DU:ゼロからなおす異世界生活   作:東雲雄輔

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投票してくださった方ありがとうございます!お気に入りに追加してくださった方ありがとうございます!いつも、読んでいただいている方々にはつくづく感謝の言葉もありません。

予定していたよりも遅れてしまいましたが、ここからが二章の盛り上がりどころとなってきます。

果たして、菜月昴ではない『主人公』がこの先どのように行動していくのか。



第20話:非業な現実:真の後悔

 

 

―――ロズワール邸にて働き始めて二日目の朝。

 

 

 

 

 

「《ガチャッ》ういーっす、WAWAWA忘れ物~」

 

 

「っ・・・当たり前のように扉渡りを破ってくるようになってきやがったかしら《スッ》」

 

 

 

 

俺は軽快にベア様(←『ベアード様』は却下された)のいる禁書庫の扉を開けると中にいたベア様が不機嫌そうに俺を追い出そうと手を翳してきた。

 

 

 

 

「わぁーーーっ、待て待て待てっ、待ってくれ!今朝の朝飯で渡し忘れたデザートがあったんだってば!それを渡しに来ただけだって」

 

 

「必要ないかしら。ベティはもうお腹一杯なのよ」

 

 

「そんなこと言うなって。甘いものは別腹って言うじゃねえか。それに・・・ほら、アレだよ!手当てをしてくれたお礼ってことでよ。食ってくれよ、ベア様」

 

 

「むぅ!・・・いい加減、その不愉快な呼び方をやめるかしら」

 

 

「どう呼んだって同じように拒否するんだろうがよ。なら仕方ねーじゃん―――それにだ。本を読むときや勉強するときってーのは甘いものが必要だろ《コトッ》」

 

 

 

 

 

俺は差し入れで持ってきたデザートをそっとベア様の前のテーブルに添えた。ベア様はそれを怪訝な表情で眺めていた。

 

 

 

 

 

「何かしら、これ?・・・あのメイドが作ったものじゃないのよ」

 

「『プリン』だよ。俺の国で有名なデザートだぜ。しかも、焼いたリンガを豪華にトッピングしたんだ。『仁』って漫画を読んで作り方を覚えたんだぜ」

 

「《ぺらっ》―――ふんっ」

 

「味のことは心配すんなよ!今朝、ちゃんとみんなで味見してロズワールやエミリアも美味しいって好評を得てきたからさ」

 

「『毒味』の間違いじゃあないかしら?ベティはそんなもの興味ないのよ」

 

 

 

 

 

ベア様は興味なさそうにしてるけど。本に落とした目線が微かにチラチラとテーブルの上にあるプリンに向いてる。やっぱり、精霊だろうと何だろうと女の子である以上甘味の魅力には逆らえないんだぜ。

 

 

 

 

 

「なあ、ベア様ってよぉ・・・いつからここに住んでるんだ?」

 

 

「それを聞いたところでお前に何の関係があるのかしら。どうせお前の尺度で計れることじゃあないのよ」

 

 

「・・・確かにな。けど、ずっとここに閉じ籠ってばかりで外にもあんまり出ないんじゃあ退屈だろうと思ってよ。ちょびっと刺激が欲しいんじゃあねえかと思ってよ」

 

 

「余計なお世話なのよ。何でベティがお前なんかにそんな心配されなきゃならないかしら。だいたい、ベティは忙しいから・・・お前みたいなやつから余計な騒動を持ち込まれると迷惑かしら」

 

 

「・・・俺も人様に迷惑かけてぇわけじゃあねえよ。ただよ~、どうしても俺一人だとどうにもならねえことが多すぎてよぉ~。今もこうしてここを訪ねてきたって訳だ」

 

 

「―――やっと本題に入る気になったのかしら」

 

 

「・・・え?」

 

 

 

 

 

ベア様は眉間にシワを寄せて頬杖をついて不機嫌そうにこちらを睨んでいた。

 

 

 

 

 

「何かベティに言いたいことがあってこの部屋に来たくせに・・・なかなか言い出そうとしないものだから、これ以上口ごもるようだったら吹き飛ばしてやるところだったかしら」

 

 

「あっちゃ~・・・バレてたッスか」

 

 

「お前の浅はかな考えなどお見通しなのよ。こんなものでベティのご機嫌を取りに来た時点で怪しいったらないかしら」

 

 

