わたしの場合は原作を読み返しているうちに更新が遅れてしまう。
――――不思議な男の子だなと思った。
一目会ったときからそれは感じていた。けど、話せば話すほど、知れば知るほどあの子のことがわからなくなってきた。
「・・・パック。あなたはあとどのくらいの時間いられそう?」
「正直、あと30分くらいが限界かな・・・ふぁ~~~・・・それまでにあの子が早く戻ってくることを願うよ」
「そうね」
あの子は最初出会ったときから何か様子がおかしかった。わたしが大切な徽章を盗まれていたことを何故か知っていたし、何よりも無関係なわたしのためにその徽章を取り戻すために親身になって行動してくれている。その上自分のお金で買い戻すだなんて信じられないことをしてる。
―――あの子の行動は納得がいかない。第一、辻褄が合わない。それでも・・・あの子を信じてみようって思っている自分がいる。
「それにしてもずいぶんもあの子のこと信用してるんだね。あの子が裏切らないか心配じゃないの?」
「別に心配してないわよ。それにもし裏切っていたとしてもあの子が出てきたところを捕まえればいいでしょ。わたしは徽章さえ無事に返ってさえくればそれでいいの。仕返しすることが目的じゃないもの」
「ふ~~~ん・・・」
「なによ、何か言いたいことがあるなら言ってみなさいよ」
「いやぁ~~~、エミリアにそこまで信用されている彼はスゴいな~って思ってさ。あの子、どうしてエミリアにここまでしてくれるんだろうね」
ニヤニヤ笑うパックに少し不快な気分になったけど。それはわたしも不思議に思っていた。あの子はまるでわたしのことをずっと前から知っているような・・・わたしが覚えていないだけであの子とは前にどこかで会ったことあるのかしら。あれだけ特徴的な子なら一度見たら忘れないと思うけど。
「―――それにしても本当に遅いよ。やけに交渉が難航しているみたいだね。もしかして彼の手持ちのお金じゃあ足りなかったのかな」
「・・・・・・。」
「エミリア?」
確かに時間がかかりすぎてる。わたしはあの子が倉に入った直後に倉の中に入っていったあの黒装束に黒髪の女性のことが気になった。
何者かわからないけど一目見たときからすごくイヤな感じがした。今日会ったばかりのあの子とよく似た同じ黒い色の髪だったけど・・・あの子と違ってすごく危険な雰囲気を感じさせた。
―――理屈じゃなくて、何かすごくイヤな予感が止まらなかった。
バリィイイイイイィン……ッッ!!!
「「―――っ!?」」
ドサァッ ズザシャァアアァアア……ッッ!!
「今のは・・・っ」
窓を突き破って黒い物体が飛び出してきた。地面を転がり滑っていく人影を見てすぐに誰だかわかった。
「《ごふっ!》・・・ぐっ、がハァっ!・・・ぶふぅオっ、おふっ、げほっ・・・―――グレートっ・・・女の蹴りの威力じゃ、ねえ」
「大丈夫!?しっかりして!」
「血みどろじゃないかっ。いったい中で何があったんだい?」
「・・・大したことはねえ。これは窓を突き破ったときの傷だ」
確かに窓のガラスが体中至るところに深々と突き刺さっている。地面を転がったせいで体の中にめり込んでしまったガラスもあるみたい。苦しそうに血まで吐いてる・・・中で何をされたの。
「動かないでっ。すぐに傷の手当てをしてあげるから」
「まあ、待て―――《がしっ》―――今はそれどころじゃない」
「・・・え?」
「時間がないから手短に言うぞ。フェルトに盗みを依頼した黒装束の女・・・アレはお前の徽章を奪ってお前を殺すために送り込まれた殺し屋だ。お前がここに来ていたこともバレていた」
「あの黒い女の人が―――」
「《ぐぐぐぐっ》っ・・・中にいるフェルトも、蔵主の爺さんも口封じに殺すつもりだ」
「動いちゃダメよっ。今ケガの治療をしてあげる。あなたはここで休んでて」
「この子の言う通りだよ。その状態で無茶したら君まで死ぬよ」
