「どうしても、行ってしまうのですか。サー・ベイリン」
「ええ、弟と誓った仇討ちの約束がありますので」
王の間に、一人の王と騎士がいた。
片方は青い装束の上に白銀に煌めく鎧を着込み、さらにその上から青いマントを羽織った騎士の王。
もう片方は全身が傷だらけの使い古された鎧を装備した、みすぼらしい格好の一介の騎士。
そして互いの腰には星の聖剣。しかし同じ星の聖剣とはいえ、王の聖剣は闇を照らす金色の光を放つが、騎士の聖剣が放つ光は幽幻の如き蒼白い炎であった。
「そうですか……。仇を討つ為の旅となれば、いくら王とはいえ私も貴方を止めるわけにはいきません。しかし首尾よく目的を果たすことができたなら、再び共に戦いましょう」
「は。使えぬ騎士の我儘に、これ程までに寛大な心遣い。感謝の言葉もありません。このベイリン、必ずや貴方の元に戻りましょう」
暫しの別れの挨拶の後、騎士が王の間を出ようとしたその時、突如扉が開いた。
「お久しぶりです。王様」
現れたのは美しき泉の乙女、ヴィヴィアンであった。しかしアーサー王にエクスカリバーを授けた乙女が今になって何故現れたのか、王には見当もつかなかった。
「ふふっ、突然訪ねて申し訳ない。いや、少しばかりその聖剣の調子を見に来たのですよ」
「なるほど、そういう用件でしたか。エクスカリバーは変わらず最高の剣です。斬れ味も輝きも、ほんの少しの濁りすらありません」
その言葉を受けて、ヴィヴィアンは満足そうに笑みを零す。
「それはよかった。やはりエクスカリバーは貴方のような素晴らしき王にこそ相応しい。それほどまでに見事な剣、この世に二本とありませんからね」
「何を仰る、我が配下のベイリンが引き抜いた剣も、あなた方から頂いたエクスカリバーに匹敵する見事な剣。これほどの剣を二本も授けて――――」
その言葉を聴いた乙女の表情からは、笑みが消えていた。
「王様、貴方は今、ベイリンと口にしませんでしたか…………?」
殺気。あまりにも濃い殺気が王の間を包んだ。王は背筋に危険な寒気を感じ、乙女は震えて動けなかった。そして一介の騎士は、まさに「親の仇を見るような目」で、泉の乙女を睨みつけていた。
「そうか……泉の乙女と聞いてそうではないかと思ったが、まさか俺の前に自ら現れるとはな」
騎士は剣を抜いた。聖剣ではない方のもう一つの剣。彼が昔から愛用していることがひと目で分かる、ボロボロの剣を。
「ベイリン……ッ!! 我が兄の仇!!」
「何が仇だ。貴様の兄は俺との尋常なる勝負の果てに敗北し、死んだ。そして貴様は道理に反して俺を怨み、我が母を殺した……。貴様の罪は重いぞ、泉の乙女ヴィヴィアン」
ベイリンの言葉は母の仇を前にしても至って冷静であった。しかし声色は王と話すときとは明らかに違い、どす黒い殺意が滲み出ている。
その恐怖で脚が竦んだ泉の乙女はまさに袋の鼠、蛇に睨まれた蛙そのもの。逃げる術はなかった。
「死んで詫びろ」
王はハッとして、「よせ!!」と叫んだ。しかし時既に遅し。叫んだ時には乙女の首は宙を舞っていた。怒りの中で研ぎ澄まされた一閃は凄まじく、乙女の首と胴体を真っ二つに両断して尚、乙女の胴体は立っていた。
「……ベイリン、貴方という騎士は…………」
「……………………申し訳ない、我が王よ。私は貴方にとっての恩人を殺し、王の間を汚した。仇討ちとはいえ、これは紛れもない反逆。その聖剣でこの首を断たれようと、何一つ文句はありません」
「……貴方の母の仇が我が恩人であった。我らが、運命に遊ばれたという、それだけのこと……。兄弟の誓いを果たした貴方を責めるつもりはありません」
「…………恐悦至極」
野蛮なる騎士は王の元を去った。
そして彼の災いは、ここから動き出す。