「やっぱり、ただ者じゃねえな・・・ベア様はよ。俺はそんなに読みやすいかね」

 

 

 

 

 

曲がりなりにも精霊なのだ。俺ごときのちんけな腹芸などお見通しって訳か。そういやぁ・・・パックも『微かだけど心が読める』とか言っていたもんな。

 

 

 

 

 

「単刀直入に言うとよ。ベア様に頼みてぇことがあるんだぜ」

 

 

「出会ってばかりのベティに頼み事なんて・・・なんて厚かましいヤツなのかしら―――まあ、ベティに敬意を示すお前の態度に免じて話だけは聞いてやるのよ。何か言いたいことがあるなら言ってみるのよ」

 

 

「その前に確認したいんスけど・・・ベア様はこの禁書庫の主だからこの屋敷から離れられない。けどよぉ~、この屋敷にいる限りはかなり高位な魔法が使える―――違うッスか?」

 

 

「・・・あながち頭の出来は悪くないみたいなのよ。お前の言う通りなのよ。ベティは陰魔法を極めているから魔法の腕ならロズワールよりも上なのよ」

 

 

「それが聞きたかった。ちっとばかし協力して欲しいんスよ――――――これから数日以内に屋敷に何か異変が起きたら、この屋敷の人間を守って欲しいんだぜ」

 

 

「随分おかしなことを頼むヤツかしら・・・揉め事を持ち込まれるのはごめんなのよ」

 

 

「俺もこんなこと頼みづらいッスよ。でもよぉ~、何か起こってからじゃあ遅いんだぜ。もし仮に失敗したとしても最悪の事態だけは回避したい・・・腸狩りの時のこともある。次も全員無事で済むとは――――――」

 

 

とんっ…… ドグンッ! バギュォオオオオオンッッ

 

 

「ストレイツォォオオオオオっっ!?」

 

 

 

 

 

いきなり目の前に移動していたベア様から容赦なくマナを吸いとられて思わず膝をついた。

 

 

 

 

 

「な、何をするだぁぁぁあ!?ゆ゛る゛さ゛ん゛っ!!」

 

 

「思い詰めるのも大概にするかしら。お前が何に焦っているかは知らないけど・・・一人で空回りされてもそれこそいい結果にはならないのよ」

 

 

「は?・・・あ、いや、だから―――」

 

 

「ハアーーー・・・頭は悪くないくせになんて視野が狭いヤツかしら――――ベティにとってこの屋敷はなくてはならない場所なのよ。お前に言われずともベティのいるこの屋敷はベティが守るかしら」

 

 

「あっ・・・お、おう!サンキューな、ベア様!マジ助かるぜ。流石、伊達にドリルツンインテールしてねえぜ」

 

 

「意味がわからないのよ―――《スッ》―――んっ」

 

 

 

 

 

ベア様はいきなり意味深に俺に向けて掌を差し向けてきた。

 

 

 

 

 

「―――手を出すかしら」

 

 

「手?・・・マナを吸いとられるのは勘弁。この後も俺仕事があっから」

 

 

「いいから手を出すのよっ」

 

 

「お、おう!?」

 

 

ギュッ

 

 

 

 

 

ベア様は自分の掌と俺の掌を合わせて優しく握り込んだ。その手はあまりにも小さくて、その指はあまりにもか細くて・・・とても精霊とは思えない温もりに満ちた女の子の手だった。

 

 

 

 

 

「――――汝の願いを聞き届ける。『ベアトリス』の名において、契約はここに結ばれる」

 

 

「・・・・・・っ」

 

 

「たとえ“仮”でも契約事は契約事。儀式の則った上で結ばれたそれは絶対なのよ。お前のわけのわからない頼み、聞いてやるかしら」

 

 

「―――グレートだぜ、ベア様」

 

 

 

 

ベア様は最後の最後まで『何でベティが』とか『よりによってこんなヤツと』とか愚痴ってはいたが、俺の約束を契約として受け入れ屋敷の人間を守ってくれることを約束してくれた。

 

―――ラインハルトの時と同じく。俺はここに来てようやく“仲間”が得られたような気がして少しだけほっとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ロズワール邸に来て三日目。

 

 

 

 

 

依然としてロズワール邸での激務は続いていた。因みに今日の俺の仕事は朝食の支度とベッドメイクと玄関ホールの清掃と廊下の窓ふきと食器の手入れ、昼食の準備と食堂の清掃・・・――――――これで・・・やっと半分ってところだよ。(震え声)