「―――ハァ・・・ハァ・・・バーロー。ヒロインのピンチに呑気に寝てるヒーローがどこにいるってんだよ。俺が倒れるのはあのビッチをぶちのめした後だぜぇ《ボタボタッ》」
パックの言う通り。この子のおびただしい出血量は決して軽視してはならないわ。安静にしているならともかく今動いたら本当に命に関わる。そんなことお構いなしにこの子は倉の中にいる二人を・・・いえ、わたしから徽章を奪ったあの子を助けようとしてるみたいね。
―――どういう関係かはわからないけど・・・この子にとってあの女の子はそんなに大切な子なのかしら。
「・・・お前は誰か助けを呼んできてくれ。ここは俺が何とかすっからよ。あとで俺が正当防衛だってことを証言してくれるとありがたいぜ」
「そんなボロボロの状態のあなたに何ができると言うの。いいから、ここはあたしに任せてあなたはここで休んでなさい」
「ええいっ、余計な心配をするな!この程度のケガ、某吸血鬼のタイムストップからのナイフ投げに比べれば大したことないぜぇ」
「・・・・・・。」
不適に笑って見せてはいるけど手足から滴り落ちてる血を見て『ハイ、そうですか』と引き下がるわけにはいかないのよね。この子はわたしのためにここまで頑張ってくれたんだもの・・・この子が守りたかったものは代わりにわたしが守ってあげる。
パァアアアア……ッ
「つーわけで頼んだぜぇ!ここから先は、俺の・・・しょー・・・たい、む・・・――――――?《バタッ》」
「・・・ごめんね。これが終わったあとでちゃんとケガも治してあげるから―――本当にありがとう」
この子は優しい子だ。すごく優しい子だ。誰かに優しくしてるときのこの子はすごく輝いてる。優しいから自分が傷ついてることにこんなにも無関心でいられるんだ。
それがわかってしまったらもうこの子を戦いに出すわけにはいかなくなった。本当に危なくなったらこの子は躊躇わず自分を犠牲にするだろうから。
「―――パック。行ける?」
「うんっ。いつでも大丈夫。おいたが過ぎる子には少しお仕置きしてあげないといけないね」
「ええ。行くわよっ。徽章を取り返したらちゃんとお礼をしないとね」
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パックの合図で放たれた無数の氷弾。黒装束の女は油断していたのか初動が少しだけ遅れていた。だけどその油断が命取りよ。
ヒュドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド……ッッ!!!!
「―――直撃だね。勝負あったかな」
「・・・パック。用心して」
―――バリィイイイイイィン……ッッ
「《コォオオオオ……ッ》備えはしておくものね。重くて嫌いだったけれど、着てきて正解」
「っ・・・コートに加護の術式を付与していたのね」
「正解♪念のためにと思って用意していたのだけれど・・・命拾いしちゃったわ」
命拾いしたなんて言ってるけどその顔には命の危機に直面した恐怖も危機を辛くも脱した安堵も一切見られなかった。まるで戦いを楽しんでいるみたい。
「でも・・・今の攻撃はもう二度と通用しないから観念してね」
「精霊術の使い手を見くびらないことね。あなたが思ってるほど易しくないから」
「あ~ら、それは楽しみだわ《ヒュンヒュンヒュンヒュンッッ》」
パギパキパギパキパキパキパキキキキキキキ……ッッ!! ヒュドドドドドドドドドドッッ!!!!
さっきより小さめの氷弾で敵の動きを牽制する。一撃で仕留めることを諦め、弾速と当てることを優先して攻撃を放つ。けど、わたしが本気で仕留めにいったことであの女の動きがますます速くキレを増してきた。やっぱり、あの人も本気じゃあなかったみたい。
「《ぎゅんっ》惜しい惜しい♪」
「―――っ!」
ガギィイ゛イン……ッッ!!
「戦い慣れしてるね《クイッ!》―――女の子なのに」
ヒュドドドドドドドドドドッッ!!!!
