しかし!それでもわたしは止まらないっ!リゼロのSSが増えることを願い執筆を続けます!
そして、この作品を読んでくださっている方々には重ね重ね感謝を!
―――ロズワール邸に働きはじめて4日目の朝。
コンコンッ
「《ガチャッ》―――オッス!オラ、ゴクウ」
「軽々しく扉渡りを破ってこないで欲しいかしら」
「借りてた本を返しに来たんだぜ。なかなか面白かった。特に『願いの叶う七つの龍玉を求めて旅に出る話』と『山で出会ったドラゴンがメイドになってご奉公に来る話』なんか涙がちょちょ切れるぜ」
「お前はいったい何を読んできたのよ?そんな話はなかったと記憶してるかしら」
「ダメか?ルグニカ王国もドラゴンを崇拝している国なら流行には乗っておかないといけないんだぜ―――『竜』だけにな」
ビュゴォオオオオオ…ッッッ!!!
「ふぅおおおおおおおおおおっ!!!?」
バタンッ!
ベア様お得意の突風により吹っ飛ばされ書庫から勢いよく追い出されてしまった。
「・・・まったく。なんて騒がしい男かしら」
バンッ!!
「―――容赦なく吹っ飛ばすのやめろよっ!一度外に放り出されたらいちいち扉探すの大変なんだからよぉ~」
「・・・お前は何でいとも容易くベティの扉渡りを破れるのかしら?」
ベア様は呆れたような目で俺を見ているが、俺からすればたまったものではない。屋敷に点在する無数の扉の中から書庫に繋がる扉を探し直さなくてはならないんだぜ。
「ちゃんと真面目な話があってここに来たんだからそう邪険にしないで欲しいんだぜ―――この前、呪術師のことでいろいろ聞いたの覚えてるか?」
「生憎、ベティは物覚えがいいから忘れるはずないかしら。それで?・・・誰か呪いたい相手でもいるのかしら?呪術師の修行を積みたいというのであればベティはお断りなのよ」
「誰が好き好んで呪術師になんてなるかよ。丑の刻参りじゃあるまいし。そうじゃなくてよぉ~・・・魔女教って連中はその呪術師の一派なのか?」
「お前っ・・・真面目な話があるって言うから聞いてやってみれば・・・また愚にもつかないけったいなことを聞いてくるのよ《パタンッ》」
「そんなにおかしなことか~?」
確かに我ながらぶっこんだ質問だとは思う。しかし、ベア様は何だかんだで面倒見のいい性格だからな。俺の質問にも答えてくれると踏んでいたぜ。
「借りた本の最後の章に『しっとのまじょ』っていうのがあっただろ。アレが前に話していた『サテラ』のことを言っていたのはぼんやり理解した。んでもって魔女教ってのはそれを崇拝している呪術師の団体だって解釈したんだけどよぉ~」
「そこまでわかっているんならベティが教えられることはほとんどないのよ。ただ・・・呪い師が魔女教徒であると捉えるのは少々荒唐無稽すぎるかしら」
「違うのか?」
「前にも言った通り・・・そもそも呪術とは魔法や精霊術の亜種で。その使い手を呪い師と呼んでいるだけ。特定の術式を得意としているからと言って魔女教の信者であるとは限らないかしら」
「・・・なるほど」
ラムとレムさんの過去に深い因縁のある魔女教。そして、前回のループでラムを殺した呪術師の呪い。もしかしたら犯人はラムとレムさんの過去に関わりのある『魔女教の呪術師』じゃないかと睨んだのだが・・・俺の早計だったらしい。
「『魔女教徒』は呪術師なんかよりも遥かに質が悪い連中なのよ」
「ていうと?」
「お前の言う通り『魔女教』は嫉妬の魔女を崇め奉る集団で、その存在は400年前からずっと続いているのよ。神出鬼没な魔女教徒は各地で犯罪行為を繰り返していて各国から危険視されてるのよ」
「グレート・・・どこの世界でも過激派の宗教組織ってのはいるもんだな」
「ただ・・・魔女教徒はその極悪さから発見次第即時滅殺と掟で決められているものの未だ根絶には至っていないのよ。どれくらいの規模でどこに潜伏しているのかもわかっていないかしら」
なるほど。ラムとレムさんは昔そいつらのテロ活動の被害に遭っちまったんだ。それで同じ匂いを持つ俺をあそこまで憎んでいたってわけだ。
「もしかしたらお前の言う通り『魔女教』の中に『呪い師』がいる可能性もなくはないけど。十把一絡げに呪い師を魔女教徒呼ばわりするのは敵を増やすことになりかねないかしら」
「ああ。ベア様に聞いといて正解だった・・・肝に命じておくぜ」
「それと『魔女教』の話をあの姉妹の前でするのはやめといた方がいいのよ」
「・・・どうして?」
「それをベティの口から言うのは憚られるかしら。知りたかったらお前が自分の口で本人達に聞くのよ。もっとも、魔女の匂いをぷんぷん漂わせてる今のお前が聞いたら今度こそ命の保証はないかしら」
「グレート・・・流石の俺でも何度も死ぬような目に遭うのは勘弁願いたいぜ」
まあ、今回の呪術師の件は魔女教とあんまり関係無さそうだし、下手に藪をつつく必要もないか。
「とにかく助かったぜ、ベア様っ。また何かあれば聞きに来るぜ」
「そう何度も頼られても困るかしら。もう来るんじゃないのよ」
「そう冷たいこと言わないでくれって。昨日、怪我の治療をしてもらった礼もまだ出来てないんだぜ―――そうだっ。ベア様には本当にお世話になったからニックネームの一つでも考えなきゃな」
「必要ないのよ。さっさと出ていくかしら」
「そうだな。ベアトリス・・・ベアード・・・ベア様と来たからには」
「だから、そんなの考えなくていいって言ってるのよっ!」
「――――――『げろしゃぶ』か・・・『フーミン』だな」
「な゛・・・っ!?《ビキキっ!!》」
「よぉーしっ!君は今日から『げろしゃ・・・―――」
ビュゴォオオオオオオオオオッッッ!!!