 

 

 

 

「つくづくレムさんもラムも大したもんだよな。俺だったらこんな生活続けてたら一ヶ月も持たない自信があるぜ」

 

 

「―――やあやあやあ!張り切ってるねー、アキラ!」

 

 

「おおっ、誰かと思えばパックじゃねえか―――撫でてもいいか?」

 

 

モフモフモフモフ……

 

 

「ンフ~~・・・アキラは本当によく頑張ってるよね。ガラスに突っ込んでズタボロになってたのがつい数日前のことだなんて信じられないよ」

 

 

「まだ・・・頑張らねえとならねえからな。こんなところでへこたれちゃあいられねえよ」

 

 

「アキラ。ちゃんと休んでる?なんか少し疲れてるような感じがするよ」

 

 

「だからこそ、今、お前に癒してもらってる真っ最中だろうがよ。そうだ――――お前に聞きたいことがあったんだけどよ」

 

 

「ん~~、なに?」

 

 

 

 

 

俺はパックを撫で回しながらずっと気になっていた質問を投げ掛けてみた。男の子だったら誰しもが憧れるこの質問だ。

 

 

 

 

 

 

「前々から興味があったんだけど・・・俺にも魔法って使えるのかと思ってよ」

 

 

「それはもちろん使えるよ。マナもゲートも生きとし生ける者全てに備わっているからね」

 

 

「グレート!第一関門はとりあえずクリアだな」

 

 

「アキラは魔法を学びたいの?でも、アキラは既に自分だけのすごい精霊を持ってるじゃないか」

 

 

「だから、アレは精霊じゃねえって・・・アレは『スタンド』って言ってよ。何つーか、俺の精神が具現化した姿で俺の『分身』みてぇなものだ――――――アレだけだと乗り越えられない状況があるかも知れねえからな。自分の使える武器は増やすに越したことぁねえだろ」

 

 

「ふーん・・・なるほどね。とりあえず、まずはアキラの属性を調べてみるよ―――《ぴとっ》」

 

 

 

 

 

パックは長い尻尾を俺の額に当てて俺の魔法の素質を調べ始めた。なんか病院でCTスキャンを受けてるような気分だぜ。

 

 

 

 

 

「“属性”ってのは何があるんだ?」

 

 

「属性には『火』『水』『土』『風』の4つのマナ属性があってどれに適しているかは人それぞれバラバラなんだ。中には複数の素質を持っている子もいるけどね」

 

 

「『う●われるもの』みたいだな。大別して四種類か・・・俺はさしずめ『土』あたりかな・・・なんとなく」

 

 

「はずれー。アキラの属性は『陽』だね」

 

 

「『陽』・・・って、さっきの四種類以外にも他に属性があるのか?」

 

 

「――――パックが言ったのは基本的な4種だけよ。マナは基本となる4属性以外にも『陰』と『陽』って言う二つの属性があるの。この属性を持っている人事態稀なんだけどね」

 

 

「なんだ、エミリア・・・勉強はもういいのかよ?」

 

 

「うん。ちょっと休憩しようと思って」

 

 

 

 

 

俺とパックの会話にいきなり割って入ってきたエミリアは俺の隣に座り込んだ。

 

 

 

 

 

「『陽』って言うのは、いわゆる光属性だよな。どんなことが出来るんだ?波紋を練ったり、かめはめ波打ったり、ペガサス流星拳を使えたりすんのか?」

 

 

「アキラがどんなのを想像してるかわからないけど・・・一般的に『陽』の属性の人は『身体能力』を高めたり『運気を上げたり』ってのが多いかな。上位の術者になると巨大な光弾を打ち出すこともできるって聞くけど」

 

 

「なるほど。基本的には補助に重きを置いてるけど・・・極めれば強力な攻撃魔法も可能ってことか―――コイツはなかなかグレートだぜ」

 

 

 

 

 

クレイジーダイヤモンドのパワーや能力だけでなく補助魔法が使えるようになれば俺の戦闘の幅も一気に広がる!もしかしたら遠距離攻撃に弱いって弱点を克服できるかも知れねえ!

