの会議ではイオクがマクギリスの失態を追求しようとしていた。
「今回のSAUとアーブラウ防衛軍の戦闘について、全ての責任は地球外縁軌道統制統合艦隊にあることは明白!今回の件で水面下で行われていた、経済圏同士の争いは表に噴出するでしょう。そうなれば現在のギャラルホルンにどれほどの抑止力があるか……」
「クジャン公落ち着きたまえ。この騒動はファリド公だからこそ最小限に被害を抑えられたとの考え方もある」
「気になるのはアーブラウ防衛軍を指揮したという男だが……」
「調査の結果地球上のすべてのデータに該当する人物はありませんでした」
「本当にそんな男がいたのか疑問だ」
ラスタルのそんな一言でガランの一件は打ち切りになってしまった。
ラスタルとマクギリスは会議が終わったころ、廊下で鉢合わせになってしまった。
「今回は大変な目に遭ったな。いや、ボードウィン公の言う通りだ。君でなくては今回の騒動は収められなかっただろう」
「いえ。そもそも騒動が起こったこと自体が私の失態ですので」
「君も大人になったものだな」
ラスタルとマクギリスは昔出会っていた。ラスタルはその時のマクギリスの欲していた物を今でも覚えていた。「バエル」とそういった彼の事を。
「まさか子供の口からそんなものの名前を聞くとはな。まあ君には今でも驚かされるが。イズナリオ・ファリドの失脚劇の手際も実に見事だった」
「なんのことを仰られているのか計りかねます」
「私怨が君の原動力なのかと思っていたが、イズナリオ・ファリドが亡くなった今、君はギャラルホルンで何を成し遂げたいのか……、しかしそれが分かる時はお互いに状況が今とは大きく変わっているだろうな」
そういうとラスタルはマクギリスの前から姿を消した。
「ガラン・モッサについての独自調査の結果は?」
「やはり正体を追いきれませんでした」
「一人の人間の素性を完全に闇に隠す。それはエリオン家であれば十分に可能だ」
「ラスタル・エリオンはあとどれだけの手駒を隠し持っているのでしょうか……」
マクギリスはまっすぐとラスタルの消えた方を見つめていた。
部屋の一室でビスケットはイラクについて調べていた。
「イラク・イシュー……300年前の人間だ」
見つかった結論はあり得ない結論だった。
蒔苗は何とか一命をとりとめ、クーデリアと病室で話をしていた。
「まるで狐につままれた気分だ、目覚めたら一つの戦争が始まり、そして終わっていた」
「SAUとアーブラウ防衛軍は和平調停を受け入れました。鉄華団は地球から撤退するそうです。手続きの為、オルガ・イツカも今し方……」
「チャド・チャダーンはすでに退院したと聞いたが?」
「はい、今はもう現場に復帰したと」
「そうか。おいぼれを助けるために若い命を散らせてはあの世で悔やみきれんからな」
蒔苗は微笑みながらチャドの無事を喜んだ。
「蒔苗先生はもっと冷酷……あっいえ、情に流されず冷静に物事を判断する方かと思っていました」
「年を取って変わったのかもしれんな」
「素晴らしきことです」
「いや。この年での変化はもはや退化にすぎんよ。今回は運よく命拾いをしたが、すでに限りは見えている。しかし、この年までわしが得てきた人脈を未来ある誰かに譲ることができれば……クーデリア・藍那・バーンスタイン。どうだ?このまま地球に残らないか?」
「そのお話なのですが……」
クーデリアがそう切り出すと、病室をオルガとビスケットが訪ねてきた。
「鉄華団か……何ようかな?」
クーデリアとオルガとビスケットは黙ってうなずくと、オルガが切り出した。
「爺さん……話があるんだ」
チャドは端末に記載されていた今回の戦死者リストを見ながら階段で一人落ち込んでいた。すると、そこに昭弘とラフタがやって来た。
「今回の戦死者か」
「ああ。俺がふがいないせいで、こんだけの仲間を失っちまった……」