「ぶるるるるるぁぁぁあああああああ・・・っっ!!?」
「ホント、アキラってば懲りないわね」
「いや~、オイラはある意味尊敬しちゃうな。絶対に越えられないとわかっていても果敢に挑むアキラのその無謀な姿に人間の勇気の美しさを見せてもらったよ。最早、侮蔑を通り越して感銘すら受けるよ」
「《ガバッ》―――ってぇえ!?お前ら、ちっとは心配したらどうなんだよっ!三階の高さからの落下とかギャグシーンじゃなきゃあマジで命すら危ういぞっ!」
運良く・・・いや、ベア様のことだ。たぶん、狙って落としたんだろう。外の庭木の上に落とされたおかげで俺は一切の目立った外傷はない。とはいえ、こう何度も吹き飛ばされているとマジで寿命が縮む。
「あまりベアトリスを怒らせちゃあダメよ。見た目は小さい女の子でも中身はすっごく偉い精霊様なんだから」
「ベア様がグレートに面倒見良くて優しい精霊様だってことくらい俺はちゃんと知ってるよ。優しくなかったら俺みてぇな厄介者・・・早々にぶち殺されてるところだぜ」
「・・・それがわかってるならどうして毎回毎回吹き飛ばされているの?」
「こっちがウィットに富んだジョークをかましても理解してもらえなくてよ。やっぱ、甘いデザートでも作ってご機嫌を取るしかねえようだな」
「それって・・・昨日、アキラが作ってくれた『どーなつ』っていうあの甘いお菓子のこと?アレ、オイラももう一度食べたいな!」
「うん。わたしもあんなの初めて食べた。アキラって料理上手よね。絵を描くのも上手だし・・・不器用そうに見えて変なところですっごく器用よね」
「一言余計なんだよ、お前は。まあ、それでもレムさんの料理には遠く及ばねえがな」
俺も自分の料理の腕前だけはそれなりのものと自負していたが。レムさんの料理は本当に別格だった。ありゃあ元の世界に連れてきても普通に一流レストランで通用する腕前だろうぜ。
「でも、アキラ・・・今日、ちゃんとお仕事できる?本当に無理とかしてない?」
「全然大丈夫じゃねえよ!さっき落っことされたばっかだっつーの」
「そうじゃなくて・・・昨日の今日で、まだ疲れがとれてなかったりとか怪我が痛んだりとかしてない?」
「心配するとこ、そこっ!?昨日の怪我よりも今の怪我を見てくれよっ・・・奇跡的に無傷だったんだけどさ」
「ベアトリスはちゃんと手加減してくれてるから心配ないの。それよりも昨日休めって言ったのに言うこと聞いてくれなかった悪い子の方がよっぽど心配よ」
「・・・その悪い子を強引にマナドレインで動けなくして休ませたのはどこの誰だよ?」
「さ、さあ~?誰かしらね、そんなことするのは・・・」
「相手の目を見て話さないのがエルフの礼儀なのかぁ、あ~ン?そっちがその気なら、こちとら剣と盾を持ち出してエルバフの流儀でO☆HA☆NA☆SHIしてやんぞ、コラ」
パックに命じてマナを吸いとって俺を行動不能にしやがったことを俺は絶対に忘れない。
「・・・っと、いっけね!そろそろ仕事に戻らねえと。でも、戻る前に一回はやっとかねえと」
「もしかして、また魔法の練習?」
「無理はしない方がいいよ。そう何度もマナが枯渇するまでゲートを酷使すると後遺症が残っちゃうよ」
「そうかもしれねぇがよ。毎日コツコツとやってりゃあ、その内飛躍的に向上するかも知れねえだろ。出来る努力をやんねぇのは一番つまらねえことだぜ」
「・・・アキラのその心がけは偉いけど。そんな調子じゃあ、まだ体壊しちゃうわよ。今日は魔法の練習は休んで仕事に戻りなさい」
「俺の一日の仕事は太陽拳を一発ぶちかますことから始まるんだぜ。この日課だけは欠かすわけにはいかねえ―――《ババッ!》―――太ぃ陽ぉ・・・っ!」
「ダメよ、アキラ!魔法は使っちゃあダメ!」
「止めるんじゃねえぜ、エミリアっ!男は『かめはめ波』を撃つためならどんな苦痛にも耐えられるっ!何故なら、それこそが男のロマンだからだっ―――俺はっ!かめはめ波を撃つまでっ!修行をやめないっ!」
「ダメって言ってるでしょっ!それ以上無理したら本当に死んじゃうんだからっ」
エミリアは太陽拳の構えに入ろうとする俺の腕を掴んで止めてくる。だが、俺はやめるわけにはいかないっ!ジョジョでもカカ□ットでも海賊王でも死神でも何でもいい・・・いつかジャ●プ漫画の主人公になる日までっ!俺はやめるわけにはいかないっ!
