イラクという男を語るのはそこまで難しくはない。
厄祭戦から生きてきた生き証人のような人間、それがイラク・イシュー。
鉄華団のJPTトラスト襲撃より三日が経った。マクギリスはセブンスターズを招集するなか、ラスタルはその招集に応じようとはしなかった。
「目的はイオクの件だろう。ダインスレイヴまで持ち出してはな」
ラスタルが地球へ行こうとしないことに気が付いたヴィダールははっきり尋ねる。
「地球へは行かないと?」
「呼ばれてもいない会議にわざわざ顔を出してはよほど暇人だと笑いものにされる」
「俺に時間をくれないか」
「動くというのか?奴が」
「奴の真意を俺は知りたいと願ってきた。そして朧気ながらに辿り着いた答えがある。それが正しければ必ず」
ラスタルは気前よく応じる。
「分かった。お前のモビルスーツも持っていけ。けじめをつけてこい」
「感謝する」
そんな会話をしたのが少し前だった。そして今ラスタルの目の前でマクギリスは動いた。
「お前の読み通りだったな。アリアンロッドの全隊に召集を掛けろ!」
ラスタルが動こうとする中、もう一人も動こうとしていた。
ギャラルホルン本部はマクギリス率いる革命派が占拠していた。
「現在地上部隊が本部施設の七割を制圧。セブンスターズは何者かが連れて逃走したと報告がありました。予定通りライザ・エンザによる声明を全世界に向けて放送中です」
石動はマクギリスに簡単に報告する。
「モビルスーツとセブンスターズはどうした?」
「本部所属のモビルスーツ隊は既に無力化が完了。セブンスターズが港周辺で目撃されていますが、今のところは捕獲したという報告は上がっていません」
「さすがだな。鉄華団はどうしている?」
「鉄華団は現在ライザ・エンザの対アリアンロッド艦隊への防衛網の反対で目撃されています」
「今のところは静観というところか……。ここは任せる石動」
マクギリスはその場から移動していく。
「こちらです」
ファントムエイジの一部がセブンスターズを連れて撤退の準備に入っていた。
「まさかここから逃げなければならん時がくるとは……」
「しかたない……」
「マハラジャは今どこにいる?」
ガルスがファントムエイジのメンバーに尋ねると、彼らは周囲の警戒を解かずに答える。
「ファミリアと接触しようとしているはずです。すでにクーデリア・藍那・バーンスタインをつれて地球をめざしていると報告が上がっています」
ガルスはふと足を止め、外を眺める。
「もう……とまらんか」
イラクは厄祭戦の頃よりこんな性格だったわけではない。こんな性格になってしまった理由を今語ろう。
厄祭戦がそもそも始まったころイラクはアグニカの志に深く感銘を受けた。誰よりも仲間を大切にし、突き進んでいく彼の生き方はガンダムフレームのパイロットに選ばれた子供達からすれば憧れだった。それはイラクとて変わらない。
厄祭戦が終盤に向かおうとするなか、最前線で踏ん張って一機一機モビルアーマーを駆逐していったとき、大人たちは既に厄祭戦後の戦後処理を行っていた。そんな中大人たちが問題視していたのはガンダムフレームのパイロットだった。厄祭戦の後に彼らの力が自分たちにとって脅威になると判断した。そして最後の戦いが幕を開けた。
アグニカの仲間の数人がモビルアーマー毎殺そうとした大人たちによってダインスレイヴの一斉射撃で殺されたことによりアグニカはどこかおかしくなった。殺された仲間の為の敵討ちを提案し始めるが、しかしそれに反対したのもガンダムフレームのパイロットたちだった。アグニカは自動で動いていたモビルアーマーをコントロールすることに成功した。そしてダインスレイヴを手に入れたアグニカを大人たちは止められる術を持たなかった。
アグニカがあと少しで勝てる時に大人たちはある人物に提案をした。その提案をした相手がエリオン家だった。
「アグニカを消してくれ……そうすればお前たちを世界の抑止力として認めてやろう」
そんな話に乗ったエリオン家はアガレス率いる反抗勢力を逆に利用する形でアグニカを殺した。
