DU:ゼロからなおす異世界生活   作:東雲雄輔

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感想を記入していただいた方や投票を指定ただいた方には心から感謝します。一人でもこの駄文を読んでいただいている内は頑張りたいと思います。


第18話:この素晴らしい歴史に爆発を

 

 

 

 

 

 

「《カリカリ、カリカリカリカリ…コトッ》―――んっ!んん~~~っ・・・もうこんな時間なんだ。少し遅くまでやり過ぎちゃったかしら」

 

 

 

 

 

今日は少し勉強に集中しすぎちゃったみたい。いつもはもう少し早い時間に集中力が自然ととぎれるから時計を気にするのを忘れてしまっていた。

 

王選に向けての勉強はいくらやってもやり足りない。短期間でわたしが身に付けなくてはならない知識はあまりにも膨大すぎて時間はいくらあっても足りない。

 

それもそのはず。わたしは王選に勝つために勉強しているのではなく『王になった後』に必要な王政や法律の知識を学ばなくてはならないからだ。

 

 

 

 

 

「アキラ・・・ちゃんとご飯食べてるのかな」

 

 

 

 

 

――――――アキラがこの屋敷を離れてから3日が経った。

 

 

 

その間、わたしの周りは何の事件も騒動もなく平穏そのものだった。

 

 

王候補であるわたしは、その宿命を背負ってからずっと命を狙われている。そんなことはわかりきっていたし覚悟だってできていた。

 

だけど、ほんの数日前に実際にその隠れた悪意の一端を間近で見たとき・・・――――――正直に言って、わたしは怖かった。命を失うことも・・・自分の背負った宿命に負けることも・・・自分が生きてきた証を立てることなく孤独に終わることも。

 

 

何よりも恐ろしかった。自分を殺したいと思っている人間がいることとその悪意を形をもって向けられることが。そんな悪意に負けそうになっている自分がとても弱くてちっぽけに思えた。今でも思い出すと体が微かに震えてくる。

 

 

――――――それなのに・・・どうしてあの時はあんなに『勇気』がわいてきたのだろう。

 

 

こんなに怖くて恐ろしいものと向き合っていたのに怯むどころか内から焔が湧き出るように『勇気』を抱くことができた。

 

 

 

 

『―――ハァ・・・ハァ・・・バーロー。ヒロインのピンチに呑気に寝てるヒーローがどこにいるってんだよ。俺が倒れるのはあのビッチをぶちのめした後だぜぇ』

 

 

「・・・アキラ」

 

 

 

 

 

―――そうだ。あの時、わたしが勇気を持てたのは自分よりもずっと傷ついている子がいたからだ。あの子の行動がわたしに勇気を灯してくれたんだ。

 

 

わたしは、あの時、あの子に・・・――――――“凄く憧れた”。

 

 

誰かを護るために自分の体を盾にして戦う厳然としたその姿に。どんな恐怖や力にも屈することなく毅然と立ち向かう姿に。出会ったばかりの他人のために平然と命を懸ける燦然とした姿に――――――わたしは憧れた。

 

 

わたしもあの子のようになりたい。あの子のように燦然と耀く太陽のような黄金の精神を持つ『王』になりたい。

 

 

そうなれば、わたしも変われるだろうか・・・わたしも皆から・・・

 

 

 

 

 

「ラムもレムも・・・アキラは元気にしてるって聞いていたけど―――アキラはいつも無茶してばっかりだからちょっと目を離すと何をするかわからないもんね」

 

 

 

 

 

夜の闇で真っ暗になった窓の外を眺めてわたしはあることを思い付いた。

 

それはあまりにもわたしらしくない突拍子もないことだったけど、それを行動に移すことが一番“わたしらしく”なれる第一歩だと思った。

 

ある日、突然、童話のように現れたあの男の子がわたしの中の何かを変えてくれることを期待していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――アーラム村新居にて四日目。

 

 

 

 

 

「マダオの兄ちゃんっ!起きてよ、ほらっ!みんな、ラジーオ体操待ってるよ」

「そうだよ。早くしないとみんな待ちくたびれちゃうよ」

 

 

「―――やかましいッ!うっおとしいぜッ!!おまえらッ!」

 

 

 

 

 

早朝、俺はガキどもにラジオ体操をせがまれ強引にたたき起こされた。鍵はかけていたはずなんだが・・・どうやらこの家には俺が知らないガキどもだけが知っている侵入経路があるらしい。

 

 

 

 

 

「早く行こうよ!みんな、ラジーオ体操楽しみにしてるんだよ。兄ちゃんが来ないと始まんないよ」

 