 

 

 

 

 

「なあ、パック!俺にも出来そうな基本の魔法とか教えてくれよっ。練習を重ねれば才能が開花すっかもしんねえ」

 

 

「ヤル気満々だね。基本から学ぼうとする姿勢から本気度が伝わってくるよ―――勿論、いいよ。簡単な呪文で良ければ僕の補助があればできるはずだからね。陽属性で一番簡単なのだと『カーラ』かな」

 

「確か閃光で相手の視界を封じる呪文よね」

 

 

「目眩ましか・・・まあ、最初はそんなもんだろうな。だが、何れはこれを極めて波紋法や界王拳を使って見せるぜ、俺はっ」

 

 

 

 

 

『ヘイスト』とか『レビデト』みたいな魔法が使えるようになればと思うと一気に夢が広がるぜ。

 

早速、パックを頭に乗せて補助に預かりつつ魔法の実践訓練が始まった。つっても・・・今回、初めて魔法を使うということで乱発は出来ないので『一発』だけとなった。

 

 

 

 

 

「―――じゃあ、始めるよ。アキラのマナを僕が操ってアキラのゲートから出すから。アキラはイメージしてくれるだけでいいんだ。『カーラ』は激しい光を放つ魔法だからそのイメージでやってごらん」

 

「よしっ!任せろ。必殺技のイメージ映像を投影するのはラノベでさんざん鍛えられたからな」

 

 

「アキラ。無茶しちゃダメよ・・・マナを一気に放出したりすると―――」

 

 

「じゃあ、行くよ~――――『みょんみょんみょんみょんみょんみょん・・・』」

 

「“光”・・・“光”・・・“光”と来たら―――」

 

 

 

 

 

パックのサポートを受けてる恩恵か、俺の中の第六感が働き内側から『力』が外に放出されようとしているのがわかる――――――あとはこれを魔法として外に具現するだけだ。

 

 

 

 

 

「あ、あれ・・・アキラ、ちょっと待って。僕の操作を離れて物凄いマナが・・・」

 

「―――『太ぃ・陽ぉ・拳ん』ーーーーーっっ!!!!」 

 

 

バキュウッッ… ビカァアアアアアアッッ!!!!

 

 

 

 

 

魔法を放った瞬間に全身から急速に力が抜けていくのを実感し俺は確信した――――――俺に魔法使いの適正はないのだということを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ロズワール邸にて働き始めて四日目。

 

 

 

 

 

「ゼェーーー・・・ゼェーーー・・・チキショウ・・・か、体が重い。気を抜くと今にも眠っちまいそうだ」

 

 

 

 

 

猫神パックの魔法講座を受けた俺はたった一発の太陽拳でごっそり体力を持っていかれる羽目になった。『太陽拳』だぞ、『太陽拳』!『界王拳』じゃあねえのにだぞ!

 

結論から言うと俺は魔力コントロールが下手くそすぎて『太陽拳』は打てて一発・二発が限界らしい。今日もこりずに一発だけ試し打ちしてみたが、ご覧の有り様だ。

 

――― 一発打つだけでこの有り様じゃあ自主トレすらままならねえぞ、チクショウ!

 

 

 

 

 

シャーコ シャーコ シャーコ

 

 

「ハァー・・・ハァー・・・風呂場無駄に広すぎるだろ。疲れているから余計に広く感じる」

 

 

「―――アキラ君。大丈夫ですか?」

 

 

「コォオオオオー・・・コォオオオオー・・・何を言ってんスか、レムさん。これは波紋法の修行ですよ。1秒間に10回の呼吸を行うって言うアレですよ」

 

 

「・・・死にますよ」

 

 

「やめて!その養豚場のブタでもみるかのように冷たい目はやめて!」

 

 

 

 

 

レムさんは『なんて馬鹿なことをしてるのかしら。この男は』という目を向けてきた。何気に今までで一番傷ついたかもしんない。

 

 

 

 

 

「エミリア様からアキラ君が懲りずに魔法を行使してマナ切れを起こしてると聞いて様子を見に来たのですが・・・やはりアキラ君に今日の仕事は無理そうですね」

 

「待て待て待て!仕事始めて三日目でボイコットとか冗談じゃあないぜ!」

 

「ですが、屋敷の仕事に支障が出ています。予定していた時刻よりも大分遅れています」

 

「マジッスか・・・」

 

「ここはレムも手伝います。二人でやれば早く終わることでしょう」

 

「レムさん。仕事の方は大丈夫なんスか?」

 

「アキラ君が足を引っ張ることを予想して急いで終わらせて来ました」

 

「正直、スマンカッタ」

 

 