「お前のせいじゃない」
「団長やビスケットはいつもこんな気持ちなのか……一分一秒が耐えきれねぇ、やり切れねぇ。自分が前に出て傷ついた方がずっとましだ」
「そういえばアストンって昭弘と同じ苗字だよね。アストン・アルトランドって」
「ああ。ブルワーズにいたヒューマンデブリの生き残りには苗字のない奴が多くてな、助かってよかった。サブレには感謝しねぇとな。失ってからじゃ遅すぎるからな」
「……そうだね」
「おいタカキ、こっちの帳簿はどうなってる?」
「それは……すいません……ラディーチェさんが管理していて」
「こっちは?」
「すいません……それもラディーチェさんしかわからないんです」
オルガたちは事務所で撤退の為の準備を行っていた。
「結局の所、戦争なんて起こる前から地球支部は実質ラディーチェに牛耳られてたってわけか」
「文句言っても仕方ないよ……基本的にみんなは実戦ばかりで、事務的な仕事は俺がやってたし……」
「だな……こればかりは俺たちの責任だ」
「どうすんだ?ラディーチェの奴を連れ戻すか?」
「止めておこう、ややこしい状況になるだけだし……俺はあの人が嫌いだ」
ユージンがそっとオルガの方に近づく。
「なあ……ビスケットの奴、なんであんなに機嫌が悪いんだ?」
「自分の責任だって感じてんだろ?自分が地球支部にいれば良かったってな……」
「はぁ?そんなの仕方ねぇだろ。サブレが護衛部隊に選ばれてビスケットも本部勤務に決まったちまったんだから」
「元々裏方はあいつが一手に引き受けていた。それが今回の結果につながっちまったし、元々あいつはラディーチェには反対だったんだ。頭を使うやつをいきなり入団させると、トラブルになるってな。まああいつの予想通りになっちまったがな。これは俺の責任でもある」
ユージンは肩をすくめ自分の席に戻っていくと、ビスケットがタカキに声を掛けた。
「タカキ、ラディーチェさんが管理していたデータをすべて俺に回してくれ、俺が何とかするから」
「だったら、ビスケットお前が今してる整理の仕事を俺に回せ、俺とユージンでなんとかすっからよ」
少しずつではあるが仕事が片付きつつある状況の中タカキは自分の不甲斐無さと無力さを噛み締めていた。
タカキは暗い中、座り込んでいると唐突に後ろから三日月が声を掛けた。
「どうしたの?しけた顔してんね」
「俺は鉄華団失格です。ラディーチェさんの嘘に乗せられて訳の分からない人間の命令に従った。鉄華団にとって団長の命令こそが絶対なのに、俺は……」
「タカキは自分に与えられた仕事を果たしただけだ。オルガの命令だと思って従ったんでしょ?」
「それはそうですけど……」
「だったらいいじゃん」
三日月はそういうとそのまま外に出ていった。入れ違うようにクーデリアが近づいてくる。
「タカキ……」
「三日月さんやビスケットさん、それにサブレさんはすごいです。あの時、サブレさんが割って入らなかったら俺かアストンは死んでました。それにラディーチェさんが勝手にしていた仕事をビスケットさんはあっさり解決してくれて、俺……今でもビスケットさんに甘えてる。あの時の帽子をかぶる覚悟もなくて……俺……ビスケットさんに合わせる顔がありません」
「私がこんなことを言うのは出しゃばりかもしれないけれど、あなた達はもっと学ぶ必要があると思う。解釈の仕方は一つじゃない。選択肢は無限にあるの本当はね。だけど、その中で自分が選べるのは一つだけ」
「自分でなんて……俺なんかには選べないです」
「一つを選び取るのは誰にだって難しいわ。でもね。多くのものを見て知識を深めれば物事をきちんと判断し、選択する力が生まれる。誰かの指示に頼らずとも。ビスケットさんだってあの日自分で判断し、選択した。だから彼は今、まっすぐに歩いている。タカキはそんなビスケットさんから帽子を託されたのでしょ?」
