『大人にはなりきれないものだな。これほどまでに胸が躍るとは」
仮面をつけた男が一人コロニーを歩いていた。
「失礼いたします。積み荷は無事組員全員の手に渡ったそうです。ただ調査に来たギャラルホルンとはさほど大きな争いにはならなかったようです」
ノブリス・ゴルドンのもとに連絡が入る。
「地球圏のギャラルホルンも存外大したことがないな」
「それとクーデリア・藍那・バーンスタインの姿がドルト3で確認されたと報告が。監視役の女も一緒です」
「奴め、一体何を考えている」
「何があったの?」
三日月はフミタンにそう聞く。
「いつもは何考えてんのかわかんないけど、今は何か考えてんのがわかるから」
「いえ別に、ただ責任というものについて少し考えていただけです。どんな行為にも必ずつきまとってくるものですから」
彼女は自分がどうしてここにいるのかがわからなくなっていた。
しかしそんな彼女にはっきりと告げる。
「自分のしたことなら当然なんじゃないの?それがオルガの言う『筋』を通すってことでしょ?」
「そうですね。責任は自ら取るしかない。私もあなたも」
二人が話していると、店の中からクーデリアが出てくる。
「ごめんなさいお待たせしました。どうかしましたか?」
「責任について話をしていただけです」
責任という言葉にクーデリアは反応してしまう。
「えっ?責任………」
顔を赤らめながらなんとか話題を変える。
「そっ……それはそうとビスケットさんはお兄さんに会えたんでしょうか?」
「わかんないけど会えてたらいいね」
「そういえば三日月と団長さんも時々本当の兄弟のように見えますよね」
「そう?オルガはもっと………。なんて言えばいいのかよくわからないや」
三日月はうまく表現できなかった。
「まさか運んできた積み荷があんな物騒なもんだったとはな」
オルガたちはドルト2で騒動に巻き込まれたままだった。
「これ以上面倒に巻き込まれる前にイサリビに戻ろうぜ」
「その前に三日月たちに連絡しねぇと」
「でも定時連絡の時間はまだだよ、それまで連絡の取りようがないし……」
オルガが組員のもとに近づくと、一人の男性が話しかけてくる。
「あなた方が鉄華団ですね?ナボナ・ミンゴといいます。組合のリーダーをしているものです。事情は伺いました。よろしければそちらの迎えが来るまで身を隠せる場所に案内したいのですが……」
オルガは少し悩んだが、他に当てがあるわけでもなく彼らの提案に乗ることにした。
「今は当てがなくてな。あんたの話に乗るしかなさそうだ」
「やっぱりお兄さんに会うのうれしくない?なんかそんな顔」
「あっ違うんだ、兄さんがっかりしないかなって……今の俺を見て」
「なんで?」
「兄さん俺ぐらいの年にはもう一人で立派に働いていたからさ、俺はいつもそんな兄さんの大きな背中を見上げてた。サブレはそれが気に入らなかったみたいだけど………。それに俺はまだこんなだし………」
アトラはそんなビスケットの言葉に対して強く背中を叩く。
「ビスケットも立派に働いているから大丈夫だよ!自信もって!」
そんなアトラの言葉に勇気づけられる。
「兄さんにはお礼を言いたいんだ。一番大変な時に一人で頑張ってくれてたから。それにサブレのことも何かわかるかもだし……」
二人がそうやって話していると、目の前に兄が姿を現す。
ビスケットはとっさに立ち上がる。
「お前……ビスケットか?」
「そ……そう…です」
「そうか……、大きくなってて一瞬わからなかったよ」
帽子を強く握りしめる。
「もう16ですから……」
「初めまして」
アトラが少し前に出てくる。
「あっ、ああ彼女は……。兄さん?」
「ああ……何でもない。少し待っていてくれ、お嬢さんもいるならゆっくり話ができる場所を用意しよう」
そういいながら電話ボックスに入ると、どこかへと連絡を入れる。
「4~5人よこしてくれ。車もだ、ああ手間が省けそうだ」
不穏な空気が流れていた。