「あら。女の子扱いされるなんてずいぶんと久しぶりなのだけれど」
「ボクから見れば大抵の相手は赤ん坊みたいなものだからね。それにしても、不憫なくらい強いもんだね、君は」
「―――精霊に褒められるなんて恐れ多いことだわ」
氷弾の雨あられを掻い潜って至近距離まで近づいてくるとその手にもったナイフで切りかかってきた。難なく盾で防ぐと軽やかな動きですぐに離脱していった。
わたしが防御に、パックが攻撃に専念していると言うのにあの人は人間離れした身のこなしでこちらの攻撃を難なくかわしている。
―――このままだとパックの補助が受けられなくなった途端に一気に形勢が不利になるわ。
「随分と焦ってるみたいだけど・・・もしかしてそちらの精霊さんはもうすぐご退場してしまうのかしら?」
「っ……パック……しっかりして」
「ごめん。少し眠くなってきちゃった。マナ切れを起こしかけてる」
「もうちょっと……あとちょっとだからしっかりして」
流石、精霊の特性は周知の事実らしい。こちらを殺す気はあってもあまり積極的に攻めてこないのは精霊術師の弱点を見抜いた上でわざと手を抜いて戦っていたのね。
それともやはり戦いを楽しんでるだけなのかもしれないわね。
―――いずれにせよ、精霊術師を甘く見ていることだけは確かね。けど、その奢り昂った油断が命取りよっ。
「そちらはそろそろ限界のようね。精霊の加護を受けられない精霊術師では勝ち目がないんじゃなくて……―――《がちっ》―――っ!」
「あなたこそ本気になった精霊術師の恐ろしさを舐めてかからないことね」
「そろそろ幕引きといこうか。同じ演目も、見飽きたでしょ?」
「―――足が・・・っ」
漸く気づいたようね。精霊術師の戦闘は攻防一体なだけじゃない。思考や計算も単純に2倍こなせることにこそ真価がある。
敵はわたし達の攻撃をかわしたと思って油断し、わたし達が床に落とした氷には完全に無頓着だった――――――案の定、敵は無警戒に罠にかかり、右足が凍らされ完全に動きを封じることに成功した。
一見、煩雑にばら蒔いたように見せかけてこっそり罠を張り巡らすことくらい精霊術師には造作もないのよ。
「無目的にばらまいてたわけじゃあニャいんだよ?」
「してやられたってことかしら?」
「――――オヤスミっ!《キュォオオオオ…ッ》」
カァアッ!! ビュドゴォォオオオオオオオオオオオオオオオ……ッッッッ!!!!
いくら人間離れした運動能力があっても足を封じられた状態ではかわせない。
パックが残されたマナを全て費やしてわたしの魔法に上乗せして止めの一撃を放つ。それは蒼白い光を放ち巨大な翠色の氷の塊と化して敵を一気に飲み込んでいく。
足を封じられた今の状態でこれはかわせない―――そう確信していた。
「《スタッ!》―――んふふふ♪」
「・・・嘘だろ、アレもよけるのかよっ!?」
完全に捉えたと思っていたのに間一髪氷が命中する寸前のところで軽やかにかわした。金髪の子は驚いているみたいだけどわたしはすぐにその理由がわかった。
「あの人、自分の足を・・・」
「・・・女の子なんだから、そういうのはボク、感心しないなぁ」
「早まって切り落とすところだったのだけれど。危いところだったわ」
「それだけでも相当、痛いだろうに」
「ええ。でも、この痛み・・・素敵だわ。生きてるって実感できるもの。生きることのありがたみがわいてくるわ」
枷を外せないなら枷を繋いでる他の箇所を切り離せばいい。それは理に叶ってはいるけれど。あの瞬時にそんな判断が下せるとは思っても見なかったわ―――まさか“足の裏”だけとはいえ躊躇いなく自分の足を削ぎ落とすなんて・・・。
「・・・パック。まだいける?」
「ごめん。すごく眠い・・・今ので完全に終わらせるつもりだったから。マナ切れで消えちゃう」
「あとはこっちで何とかするわ。あなたはもう休んでて。ありがとうね」
「何かあればオドを絞り出してでも僕を呼び出すんだよ。君にもしものことがあれば僕は契約に従う―――――《パキュゥウウン…ッ》」
「あ~ら、いなくなってしまうの?それは残念ね―――《バギッ、ジュウウウゥウ…》―――せっかく楽しかったのだけれど。これであなたももうお終舞いね」
パックは光を散らすように消失し、完全に一対一の状況になってしまった。
黒装束の女は床に残っていた氷をもぎ取ると足の裏に貼り付ける。それだけでもかなり痛いはずなのに痛がるどころか恍惚とした笑みを浮かべている。
そのまま氷の靴を床にうちならして履き心地を確かめ始めた。ケガの影響で動きが鈍ることを期待していたけどそれも無駄みたい。
「《がつんっ、がつんっ》・・・ちょっと動きづらいけど、これで十分ね」
「―――っ《パンッ!》」
「あなた一人でわたしの死闘《ダンス》についてこれるかしら?《ぎゅんっ!》」
ガギィイインッッ! ガギガギィイイィイインッッ!! ギィイイイインッッ!
予想はしていたけどパックがいなくなった途端に一気に形勢が逆転してしまった。相手のあまりの猛攻にこっちは防御だけで精一杯。しかも、敵は体力が無尽蔵で攻撃の手が緩むことがない。
―――反撃できないっ。このままだとやられちゃう。せめて、誰かあともう一人攻撃ないし時間稼ぎをしてくれる人さえいれば・・・っ!