「―――グレート・・・俺はこれから毎朝、こんな早朝に起こされなきゃなんねえのかよ」

 

「それが終わったらいっしょに遊ぼうねっ!―――そうだ!他にもっと道具出してよ。まだまだ面白いのいっぱいあるんでしょ」

 

「しょうがないな、の●太君は・・・―――って、なるかぁぁぁあーーーーーーっっ!!俺はド●えもんじゃあねえんだぞっ。何で金にもならねえのに夏休みの工作しなくちゃなんないんだよ」

 

「・・・だって、わたしだけまだ『竹トンボ』作ってもらってないもん《しゅん》」

 

「~~~~っ・・・ぬっ、ぐぅうう!」

 

 

 

 

 

途端に悲しそうに顔をうつむかせる少女A(名前は聞いたんだけどいまいち名前と顔が一致しない)。

 

確かに昨日、俺はガキどものご機嫌取りのために竹トンボを作って振る舞いはしたが。残り一人分だけは面倒くさがって作らなかった。

 

 

 

 

 

「・・・ったくよぉ。今度来るときまでにはちゃんと作っといてやっから、そんな泣きそうな顔はやめろ」

 

「ほんとっ?」

 

「ああ。そんな大したもんは作れねえがよ。お前らが遊べるくらいの小道具ぐらいだったらいくらでも用意してやるよ」

 

「うんっ!」

 

 

「兄ちゃん、まだ~~?」

 

 

「へーへー。今、行くぜ・・・ったく、こっちの世界来てからタダ働きばっかりだぜ」

 

 

 

 

 

仕方がないので俺はガキどもにせがまれるがまま寝起きで重い体を起こして昨日みんなで集まっていた広場に向かった。

 

 

 

 

 

ガヤガヤ ガヤガヤ

 

 

「おおっ!来た来た」

「兄ちゃん、まだ始まらないのかい?その・・・『ラジーオ体操』ってのはよぉ」

「フォッフォッフォッ、わしらはいつでも準備できとるぞい」

 

 

「―――グレート・・・朝っぱらから元気だよなぁ。どいつもこいつも」

 

 

 

 

 

何故かこんな早朝であるにも関わらず大勢の村人が多数押し掛けていやがる―――そんなに気に入ったか、ラジオ体操が?この村の今年の流行語大賞は『ラジオ体操』になっちまうのかよ。

 

 

―――つーか、何で俺は自分の明日さえも見えない状況にも関わらずガキどもの面倒を見なくちゃなんねえんだ。村人どもはラジオ体操を楽しむばかりで全然俺に何も恵んじゃあくれねえしよぉ~。

 

 

朝から嫌になるぜ。まったく・・・。

 

 

 

 

 

「―――ハァーーー・・・ラジオ体操第二・・・」

 

 

「「「「「「「テンション、低っ!?」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――『村に行きたい』・・・ですか?」

 

「ええ、そうよ。ロズワールが治めている土地がどんなところかちゃんと見ておきたくて」

 

 

 

 

 

朝食が終わり、日課を済ませ、王政の勉強の区切りがついたところでメイドの仕事に精を出しているレムを捕まえてお願いしてみた。

 

―――ラムでも良かったんだけど。ラムは先日、わたしが刺客に襲われた一件以降、わたしが外出することを好ましく思っていない様子が見受けられるから頼みづらかった。

 

あの時、護衛として同行していたラムはわたしが襲われたのは途中ではぐれた自分の責任だと思っているから。もちろん、わたしはラムのせいだなんて思っていないけど・・・ラムもあれで責任感が強い子だから。

 

 

 

 

 

「レムは別に構いませんが・・・エミリア様はよろしいのですか?」

 

「よろしいのですかって何が?」

 

「いえ。差し出がましいことですが・・・エミリア様は命を狙われたばかりなのに村に行きたいだなんておっしゃられるものですから」

 

「大丈夫よ。ここはロズワールの領地の中なんだし、もしもの時はパックだっているから何の心配もないわ」

 

「・・・ですが」

 

 

 

 

 

レムは基本的にお願いしたことはいつも快く引き受けてくれるけど今日は様子が違った。わたしが命の危機に晒されたことを気にしているようね。

 

 

 

 

 

「レムは昨日村での買い出しを済ませたばかりですので使用人として特に村に赴く用事もございません」

 

「え・・・そうなの?」

 

「ハイ。ですからエミリア様を村にお連れすることは出来ません」

 

「あっ、そ・・・そう。な、なら仕方ないわね・・・村に行くのは次の機会にしておくわ」

 

 

 

 

