完全に正統派から外れたリゼロ作品ではありますが、原作主人公:菜月昴の歩んだ道のりを描いていけたらなと心底思います。
―――ロズワール邸に勤め始めてから二日目の朝。
「―――ふぅぅーーーー・・・『クレイジーダイヤモンド』っ!!《ドンッ!!》」
『ドォラララララララララララァァアッ!!!』
ドゴゴゴゴゴゴゴッッ!!! スゥウウウ・・・ガチィイイイッ!!
早朝、俺はあることを思い付いてロズワールの庭の敷地を借りてある実験をしていた。それは『クレイジーダイヤモンド』の能力の“応用”。
「《ブンッ!ブンッ!》―――グレート・・・見た目はそこそこ形になってきたけど。質が今一つだぜ。とても激しい戦闘に耐えられそうにねぇなぁ」
「―――朝っぱらからこんなところで何してるの?一応、この屋敷はロズワールのものだから敷地内のものを勝手に壊されると困るんですけど」
「・・・よっ、エミリア。今日もお前の銀髪が眩しいぜ。あとは銀色の魂持ってりゃあ言うことなしだぜ」
「おはようっ、アキラ。こんなところで何してたの?床の石板を壊したりなんかして・・・あとでラムとレムに怒られても知らないんだからね」
「わかってるよ。俺だってそれくらいの良識は心得てるんだぜ。壊したもんはあとでちゃんと元通りに『なおして』おきゃあ文句ねえだろ」
「直せば何でも許されると思ってない?それはあまりに勝手すぎるわよ・・・―――ねえ、さっきから持ってるその『槍』どこから持ってきたの?そんなのこの屋敷にあったかしら」
エミリアは俺が手に持ってる『グングニル(笑)』を指差して聞いてきた。
「これは持ってきたんじゃない。今しがた『作った』もんだ。もっとも武器の形をした中身ガタガタの出来損ないだがな・・・これじゃあ衛宮●郎の最初期の投影魔術の方がまだましだ」
「作った?・・・アキラが?―――アキラはそういう武器を作り出すような魔法が使えるの?」
「・・・もしそうだとしたら二次創作の『チート転生者』よろしく『エ●スカリバー』とか投影して無双し放題だったろうがよぉ~。実際のところは前に見せた『なおす』能力の応用なんだぜ」
「???なんだか・・・よくわからないんだけど」
エミリアは顎に人差し指を当てて首をかしげている。まあ、スタンド能力も知らないエミリアに『なおす』能力の応用って伝えてもピンと来ないだろうな。
「わかりやすく言えば『錬金術』みてぇなもんだよ。物体を一度ぶっ壊して、壊した物体を俺の任意の形に『作りなおす』ってこと―――《くるくるくるっ、パシッ!》―――この『槍』も床の石板を砕いて槍の形に起こしただけだぜ」
「へぇ~!アキラはそんなこともできるのね。聞いた感じだと『ドーナ』の魔法によく似てるかな」
エミリアは感心しているが、俺からすりゃあこんなもんは何の役にも立たないガラクタを作っただけだ。
この応用技は言わずもがな『ハガ●ン』の錬金術が元となっているが。ハ●レンの錬金術と違って、クレイジーダイヤモンドはあくまでも『なおす』だけの能力だ。
物体を分子レベルで細かく組み換える錬金術と比べればその出来映えは雲泥の差である――――小学生が作った粘土細工とプロが作った工芸品を見比べるようなものだぜ。
もうちっと練習すりゃあもっとクオリティの高いものを作れるようになるかも知れねえけどよぉ~・・・今は外観や形状を整えるだけで精一杯で・・・とても実践で使えるような技じゃねえぜ。
「グレートっ・・・この技はお蔵入りだな《ズキュゥウウン》」
「・・・いつ見ても思うけど。アキラの能力《ちから》って不思議よね。精霊術には見えないけど・・・ねえ、あの変な鎧を纏った精霊ってもう出せないの?」
「“変な”ってのは余計だ・・・アレは俺の分身みてぇなもんだから出そうと思えばいつでも出せるよ。時間制限がないって点では、下手な精霊よりも――――――ん?」
今、一瞬、誰かに見られていたような視線を感じたんだが・・・。
「どうしたの、アキラ・・・急に黙りこくっちゃって」
「いいや、何でもない―――そうだ。エミリア・・・折角だし、前にも王都で描いたお前の絵をもう一回描いてやるよ」
「え?・・・わたしの絵?わたし、そんなことしてもらったかしら」
そうか。このエミリアは“違う”んだ。王都でコイツの絵を描いてやった時のエミリアはもういないんだ。コイツにはあの時の思い出がない。