 

 

 

ノロノロと亀のように鈍重な俺とテキパキと魔法でも使ってるかのように浴場を綺麗に塗り替えていくレムさん―――何ということだ、今の俺はラムより役立たずじゃあねえか。

 

 

 

 

 

シャーコ シャーコ シャーコ

 

 

「そういやぁ・・・ラムはどこ行ったんスか?こんなズタボロの俺を見つけたらあいつここぞとばかりにいじりに来るところなのに」

 

「姉様は、近くの村に買い出しに出てもらっています。屋敷で使う調味料等が少なくなってきましたので」

 

「それって・・・もしかして俺が勝手にデザート作ったりしてたからッスか?」

 

「いいえ。アキラ君が使ったのはほんの微々たるものです。もともと買い出しは月に一度か二度定期的に行かなくてはなりません」

 

「そうッスか・・・何にせよ、助かった。あいつにこんなところ見られたら何言われるかわかったもんじゃねえからな」

 

 

 

 

 

あいつは弱味を見せたら露骨につけこんでくるからな。これからは魔法の練習ももうちっと慎重にやらねえとなんねえ。

 

 

 

 

 

「アキラ君はどうしてそこまで魔法の練習に打ち込んでいるんですか?レムから見てもアキラ君には魔法の才能が絶望的に欠けてると思うんですけど。レムは無駄な努力で自分を追い込むのはやめた方がいいと思います」

 

「ちょっとくらい夢を見させてくださいよっ!そんな無情な癌宣告みたいなの要らないから!――――・・・単純に魔法に憧れてるだけッスよ。男の子ってのはそういう必殺技みてぇなのを一度はやってみたいと思っているんスよ」

 

「・・・それはそこまで無理をしてまでやるべきことなのでしょうか。レムにはわかりかねます」

 

「意地があるんスよ。男の子にはな」

 

 

 

 

 

レムさんは仕事中に魔法の練習をしていたことを責めるでもなく黙々と俺の浴場清掃を手伝ってくれた。レムさんは不言実行するタイプなんかな。

 

 

 

 

 

「俺もラムみたいに攻撃魔法をバンバン撃てたらいいのにな。今の俺は一日一発が限度だしな」

 

「姉様は素敵でしょう。姉様の魔法は美しくて見てるだけで時間を忘れてしまいます」

 

「・・・魔法で攻撃されてる俺の存在も忘れてるよね、それ」

 

「姉様はだらしがないアキラ君に渇を入れるために魔法を行使しているんですよ。後輩を見捨てない優しさも姉様の魅力です」

 

「優しさ・・・ねぇ~。あいつが優しいかどうかはともかく。俺に対してだけは優しくないような」

 

「姉様はアキラ君が姉様に甘えたりしないようにわざと厳しく振る舞っているんですよ。アキラ君の成長を陰ながら見守っているんです」

 

「そんな美しい話だっけ、これ?」

 

 

 

 

 

目をキラキラと輝かせてラムの魅力を熱く語るレムさんには何を言ったところで通じまい――――――でもまあ・・・姉様のことでこうして目を輝かせているレムさんを見てるとそれだけでこっちも嬉しくなってくるぜ。

 

 

やれやれ・・・姉様LOVEなレムさんに免じて今度からラムにはもう少し優しくしてみっか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――そんなふうに考えていた時期が俺にもありました。

 

 

 

 

 

「―――スヤァ~・・・くかぁ~♪」

 

 

「人が勉強してる横で寝てんじゃねえぞ、このポンコツ家庭教師がっ!」

 

 

 

 

 

夜、俺の部屋で読み書きを教えるとか豪語していたレムさんが敬愛するこのうる星羊肉はこともあろうに勉強している俺を差し置いてグースカ寝ていやがった。

 

―――そもそもこの勉強会にしたってラムが言い出したくせによぉ~・・・

 

 

 

 

 

『―――ハ?・・・何だって?』

 

『文字の読み書きを教えてあげるから、早く座りなさいって言ってるでしょう。モンキーだから聞こえなかったのかしら』

 

『聞こえてるよっ!そうじゃなくて・・・どういう風の吹きまわしだ?親切とは程遠いお前が俺に文字を教えてくれるだなんて』

 

『ジョジョが読み書きができないことは今までの働きを見ていてわかったわ。だから、それを教える。読み書きができなければ買い物のメモもできないし、用件の書き置きもできない』