などと・・・俺とエミリアがこうやってわちゃわちゃと言い争っていると――――――タイミング悪くラムとレムさんが呼びに来てしまった。
「―――自由時間はもう終わりですよ。そろそろ朝の仕事に入りましょうか、アキラくん」
「―――休憩時間はとうに終わってるわよ。そろそろ朝の御勤めを始めなきゃね、ジョジョ」
「待て!待ってくれ!その前に・・・最後に・・・―――― 最後に“一発”ヤらせてくれっ!!」
ゴンッ ゴンッ ゴンッ
何故か、三人から一斉に鉄拳制裁を受けた――――――解せぬ。
「―――何で魔法の練習しようとしただけで三つもたんこぶを作らなきゃなんねえんだ?」
「ジョジョ。元気があり余っているようならそれを仕事で発揮なさい。でなければ『役立たず』の烙印をいつまでも返上することができないわよ」
「アキラ君。余分な体力が余っているようでしたらもっと建設的に役立ててください。でなければ新たに『出来損ない』の二つ名を背負うことになりますよ」
「姉妹揃ってホント容赦ねえな!個人の修練くらい多目に見て欲しいんだぜ」
俺の魔法《カーラ》は夜やるにはあまりにもはた迷惑な魔法であるため昼間にしか練習できないと言う俺の気遣いに理解を示して欲しいもんだね。
「―――おっと!そういやぁ・・・昨日言い忘れていたんだけどよぉ。ちっと買い出しに行ってきてもいいか?昨日の飯の準備してたら調味料が大分少なくなってたみたいなんでよ」
「ジョジョの料理は味付けが濃い口で雑なのよ。だから、無駄に調味料を消費するのよ。ロズワール様やエミリア様の食事は栄養面に関しては特に細心の注意を払わなくてはならないのよ」
「グレート・・・味付けが濃い口なのは否定しないけどよぉ~。栄養面に関しても一切の妥協はないぜ、俺はよぉ~――――んで?俺が村に買い出し行くのは問題ないのか?」
「・・・確かに香辛料が不足しているのはあまりよろしくありませんが―――わざわざこのタイミングで行く必要もないとレムは思います」
レムさんは俺の提案に少し疑わしい目をしている。当然か・・・何せ、俺はレムさんに命辛々執行猶予を与えられた罪人にすぎねえんだから――――ここでこの提案を持ちかけたのは少し不自然だったかもしれない。
しかし、レムさんに経過観察を受けている身とはいえ俺は呪術師の正体を暴くためにどうしてもアーラム村に行かなくてはならない。
しかし、これに援護射撃を加えてくれたのは意外にもラムの方だった。
「―――いいんじゃないの、それぐらい」
「姉様?」
「買い出しには行かなきゃならないのだし、急ぎの用事もない。ジョジョという荷物運びもいるし、この機会にこき使えばいいわ」
「・・・姉様が、そういうのなら」
あのラムが俺の味方をしただとっ!?何がどうなっていやがるっ。あの姉が何の打算も計算もなく俺の意見を尊重するなど―――
「ですが、村に行くのはどちらにせよ昼食のあとです。陽日の2時以降・・・それまでに、せめて普段の仕事は終わらせておきましょう」
「大丈夫よ。そこは言い出しっぺのジョジョが身を粉にして働くわ。力仕事でしか役に立てないジョジョが活躍できる数少ないチャンスなんだからいいとこ見せたくて必死なのよ。ここは優しく見守ってあげるのがいい女の勤めよ」
「全然優しく見守ってねえだろ!お前、俺のことどこまでも見下してんだろ、それっ!!」
訂正。やっぱりいつも通りのラムだった。こんなヤツに一瞬でも内心感謝しようとした俺がバカだったぜ。
「~~~~っ・・・いろいろと腑に落ちない点はあるがよぉ。とりあえず、買い出しには行っていいんだよな?」
「ええ。ただし、買い物にはラムもレムも二人ともついて行くわ」
「は?・・・ハアッ!?」
「当然でしょう。あなた一人で行かせたらお金をちょろまかすかもしれないじゃない」
「俺に対する信用全くのゼロかよっ!」
「喜びなさい、ジョジョ。『両手に花』というヤツよ」
「黙れ。ラムレシア」
―――四日目の昼、アーラム村。
俺がこの村に来るのは通算で『四度目』となる。前回のループでは屋敷の中だけで活動していたため、こちらに来ることなく終わってしまったからな。
それがよもやあんな悲劇の引き金になるとは思っても見なかったが・・・おかげでこの村に潜んでいた呪術師の存在に気づくことが出来たんだ。悪いことばかりじゃあないって信じたいぜ。
「(ええ~っと・・・確か、呪術の発動条件は『相手の体に触れること』だったな。つまり、この村でラムかレムさんの体に不自然に触ろうとするヤツがいたらそいつが犯人の可能性が高いぜ)」
「・・・何をボーッとしてるの、ジョジョ?こんなところでラム達に余計な時間をとらせないでよね」
「悪い、悪い!すぐ行くぜ」
本来なら俺一人が村を訪れて、俺自身が囮となって呪われる予定だったんだが・・・こうなっては仕方がない。ラムとレムさんに近づく輩を徹底的にマークする。