「悪い。俺の勘違いだった・・・『いつかお前に描いてやろう』と思っていながらずっとやり忘れてたからな。ついでに俺のクレイジーダイヤモンドのスゴさってやつを見せてやるよ―――《ドキュゥゥゥンッ!》」
『―――《┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛》』
「あ、改めて近くで見ると・・・少しこわいかも」
まあ、クレイジーダイヤモンドは見た目筋骨隆々のサイボーグ戦士。一歩間違えればターミネーターだからな。
「コイツのクレイジーな能力は『なおす力』やパワーがスゴイだけじゃねえぜ。弾丸を掴むほどの精密な動き・・・――――――『スケッチ』もお手の物だぜっ!」
『―――《シャシャシャシャシャッ ザザザッ、ザザザーーーッ》』
クレイジーダイヤモンドはペンを超スピードで縦横無尽に走らせてどんどん絵を形として仕上げていく。その動きの精密さたるや最新鋭のプリンター並だぜ。
かつて王都で出会ったときも同じことをしてたんだけどよぉ~。結局、あの時はスタンドのことは話せずじまいになっちまったな。
「《ぴょこっ》―――なになに?またアキラがおかしなことをしてるの?」
「あっ、おはよう。パック」
「おっと・・・出てくるのが少し遅かったな。もうちょい早けりゃあお前も一緒に描いてやったのにな―――――もう出来上がったみたいだぜ《ピラッ》」
「わぁっ」
「おお~♪コレはスゴイね~っ!」
前回はパックとのツーショットだったが、今回は違う雰囲気で描かせてもらった。母性と大人っぽさを全面に押し出した深窓の令嬢という雰囲気―――エミリアの子供っぽさと残念さをあえて取っ払ってみた感じだ。
「タイトルは『E・M・T』―――『エミリア可愛い・マジ嫁に欲しい・というわけで俺結婚するよ母さん』・・・の略だ」
「何で絵を描いてもらっただけでわたしがアキラのお嫁さんにならなきゃいけないのよっ!!しかも、ちゃっかり結婚前の挨拶までしてるしっ!」
「バカヤロウッ!芸術家は筆に思いをのせて絵を描くもんなんだよっ!その願望が爆発した結果こそが『芸術』なんだよっ!」
「爆発してるのはアキラの『欲望』じゃないの、それっ!?」
まあ、俺の熱くたぎったリビドーは置いとくとしてだ。絵の出来映えとしてはかなり上出来だと思うぜ。クレイジーダイヤモンドの写生力が如何に優れているかが一目でわかる。
―――『美人』を描いてるとそれだけで気合いの入りが違うというものだぜ。
「でも、スゴイね。アキラ!この絵にはリアの魅力がぎゅっと詰め込まれてるよ」
「そら当たり前だぜ。素材が最高にグレートだからな。コレで美人に描けなかったら嘘ってもんだぜ」
「もうっ、二人とも誉めすぎ!・・・わ、わたしはこの絵みたいにこんな美人じゃないわよ」
「「え?」」
「『え?』って何よっ!んもうっ!あんまりからかわれたらわたしだって怒るんだからね」
「何でそこで俺に怒るんだよ!?別にバカにしたわけじゃあねぇぜ」
ぷんすこと腕を振り上げて『怒ってます』アピールをするエミリア。でも、その顔が赤いのは怒ってるんじゃなくて恐らく単純に照れてるだけみてぇだぜ。
「そ、そうだ。パック!折角だし、お前の絵も描いてやるぜ。お前もなかなか人に絵を描いてもらったことなんてないだろ?」
「言われてみれば確かにそうだね。普通の人は精霊ってだけでなかなか近づいてこないし、リアにはそういう絵心がないしね」
「《カチンッ》―――ちょっとパック・・・それは聞き捨てならないわよ。わたし、こう見えて芸術には自信があるんだからね」
「・・・何だろう、フラグにしか聞こえない。『ちなつ無双』な気がする」
「うんっ、たぶんアキラの勘が正しいよ」
「アキラまでっ!・・・もぉ~~~っ、二人ともいい加減にしなさいっ!!」
エミリアと戯れて、パックとじゃれて、怒らせて笑い転げて・・・掛け値なしにこの屋敷で過ごすこの時間が楽しいと思える。
―――だからこそけじめはつけねぇとよぉ。
この運命に克つためには何がなんでもラムとレムさんの力が必要なんだぜ。その為にはほんの少しでもいいから俺のことを信じてもらうしかない。
『―――・・・。』
俺とエミリア達が戯れる姿を窓から見下ろすレムさんに気づかないふりをしながら、ある作戦を実行することにした。