 

屋敷の食材の買い出しでレムに同行させてもらうつもりだったのにレムがいく用事がないというのであれば仕方ないわね。ちょうどいい口実だと思ったのに・・・ガッカリ。

 

 

 

 

 

「ですが・・・昨日、アキラ君の家に昼食を届けた時にうっかり昼食を入れていたバスケットを“忘れて”来てしまっていたのを今思い出しました。レムはこれからそれを取りに行こうと思います」

 

「っ・・・へ、へえ~」

 

「差し支えなければエミリア様にご同行いただけるとありがたいです。レムはアキラ君のことを少し苦手としておりますので」

 

「アキラのことが苦手って・・・もしかしてアキラがレムに何か悪さをしたの?」

 

「いいえ。アキラ君はレムを常に尊敬の眼差しで見つめてきております。曰く、アキラ君にとって料理が得意なレムは敬意に値するとのことで・・・レムのことを変に持ち上げてくるので苦手なだけです。アキラ君が悪さをしたわけではありません」

 

「ふ~ん・・・料理か」

 

 

 

 

 

そう言えば、あの子はこの屋敷に来て最初レムの用意した食事を一口食べただけで目を輝かせていたっけ。それ以降、ずっとレムのことを『レムさん』って呼んでいたからレムが苦手意識を持っちゃったみたいね。

 

―――レムはこの屋敷に来てから使用人としてずっと働いていたから『さん』付けで呼ばれることが落ち着かないのね。

 

 

 

 

 

「ねえ、レム。アキラはちゃんとご飯食べてる?料理とかちゃんと自分でできてる?」

 

「昨日、話していた限りでは『安定した収入を得られるまで節食する』と話していました。アキラ君の料理の腕前についてはレムはわからないと回答します」

 

「やっぱり、そんなことだろうと思ったわ。まったく、もう・・・アキラってば世話が焼けるんだから」

 

「エミリア様?」

 

 

 

 

 

レムの話によるとアキラはまだまともに自活できておらず食事に窮しているようだ。男の子だから意地を張りたい気持ちもわかるけどそれで体を壊しちゃあ元も子もないわよ。

 

 

 

 

 

「レム。ちょっとお願いしたいことがあるんだけど」

 

「はい。何でしょうか?」

 

「またお弁当作ってもらってもいいかな。意地っ張りな困った子にご飯を食べさせてあげたいから」

 

「・・・かしこまりました」

 

 

 

 

 

わたしがいくら何かを施そうとしてもアキラは絶対に受け取ってくれない。お金を恵んだところでアキラはきっとそれを受け取らないだろう。でも、レムの作るご飯が大好きなアキラなら・・・きっとそれが一番喜ぶ。

 

 

―――でも、それはそれで何だかすごく納得がいかない。わたしからのお礼は受け取らないくせにレムのお弁当だけは受け取って・・・

 

それに引き換えわたしは・・・

 

 

 

『―――ラジオ・JOJO体操ゥ・第一ィイイイッッ!!』

 

 

 

凄くしんどいヘンテコリンな運動をさせられて・・・

 

 

 

『まあ、この体操を作った人の紹介文を見ると―――『運動不足の体でこの体操を実行すると、高確率で体のどこかがグキッとなります。本当に気をつけてください』と書いてあった』

 

 

 

すごくぞんざいに扱われて・・・

 

 

 

『――――――さすがエミリア!オレ達に出来ないことを平然とやってのけるッ。そこにシビれる!憧れるゥッ!』

 

 

 

ゲラゲラ笑い者にされて・・・

 

 

 

―――あれ?なんか思い返すとすごく腹が立つような憎たらしいような。

 

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴ…ッ

 

 

「どうなされました、エミリア様?」

 

「なにが?」

 

「いいえ・・・きっとレムの思い違いです―――エミリア様から今だかつて感じたことのない『バリバリ裂けるドス黒いクレバス』のような身震いする空気を感じたなんて」

 

 

 

 

 

レムはわたしを見てなにか驚いているようだったけど。すぐにいつもの無表情なレムに戻った――――――『どす黒いクレバス』って何のことかしら?