殺される前アグニカは全てを知った。そして頼んだ。イラクに……。
「俺が死んだらいつの日か生き返らせてくれ……そうすれば一緒に……火星の王になろう」
そんな無理な頼みごとを信じてイラクは生きてきた……いつの日かアグニカが火星の王になると信じて。
誇りも……プライドも……何もかもを捨てて……それだけの為に生きてきた。
そしてイラクはマクギリスに出会った。汚い裏町のような場所で……世界のすべてを恨むような眼をしていた彼にイラクは尋ねる。
「力が欲しいか?欲しければ教えてやろう……最高の力を」
彼に与えたその力をイラクは欲していた。
マクギリスこそがアグニカ復活のカギなのだから。
アリアンロッド艦隊の集合にあと三日はかかりラスタルはそれを待っていた。
「クーデターの鎮圧なら集合を待たず一刻も早く地球へ向かったほうがよろしいのでは?」
側近の一人がそう提案する。
「確かに『兵は拙速を尊ぶ』と言うがな。今は状況を見極める必要があるのだ」
ラスタルがそう説明すると数人の将兵がラスタルの元に嘆願に来た。
「エリオン公!この度のクーデター鎮圧作戦何とぞイオク様の任務参加をお許しください」
ラスタルは半分呆れながら部下に尋ねる。
「またその話か。嘆願に来たのは何人目だ?」
部下は手元の端末で軽く調べる。
「これでちょうど40人目ですね」
「まったく羨ましい話だな。あれだけの失敗を重ねてもこれだけ慕ってくれる部下達がいるとは。イオクが謹慎中の今残された奴の艦隊を率いるのはお前たちだ。主人の名誉は貴様達で守れ。イオクの戻る場所が残るよう懸命に働け」
「「「命に代えても!」」」
イオクの部下が立ち去る中、ラスタルは表情を一瞬暗くさせる。
(マハラジャがいてくれれば、イオクがああなることなど無いというのに……あんな女にマハラジャを取られなければ……!)
鉄華団の旗艦イサリビのブリッジでユージンはイライラしていた。
「まだなのかよ!マーズ・マセは?逃げたんじゃねぇのか!?」
「落ち着け」
昭弘の冷静な一言で少しだけ落ち着くと、管制をしていた少年が声を荒げる。
「後方より大型艦が接近……ハーフビーク級より大きいぞ!?」
隣に寄り添うようにスキップジャック級が止まった。オルガたちの目の前の画面にギャラルホルンの制服に身を包んだマーズ・マセが姿を現した。さすがに驚きを隠せないユージンに対し、落ち着いたオルガが訪ねる。
「あんた……ギャラルホルンの人間なのか?」
マーズ・マセは少し微笑みながら答える。
「私の本当の名前は『マハラジャ・ダースリン』という。本来はファントムエイジの隊長だ。階級は准将。これでもセブンスターズの一部からかなりの信頼を置かれている」
ユージンは後ろからやってくる艦隊の多さに驚く。
「な、なんだよ……これ。アリアンロッド艦隊と同数の艦隊じゃねぇかよ……」
「これはまだまだだな……ここからだ……。それと、バルバトスとアガレスは?」
「ああ、あんたの言った通りに地球へ向かわせたよ」
バルバトスとアガレスはギャラルホルン本部に向かっていた。
マクギリスはガンダムバエルの元に辿り着く。
「やっと会えたなバエル。いや……新しい時代の夜明けだ。目を覚ませアグニカ・カイエル」
しかし、そんなマクギリスの前にヴィダールが天井をぶち破って姿を現す。コックピットからヴィダールが姿を現すと、ついに仮面を取った。
「やはりここに来たか。ガエリオ・ボードウィン」
仮面の奥の素顔はマクギリスが殺したはずのガエリオ・ボードウィンだった。
「お前がラスタル・エリオンに飼われているとはな」
「彼とは利害が一致している。あくまで対等な立場だ」
「すぐに人を信用するのはお前の悪い癖だな」
「そうかもしれないな。なんせ親友だったはずの男に殺されたのだから。親友……いやその言葉は違う。俺は結局お前を理解できなかった」
