ガン!という大きな音を立ててビスケットは三日月をトラックの壁にたたきつけると、涙を流しながら三日月を睨みつけ、三日月はそれを少しだけ申し訳なさそうな目で見ていた。
「ど、どうして!……どうしてサブレが!兄さんを!」
「………」
「よさないかビスケット!」
オルガの制止の言葉と同時に二人を引き離すと、ビスケットはそのまま崩れ落ち、ひたすら涙を流した。
突然の兄弟の別れ、そしてその別れを作り出したのもまた兄弟。
誰にぶつければいいのかわからないような感情がビスケットを支配していた。
「うっ……ううっ」
「ビスケット」
アトラもまたどう声をかけたらいいものかと決めあぐねていると、オルガが三日月に切り出した。
「どうゆう状況でああなったんだ?ミカ」
「アトラたちを助ける手助けをする代わりにサヴァランっていう人を殺すのを黙認してくれって言われたんだ。そのときはビスケットの兄さんだとは思わなかったけど。ビスケットの弟はアトラたちの行方を知っていたし、それだけで助けられるならって条件をのんだんだ」
「あ……ああ………うあああああああ!」
聞けば聞くほどサブレがサヴァランを殺そうとしていたのだということがはっきりとわかってしまい、ビスケットは大きな叫び声をあげながら顔を隠す。
「何か事情があったんだよ」
「本人は仕事の依頼だって言ってたけど……」
どうしようもない空気が場を満たし、一行はクーデリアを待たせているホテルに急いだ。
サブレは路地裏から大通りに出ようとするところで電話が鳴ると電話の先から聞こえてきたのはマーズだった。
「仕事は終わったのか?終わったなら状況を報告しろ」
「終わったよ。きっちりこなした。後始末はそっちに任せるから」
サブレの報告を聞くとマーズは「ならいい」と電話を切ろうとするが、サブレからのほかの報告にその手を止める。
「ああ、そういえばクーデリア・藍那・バーンスタインはここにきているらしいよ」
「?ドルト3にか?」
サブレが「うん」と答えるなか、それを聞いたマーズは高笑いをあげサブレはそれをうっとうしそうに少しだけ顔をしかめる。
「なに?どうしたの?」
「いや、なんでもない。サブレ追加の仕事だ。クーデリア・藍那・バーンスタインの暗殺を阻止しろ」
「はぁ?意味が分からないんだけど。それだと最初の依頼に反するんじゃ?」
「俺たちが受けたのはあくまでもサヴァランの殺害だ。それにノブリスの予想の範疇を超え始めている今回の事件。うまく動けば多額の金が手に入るかもしれん。いいか?これは命令だ」
そういうとマーズは一方的に電話を切ってしまう。
「自分勝手」
サブレはもう一度銃を確認すると騒ぎが大きくなってきている大通りに出て行った。
「どこにもいねぇ!」
ホテル中を探し回っていると、ユージン達は廊下に出て集まっていた。
ビスケットは近くの椅子に座り表情はどこか暗いが、集めた情報をみんなに聞かせた。
「……チェックアウトはしてないらしいけど、別々に出ていくのを見たってホテルの人が……」
みんなでどうするべきか決めあぐねていると、三日月が真っ先に飛び出した。
「俺やっぱり捜してくる!」
「私ついていきます!」
アトラも同じように飛び出していく。
「本当にいいのかよ?勝手に行かせてよぉ」
「どっちにしろ捜さなきゃいけねぇんだ。ビスケット、お前はここにいろ」
「いや、僕も探すよ。今は体を動かしているほうが気がまぎれるんだ」
そういうとビスケットは立ち上がりみんなと同じようにホテルを出ていく。
外では今まさにドルトカンパニーに対する抗議デモがおこなわれていた。
「我々の子供から未来を奪うな!」
そんな声が辺り一帯から響き渡ってくる。
「ギャラルホルンが出てくる前に実力行使に移るべきじゃないかって……」
「それは絶対にダメです。こちらからは決して仕掛けることのないように、指示を徹底させてください。武力ではギャラルホルンにかなわない、過激に走ろうとする人たちを抑えるためにも、交渉で事を進める姿を見せることが重要なんです」
ドルト3では今まさに抗議デモが過激の一途をたどろうとしていた。
「迎えに行けない!?どうしてですか?」
そんなメリビットの問いに名瀬が答えた。