 

 

 

 

 

「それじゃあお願いね、レム。わたしももう少ししたら手伝いにいくから」

 

「いえ。それには及びません。ロズワール様やエミリア様の食事でしたら味と栄養面を考慮した最高のものをご用意いたしますが、食べるのはアキラ君ですので」

 

「そうハッキリと手抜き宣言されると何て言っていいかわからないかな」

 

 

 

 

 

レムとの約束を取り付けたわたしはその準備をすべく今日予定していた分の勉強を前もって片付けるべく自室に向かった。

 

―――その時、廊下の陰からこちらを覗き込んでいる人がいたことには気づかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――へぇ~え、あのエミリア様がね。よっぽど彼のことが気に入ったのかぁな」

 

「はい。年の近い男子とまともに接したことがないエミリア様はあの男の奇抜な言動がなにかと気にかかるようです」

 

「んまぁ~あ、エミリア様には男女の恋愛感情は理解できないだろうしねぇ~え。育った環境もあるんだろうけどエミリア様ご自身がそういうのには疎いご様子だしね~え」

 

 

 

 

 

自室でラムから報告を受けたロズワールは特に動揺した様子もなくラムの報告にうなずいていた。本来であればここは多少なりとも危機感を抱くべきではとラムは疑問を浮かべる。

 

 

 

 

 

「・・・よろしいのですか?先日、エミリア様を襲った腸狩りも未だ捕まったという話は聞いておりません。王選前に敵がどのような刺客を差し向けてくるか」

 

「もぉ~ちろん。だぁけどぉ~・・・いつ襲ってくるかわからない刺客に怯えて閉じ籠ってしまうような器だったらそれこそ王の資格はないね~ぇ。もし仮にエミリア様が王になられたら、それこそ~敵は今よりも遥かに数を増すだろうからね」

 

「・・・ですが」

 

 

 

 

ロズワールの言うことはもっともだ。しかし、だからといって警戒を怠っていい理由にはならない。一度、命を狙われた者はいつどこにいても“安全”とはいえない。

 

 

 

 

 

「エミリア様よりも気がかりはやはり彼の方だね~え―――――ラムから見て、ジュウジョウ・アキラ君はいかがかな。間者の可能性はあると見ているかな?」

 

「結論から言って、その芽はかなり弱いと思います」

 

「ふぅむ、ず~いぶん、断言するんだあ~ね。理由を聞いてもいいかな」

 

「間者にしてはあまりにも粗野で隙が多すぎます。ツノがあった頃のわたしであれば楽に10回は首をはねることが出来ます」

 

「んま~あ、ツノがあった頃のラムであればそれも容易だろうねえ~え。鬼化したラムを止められるものはかの聖騎士くらいなものだろうね」

 

「・・・第一、取り入ろうとするにも態度が悪すぎます。お手伝いに来たラムに対する言動が雑でひどく不快です。レムには敬意を示しているのにラムには――――――」

 

 

 

 

 

本音が入り交じったあまりにも正直な言葉が口をついて出てきてハッと気づいて口ごもる。しかし、そのラムの様子を見てロズワールは猫のように目を細める。

 

 

 

 

 

「なあ~るほど。その報告を聞いただけでだいたいわかったよ。間者かどうかはわからないけど、少なくともなかなかの人たらしであることだけは確かみたいだぁ~ね」

 

「違います。ラムもレムもあんな男・・・好みじゃありません。エミリア様の命の恩人だと聞いてはおりましたが、あのような俗物だと知って心底ガッカリしました」

 

「そうかあ~ね。とてもガッカリしたようには見えないがぁ~ね」

 

「・・・ロズワール様、ご冗談が過ぎます」

 

「そう言わずにさ~あ。これからもちょくちょく彼の様子を見てあげて欲しいんだ~がね」

 

 

 

 

 

ロズワールからそう命ぜられたラムは少し驚いた様子だった。ロズワールは変わり者として有名であるが、何故、あそこまであの得たいの知れない余所者に固執するのかがわからなかった。

 

 

 

 

 

「ロズワール様、何故、あのようなものにそこまで・・・間者の可能性を疑っているのであれば」

 

「それもないわけではないけどね~え。エミリア様のお話を聞いたときに彼の持つ能力《ちから》に少し興味を惹かれてね」

 

「腸狩りを退けたという『破壊されたものをなおす』という能力のことですか―――・・・単なる回復魔法や復元魔法ではないのですか?」

 

「復元魔法は使い手が少ないし~ね。回復魔法だとすると『自分の怪我ははなおせない』という制約がどうも腑に落ちないね~え」

 

 

 

 

 

ラムもその話にはもちろん聞き覚えがあった。王都で合流したエミリアから事情を聞いたときに彼の持つ特異性については詳細に聞き及んでいた。

 

今までのことでジュウジョウ・アキラは普通でないことは何となく察していたけど、ロズワールが興味を引かれるほどの何かがあるとは到底思えなかった。

 

 

 

 

 

「ラムも聞いたことないかい。『振るう暴力の全てが治癒行為になる』という――――――“魔女”の存在を」

 