―――ロズワール邸に勤め始めてから二日目・・・その日の夜。
俺は屋敷を抜け出してある場所に来ていた。屋敷から結構な距離を置いて離れた周囲に何もない岩場―――特に名もない場所だった。
待ち合わせの場所としては十分だろう。コレからやろうとしていることを考えるとこの場所が一番いい。
―――ここなら誰にも見られる心配はない。
「グレート・・・俺はよぉ~、コレから何をやろうとしてんだろうな」
悩んで、悩んで、悩んで・・・悩み抜いて。考えて、考えて、考えて・・・考え抜いて―――結局、俺はこんなところに来ている。こんな策とも呼べない『愚策』を体張って実行しようとしている。
勝算なんてない。あるわけがない。上手く行く予感なんてない。むしろ今からやろうとしているのは『自殺』にも等しい行為だ。
―――でも、いろいろ考えたけどコレしかねえんだ。
人の信用を勝ち取るのに『武器』や『作戦』なんていくら用意したところで意味はない。いや、むしろ逆効果だ。
信用を勝ち取るのは、とどのつまり『時間』『行動』『実積』の三つであり。その他はおまけみたいなものだ。
残念だが、俺には示せるものが何もない。俺が使えるものはただ一つ・・・『命』だけだぜ。
ジャララララ…ッ
「―――来たか・・・グレートっ。音だけで殺る気が伝わってきたぜ」
ここからは作戦や計算の入る余地はない。言うなれば『賭け』だ。ここで殺されるようだったら――――――所詮、俺はそれまでの男だっただけの話だ
「こんな時間に来てもらって悪かったッスね。でも、来てくれると信じていましたよ」
「《ジャララララ…ッ》―――――。」
思った通り、彼女は来た。両手で得物《モーニングスター》を携えて機械のような無機質な目で―――だが、その目の奥にはギラギラとした明確な殺意が宿ってる。
「待ち合わせの時間も場所も書いていない手紙でレムを呼び出して・・・何のつもりですか?《ジャラララッ》」
「・・・・・・。」
俺は今日の夕方、レムさんの部屋の扉に一枚の置き手紙を残してきた。ラムに教えてもらった拙いイ文字でただ一言だけ。
―――『こんや、そとではなしがある』
あえて時間と場所を書かなかったのは彼女なら絶対にわかると知っていたからだ。俺の体にこびりついた魔女の匂いで。
「呼び出したのは他でもない。レムさんに人に聞かれたくない重大な話があったからだ―――だから警戒しなくていい。俺は戦う気も逃げる気もない。頼みがあるんだ」
「・・・・頼み?」
「俺を5日間・・・いや、三日間でいい。三日経ったら俺は間違いなくあの屋敷を出ていく。だから、それまでの間・・・俺が屋敷に留まることを許して欲しいんだぜ」
「どうしてレムに・・・そんなことを頼むんですか?」
「だって、あんた・・・俺のことを“殺したいほど”憎んでんだろ?どういうわけがあるかは知らねえけどよぉ~・・・隠しているつもりだったろうけど完全にバレバレだったぜ」
「・・・・・・《ジャララララッ》」
嘘だ。俺は『最初』から『最後』まで全く気づかなかった。俺はあんな明確で恐ろしい憎悪を向けられのが生まれて初めてだった。向けられる憎悪があまりにもでかすぎて気づけるわけがなかったんだ。
「・・・お聞きします。あなたは、エミリア様に敵対する候補者の陣営の方ですか?」
「違う。俺はるろうに・・・永遠をさ迷う冒険者だ」
「・・・誰に、いくらで、雇われているんですか?」
「俺の雇い主はロズワールで・・・エミリアこそが俺のご主人様だぜ」
「ロズワール様とエミリア様に近づいて・・・何が目的なんですか?」
「当面の生活費さえ稼げれば文句はない。だから、三日後まで待って欲しいって言ってるんだぜ」
表面上、探りをいれる質問と単説な解答の応酬が穏やかに繰り広げられる。だが、言葉を交わせば交わすほどどんどんレムさんの中のボルテージが上がっていくのがわかる。
―――その証拠に・・・彼女のモーニングスターを握る手に張り裂けんばかりの力が込められているのがわかる。
ジャララ…ッッ
「エミリア様を襲ったという『腸狩り』は、あなたの共犯者ですか?」
「違う。俺にあんなのを雇えるだけの金も力もない」
「《ギリギリギリギリッッ》――――あなたは・・・『魔女教』の関係者ですか?」
「・・・違うっ!」
ヒュゴォオオオッッ!!
