革命軍の艦隊はデブリ帯で艦隊やモビルスーツの残骸をラファエルに漁らせており、その間にトド・ミルコネンの手配によりモンターク商会からの補給を受けていた。トドは内心ラファエルのプルーマづくりをゾッとしながら眺めていると、マクギリスの体を乗っ取ったアグニカはブリッジでトドに話しかける。
「ご苦労だった。トド・ミルコネンだったなたしか、君のお陰で我々の艦隊はさらに強化された。これだけあれば十分戦えそうだ」
「……あの~アグニカ様はこれからどうなさるおつもりで?」
「?質問の意味がいまいち理解しにくいが。要するに我々の目的を聞いているのか?さっきも言っただろうに、我々はこの腐った世界を浄化し世界のトップになる」
トドは引きながらもそれを表には出さずにその場を後にしていく。同じ部屋で立ち尽くしていたイラクがアグニカに問う。
「あの男……生かしておくつもりか?」
「まさか……石動」
石動は「はっ!」と言うとブリッジを出ていく、その間にアグニカはイラクにかつての失態を追求する。
「お前ほどの男がとんだ失態を犯したものだな」
言葉の意味をいまいち理解できなかったイラクは表情を曇らせる。
「何の話だ?バルバトスを殺さなかったことは説明しただろ。あいつらを生かしておくことがお前を生き返らせるうえで必要だと感じたからだと……」
「そっちではない」
アグニカのきっぱりとした否定にさらに首をかしげると、アグニカはため息を吐きながらあの日の真実を明かした。
「お前があの時エルフォン兄弟を殺さなかったばかりに俺はバルバトスに敗北してしまった」
イラクは表情を一変させアグニカを怒鳴りつける。
「バカな!?あの時……厄祭戦の最終戦の時俺は確かにアガレスを倒した!」
「倒していない。お前が戦場を去った後アガレスは俺の元に姿を現し攻撃を仕掛けてきた。おかげでバルバトスに隙をつかれる結果になってしまった」
「じゃあ……エルフォンは……倒されたふりをして」
「お前を欺いたのだろうな。お前のミスだな……」
「ならエルフォンはあの後も……生きていた?」
「ああ……グリフォンとしてな。ビスケット・グリフォン。サブレ・グリフォン。多分エルフォンの子孫だろう。そして……エルフォンの生まれ変わりだ」
イラクは驚きを隠せずにいた。
「生まれ変わりだと!?そんなふざけたことを信じろと言うのか!?」
「そう考えれば、あの二人が異様にエルフォン兄弟に似ている事に説明が付く。お前が彼らをちゃんと確認していれば先に殺すべきだったのはあの二人だった」
イラクは悔しさに拳を握る。イラクの目は新しい標的を前に火をともす。
「……アガレスは俺に殺させてくれ」
「好きにすればいい」
アグニカはイラクを決して止めようとしなかった。かつてのミスを……アグニカを救えなかった罪をここで贖うために彼はひたすら突き進む。
トドは廊下を歩きながら一人こんなところに来てしまったことを後悔していた。正直に言ってしまえばまさかこんなことになっているとは思いもしなかった。
「くそ!まさかこんなことになっているとは……鉄華団に売り飛ばしちまえば……」
発砲音が周囲に聞こえるとトドの左胸から血が滲み始める。トドは驚きながら後ろを振り向くと、石動が銃を構えておりトドは一歩一歩後ろに下がっていくと倒れてしまう。しかし、石動の後ろからアグニカが側にやってきた。
「アグニカ様、脳だけ取り出しリーダープルーマに乗せておきます」
アグニカは逆らった士官を同じように脳をプルーマに乗せていた。石動とアグニカのすぐそばの窓でラファエルはモビルスーツタイプのプルーマを次々と作り出していた。
カゲロウは静かに火星に到着した。すぐにを下し始める中ビスケット達はシャトルでおり始める。車で急いで鉄華団本部に到着するとその姿に驚きを隠せない。鉄華団本部は多くの人でにぎわっている。鉄華団関係者ではない者まで働いている。その光景にビスケットが驚きを隠せずにいると、遠くからユージンがビスケット達の姿を見付けると駆け寄って来た。