「―――っ・・・ロズワール様、まさかそれはっ!」

 

「アハァ~ア、無論、彼は男性だからね~え。そんなはずはないとわかってはいるんだけども。もしかしたら彼は何かしらの加護を受けているのかもしれない―――そう。『魔女の加護』を」

 

「・・・っ」

 

 

 

 

 

途端にラムの顔が悲痛なものとなる。彼女にとってそれは振りきったはずの過去だ。しかし、彼女の“心”と“額”にはあのときの忌まわしい記憶がハッキリと消えない傷跡となって残っているのだ。

 

―――『魔女』。この単語はラムとレムの双子の姉妹にとって口にするだけでもおぞましい禁忌《タブー》なのだ。

 

 

 

 

 

「思い出させてしまってすまなかったね。でも、わかるだろ。だからこそ確かめなくてはならないのさ。彼が何者なのか・・・彼が本当にエミリア様や我々にとって仇なす外敵なのかどうか」

 

「・・・・・・。」

 

「彼の経過を注意深く監察しなくてはならないね。少なくとも彼の正体と目的がハッキリするまではね」

 

 

 

 

そう語るロズワールの横顔はいつになく神妙なものであった。窓から見下ろす屋敷の中庭にはジュウジョウ・アキラに持っていくだろう差し入れを抱えたレムとフードを被ったエミリアの姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――アーラム村の外れにて。

 

 

 

 

「スゥーーー・・・フゥーーー・・・――――――『クレイジー・ダイヤモンド』!《ドンッ!!》」

 

 

バキュンッ!! バキュンッ!! バキュンッ!! バキュンッ!! バキュンッ!!

 

 

ガスンッ! ドシュッ!! バギッ! トジュッ!! ズガッ!!

 

 

「「「「「「おおっ、カッピョイイーーーっ!!」」」」」」

 

「やれやれ・・・ありがとよ」

 

 

 

 

木に張り付けた即席の的めがけて指弾で小石を連射するが、二発的の中心から外してしまった。今の俺の実力では命中率6割ぐらいってところか。

 

使っている小石の形状や大きさにバラツキがあるせいでどうにも命中率が安定しないんだぜ。この世界にはベアリングやパチンコ玉なんてねえし小さい鉄球の代用になるものがないから仕方がないがよ~。

 

 

 

 

 

「グレート。射程距離は20メートル・・・いや、15メートルが限界ってところか。俺の命中精度も考えると10メートル以内には近づきたいところだな」

 

 

「ねえ、兄ちゃん。そんなことして何すんの?」

「今のどうやったのか、教えてよ!」

「オレもやりたいっ!マダオの兄ちゃんっ、今のやり方教えてよ!」

 

 

「だからマダオじゃあねえって言ってるだろ!それにこれは遊びじゃあないんだぜ―――――俺はこれから森に『狩り《ハンティング》』に行くっ」

 

 

 

 

 

そう。安定した収入が得られない以上、最低限、食い扶持を確保する方法がないか考えた結果『自給自足』という結論に至った。

 

勿論、食べられる草やキノコなどを採取する意味ではない。食べられそうな野性動物を狩りに行くんだぜ。

 

 

 

 

 

「森にはいるの?」

「ダメだよ!森はあぶないってママが言ってた」

「マダオの兄ちゃんが入ったらあっという間に魔獣にやられちゃうよ」

「それに魔獣なんて食べられるの?」

 

「・・・狩るのは獣じゃないぜ。主なターゲットは野鳥や野うさぎだ。勿論、狩れるようであれば大物を狩たいところだがよぉ~。血抜きの手間を考えるとあまりやりたくないのが本音だぜ」

 

 

 

 

 

基本的に鳥類では毒を持っているものはほとんどいない。というか俺の知る限りではパプアニューギニアに生息する何種類かしかいない―――大抵の鳥は食べても安全なのだ。

 

野鳥や野うさぎであれば射程距離内に入りさえすれスタンドの指弾で仕留められるだろう。

 

―――欲を言えば鹿や猪を捕まえられたらいいけどよ。『魔獣』が徘徊しているって時点でそういう大型生物が生息しているかどうか微妙なところだぜぇ。

 

『魔獣』を捕まえたところで食えるかどうかわからねえしな。

 

 

 

 

 

「夕方までには戻るつもりだけどよぉ~。俺は今日は食い扶持を稼がなくちゃあならねえからここでお前らと遊んでいられないんだぜ。お前らもここにたむろってないでさっさと帰れ。親御さんが心配している」

 