―――まかり間違ってもこの二人を危険にさらすわけにはいかねえからな。
「・・・・・・《じ~~~》」
「(おおっ・・・睨んでる。睨んでる)」
レムさんは俺が何か不自然なことをしないかじっと目を凝らしている。あの一件以来、ラムと違って俺に向ける警戒心を隠すことなく露骨にこちらを観察してくるようになった。
正直、こっちとしては複雑な気持ちだが、敵意を隠されなくなったことで彼女の上っ面の笑顔を見なくて済むのは進歩しているってことかもな。
「―――うええ~~~~ん・・・っ」
「ちょっと!謝りなさいよっ」
「そっちが悪いんだろ!俺、別に悪くねえしっ」
「・・・あン?あいつら何してんだ」
遠くで子供が喧嘩しているような声が聞こえてきた。よく見ると前回のループで何度も俺の家に不法侵入してきたあのガキ共だった。
―――あいつら、あんなとこで何してんだ・・・ったく。
「なあ!悪い、ラム。ちょっと待ってくれねえか。ちっとばかし野暮用ができた」
「・・・今度はどうしたの?寄り道なら付き合うつもりはないわよ」
「ちょっとだけだからよ」
俺は訝しむラムを強引に説き伏せて今にも取っ組みあいを始めんとするガキ共のところへと向かった。本来ならこんなことにかまけてる時間はないんだがよぉ~、見ちまったからには仕方がない―――知らない仲じゃあないしよぉ~。
「―――オイ、こんなところで何してんだ?の●太いじめてんじゃあねえぞ。現実は都合よくド●えもん助けに来ねぇんだからよ」
「いじめてなんかいねえよ!だって、そいつが悪いんだっ」
「っ・・・違うよっ!悪いのはリュカの方だろっ。僕、嫌だって言ったのに」
「ちょっと見せてって言っただけじゃんっ!何でイヤがんのか意味わかんねえし」
「・・・俺をそっちのけで二人してケンカすな。わけがわからん」
「あのね、お兄ちゃん。ミルドが作ってたお花の冠をリュカがやぶっちゃたんだ」
「―――ああっ・・・なるほど。そういうことか」
ペトラに言われてよく見てみるとリュカとミルドが言い争っている足元に引きちぎられた花束の残骸が散乱していた。
何てことはない・・・よくある子供のケンカだ。お互いにムキになって引っ込みがつかなくなってそれでケンカになっちまったんだな。なまじ仲が良いからこそ起こりがちになるケンカだ。
―――そういやぁ・・・いつだったかミルドは自分が花で作った冠をお母さんにプレゼントしたいって言ってたっけかな。
「なあ、『リュカ』。一つお前に聞きたいんだけどよぉ」
「っ・・・なんだよ、呼び捨てにすんじゃねえよっ!俺は悪くねえぞ」
「ああ。お前が悪くないってことくらいよくわかってるよ」
「え?」
てっきり咎められると思っていたのだろうかリュカはひどく戸惑っている―――だが、こいつが悪いヤツじゃないことくらい俺はよく知っている。
「お前が悪くないのはわかっている。だから、聞きてえんだけどよ。ミルドの花冠破れちまったのを見て・・・今、どんな気持ちだ?」
「っ・・・そ、そんなの」
「別に難しく考えることはねえよ。『ぶっちゃけスカッとした』とか『ミルドが可哀想』だとか・・・そんなんでいいんだ。今、リュカはどんな気持ちなんだ?」
「・・・だって、それは・・・っ」
我ながらずるい聞き方だとは思う。だけど、リュカはちゃんと思いやりがあってそれでいて直情的な性格だ。こいつがどんな気持ちでいるかくらいは“俺”にだってよくわかる。
「今、お前が何て思っているのかそのまま口に出せばいいんだ。わかるな?」
「・・・・・・。」
「ほら、ミルドに思ったままのことを言えばいい。リュカはミルドの破れた花冠を見てどう思ったんだ?」
「―――ぅ・・・うるせぇ!兄ちゃんに言われなくたってわかってるよ」
リュカの中で多少の葛藤はあったようだが、やがてリュカは意を決して・・・というかなけなしの意地を張ってミルドの前に立つと男らしく正直な気持ちを口にした。
「―――――っ・・・ごめん。ちぎるつもりはなかった」
「リュカ。ぁ・・・ぁの・・・僕・・・」
「・・・ごめんよっ」
「う、うん・・・僕もごめん」
「やれやれ《ズキュゥゥウウン…ッ》」
子供のケンカなんて蓋を開けてみれば簡単なことだ。本当は『謝りたいのに謝れない』感情の行き違いが引き起こしただけの問題だ。
俺はそっと『なおした』花冠を拾うとそれをミルドの頭に被せた。
ポスッ
「・・・え?」
「み、ミルド・・・その『お花の冠』・・・さっき千切れてたのに」
「“なおってる”・・・すごい!元通りなおってるぅ~~~っ!」
「・・・お前らが仲直りしたみたいだからよぉ~。ついでにそれも『なおして』おいてやったぜ。これに懲りたらつまらないことでケンカなんかすんじゃねぇぜ――――『友情』ってヤツは一度切れると簡単には『なおせねえ』んだからよ」