「―――っ!?」
ドキャァァアアアアアッッ!!
その言葉によりレムさんの怒りがついに頂点に達した。ほぼ予備動作のないノーモーションで鉄球が俺の側頭部目掛けて振り回され、俺は何とか身を屈ませて交わすことに成功した。
ボゴォオオ…ッ ドコォオオッ!
「グレートっ・・・(―――マジに能力なしでコレを何とかしなきゃあなんねえのかよ・・・こんなのかすっただけで死ぬぞ)」
背後の岩盤に深々と突き刺さった鉄球はくっきりと岩肌に痕を残して地面に落ちた。クレイジーダイヤモンドの能力を使わない生身の俺はただの人間だ。
これ程の重量武器を手足のごとく使いこなせるレムさんが相手では勝ち目などない・・・いや、違う!勝ち負けの問題じゃない!俺はレムさんと戦いに来たんじゃないっ。
「レムさんっ!俺の話を聞いてくれっ・・・たの――――――っ!」
ヒュドゴォオォオオオオオッッ!!!
「・・・つぉぉおおっ!?」
一息つく間もなく第2撃が降り下ろされ地面に皹が入る。今のは本当に危なかった。あとほんの一瞬回避が遅れていたら脚が粉々にされていた。
「っ・・・くそぉ!レムさんはいったいいつから、そんな世紀末キャラになっちまったんだよ!?俺はケンシ□ウじゃ――――――」
ヒュオオオッッ ドギャァアアアアアッッ!!!
「~~~~っ、最後まで言わせろよっ」
「御託は結構です。あなたはやはりここで殺しておかなければなりませんね《ジャララララッ》」
くそっ!このままじゃ殺られるっ。説得しようにもまともに話を聞いてもらえなきゃあ全く意味がない。ここにいたらいい的だ。
「《ジャララララッ》―――あの『精霊』を出して反撃したらどうですか?少しは寿命が伸びるかもしれませんよ」
「ハァ、ハァ・・・ベルカの騎士のことわざにこんな言葉がある―――『和平の使者は槍を持たない』ってな。レムさんに信じてもらうのに能力《武器》は必要ないっ・・・いや、絶対に使っちゃあならねえんだ!」
「そうですか・・・――――――ならば、そのまま死んでもらえるとありがたいです《ヒュゴォオッッ!!》」
「―――っ!?」
ドゴォオオオオオッ!! ズゴォォオオオオオオオンッッ!!
俺が無防備であることをいくらアピールしてもレムさんは攻撃の手を罷める様子がない。
だが、コレが一番『正しい』。過去にレムさんがどんな仕打ちを受けたのかはわからないが・・・『魔女』に一番苦しめられているのはレムさんだ。そのレムさんに理解してもらうのに能力《ちから》は必要ない。
とはいえ、このままだといつ致命打を受けるかわからない。一旦体勢を立て直す必要があるぜ。
「能力がなければ『ただの人』ですね。無駄な抵抗をやめれば・・・楽に死ねますよ」
「やれやれだ。こいつぁマジに弱点のねーやつだ。まったく最強かもしれん恐ろしいヤツだ――――だがな、十条家・・・いや、ジョースター家には伝統的な戦いの発想法があってな・・・ひとつだけ残された戦法があったぜ」
「手も足も出せないあなたがこの状況で何を・・・?」
「それは―――《ズキュゥウウウンッ!!》―――『逃げる』っ!!」
ぐぃいいいいっ!!
「―――っ!?」
―――『能力』は使わないと言ったな。アレは嘘だ。
俺はあらかじめ手に隠し持っておいた木の枝を『なおして』その引力で森の中へと吸い寄せられるように隠れた。
本来ならばあの場で粘り強くこの身一つでレムさんの暴行に耐えながら、それでも辛抱して誠心誠意説得を続けて彼女の怒りが静まり冷静になるのを待つ場面なんだろうけどよぉ~。
「しかし、状況が変わった!・・・激情したレムさんを相手にどんな説得をすれば心に響くのかカケラも見えない。『山を登る時 ルートがわからん!頂上がどこにあるかもわからんじゃあ遭難は確実なんだ!』―――確実!そうコーラを飲んだらゲップが出るっていうくらい確実なんだッ!」
ジャララッ… ヒュォオオオオオオオッッ!!!
「―――っ!?」
ズクシャァアアッ!!