「母ちゃんには『マダオの家に行く』って言っといたから大丈夫っ!」

「ボクもー!」

「わたしも夕方までラジーオ体操の兄ちゃんの家で遊んでくるって言ってきた!」

 

「だから、いい加減『マダオ』呼ばわりをやめろって!何で親公認でここがガキどもの溜まり場になってるんだよっ!ここは幼稚園か!?」

 

 

 

 

 

そもそもこんな得たいの知れない男の家に遊びに行く許可を親が出すんじゃあねえぜ――――――言っている俺自身悲しくなってくるけどよぉ。

 

 

 

 

 

「チッ、とにかく今日はもうお開きだ―――帰れ帰れ。俺は忙しいんだ」

 

「「「「「「はーい」」」」」」

 

 

 

 

 

少し愚図っていたものの俺が遊ぶ気がないということがわかったのか6人とも『ちぇ』だの『つまんねー』だの文句を垂れて帰っていった。

 

―――ガキどもがついてくる気配がないことを確認して俺は荷物を背負い森に向き直った。

 

 

 

 

 

「用心してかからねえとな。クレイジーダイヤモンドがあるとはいえ・・・帰れなくなったらお陀仏だぜ」

 

 

 

 

 

森の中には様々な危険が付き物だ。毒性の生き物や植物、猛獣、害獣、そもそも森事態が人を迷わせる魔境だ。獲物を追うのに夢中になって深追いすればマジで迷う可能性もある。

 

帰り道を確保するためにも村からあまり離れすぎない範囲で探索をしなくちゃあよ~。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――探索すること一時間。

 

 

 

 

 

ガサガサ ガサガサ ガサガサ

 

 

「どうなってんだよ・・・鳥やウサギどころか獣一匹見当たりゃあしないじゃねえか。魔獣ってヤツも出てくる気配ないしよぉ~・・・この森にはまともな動物すら生息してないってのかよ」 

 

 

 

 

「――――――ひっく・・・痛ぁ・・・~~~っ」

 

 

 

 

「・・・グレート。森の中だっていうのに泣き声が聞こえやがる――――――助けを求める乙女の声がよぉ」

 

 

 

 

探索開始から一時間半くらいして最初に聞こえたのは獣の鳴き声でも足音でもなく女の子の泣き声だった。俺のような物好きの他にこんな森の中に入っている女の子(←ここ重要)がいること事態驚きだぜ。

 

微かに聞こえてくるその声のする方に向かって歩いていくとだんだん声が近くなってきた。

 

 

 

 

 

バサアッ

 

 

「・・・っ!?《びくっ》」

 

 

「―――――グレート・・・ここに来ても幼女かよ。俺が主役のラノベはフラグの対象年齢が低すぎるんだぜ」

 

 

 

 

 

エミリアやレムさんみてぇな美少女には箸にも棒にもかからねえってのに・・・年齢の幼いガキどもにばかりなつかれるんたぜ。

 

冗談はさておきに蹲っていたのは青髪のお下げの可愛らしい少女だった。年齢はリュカやミルド達と同じくらいか?

 

―――見ると右足が青紫色に腫れている。足をくじいたのか・・・下手したら骨をやっているかも知れねえな。

 

 

 

 

 

「おい、大丈夫かよ。どうしてお前一人でこんなところにいるんだ?」

 

「あっ・・・《ふるふるふる》」

 

「お父さんやお母さんは近くにいねえのか?」

 

「・・・っ《ふるふるふる》」

 

「首を横に振ってばかりじゃあわかんねえって」

 

 

 

 

 

どうやら警戒されているらしい。確かにいきなり森の中で見慣れない格好をしたやつが現れたらビックリするわなぁ。

 

 

 

 

 

「・・・仕方がねえ。とりあえずアーラム村の方に連れていくぜ。お前の両親ともそこで会えるかも知れねえからな」

 

「っ・・・いや」

 

「意地を張るなって。その足じゃあどうせ動けやしねえだろ」

 

「う・・・~~~~っ!」

 

「痛ぇんだろ?俺が怖いのはわかるけどよぉ・・・村に帰るまでの間くらい俺を信用したっていいんじゃねえのか。どうせこのまま待ってるだけなのも辛いだけだぜ――――――ほら、捕まりな《スッ》」

 

「あ・・・うう・・・」

 

「ほら、早く行くぜ・・・パパとママが心配してるッスよ」

 

「~~~~~っ《ぎゅっ》」

 

「グレート。ほいじゃま・・・一緒に帰るとすっか《ズキュゥゥウウン…》」

 

「・・・うん」

 

 

 

 

 