「お前ら帰って来たのか!?帰ってくるならそう言えよ」
「それは……それよりこの状況は?」
ビスケットの疑問にユージンが答えてくれる。
「ああオルガがクリュセの連中に声をかけてな、なんでもファミリアに参加したい人たち全員に声をかけてな。今回の作戦に協力してくれた連中をファミリアに歓迎するというな」
サブレは三日月を担ぎながら車から降りてくると、三日月はマイペースにサブレに告げた。
「サブレ、畑」
「はいはい」
サブレはさほどこの状況に驚きもせず遠くで作業していたハッシュを三日月が呼び出す。
「ハッシュ。モビルワーカー」
三日月の簡単な命令に忠実に動くハッシュは「はい!」と答えモビルワーカーに乗り込む。ビスケットはその間にユージンに連れられながら本部の中へと入ろうとするが本部から出てきたオルガとぶつかってしまう。
「っと。大丈夫か、ビスケット」
オルガがビスケットに手をさし伸ばすと、ビスケットはオルガの手を受け取り、立ち上がる。
「大丈夫。それより……」
ビスケットが口を開く前にユージンが尋ねた。
「オルガ、お前偉い人たちとの話し合いはもういいのか?」
「ああ、さっきようやく終わった。みんな協力してくれるってよ……っとそれよりなんだ?ビスケット、お前なんか俺に話があったようだが?」
「え?ああ……何でもない」
口をつぐむビスケットに疑問を感じながらもオルガが一緒に歩いていくとライドが駆け足でそばまで寄ってくる。
「団長!アガレスとバルバトスが到着しました!重力テストを行いたいとのことです」
オルガ達はライドと一緒にバルバトスとアガレスの元に辿り着く。ユージンは新たなバルバトスとアガレスの姿に見惚れてしまう。
「これが新しいバルバトスとアガレス……」
バルバトスは両肩にスラスター付きのアーマーを付け、腰にダガーを二つ、太刀を背中に一つ、大型メイスを一つ両腕に強化200mm砲を二つ、腰にダガー付きシザーアンカーを付けていた。
アガレスは背中のファンネルに両肩に腕を隠せるほどの長いアーマー、アーマーの中にはギャラルホルン式強化レールガンとレンチメイスと刀、腰にダガー付きシザーアンカーを付けていた。
「なんか、デザインがやけに角ばってるっていうか……ギャラルホルン式なのかね?」
「アガレスなんて完全に別物じゃねぇかよ……何だよ腕を隠すほどのアーマーは」
ライドとユージンが各々の感想を述べてみると、アガレスたちの足元からゼムがやってくるが、誰かを探しているようだった。
「?サブレと三日月はどうしたんだ?重力下テストを行いたいんだが?」
ビスケットは苦笑いを浮かべながら答えた。
「え~と……二人はその………畑に」
「畑?こんな時にか?」
オルガとユージンも同様に苦笑いを浮かべる中、ゼムは別のガンダムフレームに向き直る。
「仕方ねぇ……テスト相手には同じガンダムフレームがいいからな。グシオンとフラウロスの調整でもしておくか」
「すまねぇ。すぐに戻ってこさせる」
オルガが一言謝るとユージンに呼び戻させる。
約三時間後。
嫌々戻された三日月はサブレとビスケットと一緒に機体に乗り込む。
「今から畑仕事をしようと思ったのに……」
「畑仕事をしていたのも俺だし三日月は後ろから命令していただけだし……」
三日月の不満にサブレが違う不満を述べる。そうしている間にグシオンとフラウロスの準備が完了していた。同時に他に昌弘とハッシュとライドの獅電もテストの手伝いの為起動した。
「え~っと俺達何をすればいいんすか?」
ライドの疑問にゼムが代わりに答えた。
「アガレスとバルバトスと戦ってくれればいい。壊してもギャラルホルンで完全に修理してやる」
「だそうだ!思いっきり戦ってもいいそうだ!こわさねぇよぅにな!」