(俺にとってお前は遠い存在だった。だからこそ憧れた。認められ、隣に立ちたいと願った。そのうちお前は仮面を着け本来の自分を隠すようになった。しかし……隣に立つことがかなったと思った。お前は俺の前では仮面を外してくれているとそう感じた。なのに……)
ガエリオは幼い頃を思い出す、そして裏切られた時の事を思い出した。
「俺は確かめたかった。カルタや俺まで寄り添おうとしている人間を裏切ってまでお前が手に入れようとしているものの正体を。この場所にお前がいるということそれこそが答え。おかげで決心がついたよ。愛情や信頼、この世の全ての尊い感情はお前の瞳には何も映らない。お前が理解できるのは権力・威力・暴力。全て力に変換できるもののみ。ここにいるということは乗れるのだろう?バエルに乗れ」
「俺がこれを手に入れることの意味を分かっているんだろう?」
バエルに乗れとガエリオはマクギリスに向けてそういうと、マクギリスは疑問に思いながら尋ねた。
「それとも一度死んだ身何も失うものは持たないと?」
「いや。逆だ。今の俺は多くのものを背負っている。しかし、全てお前の目には永遠に映らない物達だ。お前がどんなに投げかけられても、受け入れようともせず否定するもの。それら全てを背負いこの場で仮面を外したお前を否定してみせる」
「詭弁だな……あんたは復讐の為に戦っているんじゃないのか?」
そんな言葉と共にアガレスとバルバトスが天井をぶち壊して姿を現した。マクギリスはその隙に上半身を脱ぎ捨てバエルに乗り込む。
「バルバトスにアガレスまで来たか……どうやら運は私に向いているようだ」
マクギリスは勝利を確信したが、ビスケットは予想もしていない答えを出す。
「勘違いしないでください。俺たちはあなたの答えを聞きに来たんです。あなたの真意を……一つだけ聞かせてください。そこにいる人の言っていることは正しいんですか?」
マクギリスは目をつむり、少しの間だけ考えるとはっきり答える。
「……ああ。その通りだ」
「そうですか。なら俺たちはあなたの革命に参加しません。もちろんアリアンロッドに味方するわけでもない。俺達は俺達の道を行く!」
ガエリオはコックピットに入ると、四機のガンダムフレームがそれぞれの武器を構える。
「アイン!さあ好きなだけ使え。俺の体をお前に明け渡す」
ガンダムヴィダールのツインアイが赤く光ると、アガレスは青く光らせる。ヴィダールがバーストサーベルでバエルを攻撃しようとするのをアガレスがレンチソードで捌く。しかし、バルバトスはバエルに攻撃を仕掛けるが、バエルはそれを紙一重で回避する。
(これが疑似阿頼耶識というやつか?アイン・ダルトンの脳を利用することで脳神経への負担を克服し、機体性能を限界まで引き出すことができるという。俺たちのアガレスのシステムに酷似しているというより、このシステムを元に開発されたのか)
「今からでもこちらに来ないか?三日月・オーガス」
「興味ないな……俺の道はみんなと一緒にある」
決定的なところで道を違えてしまった両者はぶつかり合う。ヴィダールの攻撃を捌き切り、ヴィダールはそのまま足に仕込んだナイフで切り裂こうとするが、それすらもアガレスは回避する。そのままヴィダールの機体を蹴り飛ばす。
「なるほど……あのおっさんの言った通りだったか。強いけど……軽い!」
バルバトスのメイスの一振りを難なく回避したバエルは剣をバルバトスに振り下ろそうとするが、バルバトスはテールブレードでそれを受け止める。
「残念だよ……三日月・オーガス」
ヴィダールの銃での攻撃をレンチソードで受け止め、そのままヴィダールと武器と武器がぶつかり合う。
「背負うと言いながら……それがあんたのやり方か。人の脳を利用しているだけじゃないか……」
「それでも……俺には成し遂げなければならないことがある!」
「それを詭弁だと言っているんだ!!人の死を冒涜してまで成し遂げたいことが復讐なのか!?だから軽いんだ!あんたの攻撃は!!」
アガレスの攻撃で天井に穴が開くとヴィダールはそのまま外に出ていく。続いてアガレス、バエル、バルバトスが順番に出ていった。