少女は何か戸惑っていたが、やがて俺が差し出した手を静かににぎった。

 

 

―――その際、握った少女の手を通じて少女の挫いた足をクレイジーダイヤモンドでこっそり治しておいた。

 

 

時間も大分経過していたこともあって俺は直ぐ様この子を村に帰すべく帰り道を急いだ。

 

やれやれ、ハンティングの成果は鳥や兎でもなく『幼女』と来たもんだ。せめてエミリアじゃあねえけど貴族のお嬢様との出会い(パート2)を期待したかったんだぜ。

 

 

 

 

 

「ほれ、日が暮れる前に森を出るぞ。早くしねえと怖~い魔物さんに襲われ――――――」

 

 

ヒュオッ……ザグシュッッ!!

 

 

「・・・ちまったなぁ~~~、オイ《バタンッ!》」

 

「お、お兄ちゃん、大丈夫ーーーっ!?」

 

 

 

 

 

側頭部に深々と突き刺さったエメラルドスプラッシュと共に棒立ちのまま真横に倒れた。

 

 

 

 

 

ガサガサ バサァアッ

 

 

「―――あれ?・・・あ、アキラ!?何でアキラがここにいるの!?」

 

「―――致命傷ですね。僅かなズレもなく深々と急所に突き刺さっています。文句のつけようがない実に無駄のない一撃命奪です。流石です、エミリア様。流石は将来のルグニカを背負って立つお方です」

 

「え?ええ!?ち、違うわよっ!わたしはてっきり森の奥に女の子が連れ込まれそうになってると思ったから警告しようと撃ったらそれが頭に突き刺さって・・・ああ!?そんなこと言っている内にアキラの頭からドクドクと血が噴水みたいにっ!」

 

「―――凄まじい勢いで血だまりが出来ていますね。この出血量だと放置すれば五分ともたないことでしょう。いたいけな少女を拐かす誘拐犯にはお似合いの最後です。レムは一先ず少女を村まで保護することが第一優先ではないかと進言します」

 

「・・・そうねっ。そうしましょう!」

 

 

「《ガバッ!》―――って、なにちゃっかり誤魔化そうとしてんだ、ボケぇええーーーーっっ!!」

 

 

 

 

 

さらっと放置して立ち去ろうとしていたエミリアに怒声をあげた。頭からものすごい勢いで血が吹き出しているが知ったことではない。

 

 

 

 

 

「流石、アキラ君。腸狩りを退けたという武勇伝に恥じない不死身っぷりです」

 

「『流石』って誉めれば丸く収まると思ってませんかねっ!!武勇伝全然関係ないですよねっ!?不死身とか言いつつ見捨てようとしたこと誤魔化そうとしてましたよねっ!!」

 

「あ、アキラ・・・レムはアキラのことを心配していたのよ。ほら、お弁当だって作ってもらったし、アキラの家のお掃除だってしてくれるつもりだったし」

 

「心配してた人間の態度じゃねえだろっ!弁当だけじゃ誤魔化されねえよっ!だいたい『お掃除』って・・・それ、ただの『身辺整理』だろ!俺を始末した後、俺の遺産乗っ取るつもりだっただけだろっ!遺産なんて一銭たりとも持ってねえけどさ!」

 

「そんなに怒らないでアキラ。ほら、そんなに怒ってばかりいたら血圧上がっちゃうわよ」

 

「頭に血が昇りすぎてたちまちおつむが大噴火だよっ!現在進行形で血の雨が降ってるよ!《どくどくどくっ!》」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ったくよぉ~。お前のせいで偉い目にあったぜ」

 

「ごめんね、アキラ。あれだけ強いアキラのことだからきっと大丈夫かと思っちゃって」

 

「俺の強さをお前の免罪符にしてんじゃねえよっ!俺、死ぬよ!?割りと簡単に死ぬよっ!?お前が思うほど不死身じゃないことは身をもって証明済みだよ!」

 

 

 

 

 

あの後、エミリアの回復魔法を受けて森で保護したお下げの女の子も村に連れ帰った。結局、あの女の子がどこから来たのかあそこで何をしていたのかは聞けずじまいだったぜ。

 

 

 

 

「おう!兄ちゃん。明日もよろしくなっ」

 

「ああ・・・ってか、また明日も来るのかよ」

 

 

「兄ちゃん!ラジーオ体操楽しみにしてるぜ。寝坊すんなよ」

 

「やれやれだぜ・・・そもそも約束の時間とか決めていたつもりはないんだがよ」

 

 

「《ぬろん》・・・ケヘヘヘ、ええケツじゃのう」

 