なおった花冠を抱えて嬉しそうにはしゃぐガキ共を尻目に俺はクールに立ち去る。我ながらとてつもなく似合わないことをしたという羞恥心に背を押され足早に去った。
・
・
・
・
・
「―――それがどうしてこうなった!?」
「ねえねえ、アキラはどこから来たのっ?」
「仕事なんかいいから俺達と遊ぼうよ」
「アキラ、さっきなおしたのもう一回やってよ。どうやったのか僕もう一度見たい」
「・・・知らないわよ。ジョジョが余計なことをしたせいでしょ」
「アキラくん。子供達と遊ぶのは結構ですが、レムと姉様からの勤評が著しく下がりますよ」
「この異世界に来てまで聞きたくない単語を聞いたような気がするぜ」
ガキ共に取り囲まれじゃれつかれている俺を見るレムさんの目が冷たいッ!
さっきの一件でガキ共に妙になつかれてしまった俺は買い出しの途中だというのにガキ共にしがみつかれるはおぶさられるはでてんてこ舞になっている。
―――とりあえず、レムさんやラムに近づいてくるヤツには引き続き警戒しねえと。
「あらあら・・・ロズワール様のところの新しい使用人さんかしら?」
「あっ、ええ・・・まあ」
「子供達の面倒を見ていただいてありがとうございます。何か困ったことがあったらいつでも言ってくださいね」
「え?ちょっと待って!俺、現在進行形でお宅のお子さんのことで困ってるんですけど!―――ねえ、ちょっと!?」
「ペトラが初対面でこんなになつくなんて・・・よほどお兄さんのことが気に入ったのね。よければこのリンガをどうぞ」
「リンガはありがてぇんだけどよ・・・このガキ何とかしてくれませんかね!?両手が使えねえとリンガも食えねえんだけど」
ぬろん
「うおわぁっ!?」
「ふぇっひぇひぇひぇ♪若返った、若返った」
「ババア!どさくさ紛れに人のケツ触ってんじゃねえぞ、オラァ!」
結局、ガキ共にまとわりつかれて道行く村人にいちいち絡まれて思うように行動できなかった。けどまあ、レムさんやラムに不自然に近づいたり触ってくるような連中はいないことはちゃんと確認済みだ。
「(当初の予定から大分変わっちまったが・・・呪術師がラムとレムさんに接触してくるのは今のところ防げているはずだ。あとは、俺が触ったヤツの中に呪術師がいることを祈るばかりだぜ)」
「なあ、アキラ!こっち来いよ。俺達の秘密の場所を教えてやるぜ」
「って、お前、それただの不法侵入だろ!人がいないからって勝手に空き家を占領してんじゃねえ」
「―――いつまでやってるの、ジョジョ?こっちの買い物はとっくに終わったわよ」
「俺だって好きでこんなことやってる訳じゃねえんだぜっ。昔からよくわからねえけど子供には好かれやすいんだ」
「知能の程度が同列だからよ」
「ほんっと、容赦ねえな、お前っ!」
いかんっ!ラムの視線までどんどん冷たい蔑視の視線へと変わってきた――――いや、ていうか『もともと』か・・・ラムの場合。
「(まあ、一通り怪しげな人物には触れて回ったし・・・もうこんくらいで充分かな)―――よしっ!お前ら、もう今日はこれで終わりだ。俺はそろそろ屋敷に・・・」
くいくいっ
「お?」
「・・・っ、お、お兄ちゃん」
「(あれ?この子、確か・・・)」
後ろから控えめに俺の袖を引っ張ってきたその子の姿には見覚えがある。過去のループで森で足をくじいていたところを保護してあげたあの『お下げの女の子』だ。
―――あの時はどこの子かもわからなかったけど・・・この村の子供だったんだな。
「どうした、どこか怪我でもしたのか?」
「んとね・・・あっち」
「“あっち”?」
お下げの女の子(名前は知らない)は控え目におずおずと指差す。どうやらそっちの方に一緒に来て欲しいということらしい。
「え、えっと・・・俺、もうそろそろ屋敷に帰らねえと―――」
「《くいくい》・・・こっち」
「え・・・ええ~」
「アキラ、つめたい」
「アキラ、女の子のお願い聞けないの~」
「せっかくいいもん見せてあげようと思ったのにさ」
一度は断ろうとしたもののガキ共の非難の目が集中して俺は言い返す言葉をなくし、助けを求めるようにラムを見た。
「ハア~・・・もう少し待ってあげるから行ってあげなさい」
「・・・この子達を説得してはくれないのかよ」
「当たり前でしょ。ジョジョがまいた種を何でラムが刈らなくちゃあいけないのよ」
「子供に好かれるのってそんな悪いことですかねぇ!」
ラムはほとほと呆れ果てたと言わんばかりにため息をついている。何か全部俺が悪いみたいな態度が燗にさわるのだが。
「ありがとう、ラムチー」
「ラムチー、『ジョジョ』ってなにー?」
「ラムチー、やさしいー!」
「・・・このふざけた呼び方を吹き込んだのはジョジョの仕業?」
「え?―――『げろしゃぶ』の方がよかったか?」
ヒュカォオオオオオッッ!!