「ぬるい!もっと歯応えのある状況を用意してください!これでは訓練にならない!」
ジュリエッタはコックピットから出てくると、憤慨しながら飛び出す。
「シュミレーターか。熱心だな」
「もっと私に力があればラスタル様は私が前線に出ることを許してくださったはず。そうすればヒゲのおじ様を失うこともなかった」
「君が前線にいれば戦況は変わったと?」
「もちろんです!」
「その発言は亡くなった彼を愚弄することになると分かっていってるのか?」
「くっ……。私の戦いはヒゲのおじ様に教え込まれたものです。おじ様が身寄りのない私をラスタル様に推薦してくださった。私は二人への恩返しの為にも強くあり続けねばならないのです」
「君のような人間を知っている。尊敬する上官に拾ってもらった恩を忘れず上官の存在を誇りとして戦い抜いた」
「その方は今どちらへ?」
「今は……近くにいる」
「なるほど、そのような立派な方とお知り合いとはあなたは想定していたよりまっとうな方なのかもしれません」
「君は想定していたよりもシンプルな精神構造をしている」
「ん?それはお褒めいただいているのですか?」
「もちろん」
「ふふん……どうも。でもあの人の強さは……」
その時ジュリエッタの脳裏にはアガレスが映りこんだ。
「ようよう元気か?お前ら。な~んかまた盛大におっ死んだらしいなぁ」
トドが鉄華団の地球支部に顔を出す。
「おめぇらの兄貴分として励ましに来てやったぞ」
「兄貴って……」
「あんた、じじいじゃねぇかよ」
そんなトドの後ろには変装したマクギリスが乗り込んでいた。マクギリスは部屋にたどり着くとオルガと話を始めた。
「ガラン・モッサはラスタル・エリオンの息がかかっているとみて間違いない」
「またラスタルってやつか」
「彼らを討たずしてギャラルホルンの改革はありえない。相手側が仕掛けてきたということはもはや全面対決も近いだろう。これからも君達には力を貸してもらわねば」
「手を組むだけならいい。だが……俺達にも目的がある。もし、アンタと俺たちの意見が食い違ったらどうする?」
「その時は手を切ることを約束しよう。それに私は確信しているんだ。君達の力を借りることができれば、私は必ずやギャラルホルンのトップに立つことができる。その暁にはギャラルホルン火星支部の権限をすべて鉄華団に移譲しよう」
「はぁ?」
オルガは突拍子のないそんな条件にいまいち話を飲み込めずにいた。
「火星は各経済圏の植民地だが、それを束ね実際に管理しているのは我らがギャラルホルンだ。その権利を君達が持つとなればそれは鉄華団が火星を支配するということだ」
「火星を支配?」
「ああそうだ。君達は火星の王になる」
しかし、この時のオルガはすでに組むべき相手を見極めていた。
タカキは廊下をため息を吐きながら歩いていると、曲がり角で大量の荷物を抱えているビスケットにぶつかりそうになる。
「あっ……ごめん。タカキ、大丈夫だった?」
「え、あ、はい。持ちましょうか?」
タカキはビスケットの荷物を抱えて一緒に歩いていると、抱えていた荷物が死んだ仲間の遺品であると気が付いてしまう。タカキは思い悩んでいると、ビスケットが話を切り出した。
「そういえば……フウカちゃんは元気?学校に通っているって聞いたけど」
「はい。元気ですよ。アストンともすっかり仲良くなって……」
「悩みがあるなら聞くよ」
そんなビスケットの優しい言葉にタカキは一瞬驚いてしまう。そして、本心を打ち明けた。
「俺……鉄華団をやめようと思ってるんです。でも、それが正しい判断なのかどうかが分からなくて……俺だけ逃げているようで……それに、アストンの事だって」