「放して!」
騒ぐアトラはそのまま車の中に入れられてしまう。
「兄さん!これは何ですか!」
ビスケットも同じように入れられてしまい、そのまま車はその場を後にしてしまう。
誘拐の一部始終を見ていたのはほかの誰でもないサブレだった。
大きなため息をつき物陰から出てくる。
「まったく何をしてるんだか……」
手元の端末を動かす。
「とりあえず鉄華団にどうにか連絡を入れるか……。うまくいけば………」
サブレは端末から誘拐までの内容をそのままある場所に匿名で送り付ける。
「恥ずかしながら我が家です。狭い所ですが我慢してください」
「コロニーってもっときれいな所だと思ってたけど」
「クリュセの景色と変わらねぇ」
「空がある分クリュセのほうがましに思えるぜ」
「お前たちな………」
オルガはユージン達の勝手な文句に大きなため息すらつきそうになる。
「この辺は我々労働者が暮らすエリアですからね。ドルト3の商業エリアは華やかですよ。まあスラムの住人が足を踏み入れられる場所ではないんですが……」
「あっちに移り住んだのはこの何年かじゃサヴァランくらいか」
「奴は優秀だったからな。いいとこの養子にもらわれて運が良かった」
「あんたらの知り合いですか?」
「スラム出身の青年です。今は会社の役員になって我々の交渉の仲介役をやってもらっています」
「いい返事は一向にないがな」
「偉くなって変わっちまったんだよ。あいつはもうあっち側の人間だ」
「彼にも事情があるのでしょう」
「嫌!放して!放してください!」
なんとかしてビスケットの元に駆け寄っていくアトラ。
「なんでこんな真似を!」
アトラはビスケットの後ろに隠れる。
「お前こそスラムの連中に武器を渡してどういうつもりなんだ!?」
「武器って何のことです?」
「お前の仲間がドルト2に運び入れた荷物だ!」
「あれはテイワズから依頼されたもので……ってあの荷物が!?」
アトラと共に驚きの声をあげる。
「なるほど、お前たちも利用されただけ……というわけか。そのクーデリア・藍那・バーンスタインに!」
そういって指をさしたほうにはアトラがいた。
「彼女は……ってギャラルホルン!?」
部屋の中にギャラルホルンが入ってくると、アトラは覚悟を決める。
ビスケットが何とか誤解を解こうとするが。
「おっしゃるとおり私がクーデリア・藍那・バーンスタインですわ!」
その言葉にビスケットは驚きの声をあげる。
「ええっ!?」
組員はドルト3に出発する準備を進めていた。
「こちらはあと一時間ほどでドルト3へ向かいます。皆さんにはランチを一台用意したので使ってください」
オルガが話している間に着実に準備が進んでいく。
シノたちはそれぞれの場所で時間をつぶしている。
「俺に言えた義理じゃねぇが武器をとる以外に手はないのか?」
「我々はどんな手段を使ってでも会社を交渉の場に引きずりださなければならないんです……。もし可能であれば君たちの力を貸してくれませんか?」
「悪いな。それをすると世話になってる人に迷惑をかけちまう」
そんな話をしていると部屋の外から人が入ってくる。
「ナボナさんこれ!匿名で先ほどこんな画像が!これって鉄華団の方ですよね?一緒にいるのはクーデリアさんじゃないかって………」
「いやこれはうちの炊事係だ。ドルト3で何があったんだ?」
すると定時連絡を待っていたオルガのもとに連絡が入った。
「あっオルガ?」
「ミカか?お前無事なのか!?」
「定時連絡をしただけなんだけど………」
「クーデリアは一緒か?」
「うん。何かあったの?」
「ビスケットとアトラが捕まった」
「オルガが迎えに来るまで二人はどっかに隠れてて。クーデリアの事頼んでもいい?」
「分かりました。お嬢様をお守りするのも私の責任ですので」
そんなフミタンの言葉を受け三日月はホテルから走り出す。
アトラとビスケットが誘拐された場所にたどり着き、その場に捨てられていた靴を拾い臭いをかぐと、物陰に人の気配を感じた。