 

『グレート・・・痛いところを突いて来やがるぜ』

 

『まずは簡単な童話集、子ども向けから始めるわ。これからは毎晩、ラムが勉強させてあげるからそのつもりでいなさい』

 

『オー!ノーッ!俺の嫌いな言葉は一番が『努力』で二番目が『ガンバル』なんだぜーッ!』

 

 

 

 

 

確かに過去のループでも俺が読み書きできないことが仇になってひどい目に遭ったこともあるが。だからといって、まさかラムの方から進言してくるとは正直意外だった。

 

 

 

 

 

「―――ジョジョは思ったよりも飲み込みが早いわ・・・イ文字は大分覚えてきたみたいね。これならロ文字とハ文字もすぐ覚えられるわ」

 

「前に誰かさんのせいで酷い目に遭ったからな。俺が文字を読めないのをいいことに不名誉な名前をつけられた」

 

「随分、酷い人がいたのね」

 

「(お前のことだよっ!)」

 

 

 

 

 

英語も得意じゃねえ俺がまさか異世界語を勉強する日が来ようとはな。アルベド語とグロンギ語なら喋れるのにな――――それとオンドゥル語。

 

 

 

 

 

「しかし、あの時は呆気にとられたけどよ・・・よく俺にこんなお節介を焼く気になったよな」

 

「決まっているわ。ラムが・・・――――――楽をするためよ」

 

「何も期待してなかったけど・・・本当にそれ以外の理由がないんだな」

 

「ジョジョのやれることが増えれば、それだけラムの仕事が減る。ラムの仕事が減れば、必然的にレムの仕事も減る。いい事尽くめよ」

 

「winwinなのはお前らだけだよな、それっ!」

 

 

 

 

 

やれやれ・・・ラムはこういうヤツだから怒っても仕方ねえか。今はありがたくこのひねた家庭教師の世話になろう。理由はどうあれコイツには色々と助けてもらったし・・・はず・・・たぶん・・・may be・・・

 

 

 

 

 

「勉強時間は・・・冥日一時までが限度ね。明日もあるし。ラムも眠いし」

 

「つくづく本音が隠せないやつだな。まあ、そういうところが逆に好感を持てるぜ」

 

「ラムもラムの素直なところは美点だと思っているわ」

 

「(グレート・・・本当に憎めないヤツだぜ)」

 

 

 

 

 

何だかんだでラムとはいがみ合ってばかりだけどこういう明け透けな物言いを見てると怒りすらわいてこない。いっそ清々しい――――――結局、可愛い女の子ってだけで大抵のことは許せちまう。『ただイケ』と同じ理屈だぜ。

 

 

 

 

 

「まあ、なんだな・・・一応、礼は言っておくぜ。何だかんだ突然転がり込んできた俺のことを面倒見てくれてるしな。いろいろお互いにムカつくことも多いがよぉ・・・今度、お前にはまた俺特性のデザートを――――――ん?」

 

 

「―――スヤァ~・・・♪」

 

 

「~~~~ったく!やれやれだぜ・・・急に静かになったと思ったら」

 

 

 

 

 

さっき叩き起こしたってのにまた懲りずに俺のベッドで勝手に居眠りを始めやがった。

 

―――『こ・・・この女・・・横で俺が頑張ってるって言うのに罪悪感もねえのか』と怒って以前のオレなら女だろうが容赦なく襲いかかっただろうが。

 

ここ数日で屋敷の業務が如何に激務であるかは理解したし、レムさんもこんなラムが大好きなんだろう。しょうがねえから今はゆっくり寝かせてやろう。

 

 

 

 

 

「く~・・・スヤァ~」

 

 

「にしてもよぉ~、仮にも男の部屋でこんな無防備に寝るか、普通?・・・信頼されているのか、試されてるのか、或いは男として見られてないのか」

 

 

 

 

 

どう考えても『男として見られていない』だな。うん。コイツが俺の恋愛攻略対象になるはずもないしな。その逆もまた然りだぜ。

 

 

 

 

 

「《バサッ》―――文字の練習も終わったし・・・俺もいい加減寝たいんだけどな。はてさてどうしたものか」

 

 

 

コンコンッ

 

 

 

「・・・はい?」

 

 

『―――アキラ君。姉様はそちらにいらっしゃいますか?』

 

 

「おおっ!ナイスなタイミング!レムさん、おたくの姉様ならここにいるッスよ。引き取りお願いしやす!」

 

 

『何か引っ掛かる物言いですが・・・失礼します―――《ガチャッ》』

 

 

 

ゾワッ

 

 

 

「―――・・・っ!?」

 

 

 

 

 

今、レムさんが扉を開ける一瞬・・・何故だか背筋が凍りつくような気配を感じた。この気配・・・前にも感じたことがある。これは―――『腸狩り』と相対したときと同じ?