「だったらアストンと二人で話したらどうかな?二人で決めたらいいよ。俺だっていつもサブレと決めてきたんだから。タカキとアストンは本当の兄弟じゃないけど、地球に来てからアストンと二人で歩いてきたんなら、タカキが相談する相手は俺じゃなくって、アストンなんじゃない?大丈夫、どこにいても、どこで仕事をしていても俺たちは仲間で、家族だって言えるよ」
「び、ビスケットさん……」
しかし、そんな話をアストンが立ち聞きしていた。
アストンがそんな話を立ち聞きしていると、廊下の奥から昭弘が姿を現した。
「どうした?アストン」
「あ、昭弘さん。おれ……。タカキが鉄華団をやめるって……俺どうしたら」
アストンが思い悩んでいると昭弘はすれ違いざまに肩に手を置く。
「二人で話せばいい。お前がどこにいても俺たちは家族だ」
「………はい」
アストンは廊下を歩き、外に出るとばったりとタカキと遭遇してしまう。気まずい雰囲気が流れると、二人は同時に話を切り出した。
「「あのさ……俺………」」
二人は結論を出そうとしていた。
「昭弘さんじゃねぇんだからよぉ。何?急に、ムッキムキになりてぇの?」
ザックは筋トレをしているハッシュに話しかける。
「うっせぇよ。三日月さんとサブレ隊長の足を引っ張らないためには死ぬ気で食らいついていくしかねぇ」
「おっ?いきなり『三日月さん』か?」
「文句あんのか?」
「えっ?いやないない。上下関係きちんとするってのは大事だぜうんうん」
そんな会話をデインが聞いているといきなりハッシュの背中に乗っかった。
「ぐわっ!」
「いや頑張ってるから手伝おうかと思ってたんだが」
「悪い……ちょっと遠慮しとくわ……」
団長室に主要メンバーを集めるとマクギリスからの提案を飲むかどうかを話し合っていた。
「待ってくれよ。俺、脳みそが追っつかねぇ……」
ユージンが頭を抱えて悩んでいる。すると、三日月がいの一番に聞いた。
「オルガはどうしたいの?」
「断るつもりだ。手を組むだけならいいが、ここまで話が大きくなると別だ。それに俺たちが組む相手はすでに決めてある」
「どういうことだ?」
ユージンがふとオルガに聞くと、クーデリアとビスケットとアイコンタクトで合図を送りあう。そしてクーデリアが話を切り出した。
「私たちはマーズ・マセと手を組むことを決めました」
「「「ええ!?」」」
メリビットさんを含めて、団員のほとんどが驚きを隠せなかった。
「ごめん。いつかみんなには話そうと決めたんだけど、約二か月前にマーズ・マセがうちに来たことがあるんだ。その時に手を組むって決めたんだ」
「ちょっと待ってください。テイワズとの関係はどうするんですか?」
「親父にはすでに話が通ってる。すでに了承済みだ」
「いつの間に……」
「話が私たちに来た時点でマーズ・マセが独自に説得してくれたんです。どう転んでもメリットがあると了承してくれたので」
「マジかよ……。じゃあ、俺達鉄華団はマーズ・マセと組むってわけか?」
「いや、鉄華団が組むんじゃねぇ、俺たちとお嬢さんで火星の複合企業『ファミリア』を作り、ファミリアとマーズ・マセのフォートレスが手を組んでことを起こす」
「なんだ?ファミリアって……」
チャドや昭弘は首を傾げ聞きなれない名前に声を出して問う。
「俺とお嬢さんでテイワズのような組織を作るって話をだいぶ前からしてたんだ。その複合企業の名前が『ファミリア』だ。火星の経済をファミリアが独自に握る」
そんな話に昭弘たちは関心の声をあげるが、すぐにメリビットさんが反論する。
「ちょっと待って下さい!そんな話、経済圏が許すわけが……」
「いえ、アーブラウとSAUにはすでに話が通っています。他の二つの経済圏に関しても蒔苗さんが説得してくれる手筈になっています」
「いつの間に……どうやって」
「今回鉄華団はギャラルホルンの代わりに戦争の仲介役をかって出ました、その際に成功の暁にはファミリアの立ち上げを許してもらえるように働きかけたんです」
「よく経済圏が許したよな」