「誰?」
「鉄華団だな?」
サブレは物陰からそっと姿を現すと三日月はその姿に身構える。
「俺の名前は……」
「知ってるよ、サブレだろ?ビスケットから聞いたよ」
「そうか……取引がしたい」
アトラはギャラルホルンからの尋問に耐えていた。
「ったく強情な女だ。武装蜂起の計画についていい加減吐いたらどうだ?」
「何もお話しすることはありません」
そんなアトラの言葉にギャラルホルンはさらに殴りつける。
「お話しすることは………何もありません!」
強くにらみつけるアトラにギャラルホルンは彼女を強く吹き飛ばす。
「基地まで連行するほかないな、あそこなら薬でもなんでもそろっている」
「嫌でも全部話したくなるさ」
別の部屋ではビスケットとサヴァランが一緒にいた。
「大した娘だな、まだ何もしゃべっていないそうだ。あの女の計画について何か知っていることがあるなら話せ、ギャラルホルンとの交渉材料になる」
あくまでも自分の都合で話を進めるサヴァランにビスケットは表情を落とす。
「クッキーとクラッカは9歳になったんです……、二人があんなに大きくなれたのは兄さんが俺たちを火星に行かせてくれたおかげです」
「あの時は邪魔だからそうしたまでだ……」
そんな言葉にビスケットははっきりとサヴァランの顔を見つめ叫ぶ。
「俺はそんな兄さんに憧れていつも追いかけていたのに………なんでその兄さんがこんな真似を!」
「お前たちが運んできた武器を手にした組合員が暴動でも起こしてみろ。この機会を待っていたギャラルホルンは大義名分を掲げて鎮圧に乗り出すぞ!血を流すのはお前も暮らしていたスラムの住人だ!それでいいのか!?」
「クーデリアさんをギャラルホルンに差し出していい理由にはならない!それに……」
「革命の乙女の身柄を押さえることができれば、ギャラルホルンも満足することだろう!見せしめの虐殺を回避できるなら理由としては十分だ!」
サヴァランの言葉にビスケットは強くにらみつける。
「彼女はクーデリアさんじゃないんですよ!」
ビスケットの言葉にサヴァランは激しく動揺する。
「いや……彼女はクーデリア・藍那・バーンスタインだ………別人だろうとギャラルホルンを止められるならそれでいい」
サヴァランの言葉にビスケットは言葉を失う。
「正気ですか?兄さん……」
「私たちには!もはや手段を選んでる時間はないんだ……」
「どうしてですか?サブレにもまともに……」
「サブレ?………サブレがこのコロニーに?」
サヴァランはどこか怯えた表情に変わる。
フミタンがペンダントを見つめていると、ドアを開ける音が聞こえる。
「お嬢様!」
「私が本物だと名乗り出れば……」
フミタンはクーデリアの手首をつかみ、行かせないように引き留める。
「いけませんお嬢様、今となってはアトラさんが偽物だとわかればその方が危険かもしれません」
そんなフミタンの意見にそれでもクーデリアは一歩も引かなかった。
「私は大切な家族を……アトラさんや鉄華団の皆さん、それにフミタンを裏切るような真似はしたくないんです!」
クーデリアの視線にフミタンはかつての彼女の視線を重ねる。
「お嬢様はあのころから何も変わってませんね。そのまっすぐな瞳が私はずっと嫌いでした。何も知らないがゆえに希望を抱ける、だから現実を知って濁ってしまえばいいと思っていたのに」
「何を言っているの……?」
「ですが変わったのは私の方でした。変わらなければこのような思いを抱かずに済んだというのに。どんな行為にも責任が付きまとうものなのですね?」
フミタン・アドモスという人間の奥にあるクーデリアへの思いを吐き出す。
「フミタンお願いわかるように言って」
しかし、フミタンはクーデリアをかばうように動く。