「ふぅうおおおおおおっ!?」
「ラムはそれほど気にしないけどレムはそういうの嫌がるかもしれないわ」
「メチャメチャ気にしてるだろっ!!」
ラムの俺に対するツッコミは殺傷力がありすぎていちいち心臓に悪い。風の刃がチェーンソーを降り下ろすような唸りをあげて飛んでくるのはトラウマもんだ。
「ねえ、レムりん!今日の晩御飯何にするの?」
「レムりん、レムりん!その袋の中ちょっと見せてよー」
「レムりんりん!」
「え?・・・あ、あの・・・レムは―――」
レムさんはレムさんで『レムりん』の愛称でペトラ達にまとわりつかれて困っている。
―――嫌がってるのではなく戸惑っている様子だ。
「・・・お兄ちゃんっ」
「お?・・・おお~!何かと思えば、ずいぶん可愛い子犬じゃねえか・・・グレートだぜ!」
お下げの女の子に連れてこられた場所で待っていると、胸に小さい子犬を抱えて帰ってきた。多分、生後一年も経っていないちっさい黒い子犬だ。犬種(?)が何かはわからねえが、短毛種のそのモフモフ感は実に俺好みだぜ!
「この村にこんな愛くるしいわんこがいたとは・・・パックみてえな猫もいいけど。やっぱ犬も可愛いよな《すっ》」
がぅ~~っ
「・・・めっちゃ威嚇されてるし」
頭を撫でようと手を伸ばした途端子犬は歯を剥き出しにして唸り声をあげてくる。
「いつもは大人しいのに・・・」
「アキラにだけ怒ってる~」
「なにやったんだよ、アキラー」
「それは俺が聞きたいぜ。何か子犬の嫌う匂いでも出してんのかね~。猫は柑橘系の匂いが嫌いとは言うけどよ」
「よしよし・・・怒っちゃダメ」
まさか俺の体にまとわりつく『魔女の匂い』に反応してるのではあるまいな?野性動物は人間以上に危険な雰囲気を察知するというし、犬である以上そういう匂いをかぎ分けられても不思議ではない。
警戒している子犬を宥めようと子犬を胸に抱いたお下げの女の子があやしてくれている。すると子犬もお下げの女の子の腕の中でわずかに警戒を解いてくれた。
「今ならいけるかな?・・・よーしよーし」
ポフッ
「おおっ!いい毛並み!やっぱ短毛種の毛並みは最高だぜ《なでなでなでなで》」
やはり動物はいいぜ。この荒んだ異世界生活に数少ない癒しを提供してくれる。この癒しを胸に明日への希望を―――
がぶりっ!