「ごぉおおああっ!?」
ゴロゴロゴロゴロ…ッ
枝に掴まって飛行移動中に後方から飛んできた鉄球が俺の右腕を抉るように掠めていった。俺はたまらず引っ張ってもらっていた枝から手を放して地面を転がる。
「ち、畜生・・・腕の骨がイカれた・・・多分『細い方』を持っていかれた」
―――ジャララララ…ッ
「っ・・・グレートっ《ガサガサガサッ》」
近づいてくる鎖の音を聞いて慌てて近くの茂みに潜り木陰に隠れる。こんなことしても何の時間稼ぎにもならない。レムさんはすぐに俺の匂いを追跡しちまう。
―――まずいぜ。あの即死武器《モーニングスター》を何とかしねえと・・・このままだと説得する前に御陀仏だぜ。
万事休すだった。このままじゃあ遠距離からなぶり殺しにされる。せめて武器を手放してさえくれれば・・・――――――っ!
「《ジャララララッ》―――辛うじて致命傷は避けたようですね・・・腕はどんな具合ですか?」
「―――っ!?」
レムさんの気配がいつの間にかすぐ傍まで近づいていた。だが、俺は追い詰められたこの状況とレムさんの言葉に閃き・・・いや『天恵』を感じた。
「―――こっちへ来て確かめろっ」
「・・・いいえ。ここで結構です」
こ、これは偶然かっ!?はたまた運命か・・・いや、『魔女の呪い』ってヤツかも知れねぇ。だが、ここは魔女だろうと何だろうとすがれる物には何であろうとすがるしかねぇ!
―――今こそ、ニ●ニコ名物『コ●ンドー』のお家芸・・・『筋肉式洗脳術』のお披露目だぜっ!
「右腕をやられた・・・あんたでも勝てるっ―――《ザッ》―――来いよ、レムさん。武器なんか捨てて、かかってこいっ!」
「っ・・・何の真似ですか?」
俺は右腕をおさえたまま無防備に木陰から顔を出した。レムさんは俺の突然の態度の変化に戸惑っている。付け入るなら今しかねぇ!
「楽に殺しちゃあつまらんだろう―――コブシを突き立て・・・俺が苦しみもがいて、死んでいく様を見るのが望みだったんだろう。そうじゃないのか、レムさん?」
「・・・《ジャララララッ》」
ダメ・・・か?流石に可憐なメイドであるレムさんにこの洗脳術は通じないか。いくら豪快な武器を使っていても彼女には洗脳に至るための筋肉要素が足りない。
「さぁ、武器を捨てろ!一対一だっ。楽しみをふいにしたくはないだろう?」
「―――《ギリギリギリギリッ》」
「来いよ、レムさん―――怖いのか?」
「・・・殺すっ。あなたごとき相手に武器なんか必要ありません《ドシャァアアッ!》」
キターーーーーーーッ!!・・・って、オイオイ、マジかよ。本当に釣れちまったぜ。いや、確かに望ましい展開だけどよぉ・・・まさかこんなあっさりと。
「誰があなたなんかに・・・いいでしょう。お望み通りにしてあげます――――――レムの手で直々にあなたをあの世に送ってさしあげます」
「やれやれ、右腕こそ使えねえが・・・これで少しは話しやすくなったぜ――――ここからが本当の地獄だ」
レムさんの一撃必殺の即死攻撃《モーニングスター》は封じることができた。しかし、その代わりに俺はとんでもないもんを呼び起こしちまった。
レムさんの『憎悪』という炎に『怒り』という名の油を注いじまった。武器を捨てて攻撃力こそ下がったが、挑発によって他のステータスは上昇している。
ここから先はレムさんに敵意がないことを証明するため・・・レムさんの気が済むまで俺は彼女の攻撃《怒り》を受け止めなくてはならない。避けることもせずに終わりのないリンチに耐えなくてはならないのだ。
――――――グレートっ・・・『逃げる』策の次は、『受ける』策かよ。我ながらどうかしてるぜ、まったく・・・けどよぉ、これしかないならやるしかないっ!!
「―――来いレムさん!俺の体で応えてやるぜ!」
真の『覚悟』はここからだぜっ――――――カラダ、もってくれよっ!!
・
・
・
・
・
そこからは本当に阿鼻叫喚の地獄絵図だった。
ドゴォオオオオオオオオオ…ッ!!
「ぐぁああああああっっ!!」
顔面を砕かんばかりのレムさんの鉄拳がハンマーのように振り抜かれ俺の体が縦回転でふっとび。
ズガャァアアアッッ!! ドシャァアアア…ッ!!
「がっ!・・・ぐはぁあああっ、カァアアァッ」
首の骨を狙って繰り出された上段蹴りを腕で受け止め、地面を滑り砂を舐めさせられ。
ドゴスゥゥウウウウッ!!
