「例えばさ、君に友達がいたとしよう。あぁ、この言い方だと君に友達がいないみたいだね。ん?図星だったかな、あはは許してくれよ。」
男は藪から棒に例え話を始めた。その男の姿は何とも言い難い格好をしており、実に不気味な雰囲気をその体から放っている。男の姿をこの世の言語で表そうとするならば『鵺』といったところだろうか。
鵺、とは妖怪の名であり、身体のいたる部位に一貫性のない姿をした化け物だと書物には記されている。ある部分は虎であったり、ある部分は猿であったり、またある部分は蛇であったりなど、まさに正体不明であり意味不明な物体である。また、どの部位がどの動物であるかは絵師や語り手によって千差万別であり、これまた一貫性が無い。つまりはこの鵺という奴の情報を纏めると、文字通り姿どころかその存在全てがぐちゃぐちゃで、ごちゃごちゃで、ばらばらなのだ。
さて、それでは意味不明正体不明と感じさせるこの男というのは、いったいどんな格好をしているのか、部位ごとに表していこう。
まず、頭。西洋の紳士が被っていそうな黒いハットである。しかし、そのハットには何故か大きなピラミッドが描かれている。
次に顔だが、仮面をしているため男の顔は一切分からない。なれどもその仮面は狐の面ーーーに一瞬見えるがそんなことは無く、縦に長い顔に白い下地に左右で違う形をしている耳にもツノにも見える出っ張り。そして極めつけはその目である。人と同じ大きさの目はあたかも平面では無いのではないかと思わせるほどの深い、暗い、そして不気味な黒をしており、何の感情もその目には籠っていない。見ているだけで、強い不快感をそれは抱かせた。
たった、二つの部位を観察しただけで、『彼』はあまりの不快感に思わず目を背けた。どうやらもうこの男のことなど知りたくない様である。
「おやおや、どうやら随分嫌われてしまったようだね。まあ、それは仕方ないさ。それよりも話しを続けるよ。君の唯一の友達は君と硬い絆で結ばれていた。なんて陳腐な表現だろうね、言葉の重みが全く無いよ。」
その男の語り方は飽くまで人を不快にさせ、なおかつ自分を掴ませない喋り方をしている。
ーーーーーそう、君もその友人も本当に互いを信じ、互いを尊重し合って、心からお互いを好いていた。あぁ、この好いてたをどう取るかは君に任せるよ。
ある日、君はその友人の違う面を見てしまったんだ。自分には決して見せない怒りに富んだ表情を。その同じ日の別の場所で君はまたもや見てしまった。その心から信頼していた友人が君には絶対に見せなかった冷たいゴミを見るかの様な眼を。
君はとても驚いた。けれどその友人を『心から』信用する君はこう思った。ーーー彼女も人間だ、怒ったりして当然である、と。流石『心から』信用している事はあるね、そんな程度のことじゃ君が親友に疑問を覚える筈もなかった。
しかし、だ。その日を境に君の正面にいる友人は一変した。君に怒りを見せるようになり、君に冷たい表情を見せるようになったんだ。流石の君もこれには困惑した。あまりの変化に君は少しだけ、ほんの少しだけ君が信じる友人に疑問を覚えてしまった。
そして、君を『心から』信頼するその友人はその君の変化を見逃さなかった。友人は君に言った。『どうして私を信じてくれないんだ。』と。『どうしてそんなに怯えているのか。』と。そうだ、君はいつの間にか恐怖を抱いていたんだ。
そしてそれに気付いたが最後、『心から』の信頼は『心から』の不安になったんだ。今まで信頼していたものが嘘であるとしたら、と考えればその信頼が大きければ大きい程、その不安、疑心も大きくなる。
そして勿論君を『心から』信頼していた『彼女』は、君のその疑心も見抜いてしまった。 ははは、おやどうしたんだい?顔色が悪いよ。何かこの た と え ば な し が自分のことように聞こえたのかい?はははははは。
さて、それから友人は君に質問をしたんだ。「私は何か君にしてしまったのだろうか」と。「もしあったのなら教えて欲しい、そしてそれを謝らせて欲しい」と。