「おうちっ!?・・・咬まれたぁ!」
「やっぱ調子乗ったからー」
「あれだけ勝手に触られたらねー」
「それにこの子はメスだしねー」
「お前らぁ!ちったぁ俺の心配をしたらどうなんだっ!?結構な勢いで血が垂れてるのわかっだろ」
俺が怒ってもガキ共はそれを見てキャッキャ笑ってやがる。グレート・・・このガキ共、俺のこと全然年上として見ていやがらねえぞ。
傷はジクジク痛みやがるが仕方がねえ・・・いい加減時間も経ちすぎてるので仕事に戻らねえとな。
「アキラ、またねーっ!」
「帰るとこあんのー?」
「レムりん、困らせちゃあダメだよー!」
「ぃやかましいわっ!お前ら今度喧嘩してても絶対助けてやらんからなっ!」
「「「「「アハハハハ…ッ♪」」」」」
俺の怒声を聞いても暖簾に腕押し。蜘蛛の子を散らすように一目散に笑いながら逃げていきやがった。
「・・・すまねえ。少し遅れた」
「『すぐ済むだろう』と思って送り出した後輩が、戻ってきたら髪はぐしゃぐしゃ、服はよれよれ、そして手から血を流してる件について」
「そりゃあ俺のせいじゃないだろっ!文句はガキ共に言ってほしいんだぜっ!・・・っていうか、お前遠巻きに見てたから知ってんだろ」
「そうね。仕事を忘れて童心にかえって戯れるジョジョの姿に軽く殺意を抱いたわ」
「子供が苦手な俺が、村のガキ共に心優しいサービスをしたことについて少しは評価してくれよっ」
「その傷も格好も無様だし、早くレムと合流するわ。どっちもレムなら治してくれるはずだから」
「あン?お前はそういう治療系の魔法は使えないのか」
「患部を切り飛ばす荒療治ならできるわよ」
「恐ぇよっ!原始人でももうちょいまともな治療法考えるよっ!」
やっぱ、こいつを呪術の囮にすべきだったかと今更ながらに後悔した。
・
・
・
・
・
「《ドカッ!》―――やれやれ・・・キッツイおつかいだったぜ・・・クレイジーダイヤモンドがなかったらマジで途中で投げてたかもな」
「はいはい、ご苦労さま」
「はいはい、お疲れさま」
「(こんな小柄なくせに俺よりも腕力あるんだよな、この二人・・・)」
二人の身長は精々150から155センチくらいなのに生身の俺よりもパワーキャラだっていうこの世界の理不尽さよ。ちくせう・・・この細身のどこにそんなパワーがあるってんだよ。
「―――おんやおやぁ!三人とも一緒だったんだぁね。手間が省けて助かるよぉ~お」
「ロズワール?・・・って、何だその格好は?」
いつものあの道化師の服装ではなく貴族としての礼装で現れたロズワール。だけど、顔の道化の化粧はそのままだから違和感が半端じゃあねぇ。
「いんやぁ、私もあんまり好きじゃないんだけどねぇ。普段の装いだとぉ・・・どぉ~してもやっかむ輩がいるものだから、仕方なぁ~くしょうがなぁ~く、こうした礼服も着るわけだぁ~よ」
「来客ですか?」
「外出ですか?」
「ラムが正解―――外出だ」
「“外出”?・・・でも、もう夕方だぜ。こんな時間にか?」
「少しばぁ~かり、厄介な連絡が入ってね~ぇ。確かめにガーフィールのところへ行ってくる。遅くはならないつもりだぁ~けどねぇ」
こんなタイミングで『ロズワールの外出』・・・前回にはなかったパターンだ。いったい、何が引き金で分岐が起きたんだ?
―――いや、そもそもロズワールの行動パターンが読めないから・・・本人の気まぐれの可能性も捨てきれないんだぜ。
「そぉんなわけで、しばし屋敷を離れる。どちらにせよ、今夜は戻れないと思うから―――ラム、レム。任せたよぉ」
「はい、ご命令とあらば」
「はい、命に換えましても」
「―――君にも任せるよ、アキラくん。エミリア様のことも・・・この二人のこともしぃ~っかり任せたよ」
「・・・ああ。それはもちろん」
「何事もないことを祈るがぁ~ね。では、留守中任せたよっ!《ふわっ!》」
ドヒュゥウウウウーーーーッッ
「オイオイッ!いとも容易くえげつないことをしやがるぜ・・・まさか飛べるとは」
ロズワールは通りすぎるときに静かに俺に耳打ちするとそのまま空に飛び上がって次の瞬間には遥か彼方まですっ飛んでいってしまった。
「舞空術か―――グレート!修行次第では子供の頃の夢が叶うかも知れねえぜ!」
「ちなみに空を飛ぶためには、最低でも風と火と地の魔法が相応に扱えるようになることが条件よ」
「グレート・・・一気に俺の夢が遠退いたぜ」
まあ、空を飛ぶ夢を見るのも大事だが。今は目の前のクソッタレな運命をねじ伏せることから始めねえとな。
「―――つーわけでよ。力を貸してほしいんだぜ。ベア様!」
「何でベティがお前の頼みなんか聞かなくちゃあならないのかしら?」
「いろいろとワケありでよぉ~。ベア様しか頼れるアテがないんだぜ」
パックはもう既に活動時間外だし。ロズワールは前触れもなく唐突にどこか出掛けてしまった。呪いの解呪ができるのはベア様だけってことだ。
「今日、村に行ったときに少しイヤな予感がしてよぉ~。もしかしたらあの村に呪術師が潜んでるかも知れねえんだ」