「っっ・・・っ!?おっ、ごっ!?・・・ごほぉあああああああっ!!」
うつ伏せで倒れていた俺の無防備な背中に容赦ない踵落としが降り下ろされ俺は地べたでのたうち回り悶絶する。
ズドォオッッ、ドォフゥウウッッ、ボグゥウウッッ!!!
「ぐあっ!?かあっ!ガッ・・・ぶぼぉ、ッッ~~~~ゴバァアアアッッ!!!」
動けない俺の首根っこを掴んで強引に立たせると俺の腹部と胸部に容赦なく膝蹴りを喰らわして、俺は蹴られる度に勢いよく血を吐き出す。
ぐぐぐ…っ ドゴシャァアアアアアッッ!!!
「っ・・・っ―――~~~~っ・・・・・・――――――!!《がくっ》」
さらに腹部を両手で隠して悶絶する俺の顔面に痛恨の一撃《コブシ》が降り下ろされた。まともに受けた俺は地べたに仰向けに倒れたまま懸命に手を伸ばそうとしたが・・・途中で力尽きた。
「――――――。」
「《ぐいっ》――――――・・・エミリア様も姉様も優しすぎます」
拳についた俺の血を拭って冷たく言い放ち、立ち去ろうとするレムさん――――――クソッタレめ・・・っ、俺をなめんなよ。
「っ――――ま・・・てよ」
「・・・っ!?」
「ま、まだ・・・話は終わってねえぞ《ガッ、ぐぐぐぐっ》」
「しぶといですね。まだ諦めないんですか?」
まだ・・・終わるわけにはいかねえ。ここで負けるくらいなら死んだ方がましだ。いや・・・諦めるのだけは『死んでも』ゴメンだ。
「そんな、ヤワな攻撃じゃあ・・・俺を・・・殺せやしねえぜ・・・嘘じゃねえ――――――何たって、もう何度も死んでるんだからな・・・俺はっ」
「《ザワッ》―――あのまま『死んだフリ』をしていれば、やり過ごせたものを・・・そんな体で立ち上がって何が出来るというんですか?」
「っ・・・ハァ・・・ハァ・・・『完全骨折』―――右小指“1”、右前腕“2”、左前腕“1”、右上腕“1”、左肋骨“2”、下顎骨“1”。『不完全骨折』―――右前腕“1”、“左上腕“2”、左右大腿部“各1”。裂傷“8”。打撲“26”――――――ヘッ、それがどうしたってんだよ」
「・・・・・・。」
「ハァー・・・ハァー・・・俺はこんなところじゃ死ねないんだよ。俺は二度と悲劇を繰り返さない・・・その覚悟を決めてここまで来たんだ――――――俺は、何がなんでも護るんだよ」
何度殴られたのか覚えていない。蹴られた回数なんて数え切れない。どれだけの血ヘドを吐いたかわからない。何時間暴行を受けていたのか考えるのも馬鹿馬鹿しい。
もういつ倒れてもおかしくない満身創痍な有り様だ。だが、それでも頭の中だけは妙にスッキリしていた。
―――覚悟が決まるとここまで人は変われるもんなんだな。
「『護る』・・・あなたが何を護るというんですか?レムと姉様からすべてを奪ったあなた方『魔女教徒』が――――今更何を護ると言うんですかっ!!」
「ハァー・・・ハァー・・・―――《ぐらぁっ!》―――・・・くっ!」
くそっ・・・意識が朦朧としてきた。目が霞みやがる。しっかりしろ!ここで倒れたら全てが台無しだ。レムさんがやっと本音を吐露してくれるんだ。
「―――姉様とあなたが会話しているのを覗いているときも、レムは不安と怒りでどうにかなってしまいそうでした。姉様があんな目に遭った元凶が、その関係者が・・・のうのうと、レムと姉様の大事な場所に・・・」
「ハァー・・・ハァー・・・」
「『ロズワール様が歓待しろ』と仰るから、レムも黙って様子を見ていました――――でも、もう耐えられないんです・・・もう監視する時間すら苦痛でならない。姉様が世話をするのを装って・・・あなたと親しげに振舞っているだけとわかっていてもっ!!」
「ハァー・・・ハァー・・・“それ”が・・・あんたがずっと隠していた本心か」
やっと聞くことが出来た。彼女が・・・レムさんがやっと俺に話してくれた。それがどれだけ重たい怨嗟の言葉であったのか頭では理解していても不思議と俺の心は晴れやかだった。
―――やっとレムさんの本当の感情に触れることが出来たんだ。やっと・・・レムさんをほんの少しだけ『救ける』ことができる。
「レムはあなたをここで断罪します。例えロズワール様の命令に背くことになったとしても・・・あなたはここで死ななくてはならないんです。他の誰でもないレムの手で殺さなくてはならないんです」