「ドルト3の宇宙港が封鎖された、デモ鎮圧のためって名目らしいが……。L7の駐留部隊だけでなくアリアンロッドの本隊まで集まってきてる。この騒動、どんな裏があるんだか……」
そしてハンマーヘッドでは新たなグシオンがいままさに完成していた。
「にしても、あのずんぐりモビルスーツの中身がこんなんだったとは」
「おかげでバルバトスのパーツが流用できて助かったじゃない。じゃなきゃこんなに早くロールアウトできなかったよ」
そしてイサリビでも同じように戦闘態勢が整いつつあった。
「こらライド!ダメだろそんな所に落書きをしちゃ!」
「落書きじゃねぇよ!シノの兄ちゃんに頼まれたんだよ。なんか「お守りだ~」とか言ってさ」
「お~い!そっちも立ち上げの準備始めとけ~!」
「パイロットもいないのに?」
「団長たち戻ってきたんすか?」
「まだだよ。なんかよく分かんねぇが、思った以上に厄介な状況になってんのかもな」
宇宙港に上がろうとしたフミタンだったが、宇宙港の封鎖により下に戻ってきたところにノブリスの手下が現れ、フミタンを壁にたたきつけた。
「なぜ一人でいる?ターゲットはどうした?貴様が何を考えているのか知らんが、ボスがそれほど気の長い性格じゃないことは知っているはずだ。こっちの準備は整っている。お前はお前の仕事を果たせ。逃げられるなんて思うなよ?」
男たちはどこかへと姿を消した。
『まもなく衝突が起きる。ターゲットをその混乱の中に送り込め。あとは俺たちが何とかする』
フミタンはそう指示を受けていた。
(私は何をしている………いったい何を…)
「フミタン!?」
拳をギュッと握りしめていると、そんな彼女の耳にクーデリアの声が聞こえ、フミタンがいる場所の真逆にクーデリアは現れた。
無邪気に手を振る彼女は反対側に行こうとする。
「下がってください危ないですよ」
「あの………人を捜していて」
組員の人に引き留められると組員はすぐに彼女がクーデリアだとわかってしまう。
しかし、それをサブレもまた見ていた。
「クーデリア・藍那・バーンスタインを発見。対象はドルトビル前の大通りに発見」
「こっちもノブリスの手下を発見した。暗殺を阻止しろ」
「いいけど、暴動に巻き込まれたら俺でもかばえないよ?」
「その時は潔くあきらめるさ」
サブレは端末に送られてきた場所に走って向かう中、クーデリアはまさに騒ぎの中心に向かおうとしていた。
「私今急いでいて………」
「俺ニュースで見ました!クーデリアさんが来てくれた!」
そんな騒ぎが起きる中、ノブリスの手下も着実に準部を整えていた。
「どうやらうまくやったようだな」
「こっちも急ごう」
クーデリアは図らずともデモの中心にたどり着いてしまい、テレビ局もクーデリアの姿を捉えた。
「どうします?ディレクター、なんか盛り上がってますけど……」
「誰か知らんが面白い、組合のおっさんどもより絵になるしな。しばらく押さえておけ」
テレビが生中継で放送する中一連の放送を三日月とアトラも見ていた。
「いた。大通りの方か。アトラ……」
「私は大丈夫だよ。このことみんなに伝えてくるから、三日月は早く行ってあげて」
「本当に大丈夫?」
「うん。だからクーデリアさんの事お願い」
三日月は黙ってうなづくとそのまま駆け出していく。
そしてクーデリアは組合の人たちにつかまったまま、身動きが取れずにいた。
「みんな感謝しています。武器や弾薬を送っていただいて、クーデリアさんからって代理人の方が」
「鉄華団の皆さんは大丈夫でしたか?」
「クーデリアさんなんか一言お願いします」
「ええお願いします。みんなの力になるようなことを」
「いえ……ちょっと待ってください」
クーデリアは一度に来る質問に答えきれないままでいると、ドルト本社から爆発が起きた。
「ご覧ください!今ドルト本社から爆発とともに炎が上がりました。組合側からの攻撃でしょうか?」
そうアナウンサーがテレビに向かってアナウンスを続けていると、組員は焦り始める。
「攻撃は待てと言ったはずです!」
「いえこっちでは……」
「待て!俺たちじゃない!」
組員がそう呼びかけるが、ギャラルホルンはそんな話など聞くはずもなく、モビルワーカーを攻撃態勢に移行した。
「事態急迫につき危害射撃を開始する!」
その一声と同時に両者の間で戦火が開かれた。