地上に移行した戦闘の最中にマハラジャから通信が入る。
「マクギリスとガエリオの事は放っておけ。セブンスターズが退却を始めている。お前達はそちらの援護に向かってくれ」
「……分かりました。三日月!サブレ!」
バルバトスとアガレスが背中を向ける中、ガエリオが三日月たちに謝罪する。
「いつかのことを謝罪しよう。阿頼耶識手術を受けた君達を唾棄すべき存在としたことを」
その謝罪に答えることなくバルバトスとアガレスは援護の為にその場を後にする。二人っきりになったマクギリスの後方から援軍が姿を現す。しかし、その瞬間にマクギリスの脳裏にノイズが走った。
「准将!」
「さすがにこれ以上の戦闘は無理か……」
その場から移動していく、ガエリオはその場から撤退していった。
「准将……先ほどセブンスターズが退却していると情報がありました」
「……放っておけ。作戦は成功した。聞け!ギャラルホルンの諸君!今300年の眠りからマクギリス・ファリドの元にバエルは蘇った!ギャラルホルンを名乗る身ならばこのモビルスーツがどのような意味を持つかは理解できるだろう。ギャラルホルンにおいてバエルを操る者こそが唯一絶対の力を持ちその頂点に立つ!席次も思想も関係なく従わなければならないのだ!」
マクギリスの演説が世界中に放送される中、ガエリオはラスタルの元に戻って来た。
「待たせてすまない」
「ヴィダール!その姿……見極められたようだな。お前の運命を」
「ああ。これからはあなたに従おう。今こそ戻ろうあるべき姿に」
ガエリオも世界中にマクギリスのように演説する。
「私の名前はガエリオ・ボードウィン!ガエリオ・ボードウィンはここに宣言する。逆賊マクギリス・ファリドを討つと!」
それと同時にラスタルも宣言をだす。
「アリアンロッド艦隊司令ラスタル・エリオンより告げる……」
しかし、ラスタルの宣言を邪魔するように画面の中にクーデリアと蒔苗が姿を現した。
「その者の言葉に従ってはいけません。私はクーデリア・藍那・バーンスタインです」
ラスタルをはじめ、ガエリオも驚きを隠せない。
「アリアンロッドはタービンズの非戦闘員に対してダインスレイヴを使った虐殺行為を行い、コロニー圏にはファントムエイジから強奪した各コロニー圏の調査権を行使して虐殺行為を行いました。そして、ラスタル・エリオン……あなたはかつてファントムエイジが持っていたコロニー間や経済圏に対する調査権と紛争仲裁の権利を手に入れるために彼らを罠に嵌め殺そうとした。あなたこそ逆賊ではないのですか?」
クーデリアの問いにあくまでも冷静に答えるラスタル。
「なんのことか分からないが……証拠がないと思いますが?」
「証拠ならここにあります」
ラスタルの目の前に現れた人物はラスタルにとって致命的な人間だった。世界中にマハラジャの姿が映っていた。蒔苗がマハラジャの存在を認めた。
「皆の者よ……彼の名はファントムエイジ司令官であるマハラジャ・ダースリンじゃ」
「ギャラルホルンの全士官よ……私はかつてラスタル・エリオンによって殺されかけた。しかし、こうして全員の前に姿を現せたことを嬉しく思う。ラスタル……お前は我々を殺そうとしただけではなく、各コロニーに内通者を送り込み、コロニーに独立運動を引き起こして、それを理由に虐殺を行った。ラスタルお前をギャラルホルンの人間として認めるわけには行かない。もちろんイオク・クジャンとマクギリスもだ。先ほどセブンスターズのメンバーより正式に声明があった。現時点をもってラスタル・エリオンとイオク・クジャンとマクギリス・ファリドをセブンスターズから除名し、3名と外縁軌道艦隊とアリアンロッド艦隊を含め、3名に従うすべての者を逆賊として討つことを宣言する。全ギャラルホルンよ!今こそ正しいギャラルホルンを取り戻そう!」
時代の歴史が変わろうとしていた。
どうだったでしょうか?原作と違いラスタルとイオクも逆賊として認定されましたね。ここから歴史が大きく動き始めます。
次回は『裏切り』です!楽しみにしていてください!