 

俺は無意識に組んでいた足を崩してより動きやすい体勢をとった。

 

―――だが、扉の隙間から姿を現したのは『いつも通りのレムさん』だった。

 

 

 

 

 

「・・・アキラ君?」

 

 

「っ―――・・・あっ、いや、何でもねえッスよ」

 

 

 

 

 

全身から冷や汗が吹き出してきやがった――――気のせいだったのか?てっきり、この屋敷に侵入した敵が姿を現したのかと身構えてしまったが・・・でも、確かに俺は感じた。ほんの一瞬だが・・・あのおぞましい感覚は“本物”だった。

 

 

 

 

 

「姉様は寝てらっしゃるんですか?」

 

 

「ああ。今日一日仕事で疲れてたみたいで・・・このまま寝室まで運んでやってくれねえッスか?いくら力仕事とはいえ俺がやるわけにはいかないんで」

 

 

「わかりました。確かに寝ている姉様の寝顔をアキラ君になめ回すように見られていたと知れたら姉様は明日にでも自殺しかねません」

 

 

「どんだけ嫌われてんだよ、それっ!?つーか、寝顔が見られたくなかったら居眠りなんかすんじゃねーよ!」

 

 

 

 

 

これもレムさんなりのジョークだと思いたい。だけど、この姉妹はどこまで本気なのか判断に悩むところがあるんだぜ。

 

 

 

 

 

「では、姉様はこのまま連れて帰ります。アキラ君も明日のお仕事に備えて今日は早めに寝てください」

 

 

「おう!明日もよろしく頼むッスよ。先輩っ」

 

 

「・・・アキラ君」

 

 

「何スか?」

 

 

「姉様は・・・アキラ君に何か言っていましたか?」

 

 

 

 

 

聞くからに含みを持たせた質問が来たな。もしかしたらレムさんは俺とラムが夜二人っきりってことが気が気でなかったのかも知れねえな。

 

 

 

 

 

「いや、何もねえッスよ。つーか、俺とラムは顔を合わせる度に喧嘩ばかりなんで・・・コイツから浴びせられる言葉は罵詈雑言ぐらいなもんだぜ」

 

 

「・・・そうですか」

 

 

「まあ、ラムは俺に対してだけはいつもそんな感じッスよ。個人的にはもうちっとだけ優しさが欲しいところだけどな」

 

 

 

 

「っ――――――姉様は・・・優しすぎます」

 

 

 

 

「・・・え?」

 

 

「何でもありません。失礼しました」

 

 

 

 

 

レムさんは謎の言葉だけを残して足早にその場を去っていった―――今の言葉はなんだ?いつもの目を輝かせて姉様を持ち上げていたときとは根本的に違う・・・絞り出すかのような悲痛な声だった。

 

俺はレムさんのあの悲壮感すら感じるあの雰囲気が気になりこそしたが、すぐに頭の隅に追いやり・・・部屋の明かりを消した。

 

 

 

 

 

「――――さて・・・果たしてバイツァダストが作動するのが先か。敵が姿を見せるのが先か」

 

 

 

 

 

今までのループとは違い。俺が屋敷で過ごすことで間違いなく運命の分岐は起こったはずだ―――となれば今夜何かが起きるはずだ。この屋敷を襲う何かしらの驚異が動き出す。

 

ベア様には屋敷への侵入者は俺に通報してもらえるよう伝えてある。それに加えて強力な魔法も使えるベア様だ。大概のことで負けたりはしないだろう。

 

 

 

 

 

「―――魔法を完全に体得できなかったのは心残りだが・・・体力はそこそこ回復している。十分だ」

 

 

 

 

 

どんな敵が来ても俺のクレイジーダイヤモンドでぶちのめす。

 

この屋敷に来てから俺は『能力を一切使わないようにしていた』。どこで見てるかもわからない敵に手の内を晒さないためだ。

 

 

―――全てはこの4日目の夜を乗り越えるために!