「フゥーー・・・フゥーー・・・」
「せめてもの情けです。次の一撃で仕留めてあげます。あなたもこれ以上苦しみたくはないでしょうから」
「―――レムさんが俺を憎む理由・・・」
「・・・?」
「さっきあんたが言った『魔女教徒』って言葉・・・いくら考えたところで当の俺には皆目見当がつかない。だが・・・一つだけ確かなことは―――」
これでやっとスタートラインに立つことが出来た。けど、レムさんの心の傷は赤の他人である俺にはどうあがいても背負うことはできない。
「あんたが、過去そいつらに何をされたのか“まだ”俺にはわからねえ――――――だがよ。あんたの流してる『涙』の意味だけはわかるぜ」
「―――っ!?」
レムさんは泣いていた。俺に悲痛な本心を吐露していたときに一筋の涙を流していた。それこそが今なお彼女が苦しんでいる証拠だった。
「俺にはあんたの心の傷は『なおせねえ』けどよ。あんたの受けてる苦しみが少しでも和らぐってんなら――――――俺の体ぐれぇ・・・いくらでも貸すぜ」
「~~~~っ・・・ぁぁぁぁああああアアアアアアッッ!!!」
そこからはもう止まらなかった。彼女は涙を撒き散らしながら拳を振るい、俺は血飛沫を撒き散らしながらそれをただただ受け入れた。
彼女の怒りの拳ではない。哀しみと嘆きのこもった拳で殴られることで俺はようやく彼女に近づけた気がしていた。
―――だが、次第にその拳の勢いも威力も弱まっていった。
「ハァッ・・・ハァッ・・・ハァッ」
「―――ペッ!・・・もう終わりかよ。こんなもんじゃあねえだろ・・・あんたが抱えていたもんはぉよぉ~」
「―――不快ですね。こんなことして・・・レムへの贖罪のつもりなんですか?あなたは何故、避けることもせず、反撃もせず、死のうともせずに・・・されるがままなんですかっ!?そんなボロボロの血みどろになってまでレムに殴られ続ける理由はなんなんですかっ!?」
「ハァー・・・ハァー・・・」
いくら強がったところでレムさんの言うとおりオデノカダダハボドボドダ。あともう一発食らえば本当に死ぬかもしれねぇな。
「フゥー・・・フゥー・・・っ、決まってんだろぉ。例え俺自身がどんなに殴られようと蹴られようと切り刻まれようと・・・ボロボロの血濡れになったとしてもよぉ~――――『女の涙』に濡れんのだけはもうごめんなんだよ」
「―――・・・っ!?」
「ただそれだけさ」
俺はレムさんの過去を知らない。だけど、レムさんだって俺のことを知らねえんだ。
―――俺があの『生き地獄』から帰ってこれたときにどれだけ救われたのかレムさんは知る由もないだろう。
だから、俺を救ってくれた彼女のために命を張る覚悟が出来たのだって至極当然のことなのだ。
「っ―――ぅぁああああアアアアアアッッ!!!」
ドコォオオオッ!!
「ぶはぁアアっ!?」
「フゥーー・・・フゥーー・・・ッッ!!――――――あなたの戯れ言はもううんざりですっ!これ以上、あなたと話しているとレムまで頭がおかしくなりますっ!―――《ジャララララッ》―――あなたが魔女教徒であることを認めないのであれば、それでも結構です!今度こそ、とどめをさしてあげましょうっ!!」
レムさんはとうとうしびれを切らして愛用のモーニングスターを手に取った。あれをくらったら今度こそ俺は確実に絶命するだろう。今回のループもまた失敗に終わる。
―――・・・これまでか。やっぱり、レムさんに信じてもらうのは一筋縄じゃあいかねえよな。
だけど、これでほんのちょっぴりでも彼女の心の傷を軽く出来たんなら・・・この時間で生きてきた甲斐があった。
「―――アアアアアアアアアアアアッッ!!!《ブオンッ!!》」
グレート・・・レムさんの投げたモーニングスターの軌道がハッキリとよく見える。
俺の右側頭部をぶち抜いて頭を吹っ飛ばすつもりだ。こりゃあ避けられそうもねえな。
―――だが、これで死ねるんなら悪くない・・・俺が殺してしまった女の手にかかって死ねるんなら、それも悪くねえよな。
俺は死ぬことに一切の恐れを感じなかった。むしろ、今の俺は全てから解放されたかのような笑みを浮かべていたことであろう。
「――――――許せ、レムさん。これで最後だ」
ズゴシャァアアアアアアアッッ!!!