「なっ……なんですか!?」
「下がります!こっちへ」
組合の女性に連れられて下がろうとするクーデリアに対し、組合長のナボナはあくまでも暴動を止めようとする。
「撃つのをやめてください!これでは相手の思うつぼです!」
モビルワーカーから煙幕が放たれると、組合の攻撃がやんでしまう。
「よし!掃討開始!」
モビルワーカーの攻撃が始まる中、アトラもようやくオルガたちと合流できていた。
「始まっちまったか……」
「オルガさん!クーデリアさんが……クーデリアさんがあの中に!」
しかし、攻撃は止み嫌な静けさが場を満たしていく。
煙幕が消え、銃撃による砂埃が場の凄惨さを隠していた。
「今銃声がやみました。デモ隊の暴発により始まった一連の銃撃戦はギャラルホルンの果敢な応戦により今一応の終息を迎えたようです」
「何が………」
クーデリアは自分にいったい何が起きたのか全く理解できなかったが、自分の目の前に広がる景色に愕然とした。
「何これ……」
辺り一帯に広がるおびただしい量の死体、クーデリアは先ほどまで自分を連れて逃げようとしてくれた女性を腕に抱える。
「クーデリア……さん……」
「だ……大丈夫ですか!?」
「嬉……しい。私革命の乙女の……手の中で……まるで…物語…みた…」
しかし、その命もはかなく散ってしまう。
「おい、もういいよ死体は。そろそろ引き揚げ………ん?ちょっと待てそのまま。あれって……」
テレビ局の画面移っていたのもまたクーデリアだった。
「どうして……どうしてこんなことになるんですか!なんで……」
(何をやっているの!早く逃げなさい!あなたはまた………)
フミタンの心の声など届くはずもなく、クーデリアはそこから動けずにいた。
「しぶといな。まだ生きてる」
「ボスにとっては好都合だろう。注目を集めてる今こそ革命の乙女が散るのに絶好の舞台だろ?」
銃の引き金を引こうと指を置くが、それと同時にドアがふいに開く。
フミタンは走りクーデリアのそばまで駆け寄り、庇うように体を盾にするとその瞬間銃声が響いた。
「………?」
しかし、フミタンの体を銃撃は襲わなかった。
そのあとも数発におよぶ銃撃ののち、フミタンは男たちがいた場所をスッと見つめるとそこにはサブレの姿が一瞬だけ瞳に映った。
(彼はサブレ・グリフォン?どうしてここに?)
「フミタン!」
クーデリアはフミタンに駆け寄っていく。
フミタンは三日月との会話を思い出し、一つの覚悟を固める。
「お嬢様……覚えていますか?あの火星でのスラムで、私はわざとあなたを置き去りにした。だって、あの子はまるで昔の私だったから……。嫌いだった。何も知らない……まっすぐなだけのあなたの眼差しが、現実が見えたらすぐに曇ってしまうものと……。でもあなたは輝きを失わずにここまで……、あの本の少女のように」
「何を言っているのフミタン」
「これだけは誓えます。これからはあなたをお守りすると、ここに……。私のような裏切り者の言葉など信用できないでしょうが」
「そんなことはないわ!フミタンは私の大事な家族です!」
フミタンは一筋の涙を流す。
「これからもあなたのそばにいさせてください」
フミタンの差し出す手にクーデリアが反応する。
そんな中三日月が路地裏から姿を現した。
「もう行こう。ここは危ない」
「ええ……まいりましょうお嬢様」
「はいフミタン、三日月」
三人は走り出し始める。
ノブリスの元にマクマードからの連絡が入る。
「お久しぶりですな。テイワズの代表が直々に何用で?」
「GNトレーディングからのあれは無事に届けさせたぜ。そっちの狙いはわかっている。うちの身内である鉄華団とクーデリア。反体制派のシンボルとなったあの娘を殺すことで火種を作る」
「何が言いたい?」
「金になる木は無駄に切るのは惜しいだろう?あの娘は小さな火種で終わるようなタマじゃねぇってことさ。あの娘がこの騒ぎからうまく抜け出すことができたなら……、その時は一つ手を組んでみるってのはよ?」
それぞれの思惑が重なり合い、騒動は一層激しさを増していた。
どうでしたか?というわけでフミタンは生存です。ドルト編の最後はフォートレス戦で閉めるつもりです。次とその次は戦闘回になる予定になっています。
次回は『クーデリアの決意』です!お楽しみに!