 

 

 

 

 

「(どこから来る?・・・この屋敷の間取りはおおよそ抑えてある。ベア様の協力もあって侵入経路は全て封じたも同然―――この状態でエミリアを狙うのは不可能だ)」

 

 

 

 

 

俺は壁に背中を預けて腰を下ろし、この屋敷に起こるであろう異変をじっと待った。

 

 

 

だが、それは30分経っても・・・

 

 

 

一時間経っても・・・

 

 

 

二時間経っても・・・

 

 

 

――――――起こることはなかった。

 

 

 

何故なら、異変は俺の知らない水面下で・・・俺の全く予期せぬ場所で・・・予期せぬ形で・・・予期せぬ標的《少女》に迫っていたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チュンチュン…… チュンチュン…

 

 

「―――・・・ハッ!《ガバッ!》」

 

 

 

 

―――朝の小鳥のさえずりが微かに耳に届き、俺は慌てて目を覚ました。

 

 

しまった!屋敷の仕事の疲れが一気に来て途中で寝ちまっていたっ・・・クソッ!肝心なときに寝過ごすとか間抜けか、俺はぁ!?

 

 

 

 

 

「部屋は・・・『スタート地点』じゃない。使用人になって割り当てられた部屋のままだっ!――――――バイツァダストは・・・『作動していない』っ!」

 

 

 

 

 

つまり、この『負の運命』は未だに継続中ということだ。最悪の事態が起きる前に急いでエミリアのもとに向かわねえと―――っ!

 

 

 

 

 

ガチャッ

 

 

「・・・え!?」

 

 

 

 

 

俺が部屋を飛び出そうと手を伸ばした瞬間、目の前で扉が開いた。朝日の逆光を浴びて姿を現したのはあまりにも小柄で俺の身長の半分ほどしかない少女の人影。

 

 

 

 

 

「ベア・・・トリス?」

 

 

「―――お前に見せなくてはならないものがあるのよ」

 

 

「え?」

 

 

 

 

 

冷たい言葉だった。冷酷と言う意味ではない。感情を一切発することが出来なくなった無感情さから来る冷たい言葉だった――――――俺はこの瞬間、理解した。

 

 

俺は自分で利口ぶっているという最低の間抜けだった。

 

 

だが、真の『後悔』はこの後やってきたんだ。

 

 

俺はこの後、自分が『無事』だったことを『後悔』した。

 

 

――――――『無事』だったからこそ本物の『後悔』ってやつはあるんだ。

 

 

 

 

 

「―――アキラ・・・っ!」

 

 

「エミ、リア?」

 

 

「っ・・・来て、アキラ!あなたに来てもらいたいのっ!」

 

 

 

 

 

ベアトリスに連れられてきた俺は、まるでリレーされるかのようにそのままエミリアに引っ張られていく。

 

足が重い。息が苦しい。嫌な予感が止まらない。

 

何故なら、ここは――――――バイツァダストが支配する『負の運命』の中なんだから。

 

 

 

 

 

いやぁぁああああああぁぁぁあああぁぁあああ・・・っっ!!!!

 

 

 

「っ・・・この、声は・・・まさか」

 

「アキラ。落ち着いて・・・目の前の“現実”をよく見て」

 

 

 

 

 

見なくてもわかる。この部屋の先の光景は想像がついていた。だからこそ見たくない。俺の予感が当たっていることは確定的に明らかだからだ。

 

だが、見なくてはならない。

 

どんなに目を背けたくなるような現実であったとしても・・・俺が引き起こしてしまった結果なのだから。

 

 

 

 

 

「――――――・・・“ラム”?」

 

 

「姉様ぁああああぁぁ・・・っ!!姉様ぁぁぁぁあああああああぁぁぁあああぁぁっっ!!」

 

 

 

 

 

そこにあったのはベッドに顔を押し付けてこの世の終わりのように血を吐き出さんばかりに絶叫する『レムさん』と。

 

 

 

ベッドの上で童話の白雪姫のように美しく色白な肌で穏やかに眠るように息を引き取った――――――『ラム』の姿があった。

 

 

 

 

 

 




構想の段階では前回と今回を合わせて一話分にする予定でした。

それにしてもこの作品は・・・エミリア、ラム、レムの誰がメインヒロインになるのでしょうか。

筆者的にはレム一卓ですが、皆さんが見たいヒロインは誰なのか・・・なかなか考えものです。
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