「それは……経済圏にもメリットがあるからなんだ。前に名瀬さんが言ってたよね。経済圏は今のギャラルホルンを重荷に感じ始めているって……、マーズ・マセの目的はギャラルホルンを変えること、そしてそれができる唯一の人物がマーズ・マセなんだ。その為の最低条件はラスタル・エリオンを討つこと、これはマクギリスさんと変わらない、でもそれができるのはあの人だけだと今のところは思っている」
「待てよ、なんで一海賊がそんなことができるんだ?たかが海賊だぜ?戦力だってたかが知れてるだろ?」
ユージンの疑問は最もであり、ほかの団員も同じ意見だった。
「俺たちもすべてを知った今でも驚いているんだけど……」
「マーズ・マセが所有している戦力はアリアンロッドとほぼ同数だ。どうもマーズ・マセは海賊や違法組織を襲っては自分たちの戦力に取り入れていたらしい。この数十年間裏でずっとな」
全員が言葉を失っていると、最後にオルガが全員に確認を取る。
「そういうわけで、俺達ファミリアはマーズ・マセと組む。この話に乗れねぇってやつがいたら遠慮なく出てきてくれ。別に止めやしねぇ」
ユージン達はやめようとしない中、タカキとアストンが黙って前に出てきた。
「団長、俺とアストンは鉄華団をやめます!団長が俺たちの未来の為に悩んでいろいろと考えてくれてるのはわかっているんです。だけど……俺とアストンは今の幸せを手放したくないんです」
「俺たちは今の幸せを守るために地球に残ります」
「分かった。俺にはお前を止める権利はねぇよ。今まで長いこと鉄華団の為に尽くしてくれてありがとな。タカキ、アストン」
「「お世話になりました」」
チャドと一緒にタカキとアストンは三人で歩いていた。
「地球でいい仕事がないかビスケットが走り回りながら探してくれてる。じきに見つかるさ」
「すいません俺達……」
二人が頭を下げ謝っていると、チャドは気にしておらずタカキとアストンに優しく声をかける。
「いいんだ。地球支部はお前たちのおかげで本当に助かったよ。離れていても俺達はずっと家族だよ」
しかし、三日月はそんなタカキ達に別の言葉を掛ける。
「いや違うでしょ。タカキとアストンの家族はフウカだけでしょ?俺たちの事は気にしなくていいから」
そういいながら三日月はすれ違っていく。昭弘がそんな三日月の発言にフォロー入れてくれる。
「気にするな。あれはきっと三日月なりの優しさだ。アストンの事をよろしくな。アストンもこれからは新しい家族と仲良くしろ」
「は、はい」
「しかし、面白い話になってきたの……」
蒔苗は病室での話を思い出していた。
「火星複合企業の立ち上げじゃと?」
「ああ、それを認めてほしい。もちろん、SAUとアーブラウには事前に説得した。あとはオセアニア連邦とアフリカンユニオンだけだ。あんたにはそっちの説得をしてほしい」
「もちろん構わんが、そんなものを作ってどうするんじゃ?」
「火星が独立するというのは少々危ないことだと今は考えています。しかし、今のままでは火星の貧困などの問題は解決できません。ですから……」
「それをある程度解決出来る方法として俺たちはファミリアを作りたいんです」
「もちろん、勝つための算段はある。あんたたちにとっても悪くない条件だ」
蒔苗はひげをいじりながら少々悩むと、ゆっくり目を開ける。
「たしかに、わしらにもおぬしらにもメリットのある条件のようじゃな。わしらはギャラルホルンへの発言権を獲得し、おぬしらは火星の経済面での権利を獲得する。そして、テイワズもまた木星での経済の権利を正式に獲得する。だが、それはおぬしらが勝てればの話じゃ。できるのか?」
「できなきゃこんな話はあんたにはしない」
オルガと蒔苗が軽くにらみ合うと、蒔苗は微笑み了承する。
「よかろう……この話に乗ろう。他の経済圏はわしの方から説得しよう」