「テメエは自重しろっ、ババア!次、やったら金とるからな!」

 

 

 

 

 

自宅へ向かう途中、ラジオ体操で知り合った村の連中がやたらと話しかけてきやがる。疲れてるときに知り合いに絡まれるのはどうにも面倒でしょうがねえぜ。

 

 

 

 

 

「―――アキラ・・・もうすっかり村の人気者なのね」

 

「『人気者』って言っていいのか、これ?すっかり都合よく村のガキどもの面倒を押し付けられて損な役回りにされてるぜぇ。ガキども預ける前によぉ・・・俺の養育費を払ってほしいもんだぜ」

 

「・・・そうか――――――やっぱりアキラはどこ行ってもアキラなのね」

 

 

 

 

 

猫耳フードの下でニッコリと嬉しそうに笑うエミリア。こいつは俺がマダオ呼ばわりされてることを知らねえからそんな呑気なことが言えるんだぜぇ。

 

 

 

 

 

「なんだ、そりゃあ?お前の屋敷出てからまだ数日しか経ってねえってのによぉ~」

 

「数日で村の人たちとこんなに打ち解けられたんだもの。アキラはやっぱり強いだけじゃあなかったってことね」

 

「さっきのいざこざさえなければ・・・その台詞も素直に受け止められたのによぉ~――――――ほら、着いたぜ。ここが俺の家だ。なかなかいいところだろ?」

 

「・・・・ここが?」

 

 

 

 

エミリアは俺の家を見上げてポカンとしている。というより―――俺の家に掲げた看板に注目している。

 

 

 

 

 

「ねえ、アキラ・・・あの看板って・・・」

 

「へへへ、自信作だぜぇ―――『万屋金剛』。俺が経営を始めた何でも屋稼業だ。もっとも、村の人たちには今一つ受けが悪くてよぉ。何か効果的な宣伝はないかと――――」

 

「え?・・・でも、あの看板―――『まるでダメな男・略して“マ・ダ・オ”の家』・・・って書いてあるけど」

 

「レムさーーーんっ!ちょっとレムさーーーんっ!!あんたのお姉様からとんでもない風評被害受けてるんですけど!俺、この期に及んであの不名誉なあだ名の由来を初めて知ったよ。つーか、あんたのうる星姉様のせいでもう取り返しのつかないところまで来ちゃってるよ!」

 

 

 

 

 

しかし、レムさんは俺の心の叫びもどこ吹く風。屋敷の庭のお掃除を黙々とやっていた。言ったところで姉様至上主義のレムさんに訴えたところで聞く耳持っちゃくれねえわな。

 

 

 

 

 

――――――4.959890139《カシャッ》

 

 

 

 

 

「エミリアさん・・・俺に字を教えてくれねえか。せめてまともな商売がやりたいんだぜ」

 

「え、ええ。それはもちろんいいんだけど・・・アキラ、大丈夫?」

 

「ああ。なんでかなぁ~・・・泪が止まらねえのはさぁ。この世界で一番の敵はメイドだと気づいたんだぜ」

 

 

 

 

 

――――――4.987696139《カシャッ》

 

 

 

 

 

「とりあえずよぉ~・・・せっかく家に来たんだ。茶くらい出すぜ。俺んちには茶菓子を買う余裕もないんだがよぉ」

 

「・・・アキラ、苦労してるのね。このままだと本当にのたれ死んじゃうかも」

 

「同情的な目で見てんじゃねえよっ!お前のエメラルドスプラッシュが刺さった頭がまだじくじく痛むんだぜっ!」

 

「それはちゃんと謝ったでしょ!アキラってば本当に根に持つタイプなのね」

 

「お前に言われたかねえよっ!あのエメラルドスプラッシュにはラジオJOJO体操の怨恨がこもっていたぞ!」

 

 

 

 

 

――――――5.097685412《カシャッ》

 

 

 

 

 

『時間軸変動率5パーセント以上ノ乖離ヲ確認―――『ANOTHER ONE BITE THE DUST』―――歴史ハ繰リ返ス』

 

 

 

カチッ ドグォゴゴゴォオオオオオオオオオオオオーーーーンッッ!!

 

 

 

その時―――世界が爆ぜた。歴史が壊れた。

 

 

 

 

 

―――運命と歴史を破壊する爆弾『バイツァダスト』との戦いの第2ラウンドの開幕だった。

 

 

 

 

 

 

 




筆者のギャグのセンスがどこから来ているのかだいたいお察しだと思います。『肩の力を抜いて読めるリゼロ』という当初の目標があらぬ方向に向かわないか不安です。
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