君は正直に答えた。「君のいつも見せない姿に戸惑ってしまった」と。「僕が信じている君を信じれなくなってしまった」と。
友人はそれに心当たりがあったんだろう、それに少し寂しそうな笑顔を浮かべ「そうだったんだ」と返事をした。そして自分の宣言通り「すまなかった」、「許してほしい」と君に謝罪をしたんだ。
そしてその次の日
ーーーーーーーーさんがお亡くなりになられました。」
それを聞いた『彼』は前にいる男へ明確な殺意を向けた。それは怒りや苦しみといった負の概念そのものを孕んだかの様で、まさに眼光で人を殺さんがばかりの目の鋭さをしていた。
「おっとっと、そんなに怒らないでくれたまえ。まあ、暴れたくてもあばれられないだろうがね。」
そう、彼の意識が目覚めた時には既に己の身体は、椅子に縛り付けてあったのだ。それによりどう足掻いても目の前の男の顔は、殴り飛ばせそうにないのである。それ故に彼は自分に出来る限りの眼光を持ってして、この醜悪な性根の男を貫こうとしているのである。
「落ち着きたまえ。別に君をただ怒らせる為にこの例え話しをしたのではないよ。君にプレゼントがあるからさ〜。」
男は楽しそうにようやく前置きを終え本題に入った。いや、本当はまったくもってこの男のした話は蛇足極まりないものである。この男はただただ彼を怒らせるためだけに本題に関係の無い前置きのたとえ話しをしたのである。
「話は簡単さ。君には生きてもらう。死んでもらっては困るんだよ、他でもない私がね。」
彼には言っている意味がよくわからなかった。この男は自分に生きろと言っている。だが、それは無理な話だ。だって彼は既に______
「ーーーーー死んでいるとは言わせないよ?君はまだ生きている。そう例え君が自らの首を切り裂いたとしても。何故ならば今私が生かしているからね。」
困惑する彼を置いていく様に、男は話を続けた。
「君は面白い。人間らしく、だか人間からかけ離れた面を持っている。見るたびに形を変える化物の様でね。」
それは彼が男へ抱いた印象とまったく同じだ。男には彼がそう見えるらしい。
そして男は仮面の下からでもわかる程の大きな愉悦を浮かべ、彼にそう言った。
「だから、君をそれにしようと思う。君をその化物にしてやろうじゃあないか。モンスターにしてやろうじゃないか。ハハハ、ハハハハハハ、どうだい?良い案だろう?」
彼の思考はまったくそれを理解出来なかった。いや、理解をしたくなかった。何故ならばそれになるということは、この男の様な醜悪な存在となるということである。ちぐはぐな存在になるということである。不気味な存在になるということである。それは断じて、到底彼に認められることではない。
しかし、彼は既に理解していたことがあった。根拠もないが理解していたことがあった。
「そうだ、君は聡明だね。これは『嘘』ではない。ましてや『夢』何ていうオチでもない。これは本当だ。」
認めたくないが、彼は確かにそれを理解してしまっていた。ーーーーー理解されられたのだ。
「安心してくれたまえ。君は鵺ではない。君は『水面』だ。その化物にしか君はなれない。」
彼は男のその人が変わったかの様な優しい声を、心に留めた。そして、直ぐに、大した間も無く、まさしく須臾の如く、
その場より姿を消した。
「さて、これでやっと仕事を終えたよ。いやぁ、思春期の子の対応はどうも楽し過ぎてやり過ぎてしまうよ。何度か経験してもこの感覚にはなれないなぁ。この前も同じ様なーーーーー
これは化物の物語である。これはモンスターの物語である。ポケットに入れられることのない、ポケットな世界のモンスターの物語である。
前置きはこんなところだろうか。まあ、いずれにせよ彼らはもう戻ることなどできない。人の人生は自分の意思で後ろは勿論前にも進むことは出来ない。前に進んでいると感じるのは自分ではなく時間が進んでいるからだ。我々に出来るのはーーーー道を選ぶことのみ。しかし忘れるべからず。
ーーーーーーどれか道なのかなど、誰も知らない。
続ける体力なくね?書いてから思った。期待はするべからず