周囲が朝焼けの光に包まれていく森の中で巨大な轟音だけが響き渡った。
―――その頃、ロズワール邸では・・・。
「―――パック、二人は見つかった?」
「ううん。こっちはダメだった。ベティにも聞いたけど屋敷のどこにもいないって・・・」
「・・・そう。レムもアキラも・・・どこに行っちゃったのかしら」
「オイラ、ちょっと屋敷の周辺を探してくるよっ!何か二人の手がかりが見つかるかもしれない」
ラムを始めとし、エミリアやパック、屋敷の主であるロズワールも含め、大騒ぎになっていた。
夕べまで普通に過ごしていたはずの二人が突然昨日の夜の内に姿を消したのだ。
「―――エミリア様っ!レムは・・・レムは見つかりましたかっ?」
「ごめん、ラム。まだ見つかってないの。パックもベアトリスも屋敷のどこにも見当たらないって」
「っ・・・まさかジョジョと二人で森の中に―――っ」
それは考えられない。そんなことをする意味がない。レムとアキラが二人で森の中に入る目的なんかない。でも、ラムは何かハッキリとした心当たりがあるような感じだった。
「ねえ、ラム。何か二人が森の中に入る理由に心当たりでもあるの?」
「・・・・・・。」
「ねえ、ラム!」
わたしの質問に閉口して答えようとしないラム。ただその表情はただただ心配そうで辛そうだった。
わたしがラムにもう一度問いかけようとしたその時だった。
「《ぎゅーーーんっ》―――リアーーーっ!」
「・・・パック?」
「いたよっ!見つかった!」
「本当にっ!?」
「レムはっ・・・レムは無事なのっ!?」
「うんっ!その辺は大丈夫っ――――――『二人とも』ちゃんと帰ってきたっ!!」
わたしはパックの案内を受けて大急ぎで駆け出した。ただただ二人が心配だった。本当はお説教しなくちゃならないんだけど・・・――――――アキラが隠れて密かに行動していたってことに不安を感じていた。
アキラはもしかしてまたあの時のように無茶をしてるんじゃないかって確信にも似た何かがわたしの胸の中を支配していた。
―――そして、わたしの予感はやっぱり当たっていた。
「アキラっ!?」
「レムっ!?」
「よぉ~・・・朝帰りで申し訳ねぇな。遅れたぶんはきっちり仕事すっからよ。まずは朝飯の準備からだな」
「スゥ・・・スゥ・・・」
アキラはまるで何事もなかったかのように立っていた。だけど、その様相はとてもひどく・・・一言で言えば瀕死の重傷だった。
顔はボコボコに腫れ上がっていて、服は血みどろ、体のあちこちの骨が折れているのか至る部位が青く黒ずんでいた。心なしかアキラの骨が軋んでいるような音が聞こえてくる。
だけど、反対に背中で眠るレムはあまりにも綺麗な姿だった。
メイド服には汚れらしい汚れもなく。体のどこにも異常は見られず。レムはまるで泣きつかれた子供のように穏やかにアキラの背中で眠りこけていた。
「―――レムっ!」
「心配すんな。お前の妹には傷ひとつねえよ」
「っ・・・ジョジョ、レムを連れてどこに行ってたのっ!?答えなさいっ!」
「それは・・・――――――お前自身もよくわかってんじゃあねえのか?」
「―――っ!?」
「ま、つまりはそういうことだよ」
アキラはニコニコと爽やかに笑いながらラムに答えていたけど・・・今はそんなことどうでもいいのっ!
「アキラっ!夕べ何があったの?・・・何でアキラがこんなボロボロになって・・・っ、とにかく急いで傷の手当てをしないとっ!」
「それは朝飯の準備が終わってからにしてくれ。朝帰りで今日の仕事が全部遅れちまったからな」
「バカ言わないで!そんなボロボロの人に仕事なんかさせられませんっ!いいから、こっち来なさいっ」
「なあ、エミリア。その前にちょっと頼みがあるんだが・・・」
「~~~~っ・・・もう!こんな時に何なのっ!?」
アキラの傷を見て慌てふためくわたしに真っ直ぐな目を向けてアキラは正気とは思えないことを口走った。
「―――レムさんを起こさないでくれ。『死ぬほど』疲れている」
「おバカっ!」
出来上がったものを見てつくづく思うのですが。果たして、この小説を読んだ何人がこの細かすぎるネタの数々を理解できるのでしょうか?
わかってはいるんです。筆者は間違いなく病気だということは!でも、書いている内に自然と思いついてしまうものは仕方がないのですっ!
―――ネタ!書かずにはいられないっ!