「お前は何を言っているのかしら?」
「もしかすっと俺が呪われてるかも知れねえってこと」
「お前・・・魔術師でも精霊術師でもないお前にどうしてそんなことがわかるのよ。バカも休み休み・・・――――っ!?」
ベア様は俺がなんの根拠もなく呪術師の存在を示唆したことに腹を立てたのか本を閉じると歩み寄ってきて・・・途端に顔色が変わった。
「・・・確かに術式の気配が。お前、本当に呪われてるのよ」
「グレートっ・・・これでビンゴだな」
「お前、何か心当たりでもあったのかしら?」
「心当たりっていうにはあまりにも突拍子もない話だから割愛するぜ。それよりも・・・呪術師の正体を知りたい。呪いをかけてきた相手を逆探知することってできるか?」
以前にベア様から聞いた話と今までの状況を総括するにこの呪術は対象のマナを吸い取る類の術式だ。ならば、マナを吸い取る経路から逆探知出来るかも。
「お前というヤツはまた何を言い出すかと思えばっ!命が惜しくないのかしら?まるで命をとられるのが怖くないみたいに見えるのよ」
「ハ?・・・いや、そんなわけねえだろっ。ただ、事態のあまりの深刻さに逆に冷静になってるだけだぜ」
こうしている間もあの村に潜んだ呪術師の脅威があの村に迫っているんだ。一刻も早く呪術師の正体が判明したら呪いを発動させる前にマッハでぶちのめさなくてはならない。
「・・・かけられた呪術の術式から呪いをかけた相手を探り当てるなんてことは出来ないのよ。だけど、呪いがかけられた場所はわかるから、そこに触ったヤツこそが呪い師なのよ」
「じゃあ、すぐに頼む!急いでくれ!マジで時間がないんだっ!」
「何でベティがお前なんかのために・・・っ」
「俺のためじゃなくていいっ!ベア様だけが頼りなんだ!頼む!」
「っ・・・本当に命知らずなヤツなのよ。お前みたいなヤツほど早死にするのよ《コォオオオォ…》」
ベア様は俺の熱意に折れてくれたのか渋々手をかざして魔力の光を俺に向けて照射してくる。多分、呪いのかかった部位を探知しているんだと思う。
「今回はお前のくだらない頼みを聞いてやるかしら。ただし!ベティは金輪際お前には関わらないのよ」
「流石、ベア様っ!クイーンオブドリータは伊達じゃないぜ」
「・・・意味がわからないのよ―――《コォオオオォ…》―――今から、呪術の術式を破壊するかしら。呪術師が直接触れた箇所だから、せいぜい参考にするのよ」
「ああ。これが終わったらベア様にはたんまり礼をするぜ」
これでようやく答えがわかる―――誰がラムを呪い殺した犯人なのか。
ラムを殺した犯人の目的がわからなかったから、最悪、俺に呪いをかけてこない可能性もあったが・・・――――わざわざ危険を冒して村に行った甲斐があったってもんだ。
―――今日、俺に触った連中の顔は全て覚えてる。呪いをかけた部位さえわかれば・・・
ゴォォォオォ…
「・・・え?」
体の内側から涌き出る微かな違和感・・・それはやがて微かな熱を帯びて次第に目視できるくらいにハッキリと姿を現した。
―――『右手の傷跡』から吹き出てる『黒い靄』。誰がどう見ても間違いなくこれが呪いの正体だ。
でも、ちょっと待て・・・この右手の傷は確か―――
「忌まわしいったらないかしら―――《バギュゥン…》―――・・・終わったのよ。これでお前はもう平気かしら」
「―――・・・っ!」
「どうしたのよ?・・・命が助かったっていうのに、そんなこの世の終わりみたいな顔をして」
ベア様は俺の右手から吹き出る靄を軽く握りつぶすように手を振るうと呪いは音を立てて呆気なく霧散した。
―――俺は今まで見当違いな推理をしていた。呪“術”である以上は呪術師の正体が『村人』であると完全に思い込んでいた。
「なあ、ベア様・・・ちょっと確認なんだけどよ。この黒い靄が出てた場所が『呪術師』が触れた場所でいいんだよな?」
「・・・間違いないのよ」
「それを確認した上で質問すっけど―――呪術ってのは『動物』でも使えるもんなのか?」
「出来るかどうかで言えば『出来る』のよ。呪術はもともと魔法や精霊術の亜種なのよ。それを行使するのが人間であるとは限らない。だけど、もし仮に呪術を行使できる『動物』がいたとしたなら――――――それは・・・『魔獣』しかいないのよ」
「―――っ!!」
俺はその言葉を聞いた途端に踵を返して急ぎ走り出した。
俺は今まで―――『呪術師』の『呪い』さえ止めれば危機は終わると思っていた。だが、まだ事態は・・・さらに悪化している!
危機は『噛みついた相手を呪う』あの子犬だ!
この俺があの子犬が呪いを発動するよりも先に村に行かなければ・・・
―――あの子犬は暴走するっ!
作者としてはシリアスな戦闘シーンを書きたいのですが、シリアスばかりだと読んでて堅苦しくなってしまうし何よりも飽き飽きしてしまいます。
やはり、シリアスに至るまでの盛り上げる展開がなければその辺が映えてこない。ジョジョシリーズの人間讃歌とはそうやって生まれているのです。