(あいつは何処かでことの成り行きを見ているはずだ。仕留めかけた獲物の完全復活に、さぞかし怒り狂っているだろうよ)
リネルはダイの邪魔にならない程度に後方から魔法で援護していた。目まぐるしく動かなければならない前線とは違い、ダイを観察し敵を考察する余裕がある。
(ま、ケダンのやつがどれほど怒り狂おうと、俺には関係ねえことだけどな)
肩をすくめて、細事を簡単に頭から追いやった。
不意打ちでもされたのか、深手を負って苦戦していたが、傷を完治させ万全の動きを取れるようになったダイにとって、いかに本領を発揮できない状態であっても死霊使いの手駒となっている魔族は、しょせん敵ではなかった。
(想像通りの、規定通りの結果ってやつだな)
十人を超える魔族の中で、リネルが完全に仕留められたものは、ダイが両断したものを凍らせたのも含めて、四体のみ。
十人近くいまだ残っているが、リネルの強化した身体能力に任せた無駄の多い動きに比べ、歴戦をくぐりぬけた少年の動きは戦いに洗練されて危うげがなかった。リネルがダイに渡したなんの変哲もない名剣と呼べぬ剣が、神剣と呼ぶにふさわしいものに見えてしまうほどに、瞬間の動作からして他の使い手よりも群を抜いていた。
敵の肉体が生前より強化されているとはいえ、竜の騎士にとっては、スライムがキングスライムにレベルアップした程度の差。
まとめてかかってくる魔族を、ダイは蹴散らす。アイテムで動体視力を強化していなければ、リネルの目ではとらえきれない動きだった。
リネルが剣のみで倒すことが不可能だったゾンビを、闘気を纏った剣で次々に大地に鎮めていく。一閃の刃のひらめきで、単独行動が不可能なほどに細切れにする。その、剣の技にリネルは素直に感嘆した。まとめて襲いかかる敵を、小細工を弄することなく、己の純粋な実力のみで倒していく姿は見事としか湛えようがなかった。
一方的な展開を見ているのに飽きると、
(こんな強いくせになんで阿呆みたいによく怪我をするのかね)
強いのは分かっていたが、詳しい実力を知らなかったリネル。しかし、ダイの実力の一部を見て、怪我をして帰ってくることに呆れを含む疑問を浮かべた。
(やはり、不意打ちや策を弄した罠に弱いのかね、学習しねえ奴だ)
考えているうちに、残りの魔族はひとりだけとなった。
呆然と無防備に立つ魔族にダイは、とどめを刺そうと構えた瞬間、敵の様子がかわる。
『ヤッてくれたネ。リねル』
今まで、雄叫びをあげるだけであった魔族が、突然、口を開いた。
全滅間近になり、勝利を諦めたのだろう。操られた魔族から通して伝わってくるものに、最早戦意はなかった。
『オ前のおかげデ、せっカくいいとこロまでいっていたノに、失敗してしマった』
死した者を操り、喋らせるのは、とても奇妙な話かたに聞こえた。妙なところで抑揚をつけて、酷く耳触りだった。
歯を打ち鳴らし、わざとらしい哄笑をあげた。
『他人嫌イのオ前が、まサか竜の騎士の仲間にナるとは、ナ! 予想外ダったよ!』
「仲間にゃあなってねえさ。ただの借金取りだよ」
何処にいるかもわからないケダンに返す。
『フうん。一体どんナ心境ノ変化? 僕たちがいくラ誘っテも、群れルのは嫌いダと一蹴してずウっと一匹オオカミを気取ってイたくせに』
死者であるからして仕方ないが、口を開閉するだけの動きだけでも、見るに堪えないものであった。リネルは平然を装っているが、身の危険がほとんどなくなり緊張感が消えたせいで、もよおす吐き気に耐えるのが相当厳しくなっていた。表情どころか生気のない焦点のあわない虚ろな目を、見ているわけでもないのに向けられているのは気持ちのいいものではない。
「人の話を聞かねえ野郎だな。自分の脳みそまで腐らせてるんじゃねえよ」
リネルは最早意地だけで睨みつけていた。
「おしゃべりは終わりだ。ケダン」
会話によって、有益な情報を聞き出せる相手ではない。何より、これ以上同じ場所にいるのが苦痛であった。リネルは会話を切り上げる。
ダイに、視線でとどめを刺すように告げる。
少年は無言で魔族を切り捨てた。
強いられた焦燥と恐怖の割に、終わりは実にあっけなかったとリネルは思う。
最後のひとりがダイによって屠られたのを見届け、リネルはその場に腰をおとした。
「うわー、もうくそ、なにやってるんだよお前! おかげで滅多にしない戦闘なんてしちまったじゃねえか!」
リネルはダイを助けたときから、いずれこのようなことに巻き込まれる覚悟をしていたが、実際に慣れぬ戦闘に参加して、文句のひとつも言いたくなった。腰が抜けてしまった羞恥がそれを手伝い、意味もない言葉をまくしたてる。
「ごめん。リネル……」
愁傷に謝るダイに、流石に大人げなかったことに気付き、ばつが悪そうに頭を掻いた。
「あー、もういい。とりあえず背負え! 腰が抜けた! 家に帰るぞ!」
リネルはダイに手をのばすと、一瞬きょとんとしたあとにダイは嬉しそうに笑みをうかべて、その手をしっかりと掴んだ。