シノと昭弘は武器を構えるとオルガの「始めろ!」という叫び声と共にグシオンとフラウロスが走り出す。同時に獅電も後方から援護射撃を行う。
「数が多くてテストになるといいな!」
「いらない心配」
三日月はそう言うと同時にバルバトスを走らせる。今までと比べ物にならないほどの速度で走り出す、さすがに驚くが昭弘と昌弘とハッシュは冷静に状況を捉え、昭弘はレールガンでアガレスに攻撃を仕掛け、昌弘とハッシュの獅電は三日月の足止めに走る。しかし、アガレスはアーマーでレールガンを防ぎながらバルバトスの足元向けてレールガンを発射する。砂ぼこりで足元が見えなくなる中、バルバトスは大型メイスで獅電を吹き飛ばすと、メイスをグシオンめがけて投げつけるが、それをフラウロスが前に立ちメイスを上に吹き飛ばす。
「バルバトスの姿が見えなくなったな」
シノはそんな愚痴を漏らすがそんな愚痴に答える前にアガレスがグシオンとフラウロスにレンチソードで切りかかるが、それをライドが妨害する。
「なかなかやるねライド!」
「ビスケットさんだけが訓練しているわけじゃないっすよ!」
「しゃべる暇がなくなるぐらいにくたくたにしてやるよ!」
「サブレさんには関係ないでしょ!?」
アガレスは腰のシザーアンカーを後ろで立ち上がったハッシュと昌弘の獅電の腰に巻きつくとそのままライドの獅電にぶつけてしまう。
「「「うわぁ!」」」
砂埃の中からバルバトスはアガレスめがけて走り出すと、フラウロスは射撃形態に変形する。
「どけ昭弘!」
グシオンがその場から横に移動すると、フラウロスはバルバトスめがけてレールガンを発射するがアガレスは間に入ってバルバトスを守る。バルバトスはアガレスを踏み台にしてそのまま高くジャンプする。
「三日月!」
アガレスは上から落ちてきた大型メイスをバルバトスへ蹴り上げる。バルバトスは大型メイスを受け取るとグシオンめがけて振り下ろすが、グシオンもハルバートで受け止める。アガレスはスラスターを上げてそのままフラウロスに突っ込んでいく。フラウロスも変形しアサルトナイフでレンチソードの攻撃を捌ききる。しかし、バルバトスの右目だけが赤く発光し、アガレスの両目が青く光りだす。とたん動きが変わってしまう。バルバトスはメイスを放り投げダガーを二本取り出すと連続でグシオンのハルバートを弾き飛ばしグシオンの喉元に突きつける。アガレスはレンチソードでアサルトナイフを吹き飛ばしてレールガンで足元を揺らし、その隙に喉元に突きつける。
「そこまで!」
オルガの大きな声でテストは終了した。グシオンやフラウロス、獅電は鉄華団本部に収めるがコックピットから出てきたシノや昭弘達の表情はどこか暗かった。ヤマギがシノの元に行こうとするが近寄りがたい雰囲気がどこかにあった。ヤマギがそれでも近寄ろうとするがそれをユージンが止めた。
「止めとけヤマギ。正直いやぁ……明らかに三日月もサブレも手を抜いていた。ビスケットに関しちゃあただ乗っているだけの状態だ。あれじゃテストにならねぇ」
その証拠に三日月とサブレ、ビスケットはいまだ二機だけで戦いを続けていた。
「二人にもプライドってもんがある。全力で戦ってそのうえで手を抜かれて、それでもテストにならなかったんだ。プライドが傷ついたというレベルじゃねぇ」
「シノ……」
昌弘やライド、ハッシュもコックピットから降りてくる中、疲れ切った様子でその場で倒れてしまう。
「強すぎる……」
シノと昭弘はそのまま並んで座り込む。言葉も出ないほどのショックを受けていた。するとゼムがそばまでやって来た。
「悔しいか?」
「悔しいっていうか……勝てるとは思わなかった。でも……あんなに力の差を思い知らされるなんて……」
「俺達の力がまるで役にたたなかった」
シノと昭弘が同じような感想を抱いていた。役に立たなかった。それはそばで隠れてみていたガエリオも同じだった。勝てない、そう思い知らされる戦い。