「まずいことになったぞいっ。あのエルフの嬢ちゃんまでやられてしもうたら・・・ううっ、ぐぅううっ!」
「っ・・・ロム爺!?くっそぉ、こうしちゃいらんねえ・・・あたしは行くぜ―――《ビュンッ!!》」
「―――っ!?・・・いかんっ!フェルト、下がれぇ!!」
ギュンッ!! ゴォオオオオオ・・・ッッ!!!!
そんなわたしの声が通じたのか。いえ、あの重傷のお爺さんを見て焦ったのか、あの金髪の女の子が飛び出してきた。あの風の壁を突き破るような“速さ”―――もしかして、あの子、『風の加護』を受けてるんじゃあ?
「よくもロム爺を―――っ!」
「『風の加護』・・・素敵♪世界に愛されているのね。あなた」
「だぁああああ―――っ!!」
「―――妬ましいわ」
ガジィイイッ!!
「っ・・・ぁカ・・・っっ!?」
風の加護を受けたあの子の速さもあっさり見切って片手であの子の首を真正面から掴んで締め上げる。やっぱり肉弾戦じゃあ到底勝ち目がない。
「っ・・・あなたの相手はわたしよっ!《ドキュンッドキュンッドキュンッドキュンッ!!》」
ガギギィイィイインッッ!! ガギィイインッッ! ガキュイイィイインッッ!!
「―――っ!?」
「ん~・・・あなたの攻撃も飽きてきちゃったわ」
至近距離であの子に気をとられてる隙に氷弾を放ったのに完璧に防がれた。この女に手の内を読まれてる。わたしの攻撃は全部見切られている。
「その程度の力でわたしに刃向かってくるなんて―――悪い子《ギリギリギリッッ》」
「ぁ゛ぐぅっ!!」
「その子を放しなさい《パンッ!》」
「あら、動かない方がいいんじゃないかしら。妙なことをしたらこの子に当たるわよ」
「―――っ」
そう言って片手で掴み上げた金髪の子を盾にしてくる女。自分が圧倒的有利な状況なのに人質まで使ってくるなんて。
けど、それに逆上してあの片腕を切り落とされた巨人族のお爺さんが飛び出してしまった。
「フェルトを離せぇ!小娘がぁ―――っ!!」
「ダメよっ!行っちゃダメ!」
「ろ、ム・・・爺っ」
「あら~、まだ動く元気が残っていたのね。嬉しいわ―――片腕だけじゃあ物足りなかったのかしら?」
ぐおっ ブゥウウン……ッ!!
破れかぶれで降り下ろした棍棒はあっさりと避けられバランスを崩した老人は完全に無防備状態になってしまった。そして、回り込んだあの女が嬉々としてナイフを構えた。
「まず最初はあなたからね♪」
「―――っ!?」
「やめっ・・・ろ」
「くっ《パァンッ》」
お爺さんが体勢を立て直そうとする。少女が首を掴まれたままお爺さんに手を伸ばす。わたしは苦し紛れに魔法を発動しようとする。
けど、それよりも早く女の手に持ったナイフがお爺さんの首筋めがけて降り下ろされた――――――その瞬間だった。
フワッ ぐいいいいぃぃ……っ!!
「―――くおっ!?」
「《スカッ!》・・・“浮いた”?」
突然、お爺さんの体が“浮き上がった”。不自然に・・・まるで糸か何かで釣り上げられたかのように・・・そのまま凄い勢いで真横に引っ張られ、敵のナイフが空を切った。
ドシュゥウウ…ッ!!
「・・・痛っっ!?」
「っ―――ぅあ・・・《ドサァッ》」
それとほぼ同時に小さい何かが凄い速さで飛来して少女の首を締め上げるあの女の手に小さい何かが突き刺さった。
「カっ・・・えほっえふっ・・・けふっ!」
「っ、これは・・・“ガラス”?」
女の手に深々と突き刺さっていたのは鋭く尖ったガラス片だった。それを見たわたしはすぐに誰の仕業か理解した。
「《ザッ》―――不幸中の幸いってヤツだ、じっちゃんには強運が付いてるらしいな。じっちゃんはよぉ~~、“右腕を切断された”のが“幸運”だったぜぇ」
そこには間一髪命拾いしたお爺さんと――――――全身の至るところから血が吹き出しているのに不敵に笑って勇ましく立っている“あの子”がいた。
次回、漸くクレイジーなあのスタンドが見れる!・・・はず!