「一度お目にかかりたいと思っていましたよ、クーデリア・藍那・バーンスタイン。君はここで死ぬべき人ではない。すぐにたったほうがいい。じきにここは労働者たちによる武装蜂起で荒れるだろう。その為の武器を鉄華団に運ばせたのは誰だと思う?あなたの支援者であるノブリス・ゴルドンだ。この意味が分からないほど子供ではあるまい。あなたを利用するために自らの手のものをそばに潜り込ませているような男だよ」
仮面をつけた男が語る言葉をクーデリアはあくまでも否定する。
「フミタンは私の家族です………さきほどの言葉を訂正してください」
「その男の言葉は本当です」
クーデリアは、一歩一歩後ろに後ずさっていく。
「嘘……嘘よねフミタン?」
縋りつくような言葉をフミタンは否定せず立ち去る。
「さようならお嬢様」
「待ってフミタン!」
彼女を追おうとするがそれをマスクの男が邪魔をする。
「革命の乙女たるその身を大切にしたまえ。君は人々の希望になれる」
クーデリアはにらみつけるとそのままフミタンの後を追う。
「どうしてそんなになるまで……」
「こんなのなんともないよ。子供の頃は毎日だったし、それにクーデリアさんは家族だから。それよりビスケットは?お兄さんに言いたいことは言えたの?聞きたいことも」
「俺は………」
そんなとき下から大きな爆発が起きる。
三日月とサブレが侵入してきており、そのまま部屋の一つ一つを確認していくと、部屋のさらに先からビスケットが出てくる。
「待って待って僕だよ!」
「三日月!?」
殴られ鼻血を出し、殴られた痕を見ると三日月はきれかける。
「それここの連中に?」
「えっ?うん……」
そういうと三日月は懐からもう一度銃を取り出す。
「あっ……それよりクーデリアさんは無事なの?」
「あっ……うん。ホテルに隠れている」
「よかった……」
安心しその場に座り込むアトラとは別にビスケットが話しかける。
「でもどうやってここが?」
三日月は後ろに視線を向けるとドアの先からサブレが現れる。
「サブレ!?どうしてここに?」
「それよりここを離れたほうがいい」
三日月はアトラを担ぐとそのまま部屋の外へと出ていく。
ビスケットは納得しないような顔をしつつも後についていく。
「それでこれからどうするの?」
「さあ?」
「どうしようか?」
サブレと三日月のそんなセリフにアトラが反応した。
「えっ!?考えてなかったの?」
柵を超えそのまま走り出すが、そのあとをサヴァランがつけてくる。
するとビスケットたちの前をオルガの乗る車がやってきた。
「乗れ!」
ビスケットたちが乗り込もうとするとサヴァランが叫ぶ。
「頼む!その娘を連れてこっちに来てくれ!もうこれしかないんだ!」
「誰だ?」
「ビスケットのお兄さん」
「兄さんには感謝しています。父さんと母さんが死んだあと必死に俺たちを養ってくれて、今の俺があるのも兄さんのおかげだから」
「だったら!」
「だから!あの時は本当にありがとうございました!でも今俺は鉄華団の一員なんです!」
ビスケットは兄と決別を決意し、車に乗り込むとサブレに手をさし伸ばす。
「サブレ!早く乗って!」
ギャラルホルンが柵を乗り越えようとするがそれをサブレは撃ち殺す。
サブレはゆっくりとサヴァランのもとに歩いていく。
「三日月だったよね?約束は守ってもらうよ?」
「うん。オルガ、出して!」
「待って!サブレ!どうして!」
「今更3人で……なんて無理なんだよ。兄貴だけは………兄さんだけは堅実に幸せに生きてほしい」
「サブレ………やっぱりお前は」
サヴァランの額に銃を押し付けそのまま発砲するとそのまま倒れる。
「あぁ……あぁ………サヴァラン兄さん!!
ビスケットの叫びが無情にも周囲に響き、サヴァランはその場に倒れ、サブレはそのまま別のほうに歩き出す。
「今更………3人で………なんて」
ドルト編も中盤です。サブレの動きに注目してください。まあ、サヴァランについてはどうしようと思っていたのですが、結局元通りの展開になりました。
次回は『それぞれの思惑』です!