「大幅な改修ができるわけじゃねぇが……装備やシステムの強化と安定化ならできるだろ。あいつらに勝てるわけじゃねぇが、もっと戦えるようにぐらいならなれる……どうする?」
答えなど決まっていたゼムと共に強化が始まった。
夜が更けっていく中ビスケットは鉄華団本部施設の屋上で一人座り込んでいるとビスケットのほっぺに冷たい何かが触れる。「うわぁ!?」と驚きながら後ろを振り向くと、そこにはオルガがドリンクを持っていた。オルガはビスケットの隣に座るとビスケットに飲み物を渡す。二人の間に沈黙が流れると、オルガが話を切り出した。
「なんか話があるんだろ?」
「……オルガ、俺ファミリア結成のごたごたが終わったらやめるよ鉄華団。マハラジャさんからいずれギャラルホルンの代表になってくれないかって言われたんだ。悩んだんだけどそれが鉄華団の為になるんじゃないかって、地球との太いパイプ役にもなれるし……ね」
オルガは黙ってビスケットの話を聞いている。否定される、怒鳴られる、そう覚悟していたがオルガから帰って来た答えは意外なものだった。
「分かった。お前がそういう覚悟なら別にいい」
「……オルガどうして?」
ビスケットの疑問にオルガははっきりとした声で答えた。
「さっきよ……昭弘からもファミリアが出来たら鉄華団をやめるって言われたんだ。お前たちとこれからも一緒に居たい……でも、俺のわがままでお前らを束縛は出来ねぇ。それにつねに一緒にいることが絶対にいい結果を生むわけじゃねぇ……だから俺はお前らの帰って来るこの場所をいつまでも守っていく。お前らがつらいって感じたとき……いつでも帰ってこい。俺はここでいつまでも待ってる」
「オルガ……」
ビスケットがそうつぶやくと下から大きな声が聞こえてくる。
「お~い!!お前ら!そこで何やってるんだよ!」
オルガがビスケットの背中を叩き立ち上がらせる。二人が下へ降りるとクッキーとクラッカがビスケットの側にやって来た。
「クッキー?クラッカ?どうしてここに!?」
「あのね!おばあちゃんと一緒にみんなのお手伝いに来たの!」
ビスケットは焦ってしまう。
「だ、ダメだよ!ここは危ないんだ!」
「知ってるよ!だからってお兄だけを戦わせられないもん!私達だって何かできる!」
「お兄ちゃん達を支えることぐらいできるよ!それに!」
アガレスとバルバトスの周りで多くの子供達がはしゃいでいた。
「ねぇ!これなんて名前?」
近くで整備をしていた雪之丞に子供が尋ねると雪之丞は子供たちに教えてくれた。
「こっちがバルバトスフルアーマーつうんだ。で、こっちがアガレスフルアーマーだ。どうだ?かっこいいだろ?」
子供たちは「うん!」とはしゃいでいるとクッキーとクラッカが子供達の元に駆け寄っていく。桜はビスケットに話しかける。
「あの子達なりにあんたたちの力になりたいのさ。認めなよ……あの子達はあんたが思ってるほど子供じゃない」
ビスケットは黙ってうなずくとオルガと一緒に周囲を見回す。夜中だというのに周囲にいる人々は明るくみんなが脅威に対して団結していく。
団結する者達が集まりいつまでも明るく光っていた。
アルベルトはカゲロウのブリッジで一つの反応をアリアドネが捉えていた。
「アルベルト様……これは」
「ついに現れたか……接触まであとどれくらいだ?」
「あと……約24時間」
脅威が火星にたどり着くまですぐそこまでやってきていた。
どうだったでしょうか?今回の予告はアグニカです。
アグニカ・カイエル「満月……エルフォン……お前たちが俺の道に立ちはだかるならお前たちごと蹴散らすまでだ!俺の為に死んでいった者達の為にも必ずこの世界を浄化して見せる!次回機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ『三百年の因縁』」