そんな話を思い出すと、蒔苗は目の前にある一つの写真を手を取る。そこには蒔苗のほかにもう一人ギャラルホルンの士官が移っていた。
「種はもう蒔かれたということか……のう、マハラジャよ」
すでに種は蒔かれ、世界はすでに引き返せないところにまで進もうとしていた。
「ビスケットさん」
タカキはビスケットを呼び出すと、ビスケットの帽子を差し出す。
「これ……返します。俺はもう鉄華団じゃないから」
ビスケットは帽子を受け取ると、もう一度タカキの頭にかぶせる。
「!?ビ、ビスケットさん?」
「あげるよ、タカキに。今度会うときはその帽子が似合う男になってるって信じてるよ」
タカキは頭をあげることができず、必死に涙を我慢しようとするが、それでも涙は止まらなかった。
「お、俺!ビスケットさんのおかげでここまで来れました……だから………今まで本当にありがとうございました!この帽子は一生大切にします!!」
ビスケットの帽子はタカキへと受け継がれた。
「これで全部か?」
「ああ。死んだ地球支部の奴らの私物はこんなもんだ。残りはタカキとアストンに任せた。俺らにとってはもう地球も第二の故郷みたいなもんだからな。不思議だな。ヒューマンデブリだった頃は自分の居場所なんてどこにもないと思ってたのに」
「ああ。そうだな」
そんな会話を複雑な表情でラフタが見つめていた。そうしているとラフタのそばにアジーが近づいてきた。
「昭弘は?大丈夫?」
「弟分が死んだわけじゃないからね。大丈夫だよ」
「じゃなくてあんた」
「えっ?」
アジーの言葉に一瞬言葉を失ってしまう。
「名瀬には黙っといてあげるよ」
「うっ!だからそういうんじゃ……ああ~……でもまあ……とりあえずダーリンには内緒で……」
そんな話を昌弘が立ち聞きしていることにはラフタ達は気が付かなった。
「火星に戻りゃまた似合わねぇお偉いさん周りの日々だ」
オルガは黙って三日月の為に袋を破って渡してやる。すると、悲鳴を上げながらビスケットが階段から降ってくるのをオルガが間一髪で受け止める。
「大丈夫か?」
「う、うん。サブレ!何すんのさ!」
「兄さんが出入り口でうろうろしてるからだろ?」
ビスケットとサブレがオルガたちの隣に座ると、オルガが切り出した。
「これで良かったのかって思っちまうんだ。あの時、ほとんど選択肢がなかったとはいえ、マーズ・マセの選択を受け入れちまった。あいつらが反対するんじゃないかって」
「反対しなかったろ?まあ、基本的にみんな俺達に考えることを預けてるだけだと思うけどね」
「信頼してるって思ってなよ。それにその選択肢が間違っていたかなんてこれからわかるさ」
「だね。少なくとも俺たちは選択した。オルガとビスケットについていくって」
三日月は菓子をかじると、ふとした疑問を尋ねた。
「そういえば、なんで『ファミリア』なの?」
「え?なんでって……それは………」
オルガが少しだけ笑うと、ビスケットが代わりに答えた。
「俺が考えたんだけど、『ファミリア』って家族って意味があるんだ。それと仲間。家族みたいな仲間って意味で『ファミリア』なんだ」
「ふ~ん……いい名前だね」
「だな。俺もそう思う」
「ビスケットらしい名前だな」
彼らもまた前に進み始めていた。
「あっ。おかえりなさいお兄ちゃんアストンさん」
「そろそろ二人とも帰ってくる頃かなって待ってたの。お仕事どうだった?」
「うん。まあ……帰ろう、俺たちの家へ。ね、アストン」
「ああ、帰ろう俺たちの家へ」
三人で仲良く帰っていく。笑顔になれる家へ。
どうだってでしょうか?タカキとアストンは鉄華団を退団することで決着しました。そして、鉄華団とクーデリアもまた大きな選択肢を選びましたね。この選択肢が、結末に大きく影響してきます。
次回のタイトルは『ヴィダール立つ』です!楽しみにしていてください!